防御特化と燃える町2。
中ボスを倒した後、再度始まった侍の強襲と弓兵の狙撃、降り注ぐ火矢の雨の三種コンボは強度を増して再開された。
放たれる矢は当然のように謎の技術で二連射とり、侍の数は増えた上に【STR】【AGI】が増加。火矢もダメージが上がっている。
それでも、メイプル達は負けなかった。そもそも知った上でここへと来ているのだから、こんなものに負けるわけがないといえば、それも当たり前のことではあるのだが。
マイとユイの圧倒的攻撃力とメイプルの圧倒的防御力を中心に据えて、他のプレイヤー達の多くが駆け抜けることを選択する道中を真正面からすり潰して乗り越えていく。出力の暴力は苛烈な四層エリアボスダンジョンでもなお健在だった。
そうして、メイプル達はついに辿り着く。目の前には炎上する塔が高く聳え、辺りには砂利の敷き詰められた広い空間が用意されている。それは間違いなくボス戦のためのスペースだった。目印としてきた塔の上には一人の高身長の男が立っているのが分かる。
男は全身に炎を纏ったまま跳躍すると八人の前に降り立った。
鎧や兜を身に付けているとは思えない身軽さで歩いてきた男は、両の手のひらからそれぞれ赤と青の炎を迸らせる。それはメイプル達を襲うことなく一定の長さで止まると、そのまま赤と青の炎を纏った太刀となった。
「我が炎は今日を待ち侘びた……邪魔をするならば死んでもらおう」
ザッと音を立てて、武者が一歩前へと踏み出すと同時、背後の塔が崩れ落ち炎混じりの砂煙が吹き付ける。
それが開戦の合図となった。
砂煙に紛れて強く踏み込んで、勢いよく距離を詰めてきたところに合わせたのは今回はクロムではない。
「【竜炎槍】!」
ダガーの替わりにリーチに優れた二槍流を選択し、炎の槍を両手に持ってサリーが飛び出す。
【超加速】でも使っているかの様な速度の武者とサリーが衝突し、砂煙の中ぶつかり合った槍と太刀の炎が爆ぜる。目で追うのがやっとの武者の攻撃をサリーは的確に捌くが、武者もまたサリーのカウンターは通さない。
道中の侍ですら持っていた通り、当然ボスも貫通攻撃がデフォルトだ。速度で劣り一方的に攻撃を受けるしかないクロムでは相性が悪い。
【楓の木】には第三の盾がいる。それも、今日に至るまでその強度を上げ続けた盾が。
「…………」
敵は確かに速く強いが、集中したサリーはこの剣戟を完璧に成立させる。
息の詰まるようなやり取りの中、サリーが待つのは敵の大振りな一撃だ。
一定感覚で来る二本の太刀を合わせる様にして振るう、直線上に固定ダメージを与える炎上領域を生成しながらの範囲高火力攻撃。
大技であるが故にそれは唯一の隙にもなっている。このタイミングでなければまともにダメージが通らないのだ。
サリーは武者の動きをじっと見つめ、大技の予備動作を素早く察知すると声を張り上げた。
「マイ!」
呼びかけに合わせて、メイプル達は飛行機械を使って素早く移動する。
事前に作戦を立てていたからこそ、サリーの意図を全員が正確に把握でき、斜め前に移動することで踏み込みながらボスの放った炎の波を完璧なタイミングで回避した。
踏み込んだことで距離も詰まる。
マイが攻撃のため飛び込んでくると分かっているサリーは、武者の注意を引いたまま、スライディングで振り下ろされる太刀の下を抜けて背後へ回り、マイに背を向けさせる。
最も攻撃時間が短く隙が少ないのはマイとユイになる。通常攻撃ただ一振りで他の人間のスキル使用を上回れるからだ。故にほんの一瞬背中を向かせただけで、十分な時間になるのである。
「やあっ!」
ダメージを出しすぎないよう、中ボス戦同様イズからデバフをもらって、装備を外し【パワーシェア】で威力を落とす。
人型故狙い所が小さく、マイとユイの同時攻撃は難しいものの、重い一撃は確かに武者のHPを削り取った。
ただ、ダメージを与えるということは一時的に攻撃がマイに向くということでもある。クロムですら捌ききるのは難しいと作戦を立てたのだから、マイに対処できるはずはない。
「【カバー】!」
「ここは任せろ!」
クロムとカスミが二人で武者の前に立ちはだかる。それぞれが刀一本に絞って防御すれば、飛行機械を使える十層であるなら、マイが安全に引くための時間は稼げる。
