防御特化と魔王5。
高威力の範囲攻撃は恐ろしいものだ。それだけでパーティーが半壊することも往々にしてある。
しかし、サリーはきっぱりと言い切った。
「そればかり意識していたらまともに戦えないです。だから……メイプル、やろう」
「……!うんっ!」
【楓の木】の強さは唯一無二の防御力にある。それは当然相手の攻撃を受けることを前提としており、真に強みを発揮するためにはそのリスクを避けることはできない。
「私とメイプルで入ります。危険だった場合、糸で即逃げてくるので」
「分かった。俺達は回復を準備しておこう。【不屈の守護者】がある今なら耐えて戻ってこられるはずだ。フレデリカ」
「ミザリー、こちらも変わらず支援する」
「分かったー。任せてー」
「はい。もちろんです」
ダメージを受けたと見るや即回復。
メイプルに素早くダメージカットを重ねがけして、サリーと二人魔王の方へ飛び込ませる。
メイプルによってダメージが無効化されたことを確認できたなら、メイプルの庇護を活かして敵の戦法を完全に破壊した戦闘ができる。
「【身捧ぐ慈愛】!」
メイプルが庇う人数は最小限にしつつ最も連携が取れ、かつ離脱に向いた能力を持つサリーを隣に置いて、守護天使が魔王の前に降り立つ。
魔王が攻撃を一つ放つ度、メイプルがそのダメージを確かめる。それは未だ大部分が未知の存在であり大きな脅威である魔王を、メイプルで封じ込むことができる存在へと落とし込む儀式。
「やるよメイプル。本当に危ない時は【暴虐】も視野で」
「うん!大丈夫!」
魔法陣の上に乗ると魔王は双剣を構え直す。それと同時に足元の魔法陣がゆっくりと光を強めていく。
魔王が翼を広げ二人に向けて飛んでくる。ここからはメイプルの鋼鉄のボディで無理やりに敵の能力を測り、各パーティーメンバーを参戦させるための下地を整える時間だ。
「よーし!どんとこーい!」
メイプルは大盾を構えることを止めて、代わりに魔王の攻撃をその体で受け止めんとばっと手を広げた。
魔王はサリーを上回る速度で迫ると、オーラ迸る剣をメイプルに振り下ろす。
一撃が加えられた直後サリーが割って入り、それ以上の追撃を防ぎ、メイプルの状態を確認する。
「どう?」
「大丈夫!【STR】半減だって!」
「オーケー!」
重いデバフではあるが剣そのものからダメージを受けなかったため、メイプルの【身捧ぐ慈愛】があれば意味を持たない。受けた分だけデバフが重なるとして、それは全て受け持った先のメイプルの性能にほぼ関係のないことだ。
ただ、メイプルが攻撃を受けた瞬間、足元の大きな魔法陣が光を強めたのをサリーは見逃さなかった。
「攻撃を受けてもカウントが進む感じか……!」
ならば魔法陣からの範囲攻撃は尚更避けては通れないものだ。サリーは魔王と再度対面し、今回は使い慣れたダガーを構える。
魔王の攻撃は重く、まともにガードしていては体勢を保っていられない。
サリーは高速で振るわれる双剣をダガーの上を滑らせるように受け流し、回避を織り交ぜて捌き目の前に張り付く。
後方からは変わらず雨の如く魔法が降り注ぐが、それは魔王に直撃する寸前で勢いを失い霧散してしまう。
遠距離攻撃を拒絶、さらに魔法陣上での戦闘を強制した上で、この後の戦闘に大きく影響する【STR】デバフ。
メイプルがいなければオーラ付きの双剣だけでも許容できるかどうか怪しい。
「サリー!ガードでも光が強くなってる!」
「オーケー!」
魔王の剣に触れた時点でエネルギーが溜まると確信したサリーは、そう遠くないその時を待ちながら離脱の準備を整える。
サリーが魔王と剣戟を繰り返すこと数回、赤い輝きは限界まで強まり、メイプル達が感じ取った通り再度火柱のような赤い輝きが上空に向かって伸び、メイプルとサリーを包み込む。
「メイプル!」
「……大丈夫!これっ、効かないよ!」
メイプルからの力強い返答。最強の盾の最強たる所以を示し、メイプルは魔王の攻め手全てを消し去った。
「来てください!」
サリーの呼びかけに前衛として戦っていたプレイヤーのうち一部が飛び出す。
メイプルが魔王を完全に押さえ込んでいる今、全員での総攻撃は必要ない。一方的にHPを削れるのであれば負けはあり得ないからだ。
再度攻撃パターンが変化した際に被害を抑えやすいよう、ここは異様に素早い魔王に攻撃を加えられる人員に絞って戦場に送り込む。
