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Bとロゼ2

 

 

 

 

 

「行かへん言うとるやろ」


「イーヴン!」


 店に着き、青い騎士さんがドアに手を伸ばしたところで私達は店内の異変に気が付いた。

 現在は午前中で、いつもならこの時間は仕込みの最中なのでお客さんは居ないし基本的には静かな時間帯だ。

 そのはずなのに、店内から聞こえてきたのはBの声と、知らない誰かの声だった。そして曇りガラスになっているのでしっかりとは見えないが、中にはA達以外に誰かが居るようだった。

 Bの声にもその誰かの声にも怒気が篭っていたようなので、店の中は完全にお取り込み中ということだろう。

 またおかしなことに巻き込まれかねない気配を少なからず感じ、私とロゼと青い騎士さんは顔を見合わせる。


「出直しますか?」


 と、青い騎士さんは言う。彼は私の巻き込まれ体質に散々巻き込まれているのでなんとなく察しているのだろう。このまま突っ込めばきっと何かに巻き込まれる、と。

 そして私は嫌な予感がしている。いや、予感というよりもきっとこれは確信だ。巻き込まれる。しかも恐らくここで一旦出直したとしても多分なんやかんやで巻き込まれるのではないだろうかと。

 問題はロゼだ。Bの声が聞こえたものだから、心配そうに眉を下げている。このドアの向こうで恋人に何かが起きているのだから、心配にもなるだろう。

 それでもロゼのことだから私と青い騎士さんが出直そうと言えば、反論せずに帰ろうとするはず。

 ならば、私が取るべき行動は決まっているようなものだ。


「いや、入ってみましょうか、中に」


 奴等の面倒事に巻き込まれるのはいつもの事なのだから。まぁ私が巻き込むのもいつもの事ではあるけれども。

 突っ込もうとする私に、青い騎士さんは眉間に皺を寄せて肩を竦める。しかし何も言わずにドアを開けてくれた。

 からんからん、とドアベルが鳴り、店の中に居た人達の視線がこちらに集中する。


「あ、葉鳥や。どないしたん?」


 ついさっきまで怒っていたであろうBが、にこやかに声を掛けてきた。私が一番に入ったので、まだロゼの存在には気付いていないらしい。


「ちょっと用事があって来たんだけど」


 そう言いながら私の後ろに居たロゼを前に出すと、Bは静かに狼狽していた。そろそろ慣れろよ。

 Bの行動に呆れながら、そっと店の奥を見てみるとそこには謎の男達が二名と困り顔のAと明らかに怯えた様子のシュトフが居た。AとBはともかくシュトフだけでも救出しなければ。

