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防御特化と魔王8。

氷の防壁が消えていき、魔王を倒すため複製とすれ違うように飛び出した面々を見送り、マルクスは【一夜城】の中、大量に設置したカメラで周囲の状況をモニタリングし、トラップを起動する。


「【発破】【隔壁起動】【遠隔設置・火砲】」

マルクスのスキル発動に合わせて爆発が起こり、魔王の複製を内側に封じ込めるように壁が展開され、生成された方から砲弾が放たれる。

それらは複製を撃破するには至らないが足を止めさせ、少しずつ時間を稼いでいく。


「大見得切ったんだ……ちゃんとやらないと……」


「大丈夫ですよ。いつも通り頑張りましょう?」


「うん。そうだね」


「それに、今回は皆さんもいますから」


「よし……メイプル達は上空の対処を助けてほしい。飛ばれるとどうしても有効なトラップの数が減るから……」


「うんっ!」

メイプル、イズ、カナデ、ヒナタは移動して四人で【一夜城】の上から周囲を確認する。

メイプル達とマルクスの間には両者を取り持ってミザリーが待機し、結界を張るように【一夜城】を複数の防御効果の範囲に捉え続ける。多少の傷なら即回復、その上ダメージも抑えられている。

マルクスのトラップは外側に複製の飛行能力を奪い地に落とすものが多く、全てをすり抜け【一夜城】に来ることなど簡単に許さない意志が感じられる。

それでも複製の数は多く多少はすり抜けてくるのが現状だ。

上空はイズが設置したアイテムが睨みを利かせており、プロペラを回して空中に浮かびながら銃弾をばら撒いているものの、複製に少しずつ破壊され数を減らしていた。


「追加が必要ね!」

イズは大砲を取り出して並べると次々に砲弾を放つ。自動装填かつ連射可能なそれは大砲というより最早機関銃だった。


「【古代兵器】!」

負けてはいられないとメイプルも浮かぶ黒いキューブを変形させガトリングガンに変えると、青い光弾をばら撒いて複製の接近を牽制する。


「よし、火力よりは妨害だね……【スロウフィールド】!」

場面に応じて強力なレアスキルを選べる柔軟性こそがカナデの強み。戦場において足りないところを自在に埋められる魔導書が複製達の行手を阻む。


「ヒナタちゃんにはまずこれね!受け取って!」


「は、はいっ!」

ヒナタはイズから渡されたいくつかのポーションを受け取るとそれを一気に飲み込む。


「……!」

効果時間こそ短いが上昇値は目を見張るもの。バフの内容もスキルの効果範囲と射程の拡大にクールタイムの短縮、威力向上にMP回復速度上昇と、どれもこれも役立つことが確約されている。

