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防御特化と雲上の城。

また別日、二人は上りに上った五層エリアの雲の迷宮の中、最後の町までやってきていた。

勿論意図して先の情報にあまり触れないようにしている二人にとって、絶対そうだと言い切れる第三者の情報は少ない。

ただ、町の中にいるNPCの言葉を信じるのであれば、この先には雲の迷宮の王がおり、最近はその王の影響によるものだろうモンスターの凶暴化が起こっているとのことだ。  

その王の変化が『魔王の魔力』に由来するであろうことは、ここまで冒険を続けてきた二人には想像がつく話である。


「準備はいい?」


「おっけー!いつでも大丈夫!」


「うん、いい返事。勝つよ」


「もっちろん!」

アイテム、スキル、装備。全ての準備を整えて二人は五層エリア最後のダンジョンに足を踏み入れた。

雲の壁を掻き分けて、上り坂になった狭い通路を進んだ先、パッと差し込んできた光に二人は目を細める。


「わぁ……」


「なるほど」

二人の目に飛び込んできたのは晴天。青く澄み渡る空は見渡す限り広がり、これまで攻略してきた迷宮にあった雲の壁は取り去られ、ここがこの巨大な雲を突き抜けた最上部であることは疑いようもない。


「えっと、行かないといけないのってあそこかな?」


「そうだろうね。綺麗に道まで用意されてるし」

雲の床をもう少しだけへこませた真っ直ぐな道が続く先、それは見上げるほど大きい白一色の城だった。


「九層の拠点の王城にも負けないかも」


「探索しがいがあるね!」


「ん、五層エリアの締めくくりといこう!」


「おー!」

二人が歩を進めていくと、遠くに見えた城がその大きさをより主張してくる。手前に立ちはだかる高い純白の城壁は【跳躍】程度では到底飛び越えられない高さで堅牢な守りを感じさせる。そんな二人の接近に反応したのか城壁上と城壁の門の前で動きが見られた。


