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第4話 「ニート脱却」

「戦? 辞めておきます! 俺には戦闘経験が無いんで、そんな所に行ったらすぐに死んでしまいます」

「根性が無いのう。明日は築城するだけじゃから、死ぬことは無いわい。小僧は体付きも貧弱だし、ちょうど良かろう。 絶好の機会と考えて、少しは体を鍛えたらどうじゃ?」

「いやだ! どんな事より命があっての事だから、俺は絶対に行かない!」


 ここに来るまで嫌な事がいくつかあった。その上に、戦場に行くとなると傷口に塩を塗られた気分になり、ついカッとなってしまった。

 ちなみに、今回の築城は、ある地点に土木工事を施すことである。重労働にはなるが、戦う事は無い。さらに、開戦されていない準備期間であったので、命の危険性は無いに等しい。

 もちろん、爺さんの説明の仕方も悪かったが、ぬるい世界で生きていたトキには説明されている内容に安全の確証が持てなかった。


「威勢だけはいいのう。念の為に言っておくが、まだ開戦しておらんよ。仕事も簡単な土木作業だけじゃ。食事も出るし、給料は日払いじゃから小僧には都合が良かろう」

「確かに……それなら問題は無いですね。それを早く言ってくださいよ~」


 見事な手のひら返しである。


「虫のいいやつだのう。でも、小僧の心配は全部無くなったじゃろ。」

「まったくありません!」


 食事はともかく、目的としていた仕事や寝床は確保できたので文句は無い。


「じゃあ、わしもメシにするかのう」


 卓上呼び鈴をチーンと鳴らすと、綺麗な白色ロングヘアーの女性が奥の扉から出てきた。服の上からでも、女性特有の滑らかな膨らみがよく分る。サファイヤ色の大きな目で、どこを見ても文句なしの美人さんだ。


「はい、何かお呼びでしょうか?」

「今日はもう店じまいじゃ。メシの用意を頼む」

「承知いたしました……あれ? そちらの方は?」

「漣 朱鷺、十八歳。急ですが色々あってこちらにお世話になります」


 その女性に向けて軽く頭を下げる。


「私はカファレアです。デュラム様の一番弟子になります。よろしくお願いします」


 恐らく、爺さんがデュラム様という事だろう。しっかし、カファレアは外見だけではなく、話し方や仕草にも品があって、内面も美しいな。


「お食事の方は3人分ご用意した方がいいでしょうか?」

「あぁ、小僧の分も用意してやってくれ」

「承知いたしました」


 カファレアは閉店の立て札に切り替えて、奥の扉に戻って行った。少しすると、居間で食事が用意されていた。今日の献立はパンとスープだ。パンだけだと口がパサパサするから、スープはありがたい。


「明日の事じゃが、役所に行けば土木作業の仕事を斡旋してもらえるからのう」

「役所の前を通った事はあるから場所は分るよ」

「あと、その話し方を変えた方がええのう。分っていると思うが誰でも人手が欲しい仕事じゃから良くない奴も多くおる。敬語なんて使っておったら舐められるから今から直しておけ」


 なにそれ、怖い。選択肢が無いけど、行きたく無くなるじゃないか……。


「ああ、わかったよ」

「そんな感じじゃな。それと、小僧の服は見栄えが悪いから服を貸してやろう。カファレア後で適当なものを持ってきてやりなさい」

「何から何まで悪いな」


 食事の後に、カファレアは別の部屋から服を持ってきた。単色のシンプルな服かと思ったが、精巧な作りで、刺繍あり、マントあり、まるで貴族が着るような服を一式もってきた。


「この服は作業するのに不向きじゃないか?」

「後はワシが今着ているような、勝負服しかないからのう」


 爺さんの服は上下が一続きになっている。つまり、現世では見ることは無かったローブを着ている。確かにズボンがある方が動きやすいので、少し派手だが出された服を着たほうがいいか。


「じゃあ、この服を借りるよ。汚れると思うけど大丈夫か?」

「貰い物じゃから、好きにして構わんよ」

「了解。色々と悪いな」

「さて、小僧の寝る部屋は二階に上がってすぐの部屋じゃ。寝る前に風呂にも入っておけ」


 風呂は廊下の突き当たりにあった。後から聞いたが水道は通っていないので、貯水タンクに水を貯めているらしい。タンクを温めていてくれたのかお湯が出たからびっくりした。風呂から上がると、貸してもらった服を着た。元々着ていた服は、森の中を歩いて汚れていたからだ。


