30 ヤカサルの村 その三~少年の懇願~
本日は二話投稿です。一話目です。
ではどうぞ。
「どうしても炎晶石が必要なんです」
苦しげに吐かれたその言葉を聞いて、瑠華は暫し思案する。
炎晶石とは、火の精霊石の通称である。
精霊石は珍しく貴重なモノである。条件的に生成される数が少ない上に、精霊石がある場所には大抵精霊が多く住んでいる。そういう場所でしか精霊石が生成されないことを考えれば、致し方ないことなのかもしれないが、精霊は刺激しなければ問題ない存在だけれど、怒らせると厄介というか、大変なことになる。
だから人族は、精霊がいる場所には敬意を持って入らなければならない。精霊を刺激さえしなければ、精霊石を採っても問題はないからだ。
ただ稀にだが、鉱山や精霊が少ない小さな森の浅瀬でも、精霊石は採れることがある。それが市場に出回ることはあるけれど、ほとんどの場合、出回る前に国や商業ギルドが手に入れてしまうので、普通に暮らしていたらまずお目にかかれないだろう。
そんな炎晶石が必要とは………一体どんな事情があるんだろうね。
そう考えながら少年を見下ろせば、少年の顔色がちょっと悪くなっていた。
「主よ、そろそろその者から退いてやったらどうだ?苦しそうだぞ?」
「おおう」
すっかり忘れていた瑠華は、急いで身体を起こして少年の横に座った。少年は少しむせたようで、咳をしていた。
それを横目に、テトが主を呆れたように見つめた。
「それにしても先程のやり取りは、どう見ても“悪徳貴族に脅されてる可哀想な平民”だったな。劇とかでよく見る光景だった」
「………………」
失礼な。少年がなにも言おうとしなかったから、仕方なくだよ。
それより炎晶石か。他の属性の精霊石なら持っているけれど、炎晶石もその上位の焔の精霊石、紅晶石も今は持っていない。
「どうしてって聞いても無駄なんだろうけれど、でも一応言うよ。今のヴァルザ火山は危険だから行かない方がいい」
「そんなことは分かっています。それでも行かなきゃならないんです」
「死ぬと思うけど?」
「俺は死にません」
いや、さっき確実に死んでいたと思うよ?僕達が通りかからなきゃ、ね。
こういう子はなにを言っても駄目なんだよな。
はぁ、本当に仕方ない。
「僕はこれからヴァルザ火山に入る。炎晶石を探してきてあげるから、君はここで待っていなさい」
「ヴァルザ火山に行くんですか⁉」
勢いよく起き上がった少年は、しかし頭を抱えて突っ伏してしまった。その様子に、瑠華はため息を吐いて回復薬を指さす。
「そこの薬飲んでいいよ……………大丈夫だよ。お金なんて請求しないから。さっきのは冗談だから」
瑠華が指し示した回復薬を一度見てから、少年はじと目で瑠華を見た。
あら、酷い。
「飲んだら横になりなさい。直ぐに効き目はこないから」
「………………俺も連れていって下さい」
少年は余程辛いのか一気に薬を飲んで横になったけれど、断固たる意志が宿った綺麗な瞳で瑠華を見る。
うん、まぁ、予想していたよ。でも足手まといは連れていけないよなぁ。セラの話では、ヴァルザ火山に出現したダンジョンはSランクになっているみたいだし。
【カイン】ならいざ知らず、今は人を守りながらSランクに挑むのは不安がある。
手がないわけではないけれど。
「駄目だよ。君は足手まといだ。連れてはいけない」
「…………どうしてですか?」
「君は弱いだろう?」
「…………自分の身は守りますから」
「だからね、盛大に守れてないからね?なんでこんな状況なのか分かってる?」
「……………………」
縋るような瞳で見つめてくる。
分かってはいたけれど、説得は本当に無理だろう。
瑠華はふぅ、と一つ息を吐いて、テトに顔を向ける。
「テト」
「断る」
「だからまだなにも言っていないんだけど……」
「言わなくても分かる。だから断る」
このやり取り、今日二度目じゃない?
「リトを呼べ」
「まぁ、それが確実かつ健全な選択かな」
瑠華とテトのやり取りを静かに見つめる少年に、瑠華は左手の三本の指を立てて話を始める。
「一つ、僕の言うことにはなにがあっても従うこと。
二つ、ヴァルザ火山に炎晶石がなかったらきっぱり諦めること。
三つ、僕にステータスを教えること。
これが守れるならヴァルザ火山に連れていってあげよう」
少年はなにかを堪えるように顔をしかめる。
「いきなりこんなこと言ったら、どんだけ上から目線だよって思うだろうけれど…………」
「大丈夫だ。主は最初から上から目線だった」
外野はお黙りなさい。
「先ず一つ目、分かっているとは思うけれどヴァルザ火山もその周辺も、今は戦いに慣れた騎士や冒険者でも危険な場所になっている。そんな場所に、足手まといを連れて行けば危険度は高まる。だから危険を回避する為にも、僕の指示には従ってもらう。これは絶対。守らなかったらその場で切り捨てる」
人指し指を立てて丁寧に説明をする。少年は真剣な顔で聞いている。
「魔物の盾になれ、とか言わないですよね?」
「言わないよ。君は自分が守られている立場だというのをちゃんと自覚して、僕の邪魔をしなければそれでいい」
少年が頷いたので、中指を立てる。
「二つ目は行ってみなければ分からないけれど、過度な期待をするなってこと。ヴァルザ火山の他にこの地域ではもう一ヶ所、炎晶石がありそうな場所があるけれど、そこには絶対に入れない。何故だか分かるよね?」
「はい、奴隷の最終の地だからです」
そう、奴隷の最終の地。つまり犯罪奴隷や商会で売れ残った奴隷が行き着く場所。懲役がある奴隷は終われば出られる可能性が無くはないが、売れ残った奴隷は死ぬまで出られない場所。
世界にはそんな場所が幾つか存在している。
その地は国が管理しているので、当然警備は厳重になっている。僕なら入れるかも知れないが、そこまでやる義理はない。
「だから、ヴァルザ火山に炎晶石が無かったら諦めること」
少年は悔しそうではあったけれど、小さく頷く。
「そして三つ目、僕は「解析」スキル持ちだ。基本的に君を戦闘に参加させるつもりはないんだけど、戦える者を戦わせないことほど無意味なことはない。だから君のステータスが見たい」
「………………」
少年は、じっと瑠華を見つめ考え込んでいる。
「勿論これは断っていいから。その時はなにが出来るのか、口頭で説明してね」
断られること前提に言っているから、そんなに考えなくていいのに。
「分かりました。俺のステータス、見てください」
「え?いいの?言っとくけど、名前から加護まで全部見えてしまうよ?」
「加護まで見れるんですか?凄いですね。理由は貴方から貰った三つの薬の対価だと思って下さい。でも他言無用ですよ?」
「さっきのは冗談だって。対価なんかいらないよ」
するとここで初めて、少年は笑顔を見せた。
「父の教えなんです。“無償の取引はするな”って。後でなにがあるか分からないからって」
「成る程。よく分かっているね。お父さんは商人かな?」
少年は誇らしそうに笑って頷いた。
瑠華は彼の意思に敬意を払い、目深に被っていたフードを後ろに落とし、素顔を見せる。
「そうか。それと忘れていたけれど、僕の名前は瑠華という。じゃあ、ステータスを見せてもらうよ」
瑠華は少年の瞳を見つめ、スキル「完全解析」を使った。
読んで頂いてありがとうございました。




