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第6話 「王子と従者」

「王子様だったんですか?」

「民衆に顔が知られてると豪語されていましたが、トキさんには知られて無かったようですね」

「そいつが世間知らずなだけだ! とにかく本陣に行くぞ!」


 下手に喋ると、エイルに茶々を入れられるので、アドバルドは話を切り上げて本陣へと体を向けた。

 本陣は大将が位置する本営を指すので、大体が守備の厚い中央後方に位置している。現在地は自軍中央辺りで、少し上り坂を歩くと、大型の天幕や御旗がいくつか設置されている場所に辿り着いた。天幕の周りには木で出来た柵が辺り一面に設置されている。


「ここが本陣で間違いないだろう。私は指揮官に話を通してくる」

「私も同行致します。トキさんは、あちらの方でお待ちください」

「分りました。待ってますね」


 エイルの指の指す方向には、四本の支柱があり、天井部分のみ布で覆われた天幕がある。天幕の中には椅子や机が設置されている。天幕の中は日陰になっていて、今日のような暑い日には、日差しを避けれるだけで快適であった。

 ある程度の時間が掛かると思ったが、椅子に座り少し待っていると、アドバルドとエイルは戻ってきた。


「待たせたな」

「お茶をご用意致しましたので、召し上がってください」

「すみません、頂きます」


 アドバルドは椅子に座り、エイルはお盆からお茶の入ったコップを各自の前に置いた後で椅子に座る。


「指揮官に話は通してきた。私達は、ここで待機で問題ないようだ」

「そうですか……それは助かりますね。ありがとうございます、アドバルド様」

「いや、礼には及ばん」


 この日差しの中、重労働となるとかなりきつい。歩いて来るまでにも少し汗をかいていて疲れていたので、この上に労働が無いとなると、この上なく嬉しい気分だ。


「それより、私に様付けなんて水臭いじゃないか。ここに他の貴族はいない。この地で出会ったのも何かの巡り合わせだ。私達は、もう友の様なものだから、それに相応しい喋り方をしてほしいな」

「アドバルド様は城暮らしで友達が少ないのです。お察しして上げてください」


 アドバルドは、目を細めて鋭い目つきでエイルを見るが否定はしなかった。

 王族は街に買い物や習い事に行く事は無い。必要なものは臣下の者が買い揃えるし、学習に必要な人材は城の中に山ほどいる。臣下の子供と顔合わせすることはあるが、親の出世の為に、ゴマすりをするような子供に教育されており、友達らしい友達はいないのだ。


「わかったよ。俺なんかでよければ、友達で問題無いよ!」

「あぁ、俺たちは今日より友だ!」

「良かったですね。アドバルド様」


 アドバルドが拳を突き出して来たので、俺も拳を突き合わせる。


「――ところでエイルさんは友達じゃないのか?」

「エイルは幼馴染だ。軍団長の娘で幼い頃からの腐れ縁なんだ」

「だから、アドバルドと打ち解けた雰囲気で話をできるのか」


 エイルが他の者と違い自分と対等に話てくる事に、アドバルドは悪い気持ちはしなかった。

 もちろん、身分の差があるので普通はダメなことであるが、最低限の話し方はできている。幼い頃からの付き合いと、軍団長の娘を無下に出来ないことから、周囲からも暗黙の了解を得ていたのだ。


「あぁ、俺に対して機嫌を伺わない面白い奴だよ。軍団長の娘だけあって強いから、護衛にも役にもなるしな」

「お褒め頂き光栄です。普段は褒めてくれないので、幼い頃より仕えていた甲斐がありますね」

「あとは、あまり毒を吐かないでくれると助かるんだがな……」

「嫌でしたら悪い所を無くせばいいのです。指摘すれば治ると思って……アドバルド様の事を思っての事なんですよ?」

「そっ、そうなのか……」


 エイルさんの左横に座っている、アドバルドの視点では『エイルは重要なポイントと言うように右手の人差し指を天に立て、真剣な顔で言っている』そう見えるだろう。

 二人の対面に座っていた俺視点では、エイルさんの顔の右側が耐えようにも耐え切れず、笑みが口角に浮かび、笑いを堪えているように見える。

 正面から見ると、立てている人差し指は口元に近く『重要なポイント』のジェスチャーでは無く、『静かに』の意味で、「笑いを堪えているのを言わないで!」って言ってるように見える……。



「そういえば、この戦の準備だけど、お互いに悠長すぎないか? 俺が敵なら奇襲をかけたり、妨害をしたりすると思うけど……」

「そういう時代は終わったんだよ。昔はそんな時期もあったらしいが、今はそんな事をせずに正々堂々と戦っている」


 昔に何かがきっかけで戦のルールができたのだろうか? 戦の勝ち負けで色々と大きく変わるのだからルールー破りも出てくるはずだが、互いにルールを守っているのだから不思議な話だ。


「何か、ルールでも決まっているのか?」

「あぁ、戦の準備中は互いに邪魔しない事になっている。参謀将校も向かいのシュラハト帝国の近くに行くなと言っていただろ? 相手方も同じ事を言われているはずだ」

「確かにそんなことを言っていたな」


 国同士のノブレス・オブリージュみたいな物だろうか。双方とも対面を気にしており、卑怯な方法で勝てば、占領をした後に国民から、白い目で見られるのだろうか。


「あとは、戦中に故意の殺人は厳禁。その上で、三種目の戦を正々堂々と戦うのみだ」

「三種目? 戦に種類があるのか?」

「近距離戦・魔法戦・攻防戦があるな」

「近距離戦・魔法戦、までは……まぁ、なんとなくわかるけど、攻防戦はどうなるんだ?」

「お互いに決められた人数で、敵本陣にある旗を取る戦いだ」


 戦で死人を出さないとか、俺の知っている戦と違う。話を聞いていると、運動会か何かと間違いそうだ。


「なんでそんなにクリーンな戦いになったんだろうな」

「童話にある『魔法使いの英雄譚』と同じ理由と言われているが、詳しい事は公にされていないな」

「そんな童話があるのかー」


 この世界にも童話があり、戦のデメリットなどを教訓とした物が描かれているのだろう、と想像すると少しこの世界に関心をした。


「トキ……お前は本当に世間知らずなやつだな……」

「いや、少し用があってレナトゥスに帰ってきたが、辺境の地で育ったもんで……出来ればその話を聞かせてくれないか?」

「止むを得んな! 今回だけだぞ!」


 アドバルドは、兄や臣下が優秀なので、頼られる事はあまり無い。止む得ないと言ってはいるが、知識のある自分に自惚れて、特に悪い気はしていなかったのである。




 アドバルドとエイルが指揮官と話を終えて、トキの所に戻る道中のお話。


「トキさんが身に付けている最上級位の贈り物ですが、昔の戦時中に功績を上げた方の親族でしょうか?」

「分らんが貴族でも、偉人の家系でも、味方に付けておいて損はないだろう」

「上手く説き伏せれるといいですね」

「そうだな。味方も増やしていくし、王族で誰も行きたがらない視察に私が出ることで、ポイントは稼いでいる。私が兄を抜かすのも遠くないな」

「皆は忙しくて視察できないだけですが……」

「そっ、そうなのか?」


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