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第四話 シスコンな兄を呼び出せばブラコンな妹がついてくる

兄視点です

 カラカラと教室の横開きの戸が開かれる音がした。


「…………で、なんであなたたち二人まで増えているのかしら、如月さん(・・)、梓馬さん(・・)?」


 教室に入ると今日の昼に呼び止めていた男子生徒二人だけでなく、それに加え二人の女子生徒がいることに頬を引きつらせながら松原遥さんが尋ねた。

 二人の男子生徒というのは言うまでもなく俺と勇。それに勇と肩を触れ合わせて椅子を半分に分け合って座っているのが華恋ちゃん。頬を染めて随分と幸せそうな顔をしていらっしゃる。対してもう一人の女子である玲奈は俺の机に腰掛け、スマホの対戦形式のカードゲームで俺とバトルしていた。


「え?呼ばれたから来ただけですよ?」


 と、ゲーム画面から顔を上げ玲奈がとぼける。


「私はあなたたちのお兄さんだけを呼んだつもりだったんだけど?」


「……ああ!『梓馬くん(・・)』ってそういうことだったんですね。あたしたちの中学校の担任が男女関係なく『くん』呼びしていたので、私たちのことだと勘違いしてしまったようです」


 これはただのこじつけ。玲奈は俺と勇しか呼ばれていないと分かっていてここに来ている。実際、松原さんが言った言葉は『教室に残っていろ』だったから、玲奈と華恋ちゃんが自身が呼ばれたと思ったのならば、自分たちの教室に居残りしなければならないと受け取るはず。ここにいる時点で穴だらけの理由だ。

 それを悟った松原さんは「はぁ…」とため息をつき、視線をまっすぐ俺に向けてくる。この状況を説明しろということですね。分かりました。


「……えっと……その、……ごきげんよう?」


 違う。ちょっと待って松原さん!言葉を纏めようとして出た繋ぎ言葉なんだって今の!

 そんな青筋浮かべたら可愛い顔が台無しだよ!お願いだからそのクールな瞳を一旦閉じてください、体の震えが止まりません!


「おにい!スキあり!」


「はあ!?おま、ズルいぞ!何勝手に人のターン進めてんだ!?」


 玲奈が身を乗り出して俺のスマホの画面をタップすると、ターン終了の文字が表示されていた。おい、俺何もしてないぞ。コスト10まで好きに使えるのにドローして終わったぞ。


「ぼーっとしてるおにいが悪いもん」


「何が『もん』だ。可愛いから許す、とでも言うと思ったか?残念、可愛いけど許さん」


「おにい、可愛いは否定しないんだね……と、はい、これであたしの勝ちぃ〜」


「もう一回だ、もう一回!」


 明らかな反則だろ、今の勝負は無効だ。『lose』と表示された画面の『もう一度対戦』ボタンを押そうとしたところで、何か忘れてはいけないことがあるような気がして……あ、


「…………ごきげんよう。梓馬くん(・・)、この状況の説明をしなさい」


「はっ!」


 思い出した。いや、思い出させられた?とにかくこの命令は従うが吉。敬礼をとる勢いで返事をし、数分前のことを思い出した。







 放課後の教室、委員長松原さんの気迫に当てられ、蜘蛛の子を散らすように下校または部活に行ったクラスメイト達をちょこっと羨ましいと思わないでもない兄が二人残っていた。話があると言っていた松原さん本人は日直の仕事で先生の荷物などを運んでから教室に戻るらしい。この時、「チャンスッ!」とか言って逃げ出そうものなら翌日の学校正門で正座しながら説教を受けることになるらしい(圭斗の経験談)。つまり、背筋を伸ばして待つしかないという意味である。

 教室に二人以外誰もいなくなってから、数倍の長さに感じられる二、三分を過ごし、カラカラとゆっくり開けられる教室の戸の音にビクつきながら音のした方向を見ると…


「おっ、お二人発見!来ちゃった」「お邪魔しまーす」


 てへっと軽く舌を出してやってきたのは玲奈と華恋ちゃん。やっぱりか。さっき『また後で来る宣言』していたから来るんだろうなって気がしていたけど……来るんだったら、できれば松原さんのご高説を拝聴した後にしてほしかった。

