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防御特化と五層エリア2。

進むにつれトラップの役割を持つ水塊以外に、迷宮に入ってすぐの頃にも出てきた雲の兵士を中心として、雨に紛れて水魔法での攻撃を仕掛けてくる魔導師が現れる。

ただ、あくまでそれは陣形を作るための最低限のもの。厄介な要素である槍の様な雨は『雨避けの兜』によって無力化できているため、敵の密度もそれほどでなく既に手の内も分かっている道中の戦闘は、二人にとって苦になるものではなかった。


そうして幾度かの敵の群れを突破した二人の目の前に広い空間が姿を現す。そこが雲の迷宮におけるボス部屋であることは明らかだ。

部屋の中にはモンスターの姿はないものの、道中同様雨が降り続いており、『雨避けの兜』が必須なのは見て取れる。


「これ以上外から分かることは特にないか……メイプル、準備はいい?」


「うん!いつでも大丈夫!」

メイプルは改めて装備とスキルのクールタイムを確認し、すぐにでも戦えるという意思表示をする。


「よし、じゃあ行こう」


「うん」

二人が広間に飛び込むと中央に雨雲が発生し、その上に乗るようにして大きな青の水瓶を持った女が現れた。

装備なしではそこにいることすら困難にするこの雨を司るもの。

戦闘開始を告げるようにボスが手に持つ水瓶から大量の水の塊が飛び出して辺りに漂う。


「【身捧ぐ慈愛】!」

道中で動作を確認したあの浮かぶ水塊は刺激を与えることで爆発し、連鎖することも分かっている。

【不屈の守護者】を含めたいくつかの緊急避難用スキルで耐えられるメイプルが最終防衛ラインとなり、その上でのびのびとやれるようになったサリーに攻撃を弾かせる。もし万が一サリーがミスをしても立て直せる、二人ならではの互いに守り合う立ち回りだ。


「攻撃は頼んだよ!」


「うん!」

水塊との距離を保って戦えば連鎖爆発による大量の棘の着弾までの時間を稼げる。敵が雲に乗って浮かんでいることもあり、サリーが飛び込むよりメイプルの【古代兵器】を利用する方が合理的なのだ。

胸につけたドリルでエネルギーを貯め続けるメイプルは頭上に【古代兵器】を展開する。モードはガトリング、狙うのはボスただ一人だ。


「【古代兵器】!」

放たれた青い光弾はボスに向かって真っ直ぐに飛び、途中で水塊をも撃ち抜く。

板状の塊は触れることで移動を阻害する水の膜を生成するが、十分な距離を保てているため、二人は膜の発生範囲の外だ。


問題は棘と棒の二形態。それらはメイプルの攻撃に反応して攻撃を返してくる。

弾けて全方位に飛散した水の棘が次々に水塊に直撃し、メイプルが撃ち抜いた以上に被害を拡大させる。


「こっちは任せて」

自分達の方に飛んでくる水の棘のうち、直撃するコースのものを【氷柱】と【水操術】を使って防ぎつつ、サリーが意識しているのはもう一つのトラップの方だ。


「メイプルこっち!」


「【カバームーブ】!」

サリーの呼びかけに合わせ、メイプルは高速移動でその場を離脱。天井に向かって噴き上がる太い水柱が発生したのはその直後のことだった。


「ありがとー!」


「魔法陣でも出てくれればいいんだけどね。ま、見逃さないから安心して」


「うん!」

棒状の水塊は固定ダメージと上空へのノックバック効果を持つ激流を足元に発生させる。メイプルにも有効、しかし発生直前まで予兆がない。故に真に問題なのはこのトラップだ。

降りしきる雨と飛んでくる攻撃で視界も悪い中、サリーが棒状の水塊がいくつどのタイミングで壊れたかを正確に把握し、適切なタイミングでメイプルに呼びかけることで、二人はこれの回避を確実なものとした。