 ぴりぴりとした空気を肌で感じつつ、私は怯まず口を開く。


「旦那様からAに渡してほしいって書類預かってきたんだけどお取り込み中みたいだし外で」


「入ってきてええで」


 それとなくシュトフを外に連れ出そうとしたのだが、残念ながらBに阻止されてしまった。

 しかしそのBの言葉が気に入らなかったらしい謎の男がこちらに向かって足を進めてきた。


「今部外者を入れられては困る」


 と言いながら。

 謎の男は私達をつまみ出すつもりなのだろうが、こちらには青い騎士さんが居る。じわりと私の前に出てきているようだしつままれることはなさそうだ。


「何が困る、や。お前等が出て行けばええだけやろ。話は終わったしな」


「イーヴン!」


 案の定青い騎士さんに阻まれた謎の男は、苛立ちを隠すことなくBに怒声を投げつけている。


「なんと言われようと俺は行かへんからな」


 冷ややかにそう言い放ったBはどかどかと足音を立てながらこちらに近付いてきて、私と青い騎士さんの肩をがっちりと掴む。

 そして小さな声且つ意図的な日本語で呟くように言うのだ。


『葉鳥達が入ってきてくれれば強制的に話終わらせられるやろ』


 と。この野郎私達を利用しようとしていやがる……

 ちょっとだけ不服だったが、ロゼのためだと思えばBの味方をしてやろうかなという気にもなるというもの。仕方ないが利用されてやろう。

 なんて考えていると、Bは私と青い騎士さんを掴んだまま歩き出し、投げるようにいつもの席へと放った。

 そして急いでロゼのもとへ向かい、今度は彼女の手をとって歩き出す。


「ローゼさんはここにどうぞ」


 この扱いの違いよ。

 結局カウンター席の端から私、青い騎士さん、ロゼという並びで座らされた。Bはちゃっかりロゼの隣に座るようだ。

 それを見た謎の男達は不服そうに顔をしかめている。


「おいイーヴン……」


 謎の男達の深い溜め息と呆れたような声が響く。


「しつこいなぁ」


 完全に聞く耳を持たないBはどんなに呆れられようと気にしないつもりなのだろう。

 それにしても今がどういう状態なのかが知りたいのだが、聞き出せるような空気ではないようだ。しばらく黙っているしかない。


「お前も知っているだろう、一度宮廷騎士団に入ったものは例え辞めたとしても緊急事態の際には召集されることがある、と」


 はて? 今なんて?


「どういうこと?」


 しばらく黙っているしかないと思ってはいたものの思ったことがつい口を衝いて出てしまったので仕方がない。

 しかし私の声は小さなものだったので、それを拾ったのは青い騎士さんとロゼだけのようだ。


「トリー、あの人達宮廷騎士団よ……!」


「えっ、あれ、え? でもなんだっけ、黒い甲冑とあとなんかマントがなんとかって」


「私服のようですね。ただ胸元に紋章があります」


 ロゼ、私、青い騎士さんでこそこそと喋る。

 するとそこにナチュラルに交じってきたAが苦笑を零す。


「なんやよう分からんけど緊急事態やからBのこと招集したがってんねんて」


 Bを招集しようとしているらしい謎の男達改め宮廷騎士団の二人は私達という部外者が居るなか話を進めるかどうかを話し合っているらしく、今はこちらの動きを見ていない。

 それならば、と私はこっそりと立ち上がりロゼの隣に居たBに近付く。


「悪いことは言わない。絶対言ったほうがいい。ポイント高い」


 私が極々小さな声でそう言うと、Bは不機嫌そうに顔を顰める。


「は? なんやねんそれ」


「さっきロゼ達に聞いたんだけど宮廷騎士団って乙女の憧れとか言われてるらしいじゃん。絶対行ったほうがいいってめちゃくちゃアピール出来るじゃん」


「……な、なるほど」


 私が言わんとしていたことを薄っすらと察したBが納得しかけていたところで宮廷騎士団の男と目が合ってしまったのでそそくさと自分の椅子まで戻った。

 私の言葉を聞いたBは、思い悩むように小さくうなり声を零している。しかし頑なに断ろうとしていたわけだから、ポイントが高いという理由だけでやっぱり行くとは言えないようだ。


「イーヴン、俺達はどうしてもお前に来てほしいんだ。ちゃんと理由もある。だから……」


 彼らの視線が私達のほうに向けられる。理由を話すためには部外者を外に出してほしい、ということだろう。


「俺かてどうしても行きたくない理由があんねん。せやけど、ここに居る俺の大切な仲間の前で、お前らの言う理由っちゅーやつを話してくれるんやったら……まぁ聞くだけ聞くで」


 行くとは言わないんだ。


「……しかし、やはり部外者」


「何回も言わせんなや。大切な仲間を部外者や言うんやったら出て行きや」


 そう言い放ったBの顔は、いつになく鋭いものだった。


「Bって結構頑固なやつだったんだな」


「ホンマやな」


 私とAがクスクスと笑う中、それとは対照的な深い溜め息が宮廷騎士団の男達からあふれ出したのだった。





 

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