防御特化と魔王10。
「あ……っ!」
それは高速移動でなく瞬間移動。
その姿が霧のように薄れたかと思うと、ミザリーのすぐ隣に双剣を振りかぶって出現し、そのまま高速で振り抜く。
「【カバームーブ】【カバー】!」
「……っ、た、助かりました!」
サリーの声かけが活き、メイプルがその攻撃に割り込み防御を成功させる。
【悪食】が双剣を飲み込むものの魔王本人には届かず、双剣も即時再生し武器を奪うには至らない。
「【鉄砲水】!」
「【爆炎】!」
サリーとミィが魔王と距離を取るためにノックバックを入れにいく。
しかし二人が放った炎と水は魔王のバリアに直撃した瞬間に完全に消滅する。
【悪食】が消えていないため、パッシブスキルには反応しないバリアであると想定できるが、そもそもメイプルの【悪食】がかなり稀な分類の攻撃手段であり、大抵のスキルと魔法は通じないことを理解しサリーは顔を顰める。
メイプルに攻撃をガードされた魔王も黙ってはいない。そのまま素早く地面に剣を突き刺すと、放射状に衝撃波を放ち全方位を攻撃する。
「【マルチカバー】!」
「朧、【神隠し】!」
「「「「【大規模魔法障壁】!」」」」
「シャドウ、【影潜り】!」
「クリア、【存在消滅】!」
クロムがマイとユイを庇い、それぞれが自分の取れる防御手段を行使した。
展開されるいくつもの障壁が砕かれて、攻撃を無効化するようなスキルを使わなかった面々が確かなダメージを受ける。
後衛陣が多少のダメージ軽減の上で受けて三割程度のHP減少量、ダメージこそ許容範囲であるものの、同時に与えられたノックバックと【STR】【VIT】減少のデバフについてはそうは言っていられない。
魔王から遠のくように全員が弾かれる。
最大の問題はプレイヤー間の距離が開くこと。
既にメイプルとクロムの【カバームーブ】で届かない位置まで飛ばされた者もいる状況だ。
長い間戦っていては、メイプルはともかくクロムの【VIT】も危険水域に達する。
全員の【STR】が低下し、スキルと魔法でしか攻撃できなくなれば、バリアを展開した魔王を倒す術が完全に消失する。
どうしようもなくなるその前にと、何も言わずとも、通常攻撃でも戦える前衛陣が魔王に向かって駆け出した。
「【範囲拡大】【重力制御】!」
「流石っす!ヒナタ!」
「ノックバック対策は任せてください……!私では魔王にできることがありませんから」
バラバラになったパーティーメンバーの距離を詰めるため、ヒナタが重力を操作してまとめて引き戻す。
ヒナタの得意な戦術は魔王のバリアと相性最悪というほかないが、【重力制御】はクールタイムもそう長くないため、衝撃波と打ち消しがほぼ同時に来なければアフターケアは可能だ。
「【治癒の雨】!」
全員の距離が縮んだ所にミザリーが回復スキルで立て直すと、魔王は再度消失からの瞬間移動で斬撃を繰り出し、今度はベルベットの背後に出て斬りかかった。
「近づく手間が省けて助かったっすよ!」
ベルベットは素早くステップを踏んで紙一重で魔王の剣を回避する。
攻撃スキルを打ち消されてしまうため、試されるのは純粋な戦闘技術のみと思える。
そこで、ベルベットは二つのことを試すことにした。
「【闘気覚醒】!【渾身の一撃】」
ダメージアップのバフをかけ、踏み込んで魔王を右ストレートで殴りつける。
ベルベットはバリアが打ち消すものの範囲をいち早く明確にするべきだと考えて二種類のスキルを試した。
魔王のバリアの中【渾身の一撃】の発動を示す右腕から発されるエフェクトが即座に薄れ、スキル特有の動きを補佐する感覚が消失する。
しかし、【闘気覚醒】のバフは維持されており、先程メイプルの【悪食】が消えなかったことから、魔王のバリアが打ち消すものはあくまでアクティブスキル及び魔法、そのうえで攻撃であることを概ね確定させた。
「くっ……これだけだとほとんど効かないっすね!」