「さ、ボスも攻撃してくるよ」


「おっけー!」

ここまでは小手調べ。ボスが水瓶から壊れた分の水塊を補充するとともに、周りに青い魔法陣を五つ展開したのを見て、二人は気を引き締め直した。



水による攻撃はこれまでに何度も見てきた。激流なのか泡なのか、真っ直ぐに飛ぶのかしなるのか、メイプルでもいくつかの挙動が予測できていた。

今回放たれたのは地面と魔法陣を繋ぐ高圧の細い水のレーザー。雲の地面を抉りながら薙ぎ払われる五本のレーザーはメイプルの移動速度では避けきれない。


「ついてきて!」


「【カバームーブ】!」

メイプルの性能を引き出すために弱点を補えるプレイングは特に突き詰めてきたサリーは、気を配るべき先が更に増えたとてそれにも素早く適応する。


「【滲み出る混沌】!」

【カバームーブ】を連打してレーザーの隙間を掻い潜りつつ、メイプルはボスに攻撃を当てることだけに集中していた。

【カバームーブ】と宣言し続ければ、全幅の信頼をおくサリーが安全と判断した位置に勝手に体が移動する。


サリーの判断を欠片も疑わないのであればボスだけを見ていればそれでいいのだ。

そもそもそうしてボスに集中していなければ、【カバームーブ】によって勝手に動き続けることで変化するボスとの位置関係に振り回されて、まともに射撃を当てられないだろう。

本来なすべき様々な判断を任せることで、足りない技量とステータスを補って、メイプルもこの高速戦闘についていくことができていた。


「いい具合に削れてる!その調子で!」


「まっかせて!」

専用の対策装備『雨避けの兜』と二人の完璧な対応で、ボスの攻撃は想定通りの成果を上げられないままHPは半分を割る。


「っと……!」

HPの減少に合わせて攻撃が激しくなるのはいつものこと。HPバーが半分を割るタイミングで警戒を強めていたサリーはすぐにボスの変化を察知した。

水瓶から飛び出して浮かぶだけだった水塊。遠距離攻撃であれば被害を軽微に抑えられるはずだったそれが二人に向かって流れてくる。


「メイプル、ちょっと離れるよ!」


「分かった!」

メイプルの武器の射程はほんの数センチの誤差すらなく完璧にサリーの頭に入っている。ボスに最大射程で届く距離まで離れることで、水塊のトラップの着弾をより遅らせて処理できるだけの時間を作るつもりなのだ。


「【毒竜】!」


「【水竜】!」

メイプルが放った広範囲の毒攻撃が迫り来る水塊を砕きながらボスに襲いかかる。それによって発動したトラップはサリーが水で巻き込み押し流す。


「うん、私の出力も結構上がってきたな」


「このまま押し切っちゃおう!」


「そうしよう」

【カバームーブ】を連打している都合上、メイプルの受けるダメージは膨れ上がっている。貫通攻撃を受ければ一発で倒されるだけのダメージが入ることは間違いない。

気は抜けないが、負けるつもりもない。やり切れるという自信があるが故に二人はこの作戦をとっているのだから。


「【古代兵器】!」


「【古代兵器】【虚実反転】!」

メイプルの武器をコピーしてサリーも同時に仕掛ける。

激しい攻撃を捌きながらボスのHPを削り取っていく二人の表情には一切油断は見られないのだった。




猛攻をものともせず逆に攻め立てた二人の攻撃によって、ボスの体は爆発四散し光となって消えていく。

それと同時に降り注いでいた槍のような雨も収まり、ばら撒かれ続けていた水の塊も消滅し、二人はこの戦いの終わりを実感してほっと一息ついた。


「サリーありがとう、大変だった?」


「これくらい軽い軽い。そっちこそ、大丈夫だった?今までにないくらい激しい動きだったけど」


「これくらい軽い軽い!」


「ふふ、ならよし。町に行こっか」


「おー!」

二人はボス部屋を後にして、ただひたすらに『魔王の魔力』を目指して歩みを進めるのだった。

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