防御特化と協力関係。
ダンジョンを潰し、また潰し、メイプル達はマイとユイを活かした高速攻略を続け、キリのいい所で一旦終わりとした五人は次回『魔王の魔力』入手まで辿り着くことにして解散となった。
そして別日、【集う聖剣】の面々との情報共有の日であるため、今日は六層エリアから離れてメイプルとサリーの二人で【集う聖剣】のギルドホームへ向かっているところである。
「六層エリアは順調?」
「うん!多分次か、その次でクリアできると思う!」
すぐ側にいるものの何も見ていないサリーにメイプルは六層エリアでの出来事を話す。映像がないことと、メイプルがほんのりぼかして話すことでサリーも問題なく概要を掴むことができた。
「マイとユイがいれば何とかなりそうだね。ま、まあメイプルが守る二人がどうにかできない敵にはそもそも出会いたくないけど……」
極振り三人組は対モンスター戦において異常なまでの強さを誇る。その三人は戦闘において中心となっているため、そこが通用しないとなると【楓の木】としても攻略は難しくなる。
ただ、隠しエリアならばまだしも、そんなモンスターは六層エリアの攻略中はいないというのがクロムの言であるため、心配することなく攻略を進めているのだ。
そうして話をして歩いていると【集う聖剣】のギルドホーム前まで辿り着いた。
「やっほー。どう?攻略は順調そー?」
「うん!結構いい感じ!」
「そっかそっか。でも私達も負けてないと思うよー」
入口でひらひらと手を振り出迎えたフレデリカは二人を連れてギルドホームへと入っていく。
「ペインさん達は?」
「そろそろ来るって話だったから外で待ってたけど、ちょうど攻略に進展があってそれの話をしてたかなー。って言ってもまだまだ分からないことばっかりだしー、そんなに長い話にはなってないはず」
フレデリカは一つの扉の前で立ち止まると、二人を部屋の中へと招き入れる。
そこではペイン、ドレッド、ドラグの三人がメイプル達を待っていた。
「魔王の話は終わったー?」
「ああ。一度パーティーを組む」
「もう挑戦権を得た訳ですか」
「察しがいいな、その通りだ」
トップオブトップの大規模ギルド【集う聖剣】は十層の最終目標である魔王にまで辿り着いた。となると後は勝つだけだが『魔王の魔力』は消耗品、挑戦と引き換えに失われるため挑戦するにも手間がかかる。
「高難度であるのは間違いないみてーだ」
「その証拠にクエスト同時参加可能パーティー数も三ってことになってたぜ」
「三パーティーってことは……」
「二十四人だね」
パーティーは一つあたり八人。イベントでの協力はあれど、これまでのダンジョンでは明確に三パーティーという規模を指定された攻略はなかった。
「適正なパーティー構成を掴むまで数回挑戦する必要があるだろう」
大盾使い等タンクの人数、後衛から火力を担当する魔法使いの人数。まずは前提となるパーティー構成を組み上げ、その上で魔王の行動パターンを把握し撃破までのプランを立てる必要がある。
「【楓の木】にも情報は共有することができるが……『魔王の魔力』については複数集めておくことを勧める」
「【楓の木】だけで挑戦するなら尚更ねー。メイプル達だしー?無理とは言い切れないけどさー、今回に限っては適正人数じゃないでしょ?」
「うーん……『魔王の魔力』……集められるかなあ」
「【集う聖剣】程の数はどうやっても無理だと思う。ボスだけでいいって言っても四層エリアとかは人を集めないとだし」
【楓の木】はフルメンバーでも八人。適正人数を大きく下回るなら、普通にやって勝てるように作られていなくてもおかしくはない。
メイプル達ならもしかするとというフレデリカの言葉は、【楓の木】を高く評価していることを示しているが、やはりそれでも難しいだろうとも感じているのだ。
「というか……『魔王の魔力』を全部集め終わって、魔王まで辿り着いたならもうこちらから共有できる情報はないのでは?」
「サリーの言うことももっともだ。事実、それが隠しエリアでなければ【楓の木】しか知らないことは概ねないと言えるだろう」
定期的な情報共有のため今日も集まった訳だが、【集う聖剣】の進捗的にも今回でこの集まりは終わりになっても不思議ではない。
「だからこそ、俺達から【楓の木】になら情報共有はできる。勿論協力もだ」
「必要なことがあれば聞けばいい……手伝いもする。あんまり面倒なのはごめんだけどな」
「ありがたいことですけど……【集う聖剣】側のメリットがないですよね」
「そう思うー?まあ思うかー」
「当然、何も考えていない訳じゃないぜ?な、ペイン」
「ああ。思惑を話しておくよ。その上で申し出を受けるかどうかは二人が決めればいい」
あくまで決定権は二人にあるとした上で、ペインは自分の考え、すなわち【集う聖剣】のギルドマスターとしてのギルドのスタンスを伝える。
