防御特化と魔王2。
「【多重炎弾】【多重風刃】!」
「【神罰】!」
「ソウ、【破壊砲】【ハイドロレーザー】!」
「弓が使えないのは不便ですが……【トルネード】!」
「【遠隔設置・炎刃】【遠隔設置・風刃】」
「【アイテム強化】!発射!」
【一夜城】から降り注ぐ後方支援の大火力。
絶え間なく放たれる攻撃は、イズが足元に惜しみなく撒き続ける短時間だが強力なアイテムによる強化と、ミザリーのテイムモンスターであるベルが、周囲に振りまき続けるバフによりその威力を大きく増していた。
魔王の赤い弾丸は絶えず放たれ続け、異形はその跡から湧き続ける。ベルベットとシンも変わらず対処を続けているが、二人を目の前の敵に集中させるためにも、湧き続ける相手の対処は範囲攻撃の得意な後衛陣の仕事だ。
重なるバフは威力を上げるだけでなく、クールタイムを短くさせ、MP回復速度も向上させる。
「やっぱりとってもいい城ね!拠点が決まればアイテムも使いやすいわ」
「僕も余裕を持って戦えるよ。魔王相手に本もまだもう少し温存できそう」
「どうも……でもこれだけじゃ勝てない」
「そーそー!ペイーン!ちゃんと仕事してきてよねー!」
火力を出しながら前方に目を凝らす。その中でもミザリーは攻撃もそこそこにHP状況を確認していた。
「射程増加はこちらでかけられます。回復と……【リザレクト】に注力をお願いします」
執事服を着てバフに特化したウィルバートなら、他者にかけられるバフの幅は広い。
ミザリーの回復魔法は戦線維持の重要な要素。【リザレクト】による蘇生はどうしようもない敗北をひっくり返すための最終奥義だ。
「はい、今回はいつも以上に気を配って……【マルチヒール】!」
回復魔法をかけながら、【リザレクト】の使い所を見極める。そしてできれば使わないように、回復魔法で間に合わせられるように。
用意したプランの一つに【リザレクト】は組み込まれている。
できることなら、そこまで残しておきたい。
そのためには前衛の動きも重要だ。
HPを削り合うパーティーメンバーを見て、ミザリーは回復魔法を行使し続けるのだった。
前衛の面々は互いに不要に干渉し合わないよう、異形を引きつけ距離を取りながら戦闘を継続する。
「マイ、ユイ!いつも通り決めてやれ!」
「「はいっ!」」
クロム、マイ、ユイの三人が引き受けたのは大木すら容易く両断しそうな赤い大鉈をもった五メートルはあろうかという異形だった。
ズシンズシンと音を立てて迫る相手は鈍重であるが故の一撃の重さを感じさせる。
体の大きさに見合うあの大鉈が直撃して無事でいられる未来は想像できない。
しかし、それはこちらも同じこと。マイとユイがその小さな体で振るう大槌には、十分過ぎる暴力が宿っている。
「「【飛撃】!」」
機動力確保のためツキミとユキミに乗っているが故、大槌の数はそれぞれ二本減っているが、それでも十二の衝撃波が大鉈持つ異形に襲いかかる。
それはバァンと大きな音を立て異形の振るった大鉈に直撃し、異形の体力を確かに削る。
しかし、マイとユイの攻撃であることを考えるとその減少量は少ない。
「弾いてダメージカットか……!俺が受けて隙を作る!」
「「はいっ!」」
「ネクロ【幽鎧・堅牢】!【不動】【ガードオーラ】!」
飛び出したクロムに振り下ろされる大鉈を大盾でしっかりと受け止める。
完璧に防いだ一撃。しかしその上で盾を抜けて衝撃がクロムのHPを大きく削る。
「いってぇ!馬鹿力だな……!」
「「クロムさん!」」
「気にすんな!今回は心強い味方もいる!」
減ったHPはクロムが光に包まれると共に全回復する。一撃死しなければミザリーの回復が待っている。
重要なのはマイとユイに攻撃を届かせないこと。
元々削られたHPを回復させて戦うスタイルであることも相まってクロムはそうは死なない。
続く一撃を自前の自動回復も込みで確実に受け止める。マイとユイはそんなクロムを信じて攻撃に転じた。
「「【決戦仕様】!」」
二人の大槌が当たり判定を大きく広げて一気に迫る。クロムに振り下ろした分、攻撃を弾くための防御の構えに間に合わず、その体に【救いの手】の持つ大槌が叩き込まれる。
「効いてる、けどっ!」
「足りない……!」
召喚された配下であるとは思えない性能。マイとユイの十二の大槌を受けてなお減ったHPは三割程。
可能ならこの一撃で落としてしまう気でいた二人だがそうはいかなかった。
そして異形からの反撃が来る。背中がボコボコと隆起し武器を持った新たな腕が生え、複数の大鉈が三人に迫る。
「……!」
あの大鉈は盾で防いだとしてもダメージが入る。【マルチカバー】で全ての攻撃を受け持ちマイとユイを守る以上、盾で防いでいない直撃時のダメージ次第で、回復のタイミングが合わなければ即HP0もありうる。
【リザレクト】があるためそのまま死ぬことはない。安全策はダメージ無効、【デッド・オア・アライブ】失敗から【不屈の守護者】の発動までなら許容できるか。
クロムは瞬時に思考を巡らせ、より確実で攻防一体の一手を選んだ。
「メイプル!」
「【カバームーブ】!」
クロムの呼び声に応えてメイプルが飛んでくる。マイとユイを守るように【楓の木】の二枚の盾が並び立った。
「【活性化】!」
クロムが腕の何本かを受け止めて耐え抜く中、メイプルは空中機動により、武器を持つ腕を横から盾で殴りつけ、【悪食】により腕そのものを消し飛ばし攻撃を無力化する。
そう、メイプルは飛んできた。
それは文字通り、『飛んで』きたのだ。
飛行機械が使えなくなった状態で、メイプルに細かな空中機動を可能にさせているのはヒナタだった。
【重力制御】によりメイプルの移動を司るヒナタは中央で戦況を確認し、必要な場所にメイプルを寄せて【カバームーブ】の射程圏内に送り込む。
広がった戦場で【身捧ぐ慈愛】を温存したまま全ての小数戦にメイプルの防御力を活かす。この戦略において、メイプルとヒナタの二人はパーティーの心臓だ。
「「【ダブルスタンプ】!」」
攻撃が不発に終わったところにマイとユイの反撃が突き刺さり、異形が大きくよろめいた。
「助かった!」
「任せてください!」
メイプルが見えない糸に引かれるようにぐんと加速し空中に飛んでいく。
どこにでも介入しやすい中央のベストポジションへ、【カバームーブ】では近づくことはできても離れることはできない。しかし、ヒナタがいる今回ならば、メイプルを何度でも自在に引き戻しては送り込める。
「上手くいったね!」
「任せてください。このくらいの移動はベルベットさんで慣れていますから……!」
混沌とした戦場を制御しきるため、防御の要である二人は目の前の激戦を注視するのだった。