【闘気覚醒】は強力な火力バフではあるが、相手は魔王であり防御力もHPも桁違いで、スキル一つでバフした程度の通常攻撃ではダメージは小さい。
そして深く踏み込んだ分、反撃の双剣が回避できない速度で迫る。
「【パリィ】!」
ちょうどいいとベルベットは防御用のアクティブスキルをバリアの内部で発動する。
それは予想通り問題なく効果を発揮し、魔王の双剣を弾いた。
「触れただけでデバフかけてくるのは嫌っすね……!」
ベルベットの【STR】と【VIT】が魔王の双剣が持つデバフによって大きく減少する。減少幅を見るに、実質戦闘不能に追い込まれるまでそう余裕はないだろう。
そうしてベルベットが注意を引いているうちに、カスミとペインが挟撃を仕掛ける。
しかし、魔王は再度煙のように消えると転移によって位置を入れ替える。
挟撃は失敗に終わり、次はシンの方へに姿を現した。
「【崩剣】持ってかれるときっついんだよな!」
シンは一本に戻った剣で最低限攻撃を剣で受け止め、回避を交えて切り掛かる。
ベルベット以上に普段のスタイルからかけ離れ、さらに双剣の効果でデバフを受ければまともな戦闘は不可能だ。
ミザリーの回復こそ健在だが、魔王のHPが思ったように減ってくれない。
そして、問題なのはHPでなくデバフの方だ。
現状はシンは魔王から一撃受けたとて死にはしなかったが、【VIT】デバフが重なれば耐久力より機動力に振った面々の一撃死はありうる。
「しかしこれでは……攻撃するにも苦しいか」
こうも好き勝手飛び回られては通常攻撃の射程に収めることもままならない。ペインは【超加速】の発動タイミングを見計らいながら、ヒナタが全員の距離をより詰めるように重力を操作するのを確認していた。
動き回る小さな的に攻撃を加えるための決定的な瞬間が欲しい。
全員にその想いが過る中、声を上げたのはカスミとカナデだった。
「メイプル、サリー!私に手がある!次のバフ解除の後【戦場の修羅】で仕掛けたい!」
「僕も手がある。ソウの力を借りて次の攻撃を押さえ込んで隙を作れると思う!」
「オーケー!これとは長く戦ってられないし!」
「分かった!二人ともお願い、皆で攻撃するから!」
長く戦ってきたギルドメンバーからの自信がある様子の提案。
未知の魔王相手、当然即興の部分も多いがメイプルとサリーは、二人の策がこれまで用意してきたうちの何に近しいかを素早く理解し、狙いを把握してゴーサインを出した。
シンが魔王の攻撃を耐えるうち、赤い光が全員を包み、発動中の効果を打ち消す。カスミはその瞬間を待っていた。
「【戦場の修羅】【心眼】!」
先程使用しクールタイムに入った【心眼】だが【戦場の修羅】のクールタイム短縮により再使用可能になる。
サリーの予測やドレッドの勘とは違い、【心眼】はシステムによる看破。
これならば一切気配がない瞬間移動直後の攻撃動作も数秒後そこに発生するものとして未来視が可能だ。
「フレデリカの背後に出るぞ!」
「ちょっ……こっち!?」
数秒後の攻撃先が見えるカスミは魔王の双剣が振るわれる相手を赤い攻撃予測によって先んじて看破した。
「「「「【超加速】!」」」」
この戦法はカスミのスキルが要であり、長くとも次の打ち消しまでの間しか使えない。
用意されたこのチャンスを逃すわけにはいかないと、サリー、ペイン、ドレッド、ベルベットが加速して先手を取る。
「ノーツ!【輪唱】【障壁】!……【ウォーターウォール】!」
瞬間移動によりフレデリカの背後をとった魔王だが、フレデリカもそれは知っていたためノーツの覚えている魔法も重ねて最低限の防壁を展開し、転がるように距離を取る。
【マナの海】のデメリットは重く、効果が切れた今のフレデリカは反動でほとんど魔法が使えないのだ。
そんなその場しのぎの防壁など容易く斬り裂いて、魔王がフレデリカに追撃を試みる。しかし、それと入れ替わるように飛び込んだのは【超加速】によって駆けつけた四人。