「爺さん、いいお湯だったよ」

「ほぅ。――馬子にも衣装とはこのことか」

「その服もお似合いですよ」

「あまり、からかわないでくれ」


 鏡が無かったので分らないが、似合っていないのは理解している。異世界の基準ではわからないが、着せられている感があると思う。


「やることもないし、悪いけど先に寝るよ」

「今日は疲れたじゃろ、好きにするといい」



 ――翌朝。鐘の音で目を覚ました。すぐに寝たので、睡眠時間も長く取れて、気分の良い朝だ。この世界が夢じゃなかったのが残念だが、現実を受け止めよう。

 下に降りると、爺さんも既に起きていたようで、居間でくつろいでいた。


「おはよう、爺さん。カファレアさん」

「おはようございます」


 今日の、カファレアさんも綺麗だ。カファレアさんを見ているだけで幸せな気分になれる。早起きは三文の得と言うがこの事だろう。 


「思っていたより早く起きたのう。小僧の好きなパンでも食うか?」

「あぁ……頂くよ」


 早起きは三文の得? ことわざも当てにならないな……。今日も仕方なく味のしないパンを頂戴したが、なんとかしないと栄養が偏りそうだ。


「ところで、役所にはいつ行けばいいんだ?」

「次の鐘が鳴った頃に行けば間に合うじゃろ」


 この街には時計塔があり、そこの鐘の音で時間を把握しているそうだ。


「それまで暇になるな……。爺さん魔法はどこで覚えるか知っているか?」

「一般的には、本を見て独学で覚えるか、学校に行く必要があるのう。小僧は魔法を覚えたいのか?」

「使えると何かと便利そうだし、かっこいいじゃないか!」

「確かに便利ではあるのう。まぁ、簡単な生活魔法なら教えてやってもいいぞ。ただし、少し疲れるかもしれんから、小僧が仕事から帰ってからにしようかのう」

「あぁ、帰ってきたら頼むよ!」


 お金に余裕がないので、本も学校も厳しいと思い諦めていたが、なんとかなりそうで嬉しくなる。


「デュラム様。もし良ければ、カオルさんの得意とする属性魔法を見てあげてはいかがでしょう?」

「そうじゃのう。調べてやるとするか」

「そんなことできるのか?」

「わしレベルになると簡単じゃ」


 爺さんでも簡単に出来るなら、割と魔法は一般的で普及しているのかも知れないな。

 そんな事を考えていると頭の前に手を乗せられた。こんな事で本当に分るのか?


「どうだったんだ?調べはついたか?」

「土属性と無属性が得意と見た」

「それはいいのか?」

「メジャーでは無いのう」


 ハズレを引いたようだな。火や水を出したり、派手な魔法を使いたかった……。


「そうか、それは残念だ……」

「まぁ、使い手次第じゃから、そんなに気を落とすな」


 確かに、少し気分が落ち込んだが仕方がないな。


「そうだな、気分転換に外の空気でも吸いに行くよ。ついでに、少し早いが役所に行ってくる」

「そうか、気を付けていくんじゃぞ」

「道中お気を付け下さい」



 気分を切り替えて、役所に向かい歩き始めて数十分。途中の十字路でフレアに出会った。


「おや、こんな所で奇遇ですね」

「いや、ナイフでマーキングしてるから、俺の位置を知っているだろ!」


 位置を把握していないと偶然会う事は少ないと思うが、待ち伏せしていたならご苦労なこった。


「それは言わないお約束ですよー。それより良い服装をしてますね」

「これは借り物だから売らないぞ?」

「まだ何もいってないじゃないですか。ひどいですよ」

「俺には分る!」


 仕事が見つかったかを確認しに来たのか。あわよくば、俺から金品を巻き上げようとしているんだろう。誇れる事ではないが、まだ無一文だ。残念だったな!


「それで、仕事は見つかったんですか?」

「今から行くところだ。もうすぐ戦があるらしくて、そこで土木作業を募集しているらしいんだ」

「冒険者になる道のりは長そうですねー」

「魔法を覚える伝手もあるんだ。今に追いつくさ。それより、昨日のパンを覚えているか?」


 忘れたとは言わせない。捨て値のパンで恩を売ろうとしていた事を! 素朴な味で美味しいと言ってた事を!


「覚えてますけど、どうかしたんですか?」

「店の爺さんに聞いたら、あのパンは捨て値で売っているそうじゃないか」

「コストパフォーマンスは最高ですね!」

「それはそうだけど……」


 フレアは、グッと親指を立てて見え透いた愛想笑いをする。


「店主は儲かって、トキはお腹が膨れて私に感謝する。Win-Winじゃないですか!」

「勝者はフレアだけだと思うのは気のせいだろうか」

「多分、気のせいですねー」


 そんな話をしていると役所に近づいてきた。相変わらず大きな建物だ。


「俺は役所に用事があるから、この辺でお別れかな?」

「そうですね。私はまた狩りに出るので、暇があったらまた会いましょう」


 フレアと分れた後に役所に入る。中から見ても天井は高く、シャンデリアのような物まであった。総合受付の人に話しを聞いてみると、土木工事の人は大きい会議室に集まっているようだ。 


「会議室は……ここかな?」


 扉を開けると、体格のいい人たちや、みすぼらしい人が多くいた。共通してガラが悪そうで、鋭い目付きで、眉間にシワが寄っているように見えた。つまり、ガンを飛ばされている気がした。


「……」


 机や椅子は学校のように教卓に向かって並べられていた。もちろん俺は、怖い人が居ない所に素早く移動して仕事の説明が始まれと念じながら、ふるえて待つ事となった。

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