防御特化とまたいつか。
一瞬の暗い闇の後、眠りから目が覚めるようにパッと目を開けると、イベントは既に終わっており、二人は揃って観戦エリアに立っていた。
目の前では他のプレイヤー達が熱く感想を交わしていたり、満足したように十層に戻っていっていたりと様々だ。
「あれ?あれっ!?私、死んじゃった……?」
「あはは、二人揃ってね。そっか……死んだ時ってこんな感じなんだ」
「ええーっ!?絶対上手くいったと思ったのに!どうやったの?」
「それはね……」
後ろの背の高い花壇にもたれながら、一体どうやったのかを話し始める。
「【ブレイク・コア】は【爆弾喰らい】で耐えてるでしょ?だから、それは【廃棄】してない」
「もちろん!」
「私は爆発の前に背中側で急いでインベントリを操作して、あるアイテムを取り出したんだ」
「あるアイテム?」
「ふふっ、なんでしょー?」
「うーん……うーん……」
「ヒントは四層かな」
「四層……あっ!お札!」
「当たり」
四層で買った封印のお札。
貼り付ければスキルを一つランダムに封印する効果を持つ、三枚だけ持てるアイテム。
最期の時に背中へそれを貼り付けて【爆弾喰らい】を封印したのだ。
【爆弾喰らい】がなければ【ブレイク・コア】はしっかりと自爆スキルとしてHPをゼロにする。
「でも、あれって何を封印するかはランダムだったよね?」
「そうだよ。だから運次第」
「そうだよね!?」
「……でもね、私今日きっと世界の誰より幸運だと思ったから。それに、お願いしたし聞いてくれるかなって」
「確かに……お礼するって約束したもんね。むむむ……」
内容は予想外のものではあったが二度目のお願いをされ、意図せずその約束を守る結果となった。
「でも、途中でインベントリをそのまま操作するやり方を覚えないとできなかったなあ。多分ポーチには手が届かなかったし」
「あっ!じゃあ、見せちゃ駄目だったかあ」
「お陰さまで技が増えました」
「むむむ、戦うって難しいね」
「ふふっ、そうかも」
幾度となく技を撃ち合い、攻撃を捌きあった濃密な戦闘。ただ、二人は細かい感想戦はしなかった。
それは、そんなことをせずとも、必要なやり取りは全て、あの戦いの中にあったような気がしていたからかもしれない。
「ねえねえ……一つだけ聞いていい?」
「うん、何?」
真剣なトーンで、とても大事なことを切り出す前というふうに。
少し俯いた黒髪の向こう、その瞳には戦っていた時の強い意志の炎とは真逆の、迷いや不安が見て取れる。
しかしその迷いや不安は振り切って、一つ大きく息を吐いた後、その口が言葉を紡ぐ。
「楽しかった?」
「……うん。楽しかった」
そう言って笑って見せると、ぱぁぁっと表情が明るくなっていく。
自分以上に喜んでいるその様子が何だかおかしくて、思わず噴き出すように笑って返す。
「ね。三つ目のお願いも、今聞いてもらっていい?」
「ええっ!?いいの、結構なんだって聞いちゃうつもりだよ?期限もないよっ、早くない?」
「忘れちゃう前にさ」
この、勝利を目指す熱を。とは言わなかった。
「うん、いつでも聞くよ!」
「……また、遊んでくれる?」
「そんなの、もっちろん!ゲーム上級者……ではないけど!中級者……かはわからないけど、初心者は抜けたと思うし!楽しいことがいっぱいあるって分かったもん!」
そう言うとさっき以上の笑顔で、しっかりと目を見て、元気よく続きを言い放った。
「だから、またゲームしよ?」
「とっておき他にもたくさん探しておくからさ!うん……だから、待ってるね。ずっと」
「うんっ!」
物語の終わり、一つの夢の終わり。
日の沈んだ空にはいくつもの星が瞬き始めていた。
次回、完結。