「引き受けます!」
サリーが武者に追いついて、マイがしたように背中に連撃を加える。クロム、カスミは攻撃せず防御にとどめておき、残りの面々もメイプルの庇護下で、戦況を自分達のコントロール下に置き続けられるようじっと待っていれば、サリーの元にボスのヘイトは向いていく。
下手に全員で攻撃して急いで切り抜けようとするのではなく、サリーに序盤のゲームメイクを託したのだ。
「もっとやろう。こっち向きなよ」
剣戟の最中、回避によって溜まった【剣ノ舞】のスタックがダメージを限界まで引き上げて、武者へのダメージを引き上げる。
限界まで弱体化をかけたマイと、限界まで強化されたサリーなら、手数の分も考慮すればいい勝負ができる。
「来るぞ!クロム!」
「【マルチカバー】!」
「【大規模魔法障壁】!」
「フェイ【アイテム強化】!」
サリーにダメージを与えさせるためには大技を撃たせて隙を生ませなければならない。
クロムが前に立ちメイプルの【身捧ぐ慈愛】の上からさらにダメージ適用先を自分に移す。
カナデの障壁、イズのダメージカットアイテム、メイプルの【救済の残光】のダメージカットをその上にさらに乗せてクロムは攻撃を受け止める。
地面に広がる炎上エリアからは素早く避難することでダメージも最小限に抑える。フェイに強化させたアイテムで回復の霧を発生させて炎上エリア上で減ってしまったHPも素早く元に戻して立て直す。
そしてサリーは自分の役割を全うする。
「【水纏】【トリプルスラッシュ】!」
叩き込まれた連撃。そのダメージは武者の連撃をなんとか防いでいるカスミとクロムから、バトンを受け取るのに十分な量だった。
燃える太刀で最後にクロムを薙いで武者が振り返る。そこにいるのは燃える槍を持った修羅だ。互いにまともに敵にダメージを与えさせない絶技の持ち主。どこよりも激しく、されど一切のダメージエフェクトの発生しない斬り合いが再度始まるのだった。
二人の怪物が美しいとも思えるほどの完璧な弾きでもって剣戟を繰り広げること数回。
サリーが対処している間は、残る全員で大技を受けようとしている時より安全という、ステータスと人数からは考えづらい戦況。
マイの最後の一撃とともに武者のHPが一定値以下になったことを確認し、サリーは求められていたゲームメイクを完遂したと七人の元へ戻っていく。
マイの一撃を受けた直後飛び上がった武者は、地面に向かって生み出した火球を投げつけ、エリア全体に視界を覆い尽くすような炎を巻き起こす。本来なら無敵スキルで対処するか上空へ避難するかなのだが、ここはメイプルの【身捧ぐ慈愛】が効力を発揮し、その場で立っているだけでも問題ない。
ただ、せっかくの貴重な時間を無駄遣いはしない。この間にメイプル達は一部装備と陣形を見直して次の攻撃に備える。
「ここからは頼んだよ」
「うん!」
サリーの最も重要な役割はここまでのボスとの一対一だ。行動パターンが変わったタイミングで、役割は間を埋める潤滑油程度のものになる。ここからは武者が攻撃を弾く頻度が緩和される替わりに、連打される大技をスキルで返すフェーズに入っていく。そうなると一対一特化のサリーにできることは少なくなってしまうのだ。
地面を焦がす業火が収まった時、武者は炎を纏った状態で空に浮かんでいた。武者が太刀を構えると、両側にそれぞれ赤と青の炎でできた巨大な刀が顕現する。
先程まで二刀で行われていた、地面を燃やしながら固定ダメージを与える大技は、この刀によって勝手に行われる。複数人で巻き込まれればメイプルのHPもごっそりなくなってしまうだろう。
「乗って!」
「「はいっ!」」
イズが元のサイズに戻した飛行機械。装甲車のようなそれの上には、【救いの手】に一本、自分の手に一本の大槌を持ったマイとユイ、ツキミとユキミは中に乗せて空中へと急発進する。
二人のステータスであれば振り落とされないようにすることなど容易だ。
ツキミとユキミには飛行機械がない。こうしなければ必要なタイミングで【パワーシェア】の範囲内に入れられないのだ。
