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20 道中~サピセスへ~

 「………なんだ?突然」

 「う~ん……ちょっとした確認?」


 にっこり笑顔で講座を締め括ったら、じと目で見てきたテトさんに、瑠華はてへっと小首を傾げて笑い返す。




 シェシカルの街を出て約十時間程、一度も止まらずに走り続けたテトのお陰で、順調に旅は進んでいた。

 通り道に存在する魔物は大体スルーしたけど、テトが走る正にその道に陣取っていた邪魔(ふこう)な魔物は、避けるのが面倒なので、瑠華が小刀を飛ばして急所を一突きにして絶命させた。死体は擦れ違いざまに触れて、アイテムボックスに仕舞ってある。

 アイテムボックス超便利‼


 太陽が沈みきる少し前に休めそうな場所でテトに声を掛け、今は大きな木を背に座っている。先程従魔達と共に食事を済ませ、まったりとしている最中だ。

 そんな時、突然瑠華が「世界について」と話し始めたので、前方で寝転んでいたテトが呆れた視線を(あるじ)へと向けていた。


 「全く。前置きなくやるな。頭がおかしくなったのかと思ったぞ」

 「ふふ、ごめん」


 木に寄り掛かり目を細めて小さく笑う瑠華の、伸ばした両足の上に乗っているマリアとムツキが撫でて、という風に瑠華の手にすり寄る。

 瑠華は左手でマリアを、右手でムツキを撫でて心を和ませる。

 空には大きな大きな青い月。月の光りと星の瞬きのみが降り注ぐ薄暗い世界。此処にいるのは自分と可愛い従魔達のみ。

 懐かしい風景に、過去が重なる。


 暖かいものが心に溢れ、瑠華はそのまま目を閉じた。









 それから三日程走り続け、とある谷にさしかかった。

 レストリックと呼ばれるこの谷は、ここ“(ジェラ)大陸”を縦に半分程割るようにできている。谷底には深い川が流れており、落ちれば海まで流されてしまう。

 一応谷には二ヶ所に橋が掛けられているが、利用する者はほぼいない。何故なら迂回すれば安全な道があるし、谷の周りには村も街もない。周りに貴重な素材が採れる狩り場があるわけでもないし、強い魔物も多く存在する為、並の冒険者では無事では済まない。

 よってここを訪れる者はあまりいないのである。

 ここを訪れるのは、ここにあるものを知っている者だけだ。


 瑠華もその一人。


 迂回するのが面倒だという理由もあるけれど、ここに来たのはそれを手に入れる為。


 「月燕(つきつばめ)の涙」


 月燕(つきつばめ)とは、全身を水色の毛に覆われ、長く白い尾羽を持つレイニームーンという鳥の姿をした妖精の通称である。

 そのレイニームーンの流す涙には癒しの力があり、その為それを知った人族に、遥か昔捕縛され売買されていたらしい。それによって大幅に数を減らし、絶滅してしまいそうになった。それを危惧した精霊を初めとする自然界に生きる者達が、レイニームーンを人の立ち入りを拒む清浄な深く古い森に隠した。

 故に今は、レイニームーンを見ることはほとんど叶わない。

 それでも、“レイニームーンの涙には癒しの力がある”という話は、冒険者や商人の間で語り継がれている。



 薬草には、ミツキ草というものがある。

 彼方の世界の百合によく似た花で、淡い青色の花弁に真っ白な雄しべがある。

 ミツキ草の花には傷を治す効能があり、花の部分を磨り潰し、怪我をした患部に直接塗ると、軽傷なら僅か数分で傷が綺麗に癒え消える。

 しかも他のどんな薬草と混ぜても癒しの効能が消えないし、他の薬草の効能を助長させこそすれ、消すことがないので調合の組み合わせとしては最高の薬草となる。

 花の色合い、傷を治す効能から「月燕の涙」と呼ばれるようになったそうだ。

 ただ群生しているところは限られているので、乱獲は禁止されているし群生している場所を知っている者は他言するな、と周り(ギルドなど)から言及されている。

 ここ、レストリックの谷のこともそういう理由で知っている者は少ない。

 尤も、知っている者も、ここにはあまり来ない。

 何故なら「月燕の涙」がとんでもない場所に生っているからだ。瑠華なら「面倒くさい」で済むが、他の者は「危険過ぎる」となる。



 レストリックの谷の幅は約30メル。テトなら軽く飛び越えられる距離だが、ここは敢えてそのまま落ちる。谷底の川が近づいてくると、テトが氷魔法『氷結(アイスエッジ)』を放つ。魔法により川の表面が凍り、足場の出来上がりである。

 難なく氷へと着地したテトから降りて、柔らかな毛皮を楽しむように体を撫でる。


 「ありがとう、テト」

 「これくらい造作もない」


 お礼を込めて最後に頭を撫でてから、川の表面の少し上辺りに生っている「月燕の涙」を確認して、群生しているものの半分程を採取する。あまり採りすぎると、次が生えなくなってしまうから気を付けなければならない。

 まぁ、半分といってもかなりの数を採取できた。両手で抱えきれない程ある。採取する人がほとんど来ないせいだろう。独り占め感が否めない。

 これだけあれば様々な薬や魔法薬が作れるだろう。


 「さてそろそろ行くか」


 「月燕の涙」をアイテムボックスに入れ、テトに再び跨がる。テトは大きく跳躍し、そのまま谷を駆け登る。上に辿り着くと、止まることなくサピセスの街を目指し走り始めた。

 ちなみにテトが凍らせた川は表面だけなので、直ぐに溶けてしまうだろう。



 サピセスの街までは、このままのペースで行けるなら後二日程度というところか。この先には特になにもない。

 予定通りに着くだろう。







読んで頂いてありがとうございました。

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