加勢したのはカスミ、ペイン、ドレッド、ベルベットの四名。
「これがボーナスタイムになるのはメイプルだけっすね!」
「攻撃はお願いします!」
「任せてくれ」
「ああ……とっとと次だ」
「行くよカスミ!囲い込んで叩く!」
「回り込む!」
六人が絶対の防御と共に魔王一人に攻め込む。今の魔王に対し、この陣形の勝率は100%。敗北の可能性全てが排除されていることの何と心強いことか。
「【エレキアクセル】!【疾駆】!」
「【八ノ太刀•疾風】!」
ベルベットは全員に移動速度上昇のバフをかけ、さらに自己バフで加速する。次いでカスミがスキルで加速し二人が魔王を挟み込む。
「【剣山】!」
防御は不要。カスミは攻撃されることを前提に一気に距離を詰めその体で魔王の双剣を受けながらスキルを放つ。
「躱すか……!」
【剣山】によって地面から大量の刀が突き出すが、魔王は直撃寸前で背に生えた翼をはためかせ宙へと退避する。
「【電磁跳躍】!」
逃げるなら空中しかない。それが分かっていたベルベットが魔王の逃げ先を読んで電撃と共に跳び上がり魔王の背後を取る。
「【重双撃】!」
稲妻の雨こそ魔王の遠距離攻撃無効によって打ち消されているものの、重い拳の二連撃はそうはいかない。
しかし、魔王も空中でグルンと反転するとベルベットの拳を剣で受け止めて見せた。
「そのまま……落ちるっすよ!」
ただで受け止められると思うなとベルベットは地面に魔王を叩き落とす。
そこに迫るのはサリーとドレッドだ。
「朧【影分身】!」
「シャドウ【影の群れ】!」
逃げ場をなくすためにサリーの分身と影でできた狼が魔王を囲い込む。
魔王は回転しながら剣を振るい周囲を薙ぎ払うものの、メイプルが【身捧ぐ慈愛】によって全ての攻撃を引き受けたことで分身達は無傷のまま魔王に殺到する。
数の暴力でほんの僅かにHPを削る分身と共にサリーとドレッドも斬りかかるが、二人の攻撃は魔王がしっかりと弾き、ダメージの大きい重要な一撃が入らないまま魔王が空へと舞い上がり、距離を取り直そうとする。
「【カバームーブ】!シロップ【城壁】!」
そこに待ったをかけたのはメイプルだ。【カバームーブ】による高速移動を活かし魔王の側にいるサリーの元に近づくと、シロップに高く伸びる岩の壁を生み出させる。
岩の壁は魔王を取り囲み、逃げ先を唯一の出口である上空に限定した。
「レイ【流星】!」
その唯一の出口から光を纏ったレイに乗りペインが突撃する。
逃げ道を塞ぎ、輝く聖剣を構え魔王を撃墜しに行く。
「シロップ【大自然】!」
メイプルは【城壁】に沿って蔓で足場を作る。現状、魔王が遠距離攻撃を無効化するため【機械神】も【古代兵器】も役に立たない。メイプルは防御とサポートに徹し、サリーとドレッドを魔王の元へと送り込んだ。
「【旋風連斬】!」
「【クインタプルスラッシュ】!」
「【壊壁ノ聖剣】!」
三方から囲んでの同時攻撃が遂に魔王に届き、激しいダメージエフェクトが弾ける。受けた分だけ斬り返さんと魔王が双剣を振るい三人を攻撃し、そのまま足元の魔法陣が起動、全員を包み込む赤い光は本来致命的と言える完璧なタイミングでのカウンターだった。
しかしこの攻撃ではメイプルの守りは崩せない。
【城壁】が崩れ蔓が消滅していく中、三人はさらにダメージを重ねて地上に降り立つ。
「ナイスメイプル!」
「ああ。飛行機械が使えない今、自由に飛ばれると面倒だ」
「俺達が倒した魔王も状態異常はまともに入らなかった。見た目こそ変わったが、その部分が弱体化していることはないだろう」
「もう一度引きつけて囲んで削るっすよ!それに……メイプルが完璧に守ってくれるなら今のうちに準備もしておくっす!【雷の通り道】を設置しておけば急接近に使えると思うっす!」
「あとは攻撃パターンの切り替わりに注意しておくだけだ。私が【心眼】を使うつもりで待機する」
「うん!お願い!」
行動パターンが変わるまでは何一つ問題ないため、バフ更新など細かい準備を進めながら戦闘を続ける。
重要なのはこの後の魔王の動きだ。
動きが変わる度メイプルが受けられるものかチェックする必要が出てくる。
対処を間違えてメイプルが倒されるようなことだけは避けなければならない。
次のことを考え、メイプル達は気を引き締め直すのだった。




