防御特化と手助け。
メイプル単体の回はまたいつか。
まあ、いずれくる三層よりは後になるでしょう。
メイプルが天使の姿と圧倒的な力をギルドメンバーに見せた翌日。
ギルドホームに入ってすぐの広間でクロムとイズが話していた。
「本当メイプルはどんどん強くなるな」
「そうね。見ていて飽きないわ」
「ただ…あれだよな……」
「ん?」
「俺、メイプルの劣化版だよな!?」
「………まあ、そうね」
クロムは火力、防御力、どちらをとってもメイプル以下であることは事実だ。
ただ一つ上回る物があるとすればPSくらいである。
「俺はこのギルドでの存在意義を獲得しなければならない……!」
「まあ、そう思うのも無理ないわね」
二人が話しているとギルドホームの扉を開けてメイプルが入ってくる。
「噂をすればってね」
「何か話してたんですか?」
「うん、まあちょっとね」
「俺もメイプルみたいに強力なスキルを身につけたいと思ってな」
クロムがメイプルとは違ったスキルを身につけたいと付け加えて言うと、メイプルは笑顔で応援する。
クロムがメイプルに強力なスキルを手に入れるコツを聞いてみたものの、メイプルは適当に探索していたら手に入ったものが多いと答えたため、あまり参考にはならなかった。
「うーん……今日はちょっと手伝えないですけど…そうだ!シロップを貸しますよ!ちょっとでも力になれれば……」
メイプルはそう言うと青いパネルを操作して指輪を外すと、インベントリから取り出した指輪をクロムに手渡した。
「いや…いいのか?大事な装備だろ。俺がそのまま返さなかったら?」
「そんなことするんですか?」
「いや、俺はそんなことは絶対しない」
クロムが強く否定する。
クロムはそんなことをするつもりは全くなかった。
「じゃあ大丈夫です!」
メイプルは満面の笑みでそう言う。
クロムはメイプルにギルドメンバーでも大事なものは簡単に人に渡さない方がいいということを繰り返し言った。
しかしメイプルがどうしてもクロムさんの手助けをしたいと言うので、この場を収めるために渋々指輪を受け取ってギルドホームを出た。
フィールドを歩くクロムは先程のメイプルのことを考えていた。
「後でサリーちゃんにも注意してもらうか……」
クロムとしてはここまで信用されているのは嬉しいことだが、少し信用し過ぎな気がしたため、後でメイプルの友人のサリーからも同じことを言ってもらうことにした。
「……悪い奴に引っかからないようにしてやらないとな」
メイプルはゲームを楽しんでいるが、経験はまだまだ浅い。
楽しいことも、悲しいこともほとんど知らないのである。
悪いプレイヤーがいることも、実感してはいない。
メイプルの経験の浅さにつけ込むようなプレイヤーをメイプルに近づけないようにするのは、メイプルには出来ず、クロムに出来る数少ないことの一つだった。
「楽しくゲームをさせてあげたいしな」
クロムはフィールドを西へ西へと進んでいく。
「まあ、借りたからにはありがたく使わせて貰おう。メイプルちゃんにも悪いしな」
クロムはシロップを呼び出すと巨大化はさせずにそのまま共に歩いた。
メイプルとは違い空を飛ばせることが出来ないため巨大化させる必要はあまりないと感じたためだ。
「おっ…またモンスターか」
クロムは短刀を引き抜くと大盾を構えて立つ。
現れたモンスターは猪型が三体である。
それに対し、クロムの大盾は一つだ。
当然、同時に攻撃されれば攻撃をその身に受けることとなる。
「ぐっ…メイプルちゃんならノーダメだろうがなっ!」
体当たりしてきたモンスターを斬りつけてバックステップで逃げる。
赤いエフェクトが舞い散る。
猪に追撃されるも、大盾で弾き返す。
「【刺突】!」
クロムはスキルを発動し、鋭い突きを放つ。
短刀は大盾で弾かれたモンスターにヒットしそのHPを奪いきった。
また、こうしている間にクロムのHPバーは徐々に回復していく。
クロムが攻め手に欠ける大盾でありながら、第一回イベントで九位になったのは偶然ではない。
クロムも一つだけ普通のプレイヤーが持っていないスキルを持っていた。
【バトルヒーリング】
戦闘中、十秒ごとにHPが1%回復する。
このスキルと高い防御力でしぶとく戦いクロムは九位になったのだ。
メイプルを基準とすればクロムは弱く見えるが、一般的なプレイヤーを基準とすればクロムもまた強者なのだ。
第一回イベントの十位までのプレイヤーは皆何かしらの強スキルを持っている。
メイプルのスキルがその中でも格段にぶっ飛んでいたため、メイプルが目立つこととなったのである。
クロムはシロップにも攻撃させて経験値を分け与えるとまた西へ西へと進んでいった。
クロムは西の荒地に辿り着いた。
「この辺りはまだ探索してないから、ここからいくか」
クロムが荒地の探索を続けていると、古びた小さな墓を見つけた。
特殊なものが出てきた時、どのプレイヤーもそれを調べてみるだろう。
クロムも例外ではなかった。
そうして墓に近づいていったクロムは、墓の一歩手前で急に地面が無くなったことに対応出来ず地下へと落ちていった。
地下でクロムが起き上がる。
目の前には奥へと伸びる穴が見える。
「は……?隠しダンジョンか何かか?」
クロムが辺りを見回すとシロップもちゃんとついてきていた。
「本当…メイプルちゃんには何か憑いてるんじゃないのか?」
クロムはメイプルが絡むと変なことが起こるような気がしてきていた。
ただ、実際のところここに入れたのはメイプルの謎の影響ではなく、クロムのやってきたことの影響なのだ。
サリーやメイプル、カスミにカナデ、イズだって個性的な何かを持っている。
クロムにも、クロムにしかないものがあった。
それは、圧倒的な死亡回数。
不遇とされた大盾を選び使いこなせるようになるまでに、低火力のためモンスターを処理出来ずに囲まれて何度も死亡した。
大盾の扱いが上手くなるのは遅かった。
その分死亡回数も増えた。
それでもクロムは鍛錬を重ねた。
足りない才能は時間と努力でカバーした。
【バトルヒーリング】も死に続ける中で偶然手に入れたものだった。
どのスキルも、どの技術も、死と共に身につけてきたのだ。
このダンジョンの名は【亡者の墓】。
メイプルでは、サリーでは、このダンジョンには入ることが出来ない。
このダンジョンに入る資格があるのは、千回を越える死亡と生き返りを体験したクロムのようなプレイヤーだけなのだ。
クロムさんマジ保護者。
表現修正。