「【楓の木】は対人戦において要注目のギルドの一つだ。前回の大規模対人戦でも同盟を組んでいたことは大きな意味があった」
【楓の木】の活躍は要所要所で戦況を大きく変えた。いるいないではイベントの勝敗も変わっていたかもしれない。
「つまり貸しを作っておきたい。と、そこまでいかなくとも良好な関係を続けたいという訳だ。またいつか同盟を組んでもいいと思ってもらえるようにな」
メイプルはすぐいつでもと返事をするが、結論は焦らなくていいと一旦保留される。
「繰り返すが、俺達は情報を提供し協力する。必要ならそれを享受してもらえればいい」
「ありがたいですが、こちらに有利すぎるような気も……」
「それくらいの方が話も受けやすいだろう?それにあくまで同盟はできればよりいいというだけだ。【楓の木】がいなくとも……俺達は対人戦で勝ってみせる」
そう言い切ったペインからは確かな自信とトップを走るギルド【集う聖剣】のギルドマスターとしての矜持が感じられた。
「俺達も強くなってるんだ……【楓の木】が知らねースキルもある」
「そういうことだ。あんま考えずに助けを求めりゃいいぜ」
「ふふーん。その上で借りを返してくれるならー、また一緒にやろー」
またいつか返す気になったのなら。【集う聖剣】の方からここまでいい条件を提示されてそれを飲まないメイプル達ではない。
ライバルであり協力者。二人がゲームを離れるとしても、【楓の木】の立場としてこのスタンスは可能な限り続けていこうと思う二人なのだった。
【集う聖剣】からいくつか情報を受け取った二人は、ギルドホームを出て【楓の木】のギルドホームまで一度戻ってきた。
「色々教えてもらえたね!」
「うん、ただ……三パーティーで攻略か……」
「やっぱり皆と協力しても難しいかな?」
「【集う聖剣】が挑戦してみてどうなるか次第でもあるかな。マイとユイがいれば総合的な火力不足ってことはないはずだし、メイプルがいれば大盾使い不足ってこともない」
「ほんと!?」
「うん。ただ……実際、不安要素の方が多い」
サリーは冷静に【楓の木】の戦力を計算して、対応可能な事象と対応不可能な事象を並べていく。
「メイプルの防御力は私達の戦い方の核になってる。だけど、未知の敵の攻撃がメイプルの防御を突破するかは受けてみないと分からない。雑魚ならともかく、ボスはダメージも高いだろうし、防御貫通攻撃がどれか絞れないのは、やっぱりリスクが大きい」
「それはそうかも」
「後はそもそも無敵スキルを使わないと耐えられない攻撃があったりしたらいきなり全滅しちゃうし」
「うーん……魔王はすっごい強いんだもんね」
「少なくともそこにいくためのボスよりは強いだろうね。ほら四層エリアの鎧武者より強いはずって考えると嫌な感じじゃない?」
四層エリアのラスボスは全員で作戦を練った上で、完璧に遂行してようやく綺麗に倒し切れたボスだ。あくまで予想でしかないものの、あれを上回る相手を情報無しで倒すとなるとより難しい戦いになるのは間違いない。
「まあ、何にしてもまずは『魔王の魔力』を揃えるところからだね。挑戦権を手に入れられないんじゃその先のことを考えても意味がないし」
「それもそっか」
挑戦する頃には【集う聖剣】も新たな情報を手に入れていることだろう。それを利用するのも悪くない手だ。
「でも……一つ約束するよ。私はメイプルを勝たせてみせる」
「……?」
「最後に魔王なんかに負けて欲しくないからね。ふふふ、どっちが真の魔王なのか分からせてあげようよ!」
「うんっ!頑張る!」
「私が全力を尽くすから大船に乗った気でいて」
「もちろん!頼りにしてる!」
サリーはずっと信頼してきた最強のプレイヤーだ。メイプルがその言葉を疑うことはない。
サリーが勝たせると言ったのならそうなのだ。魔王戦への不安を感じるよりも、サリーを筆頭に仲間を信じる方がいい。
「じゃあ六層エリアも急いで攻略しないと!」
「そ、そこはメイプルに任せるけど……」
「もー、そこは私も頑張るぞって言ってみてよー」
「駄目なものは駄目なんだって……」
「すっごく頼りになる感じだったから今ならいけると思ったんだけどなあ」
「口の中から応援してる」
「はーい。あ、動画撮ってるから見れそうなところは見てみてよ!マイがすっごくかっこよくボスを倒したりしたんだから」
「み……んー、みー……み、見るかぁ。全部攻略が終わったら、ね」
「やったぁ!約束だよ!」
「せっかく残してくれたんだし、それにできるだけメイプルと同じものを楽しみたいから」
「うんうん!」
最後まで迷ってはいたサリーではあるが、メイプル達の撮った六層エリアの映像もちゃんと見ることにして、二人はまた攻略の日々へと戻っていくのだった。