サリー達が壁となって魔王の追撃を阻止しにかかる。
「ウィル!」
リリィの呼びかけでウィルバートは求められていることを察する。【休眠】によりテイムモンスターの能力が一人に集約され、空に魔王を見つめる目が開く。
「バフに意味があるのなら……!【権能・超越】!【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】!」
弓矢による攻撃能力が大きく低下したウィルバートだがバフの性能は変わっていない。いや、むしろ天上の眼の権能により、スキルの効果に強化が入りバフは強力にすらなっていた。
通常攻撃での戦闘を強いられる四人に強烈な後押し。いかに魔王といえど双剣二本で完璧に受け切れるほど四人の攻めは緩くない。
「はぁっ!」
サリーが深く踏み込んで魔王の脇腹に傷を作る。魔王は当然そこに剣を振り抜くが、サリーは体を逸らし、僅か数センチの差でその剣を躱してみせた。
「二割も遠いな……!」
そうしてできた隙に次はドレッドが飛び込む。しっかりと安全マージンを確保したヒットアンドアウェイ。魔王のリーチを把握し、限界まで釣ってベルベットに繋ぐ。
「重いのをくれてやるっすよ!【鉄心】!」
懐に潜り込んで反撃覚悟のインファイト。【鉄心】による強力なダメージカットとミザリーからの回復を当てにして魔王からのデバフを受けながらも重い拳を叩き込む。
「でも……これで限界っすね。後は、頼んだっす!」
魔王との殴り合いは攻撃を受ける度ひたすらに重なる【STR】低下の分、ベルベットが大きく不利を背負う。バフを活かしてダメージを叩き込んだものの、デバフが重くのしかかり、いよいよ攻撃が意味を失っていく。
しかし今回は他にも強力なアタッカーがいる。ここは託したと踏み込んでアッパーを突き刺し、魔王の体を浮かせてペインに繋いだ。
「ああ!」
ベルベットから託されたペインは魔王の双剣を一度回避し、斬り下ろしによってダメージを与える。
魔王は距離を詰める四人を牽制するように振った双剣をガードで受けて、ペインはさらに踏み込む。基礎ステータスが高い分、多くのものを封じ込められた状況では素の打点の高さが輝き、魔王のHPをもぎ取る。
「……!」
魔王の予備動作は陣形を破壊してくるノックバック付きの全体攻撃のもの、モーションこそ僅かに大振りではあるが、それは双剣の振りと比べての話で、咄嗟につけるようなものではない。
範囲は広くサリー、マイ、ユイは対処必須の攻撃だが、個々人が使えるようなダメージ無効スキルはもう随分使った後だ。
「ソウ、【身捧ぐ慈愛】!【救済の残光】【不壊の盾】!」
この瞬間を待っていたとばかりに、魔王の動きに合わせてカナデがソウのスキルを発動する。
【擬態】することで【擬態】先のスキルを使うことができるようになる、変幻自在なカナデとソウのコンビらしい柔軟な切り札。
今回はもうこの戦闘では使えないはずだったメイプルの【身捧ぐ慈愛】を再度使うことが目的だ。
「十分だよ。ありがとう、ソウ」
ダメージカットはあるものの魔王の攻撃を全て吸い寄せて、戦闘不能に追い込まれたソウが指輪の中で眠ったのをカナデは見届ける。
しかし、役割は果たした。
魔王の攻撃を最適限のリソースで防ぎきり、生み出したのは値千金の一瞬だ。
本来崩れるはずの陣形を保ち、さらに攻撃中の魔王に対しサリー達がダメージを受けることなく攻め続けられる。
「【カバームーブ】!」
その隙を待っていたのはサリー達だけではない。
防御でなく攻撃に転じられる瞬間、メイプルは【カバームーブ】でサリーの元に高速で移動する。
ソウの【身捧ぐ慈愛】を前提にして前へと駆けたサリーは魔王との距離をきっちり詰めて、メイプルの攻撃のための起点となったのだ。
「やあぁっ!」
