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防御特化と魔王7。

魔王が纏っていた暴風を解除すると、背後に展開されていた魔法陣が砕けるように消失し、巨大な異形は完全に液状化すると共に動かなくなった。


「存外やるようだな勇者達よ。異形では力不足か。よかろう」

魔王の足元に広がっている少し前までは異形だった赤い液体。それは重力に逆らい浮かび上がって球状に変形し、中に魔王を取り込んだ。


「メイプル、気をつけて」


「うん。【身捧ぐ慈愛】も使ってるし……!」

魔王の動きを注視しながら、全員が自分の防御札を再確認する。

ここまでの攻略は悪くない流れで進行しており、防御手段はまだ強力なものが残っている。

気をつけていれば即死することはないはずだ。


メイプル達の前で赤い球体からどろりとした大粒の雫が滴り落ちる。

一滴、二滴、次々に零れ落ちる雫が地面に落ちるとそこからずるりと何かが這い出てくる。

それは魔王が最初に放っていた弾丸のようなもの。

先程はその時着弾地点から這い出るものは異形だったが今は違う。

姿を現したのは魔王と瓜二つの存在達。真紅のドレスを身に纏い、血のように赤い双剣を手に持ち、背に翼を伸ばすそれらが放つプレッシャーは、到底大量召喚を許してよいものではないことを伝えていた。


「……!」

サリーは先程までの魔王本体と、一見全く同じように感じられる複製達の異なる点に唯一人気づく。それは手に持った双剣のリーチと厚みの変化。攻撃をミリ単位で避けるために身につけた、偏執的とも言えるほど緻密な攻撃範囲の把握。

サリーの目はほんの僅かな差ではあるもののその違いを捉え、ここまでサリーを支えてきた正確な観測はその一撃の重さを増していると結論づけた。


魔王が中へと沈んだ赤い球体の周りには防御機構であろう障壁が張り巡らされ、展開された四つの魔法陣から巨大な大剣を持った腕が生える。

後半戦、出力を上げてきた魔王がその身に宿す脅威を剥き出しにしてメイプル達を滅さんとしていた。


「あの分身貫通攻撃かもしれません!チェックお願いします!」


「レイ!」

機動力にも優れ不測の事態が発生した際に幅広く対応可能なペインがレイに乗って飛び出す。


「際限なしというわけか……!」

時間こそ多少かかるようだが球体からは次の雫が垂れ下がり始めている。あれが滴り落ちれば次の魔王の複製が現れるだろう。

十を超える魔王の複製にレイに乗ったペインが飛び込む。

魔王の複製はペインの牽制を回避すると、レイに双剣で斬りかかり【身捧ぐ慈愛】がメイプルに攻撃を移し替えた。


「っ……!」


「【治癒の光】!」


「ペインさん戻ってください!」


「ああ!……!そうか、なるほど……!」

一瞬で四割ほど吹き飛んだメイプルのHPをミザリーが即座に回復させ、メイプルを守るとペインはサリーの言う通りに帰還を試みる。


「【溶ける翼】……!」


「【業炎】!」


「【轟雷】!」


「【滅殺の光】!」

追撃を試みた複製達の飛行能力をヒナタが奪ったことで、唯一空を飛べる存在になったペインは距離を取ることに成功する。

それでも追撃をやめない複製にミィ、ベルベット、カナデの攻撃が突き刺さった。

三人から放たれた一旦止まっておけと強く拒絶する強烈な一撃は、複製達の動きをしっかりと止め、ペインの帰還は成し遂げられた。


「【範囲拡大】【氷壁】!」


「【氷柱】!」

ヒナタとサリーがペインの背後を氷で塞ぎ、物理的に複製を押し止める。そうして得た時間でメイプル達は素早く作戦をまとめ上げなければならない。


「ダメージカットをかけて防御を固めたとして……メイプルが受けられるのはよくて四発っすよね。全員で前に出ると危ないっす」


「ああ……【リザレクト】があるとはいえ攻撃が重なってメイプルが落ちると面倒なことになる。」

ミザリーの回復はあくまでダメージを受けた上でHPを元に戻すもの。先にHPが全損すれば回復によるリカバリーは不可能だ。

一度死亡まで行けば【身捧ぐ慈愛】も解除される。それはこの後の戦闘に大きく影響するだろう。


「そもそも本体も削らないといけないので、戦力はそこに割く必要があります」

サリーの言う通り、再度複数の防御の奥に身を隠した魔王を攻撃しなければ話は始まらない。複製は何人倒してもあくまで複製であり、戦いを前に進めるものではない。

さらに状況はさらに悪いとペインが伝える。


「あの複製達は目の前にいるにもかかわらず、積極的には俺を狙っていなかった。恐らく後衛を狙うようになっている」

後衛陣は接近された際の戦闘能力はどうしても低くなってしまう。そこに接近戦が得意な敵が殺到して、倒しきれず全滅というケースはどのギルドにおいてもよくある話である。

襲われている中で前方に回復を飛ばし続けるのは難しい。メイプルはミザリーの隣で足元に敷かれたダメージカットと回復のエリア効果を受けながら、後衛を守っているのが安定択だ。


ただ、今回は敵が貫通攻撃を持っているため、メイプルが倒されないよう、迫る複製を倒すために護衛としてダメージを出せる人間をさらに割く必要もある。

短い時間で結論を出すには盤面は複雑になっており、最適解を導き出さなければ一瞬にして崩壊することもあり得る。そんな中、静かに紡がれた言葉が全員に耳を傾けさせた。


「後ろは変に気にしなくていい。その間に魔王の方をどうにかしてくれれば大丈夫」

そう断言したのはマルクスだった。複製への対応を過剰に考える必要はないと言い切ってみせる姿は、普段の様子からすると少々意外に見えたことだろう。


「さっきも言ったけど、何もしないで待ってた訳じゃない。皆みたく飛び出して戦うのは得意じゃないし、準備に時間もかかるけど……皆が時間をくれたよね。だから、そう簡単にこの城、【一夜城】は落ちない。【炎帝ノ国】は動かずに戦う方が強いよ」

前方で異形と魔王を押し留めている間、もらった時間を活かして【一夜城】は最後方で防御を固め続けた。マルクスのトラップとイズのアイテムが何重もの防御網を形成し、まさに難攻不落の城といった様相を呈している。


「僕らを信じて攻めてきて……籠城は得意だけど本当にずっと続けられる訳じゃないから……」


「はは、最後の最後で弱気になるなって!と、まあうちのマルクスが言うにはそうらしい。どうだ、メイプル?」

シンも長く戦ってきた仲間としてマルクスの提案を支持したうえでメイプルに問う。


「サリー!皆と一緒に攻めてきて!もし何かあっても後ろは大丈夫!守るし守ってもらえるし!」


「オーケー。それで行こう、クロムさん!」


「おう、ちゃんと出番が来るもんだ。魔王も楽させてはくれねえな」


「大盾使い二人が分かれるなら今のうちに……ノーツ!」

メイプルが後方待機となったため、魔王の居場所が【身捧ぐ慈愛】の範囲外となる。フレデリカも下準備を済ませ、やることはやった。

大盾使いは二人いる。今こそその利点を活かす時だ。

先程はメイプルの埒外の防御力で制した。次は積み上げてきた技術と戦略で捌く番だ。

前方の指揮官はサリー、後方は【一夜城】の主であるマルクスとして、メイプル達は二手に分かれて魔王の攻めを打ち破らんと最善を尽くすことに決めたのだった。


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