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転生した転校生  作者: 帝尊(ミカドミコト)
第2章 運命を決すは己が決断を決す瞬間のみ
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21. 比較の悔しさと至らなさ

「自分がもう元の世界には戻れない可能性と間違ったら自分自身を死に至らしめるかも知れなかったってこと」

 三条カノンの告白は、俺が想像していたものをはるかに上回るものだった。


「そもそもタイムパラドックスボックスって言うのは、とてつもない魔術量を消費するの。万全な状態で臨んだとしても、しばらくは日常生活に支障をきたすくらい」

 三条カノンは、四宮シノアのしたことを改めて噛み締めるように、俺を見ながら、基本発動条件を伝える。

 

「日常生活に支障をきたすって、どれくらいの期間なんだ?」

 日常生活に支障をきたすことが何を示しているのかも気になるところではあるが、今回の俺の昏睡状態のようなものなのだろう。

 それよりも期間が気になった。


「人に寄るとは聞いてるけど、一週間以内くらいだと思う。

 状態は、今回の如月と同じような昏睡状態になる人が多いとも聞いているけど、高熱を出すだけの人もいるみたいだし、全身が骨折しているような痛みに襲われて、意識はあるけど、動けない人もいる。って聞いたりもした。

 私は、今回の如月と同じように、昏睡状態だったよ。

 四宮もそうだけど、こちらの世界軸、時間軸に知り合いがいるわけではない人は大変だよね。

 目覚めた時、すでに栄養失調まではいかないけど、死にかけ状態だったりするし、人によってはやっぱりそのまま死んでしまう人もいるみたい」

 他者情報も交えながらでありつつも、たしかに三条カノンは、決死の覚悟でこの世界軸、時間軸に現れたんだ。ということを本人はもちろん、そういったことを伝えたい訳では無いのだろうけど、俺には、ものすごく痛感して伝わってくる。


「それじゃ、四宮は。。。」


「そう、ここまで話せば分かるよね。四宮は当たり前だけど、万全な状態なんてレベルでない状態で、タイムパラドックスボックスを発動させたの。なんの迷いもなく」

 三条カノンは、自分を戒めるように唇を噛み締めながら続ける。


「しかも、心臓だけの転移という、ほとんどの人がやったことないであろう。わからないけど、少なくとも私は聞いたことないし、そもそもやり方だってわからない。だって私達は」

 三条カノンはそう言いかけた後に、何かを思いつめ、


「私達は、選ばれたエージェントだけど、やっぱり自分が生まれて育った世界軸、時間軸にいつか戻りたい。みんなの期待を背負ってるから、自分の感情を優先してはいけないけど、やっぱり。。。。。」

 肩を震わせながら、俺に向かって。というより自分自身に向かって言っているようだった。


「四宮はすごいよ。私なんか、どこかで、本当の本当にきつい時は戻っちゃおうかな。なんて思っている自分が何処かにいたんだと思う。

 ただでさえ万全な状態から死にかけて転移転生してきたのに、もし確実に如月を救える可能性がわかっていたとしても、元の世界軸、時間軸に戻ることを捨てて、状態的にかなり角度の高い自分の死の危険を晒してまで、四宮と同じ行動がとれたか、今でもわからない」

 自分の認めたくない部分を吐き出すかかのように言い放つ三条カノン。

 

「三条、思いつめるな。

 自分の命を顧みずに人の為に、それこそ愛する家族や恋人や伴侶ではない誰かの為にできる奴なんてそうそういない。

 フォローになっていないかも知れないけど、三条は三条の成すべきことの為にこの世界軸、時間軸にいるんだろ?

 四宮と競争する為にいるわけじゃないんだ。

 本質を見間違えてはいないはずだ」

 俺の今まで積んできたしょうもない経験から、よくこの発言を言えたな。と自分でも感心するところであるが、今、言える俺の最大の表現は、これが限界だろう。


「如月」

 うっすらと目の周りに涙らしきものが溜まっているように見えたが、本人は、涙を堪えているので、気付かないフリをしておく。


「三条、ここまでの話を聞いた後に確認をするのは、非常に怖いが、四宮は、とても魔術の使得る状態で無い中で、本来であれば万全の状態で使わなければいけないタイムパラドックスボックスを発動させて、俺の貫かれた心臓を転移させた状態にして、その、どうなったんだ?」

 俺は、最悪の状態を覚悟して、三条カノンに四宮シノアの安否を確認してみる。


「四宮は」

 三条カノンは思いつめたように俺を見て、


「昏睡状態になっている」


「っということは、生きてはいるんだな。よかった。。。」

 少しほっとした。予断は許さないのかも知れないけれど、切り詰めた緊張の糸は少しだけ緩んだ。


「うん」

 三条カノンは浮かない表情で答える。


「なんで浮かない表情をする?もちろん昏睡状態なので、まだ予断は許さないだろうけど、四宮のことだ。きっと大丈夫だろう」

 なんの根拠もないけど、四宮シノアなら大丈夫。なぜかそう思わせる何かを感じた。


「ダメだったらすぐダメになると思うから、如月みたいにいつか目は覚ますと思う。今は私も側にいるし、一人じゃないから栄養面とかも面倒みれると思うし」

 三条カノンの浮かない表情は引き続きであるが、コメントとしては非常に前向きなので、空気感を暗くなる方向に持って行くべきでない。


「だったら、元気出せよ」

 四宮シノアをそんな状態にさせてシャーシャーと生きている自分がそう言うのは恥ずかしい限りであるが、一緒に落ち込んでいたらよくない。とにかく、三条カノンを元気付けることを優先しよう。


「だって、理論上はありえないんだよ。言ったって如月も今起きたばっかじゃんか。私は一人で、何もできなかった自分と、四宮が失ったものと、理論上ありえない事態を整理しながらここ数日過ごしてきたんだ。いきなり元気になれるわけないじゃんか」

 三条カノンは、溜め込んでいた不安、戒め、怒り、そして言葉では言い表せない何かをすべて吐き出すように、我慢していた涙腺も、この発言とともに涙に変え、俺にぶつけてくる。


「そうだな。。。」

 圧倒的、対人経験値の少ない俺は、つい目を逸らしてしまうが、三条カノンの置かれていた状態を考えれば、今の精神状態は致し方の無いことなのはわかる。


「三条、悪い。自分のことしか考えていない発言だった。俺も四宮も昏睡状態の中、よくがんばってくれたな。ありがとう。お前がいてくれて本当に助かったよ」

 頭を瞬間的にフル回転させた結果、三条カノンの頭を二回、ポンポンとして、そのまま手を頭に上にそっと優しく置いておく。この、行動、大丈夫だよな?


「う、うん」

 三条カノンは、さっきよりも大粒の涙を流す。


 俺は、ただ黙って、三条の側にいるだけしかできなかった。

 手を退けるタイミングを見つけることはできず。

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