メイプルが魔王が双剣を構える前に大盾を叩きつける。【悪食】は通常攻撃では出せないようなダメージを叩き出す。メイプルは防御の要であり攻めの要だった。
「メイプル、もう一回!」
「うんっ!」
距離を離される前にと、メイプルが大盾を振り抜く。今度はガードが間に合った魔王が双剣を振るってメイプルの大盾を弾こうとするが、それはそのまま【悪食】によって飲み込まれ、再度大盾による一撃が炸裂する。
「これで【悪食】はあと一回っ!」
「十分!ナイス!」
メイプルの強烈な二連撃によって顔を歪めてよろめく魔王が、何とかメイプルから離れたところにサリー達が追撃を仕掛ける。
「【カバー】!」
攻めに参加したメイプルがそのまま防御を担当し、サリー、ペイン、ドレッド、そして【STR】が下がり切ったベルベットと入れ替わるように【超加速】でカスミが迫る。
「はぁっ!」
「さあ、もう一息だ!」
「油断はしねえ……!」
「斬り伏せる!」
メイプルに注意が向いたその隙に四人の武器が魔王をほぼ同時に捉えた。
迸るダメージエフェクト、頭上のHPバーは残り一割といったところ。
「ぐっ……ぁああっ!」
魔王の体を守っていたバリアに亀裂が入り、メイプル達を跳ね除けて、魔王は赤い光を散らしながら距離を取るように斜め上へ舞い上がる。
後一押しなのは間違いない。
しかし、死を前にして未だ眼光鋭い魔王からは、いつでもこちらを殺せると感じさせるプレッシャーが放たれている。
このまま自由にさせたくない。ここで決め切りたい。全員の意思は一致していた。
「【神罰】!」
「【深淵の魔弾】!」
魔王に向けて追撃せんと前衛陣が駆け出し、魔王のバリアに入った亀裂について確かめるためミザリーとカナデが攻撃を加えた。
先程同様二人の攻撃はバリアに触れた瞬間打ち消されてしまったが、代わりにバリアの亀裂は大きくなる。
攻撃の無効化の回数に限りがあると察せられる挙動に、いい情報を得たと全員が魔法を放とうとした。
魔王は間違いなく弱っている。
しかし、死の間際ほど本来以上の力が発揮されやすいタイミングもないのだ。
飛び退いた魔王の背後に四つの魔法陣が浮かび上がり、そこから大きく口を開けた異形の頭部が顕現する。
全員の直感した通りにそこからはレーザーが放たれ地面を抉りながら迫る。
「【救済の残光】!」
「【祝福の聖域】【破魔の聖域】!」
メイプルとミザリーが高いダメージカット効果を持つエリアを形成する。魔王の動きは明らかに変わり、スキルの打ち消しが頻発するかも分からない。
撃破まで後一歩という今、恐れてスキルを抱えたままでいる程慎重でいるつもりはない。攻めるべき時はリスクを負ってでも攻めるのだ。
レーザーを受け負傷した面々をミザリーが即座に回復させるが、レーザーには回復低下効果があり、近づく死のプレッシャーでメイプル達の足を止めに来る。
「我が魔剣よ来たれ……!この領域もろとも吹き飛ばしてくれる!」
最後方、魔王が逃げる先に黒い魔法陣が展開され、そこからスパークと共に赤黒い大剣が伸びてくる。魔王が叫んだ内容からも察せられるように、大剣を手にされてしまえば勝利は大きく遠のき、それどころか一気に敗北することもありうるだろう。
「メイプル!あれ渡しちゃ駄目!」
「うん……!皆、力を貸して!」
「レイ!メイプル、サリー、乗れ!」
「はい!」
到達前に仕留める。ペインはメイプルとサリーをレイの背に乗せると、魔王の放つ赤いレーザーを潜り抜けて一気に距離を詰める。
しかし魔王もただで通してはくれない。次々に大きな魔法陣が展開され、そこから溢れるように大量の異形が重なり合って飛び出してきた。
一体一体は倒せない相手ではない。しかし、魔王はここまでの戦闘で【STR】低下のデバフをばら撒いており、時間をかけさせてくる。
だが、時間をかけていては魔王は剣に到達し、引き抜いた大剣を振るうだろう。
魔王の目的はあくまで時間稼ぎ、それはメイプルにも分かっていた。