そしてそれはアイテムが本来与えられる効果の枠から、大きく外れたものであることもヒナタには理解できた。


「私特性のポーションよ!これで足止めをお願いするわ!」


「ヒナタが一番妨害得意だもんね!」


「うんうん。残ってもらった理由でもある」


「はい、任せてください。マルクスさんと一緒に……ここには誰も近づけさせません!」

ヒナタの周りで重力が歪み、冷気が噴き出し辺りに霜が降りた。イズのポーションで範囲と射程を増した強烈なデバフが容赦なくばら撒かれる。


「【コキュートス】」

吹き抜けた冷気が複製達を氷漬けにして足を止める。ただの的であれ。その命令に逆らう術はない。


「【厄災伝播】【重力の軋み】【脆き氷像】【錆びつく鎧】【死の足音】」

降り注ぐデバフが複製の防御力を削ぎ落とす。マルクスのトラップとイズのアイテムのダメージが、無視できない痛みとなって複製を襲い始める。

それでも、複製体は体を再生させながら絡みつくトラップを破壊して近づいてくる。


「もっと時間を稼ぎましょう。ここまで防御を下げても撃破は骨が折れそうです」


「うん!魔王の体力が減るまでの我慢だね……!」

メイプルにとしても我慢比べは得意な戦法だ。

しかしこれはあくまでいつかは崩されてしまうであろう籠城戦。

メイプル達はそれを限界まで引き延ばしているに過ぎない。戦いの終わりには外からの吉報、魔王へのダメージが不可欠だ。


「頑張れサリー!皆!」

メイプルはいよいよ魔王に相対する前線の面々にそう呼びかけるのだった。





メイプルを残して前に飛び出したサリー達は、【身捧ぐ慈愛】の範囲から飛び出して魔王本体を狙いにいく。


「マイとユイで攻めます!」

下準備がほぼ必要なく、一度接近して殴れさえすれば継続的に即死級のダメージを叩き込むことができ、一撃ごとのダメージ上限等にも強い。

防御と移動速度にこそ難あれど、守りを固めた高耐久の相手に対し、二人の火力はデメリットを帳消しにして余りある利点だ。


「分かったっす!」


「ああ、了解した」


「ドレッド、ドラグ、援護する!」


「ならば、必要なのは火力より速度か。ベルベット!」


「そうっすね【エレキアクセル】!」


「【フレアアクセル】!」

二人のスキルによりマイとユイ、ツキミとユキミ、それぞれの足元に雷光と爆炎が弾け移動速度を強化する。

【AGI】を参照せず直接移動速度に影響するスキルであればマイとユイの移動速度も改善できる。

中央に二人を置いて【楓の木】が周りを囲み、その外縁を他のギルドメンバーが護衛する。

目指すのは万全の状態のクロムを側に置いたうえで、魔王の側までマイとユイを送り届けることだ。

距離を詰めることで魔王の周りに浮かぶ、大剣を持った四本の腕が反応する。


「【心眼】!」

複製体が後衛に向かう以上、魔王の脅威度はこの腕次第。一本一本が【一夜城】程もある剣である。乱雑に振り回しただけでも回避は相応に困難だ。

カスミは【心眼】を発動すると魔王の攻撃が如何なるものか、確実な答えをその目で見にいった。

数瞬後に一本ずつ順に振り抜かれるであろう大剣の攻撃範囲が赤く染まる。それだけでなく、振るわれた剣から伸びるようにカスミ達を攻撃予測が貫いて、振り返った先、後方の【一夜城】まで赤い輝きは続いていた。


「起動上に衝撃波だ!クロム!」


「【守護者】!【精霊の光】!」

大剣が振られ斬撃がエフェクトとして起動上に飛んでいく。轟音と共に地面に傷がつき、全員を赤い輝きが飲み込む。


「今のうちに詰めろ!」

クロムは【守護者】によって全員が巻き込まれるはずだった攻撃を引き受け、【精霊の光】でダメージを無効化する。

一度きりのコンボではあるものの、これによって四本の大剣とそこから放たれた飛ぶ斬撃を無効化する。

クロムが背後をちらと見やると、大量のバリケードとトラップが粉々にされた跡はあれど、【一夜城】は健在だった。


「負けてらんねえな!」

防御形態のネクロを身に纏い、スキルとアイテムで防御力を底上げする。

先制攻撃は捌いたものの、大技のクールタイムは長いため同じ手は使えない。

ここからは地道に耐えていく必要があるのだ。


「散開してください!全員で腕を一本ずつ引きつけます!」

サリーの指示に従ってそれぞれが距離をとって腕の攻撃を分散させる。いかんせん大剣のサイズがとてつもないため、横薙ぎは全員を巻き込んでしまうが、それでも多少状況は良くなった。

前に飛び出してきた面々は基本的に機動力に優れている。大振りな大剣での攻撃は一本でいいならば避け切れるだろう。

マイとユイがいる分、本隊である【楓の木】が最も機動力に乏しい。


「【マルチカバー】!」

だからこそ、そこには避け切れない攻撃を真正面から切り抜けるためにクロムがいる。体の数倍はある大剣の斬り払いを先頭に立って受け止めると、減った体力を自動回復で補って次の攻撃が来る前にマイとユイを前に進めた。