「……?」


「ちょっと様子見てみるよ」

サリーはイズ特製の双眼鏡を使って動きのあった二箇所の様子を確認する。

門から飛び出してきたのは雲の馬に乗った雲の兵士達。城壁上で接近を待ち構えるのは白い大砲をこちらに向ける砲手だった。


「もう少し近づいたら、攻撃してくるだろうね」


「あの門を突破するしかないのかな?」


「それがメインルートだと思う。飛行機械もあるから城門を飛び越えることも想定してはいるだろうけど……」

全員が飛行手段を持っている現状、そう易々と飛び越えさせては貰えないと考えるのは妥当な話だ。サリーは見る場所を変え、城そのものの観察を続ける。


「窓は格子で塞がれてる。城壁の向こうに入り口があるっぽいね」

ショートカットして最上階に飛び込むようなルートは用意されていない。ここは素直に正面の門を突破するのが正着。

ただ。思うところがあるサリーがチラとメイプルの方を見ると、何かありそうな表情でサリーの方を見るメイプルと目が合った。


「ねえねえサリー」


「同じこと考えてそう」


「ほんと!?」


「うん、多分。言ってみてよ」


「うんっ!」

そうしてメイプルの言葉を一通り聞いたサリーは満足気に頷いた。


「いいね。やろう」


「じゃあ【身捧ぐ慈愛】!【全武装展開】!」


「乗るよ!」


「しっかり掴まっててね!……いくよー!」

メイプルは角度を調整して狙いを定める。サリーを乗せてすることは勿論敵への攻撃などではない。


「【攻撃開始】!」

轟音。爆炎を上げて空へと舞い上がったメイプルは、門の前で構えていた騎兵を当然無視し、弓兵の射程の外から城壁上空へと飛んでいく。

それに対して城壁上の大砲がぐるりと向きを変えてメイプルに狙いを定め、砲身と同じ純白の砲弾が数えきれない数襲いかかってくる。


本来ならそれが必要以上のリスクでも、メイプルとサリーなら十分現実的な作戦となる。

メイプルはそれを証明するように次なる爆破で角度を変え、城壁裏に飛び込む形で砲弾の雨に自ら突っ込んでいく。


「【ヘビーボディ】【ピアースガード】!」

ノックバックを無効化し、貫通攻撃を無効化し、止まることのない砲弾と化したメイプルはそのまま城壁を飛び越えて城の入り口手前の兵士が待機する広場に着弾する。


急速に接近してきた敵に対し、雲の兵士達は素早く対応にかかる。

【ヘビーボディ】で動けないその姿は恰好の的。そうであるはずだ。

ああ、その体の中にいくつもの化物を飼っていなかったのなら、そうであるはずだ。


「【毒性分裂体】【捕食者】【百鬼夜行】!」

地面に倒れ伏したまま動けないメイプルの周りから、兵士に数で劣ろうと質で負けない化物達が姿を現す。

そして、その化物を遥かに凌駕する本当の怪物。親友にして相棒。メイプルにとって最強の盾が武器を抜いた。


「寝てる間に片付けちゃうよ」


「おねがーい!」


「【水竜】【ウェーブライド】!」

迫る敵を水で押し流し、召喚された化物と共に首を落としていくその姿に、安心した様子で【ヘビーボディ】の効果切れを待つメイプルなのだった。





迎撃のために集まっていた兵士を薙ぎ倒して、静寂を取り戻した城の前で、増援が来ないことを確認して武器をしまう。


「皆ありがとー!」

メイプルは呼び出していた仲間を一旦退散さて、発動していたスキルも全て解除する。

この先がどうなっているか分からないため、全ての被弾を勝手に代替する【身捧ぐ慈愛】は、未発動の状態で保持しておく方が安心だ。

無理に急ぐ必要もないとクールタイムの解消を待って、態勢を整えた所で改めて城の方を見る。


「さて、何度目かの城落としだね」


「頑張ろー!」


「うん。締めのダンジョンも目指すは一発クリアで」

二人を迎えるように開いている城内への扉を潜って中へと侵入する。

内部もまた雪が降った後のように眩い程の純白が支配していた。

大きな通路を起点とし、扉で分かたれた脇道がいくつか。一本道でない通路はそのどれかがボスへつながる正解のルートとなっているのだろうと推測できる。


「どこから行こう……?」


「うーん……一旦この太い道がどうなってるか確かめてから脇道を見るのはどう?」


「いいかも!そうしよっか!」


「隠しアイテムなんかもあるかもしれないし、気になるなら結局全部見ることにはなるけど、その探索先がどれくらいあるかはまず確認しておきたいよね。それに上に向かう階段と下に向かう階段じゃ優先順位は変わってくるでしょ?」


「ボスは……上かな?」


「中央の尖塔がかなり目立って高く伸びてたし、そこが怪しいと思ってはいる」


「分かった!上だね!」


「あくまで予想だけどさ。あー、でも上に向かう時は下のフロアを見てからの方がいいかも。変なギミックとかあっても嫌だし。何せ今回は手探りだからね」

四層エリアのボス戦とは違って、今回は詳しい情報を仕入れてきていない。というのも先に攻略した【炎帝ノ国】から、情報無しでも二人なら戦えると言われており、それならば知らないが故に感じられる驚きを楽しもうと思ったからだった。


「モンスターはいないみたいだし……どこから行くか決めにいこうよ!」


「うん、そうだね」

二人は通路を歩いていく。城そのものは柔らかな雲でできているわけではないようで、広く静かな空間にコツコツという音が響く。

入り口から離れて少し、静寂を打ち破ったのはヴゥンという起動音と足元に展開された巨大な魔法陣。


「……!」


「【カバー】!」

思考というより反射。最速で口から飛び出たスキルは瞬時にサリーの身を守る。

魔法陣から溢れる光が柱のようになって視界を覆い尽くしたのはその直後のことだった。

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