「【古代兵器】【砲身展開】【攻撃開始】!」
これはメイプルの持てる最大火力の一つ。【STR】が下がっていようが関係ない攻撃方法で、壁のようになって行く手を塞ぐ異形を撃ち抜く。
「倒し切れない……!」
「ペインさん迂回してください!」
「ああ!レイ……」
ペインがやむを得ずレイに迂回を指示したタイミングで、轟音と共に後方から眩しいほどの輝きが放たれる。
「そのまま行くっすよ!」
「道は私達で切り開く!」
そこではベルベットとミィが大技を構えていた。かつて自分達の目の前で放たれ、その破壊力は疑いようもない。
「……!うんっ、ありがとう!」
メイプルが前に向き直ると共に鳴り響く雷鳴と爆ぜる豪炎。辺りに拡散する膨大なエネルギーは、すぐに魔王へと向けられることとなった。
「【雷神の槌】!」
「【インフェルノ】!」
吹き荒れる雷と炎が全てを飲み込み、焦がし、消滅に追いやっていく。
破壊の暴風は魔王の生み出した異形を滅ぼし、魔王のバリアにさらに傷をつけて、メイプル達の通り道を作った。
レイは轟雷と豪炎の光の中を魔王に向けて一直線に飛ぶ。しかし、魔王は次々に妨害を仕掛け、大剣への到着を目指す。
さらに展開された八つの魔法陣から剣を持った小さな腕が生え高速でメイプル達に迫り、両者を分つように赤い障壁が発生し再度足を止めさせにかかる。
地面に展開された大きな魔法陣からは絡まり合って大樹のようになった異形でできた腕がレイに掴みかからんと手を伸ばす。
「【血刀】!」
「【崩剣】!」
カスミとシンが小さな腕を斬り落とす。制空権は取らせないと、メイプル達に迫る攻撃を弾きその歩みを止めさせない。
「【【ウェポンスロー】】!」
マイとユイが後方から放った大槌が行く手を阻む障壁を叩き割る。かつて城壁すら破壊してみせた最強の一投で障壁一つ砕けぬ道理はない。
「【星の鎖】」
「【聖なる鎖】」
ヒナタとマルクスが生み出した二種類の鎖がレイへと伸ばされた腕を縛り上げ、加速していくレイから引き剥がす。足止めにおいて二人の右に出るものはいないのだ。
「邪魔をするな……大人しくしているがいい!」
それぞれの助力を受けてレイはさらに距離を詰める。されど、魔王はまだ力を残していた。
レイを囲むように展開されたいくつもの魔法陣から棘のように真紅の剣が伸び、魔王は魔力を高めてグンと加速し大剣へ向かう。
「【権能・爆砕】!」
「【重力の檻】」
「【鈍化の雨】!」
「ネクロ【死の重み】だ!」
聞こえた声と共に、自分達へ向かってきていた剣が破裂して消滅し魔王が減速する。大きくヒビの入ったバリアはその性能の幾許かを失い、移動速度低下のデバフを受け付けたのである。
メイプルが声のした方を見ると、リリィの生成した機械が青い炎を噴き上げながら飛び、全員を乗せてメイプル達を追従してきていた。
「最後まで道は用意するさ!ここで倒しきれ!メイプル!」
「はいっ!」
「レイ!【流星】!」
包囲を突破してレイが飛び込むのに対し、魔王がその手を向けるとレーザーが一斉にレイを狙い撃つ。回避を選択するレイと、レーザーを操作し追撃を図ろうとする魔王。
その瞬間だった。
「……?」
魔王の真横から飛んできた木製の鳥達。魔王が反応し、そちらに顔を向けて空いた片手で魔法を放つ。
「【スイッチ】!」
魔法が直撃する直前にマルクスが叫ぶ。
飛ばした偵察用の小鳥をトラップの位置を入れ替える【スイッチ】によって別のものとすり替える。
魔王の魔法の着弾と同時、響いたのは大きな爆発音。
入れ替え先は足元でトラップの札を巻いておいたイズの強化爆弾。
空中で炸裂した爆弾が巨大な爆炎を広げ、メイプル達はついに魔王のバリアを破壊したのを見てとった。
「上手くいったわ!」
「うん、あとは……!」
魔王まで届け。あとはそれだけだ。
決着の時はもうすぐそこまで迫っていた。