 こういう状況だと大抵勇じゃなく俺のほうに説明の要求が来るんだよ…


「来ちゃったって…この後、俺と勇は松原さんにお説教をされる予定なんだが、分かってただろ?」


「まあね。でもほら、華恋を連れてきたのはあたしだから責任の一端はあるのかなって思ったから、一緒に怒られようかなって」


 申し訳なさそうな顔で語る動機。これで責任感があるな、とか律儀だなって感想を感じたなら、玲奈に見事に騙されている証拠である。


「……で、本音は?」


「そこのブラコンとシスコンのやり取り見てたあの人、松原さん?っていう人の反応が面白かったから、また見てみたいなって思った!」


 ったく、この妹は…

 親指を隣にいる勇と華恋ちゃんに向けながらニシシと笑う。小柄な体型も相まって羽としっぽでも付けたら立派な小悪魔だな。軽いデコピンでお灸をすえてやる。


「あてっ」


「お仕置きだ。松原さんも好きで怒っているわけじゃないんだから、あんまり困らせないでくれ」


「はーい。…学級委員長なんだっけ、その人」


 額を抑えながら俺の机に座り聞いてくる。椅子に座っている俺がそこそこ高身長で玲奈が小さいため目線はたいして変わらない。若干玲奈のほうが高い感じかな。膝の上に座ったとしても頭一つ俺のほうが高いわけだし。


「ああ、去年も自分から引き受けてたはずだ」


「風紀委員長も兼ねてたりしない?あの反応だし」


「この学校に風紀委員はないだろう。言いたいことは分かるが」


 でも俺の意見としては、松原さんは『破廉恥なことは許さない』タイプではなく、そういうことに免疫がないタイプだと思う。


「それで、肝心の松原さん…なんか堅苦しいね、下の名前はなんて言うの?「(はるか)、だな」ならその遥さんは今どこに?そもそも怒られている途中に乱入するつもりだったんだけど」


「乱入って……確か、先生の手伝いで職員室と理科室だったかな?を往復してるはずだな。来るにはもう少し時間かかると思う」


 担任の駒井先生の担当科目が理科、主に化学で今日の六限目に授業で使用した原子の模型を片付けるから手伝ってくれと言われていた気がする。


「ならゲームでもして待ってようよ。ほら、スマホ出して」


「お前な……そんなゲームやってるところ見られたら余計に怒られるだろ」


「おにい、気分転換って大事だよ。怒られて落ち込むって分かってるんだから、その前に十分英気を養っとくべきだと思うなぁ」


 ……一理ある。いや、待て。いけないことには変わりないだろ。説教前にゲームって、反省の色皆無と思われる。


「お隣さんはすでに英気満タンって感じだよ」


 視線で横の二人を示してくる。勇と華恋ちゃんは椅子を半分に分け合い幸せそうな顔で寄り添っていた。誰のせいで放課後に残ることになったのか、ちゃんと分かっているんだろうか?この二人を引き離すのは、華恋ちゃんの反応が怖すぎるからできないし。これを見た松原さんが『反省の色なし』と判断してより濃いお説教になるのは確定と。


「…………やるか!」


「おー!」







「という流れで今に至ります」


 松原さんの冷たい眼光にびくつきながら説明し終えた俺はほっと一息つく。ちなみに、玲奈が松原さんの反応見たさに訪れたという部分はごまかして説明した。結果的には気分転換が出来たわけだからそのお礼ってことで。


「…なるほど、妹さんたちが来た理由はひとまず理解しました。しかし、イ、イチャイチャしていたりゲームしていたりと反省の色が窺えません。なぜ私が残れと言ったのか理解していますか?」


 松原さんの問いに俺たち四人は顔を見合わせる。華恋ちゃんはすまし顔だけど勇は苦笑い、自分でも教室という場所では過激だったと感じているのだろう。


「僕と華恋のスキンシップが過ぎていたから、では?」


 あれをスキンシップで通せると思っているあたり業が深いが、素直に自身を振り返ってみて反省もできるところが、憎み切れない理由の一つなんだろう。クラスの男子たちからしばらくネチネチ小言を言われることは確定なのだが。


「あれが、スキンシップ…?」


 とても困惑していらっしゃる。玲奈、あまり笑ってやるな。


「ま、まあ、自分で理解できているのなら私から言うことも少なくて済みますから良いのですが、呼んだ理由はそれだけではありませんよ」


「それ以外の理由?」


 玲奈がはて?と小首をかしげる。俺も常に勇とセットで考えられているから、それでついでに呼ばれただけだと思っていてのだが…


「分かっていないようですね……


 梓馬兄妹、あなたたちは距離が近すぎます!!」


 距離とな?

 予想外の理由に俺と玲奈はそろって(はてな)を浮かべた。

主人公(連夜)と勇は高校一年時にもセットでなんだかんだ松原委員長に怒られていたりしていたのですが、その時まだ妹ズが高校にいなかったので「あーこの二人、シスコンなんだ」くらいの気持ちだったみたいです。だから二兄妹の距離感を見たのもこれが初めてで、お説教となった次第です。


それがここまで重症だったとは思ってもみなかったみたいですね。まさに青天の霹靂。


前話では、如月兄妹はもちろんのこと、梓馬兄弟のほうをみても顔真っ赤で目がグルグルだったみたいですよ。

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