「クロム左だ!」


「オーケー!」

ついでのように全員を巻き込んでくる赤い波のような斬撃。【心眼】発動中のカスミなら不意の攻撃も確実に感知できる。


「「【跳躍】!」」


「【マルチカバー】!」

カスミとサリーはクロムの負担を減らすため機動力を活かして自ら飛ぶ斬撃を回避し、クロムは足元に回復エリアを生成するポーションを叩きつけながら進んで体力を維持する。


「楽にはいかねえが、耐えられねえ程でもねえ!このままいくぞ!」


「「はいっ!」」

クロムが攻撃を受け止めること数度。リリィの【傀儡の城壁】や、ドラグのテイムモンスターであるアースの生成する岩壁も活かし、全員を巻き込むような範囲攻撃を捌きながら魔王本体を目指し距離を詰める。


「【水の道】【氷結領域】!」

大剣の攻撃後の隙を狙ってサリーが氷で足場を作り、魔王を守る赤い球体へのルートを確保する。

そうしてクロムを連れてマイとユイが氷の道を駆け上がり大槌を振りかぶった。

マイとユイの攻撃を感知し、球体表面に展開された防御用の城壁が赤く輝きを放つ。

魔法陣は攻撃をガードする単純な防御ではなく、迎撃機能を兼ね備えていた。

想定はしていたものの、当たって欲しくはなかった予測。逃げ場なく均等に放たれた赤い衝撃波をクロムがガードする。


「【マルチカバー】!……チッ、【ヘビーボディ】!」

体が浮き上がるような感覚に、嫌なことをしてくると、クロムは咄嗟にノックバック無効を合わせながら素早くステータスを確認した。


「防御ダウンか……!マイ、ユイ!あっても次のカバーでギリだ!頼む!」


「「任せてください!」」

防御が下がればここまで成立していた戦法も成り立たなくなる。【デッド・オア・アライブ】と【不屈の守護者】による生存力を加味しても、もうそう何度も攻撃機会は作れない。


「「【決戦仕様】!【ダブルストライク】!」」

マイとユイは大槌にオーラを纏わせて一気に叩きつける。【救いの手】があれば浮かぶ球体も問題なく捉えられる。

死をもたらす鉄塊が魔王の防御とぶつかり合い、高い音を立てて城壁が砕け散り、魔王を包んでいた球体が爆ぜて辺りに赤い液体を撒き散らす。

しかし、球体はマイとユイのプレイヤーの枠を超えた攻撃に対して、確かに防御機構の役割を果たし魔王本体は守られた。

魔王もまた二人を最大の脅威と認識し、生き残って得た一瞬を利用する。

四本の大剣を二人に向けて振り抜きながら、自分は双剣から爆炎のようなオーラを迸らせると刃状の赤い輝きを放った。


「お姉ちゃん!」


「うん……!」


「正面は任せろ!」


「【【巨人の業】】!」」

庇った分も含めてクロムのHPが吹き飛ぶも、【デッド・オア・アライブ】により死を免れるとかけておいた自動回復により急速にHPを取り戻す。クロムの取り柄はしぶとさだ、そう簡単に倒れてはやれない。

マイとユイは背中合わせになって迫り来る大剣に向き合う。そのどれもがマイとユイを容易く葬ることが可能な威力を秘めている。それでも、二人は自分達の持つ大槌の威力を信じて、恐れることなくタイミングを合わせ、魔王の攻撃に大槌を叩きつけた。


スキル【巨人の業】による相殺。マイとユイの大槌が内包する破壊力は魔王の大剣すらも上回り、ダメージを無効化した上で攻撃を跳ね返し、大剣を持った巨大な四本の腕を粉砕する。

そうして周りの助けを借りながらあらゆる障害を取り除き、マイとユイは魔王に向けて必殺の一撃を繰り出した。


「「【ウェポンスロー】!」」

空中の魔王へと高速で迫る鉄塊が、防御のためにクロスさせて構えた魔王の真紅の双剣を叩き折り、魔王のHPを大きく削って吹き飛ばす。


「はあっ、はぁ……よしっ!」


「やりましたっ!」

消滅していく複製達を見て十分な量のダメージを与えられたことを確信し、自分達に求められていた役割を果たせたことにマイとユイはほっと一息ついたのだった。


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