「練習したハンドル捌きを見せてあげるわ!」三層エリア攻略後もそこで飛行機械をいじりつづけていたイズは今日のために一部装甲とほぼ全ての攻撃兵装を外し、その分速度アップと機体制御に振り切ったカスタムを施してここにやってきた。
一人で探索する時と違ってダメージを出すのは他の人が担当してくれる。イズの役割は飛び回る武者についていきながら、マイとユイが攻撃できるよう距離感を維持することだ。
最後に攻撃していたマイに向かって、武者が炎の尾を引きながら飛んでくる。マイは緊張した面持ちではあるものの、近づかれたとしてやることは一つだけだと、【巨人の業】によるカウンターだけを意識してイズの操縦を信じた。
操縦席では凄まじい速度で迫る武者と、振り下ろされる刀を形取った二本の火柱そのものをガラス越しに確認し、ハンドルを切るイズの姿があった。
「さあやるわよ!」
飛行能力を手に入れただけのメイプル達と限界までカスタムしたイズでは飛行機械の性能はまるで違う。
火柱を避けて武者の必要以上の接近も許さず、マイとユイが【救いの手】に持たせた大槌でなら攻撃できる距離を維持する。
「【血刀】!」
「【古代兵器】!」
「【ハイドロレーザー】!」
三者三様の地面からの攻撃が武者のパリィを誘発し、防がれこそするものの本命の攻撃への道を作る。
「ツキミ!」
「ユキミ!」
「「【パワーシェア】!」」
【救いの手】によって確保した射程を活かし、空中の相手を叩き落とす。
これで終われば楽ではあるが、そうはいかないと分かっているため、この一戦のためにここまで入念に準備をしてきているのだ。
武者が地面に激突し舞う砂煙の中、ただでは済まさぬとばかりに空に展開される赤い魔法陣。
「クロムさん!」
「【守護者】【精霊の光】!」
サリーの声を聞くとほぼ同時、クロムも迷いなくスキルを発動させていた。
再度メイプルの【身捧ぐ慈愛】の上から自分にダメージの適用先を移し替えると、そのまま無敵になることで敵の攻撃を無効化する。
空から降ってきたのはサリーが手に持っているのとは比べ物にならない、武者の後ろに建っていた塔ほどの大きさの槍だった。全員が避けた事で地面に直撃すると同時に、辺りを爆炎で包みながら逃げ場のない炎の渦を発生させる。
クロムは強力なスキルコンボによってこの攻撃から全員を守り切るとメイプルに声をかける。
「次は頼んだぞメイプル!」
「はいっ!」
敵の攻撃がどういったものか分かっているからこそできる無駄のない完璧な対応。
次の攻撃を防ぐのは今回はしっかりとクロムのスキルを待ったメイプルの役目だ。
クロムが上手くやると信じていたメイプル達は、ボスが動き出したのに合わせてすぐに攻撃を合わせる。
積み上がるダメージは武者のHPを確実に削っていた。
「マイちゃん、ユイちゃん、この調子で頑張って!」
「「はいっ!」」
「私も守ってあげてるからー!」
飛行機械の中からはイズが、地上からはメイプルが声をかける。攻撃を受けてしまったとしてもメイプルが替わりにダメージを受けるためマイとユイは倒されない。【不屈の守護者】があるうちは一度のミスなら立て直せる。
頼もしいバックアップがあることを認識しつつ、マイとユイは落ち着いて武器を握り直す。
重い一撃でダメージを与える以外に二人にもやるべきことが、いや二人にしかできないことが一つあるのだ。
減っていく武者のHPを見つつ、集中しながらその時を待つ。
「「……!」」
目まぐるしい戦闘の最中、マイとユイは舞い散る炎の向こうに、武者が持つ二本の太刀が炎と共に虚空へ消え、替わりに一本の大太刀となったのを確かに見た。
それは必殺の一撃の前兆。二人が決して見逃さないようじっと待っていた瞬間だ。
「「【クイックチェンジ】!」」
頭上で聞こえた二人の声にイズは即座に操縦席のボタンを叩きセットされていたアイテムを使用する。それはデバフを解除する効果を持ったクリスタル。
戦闘用に即ち自ら制限したマイとユイの攻撃力を元に戻す一手だ。
装備を変更したマイとユイがそれぞれ八本の大槌を振りかぶる。武者が鞘から抜き放った大太刀が凄まじい炎を噴き上げ、衝撃波を伴う超広範囲の斬撃となって前方に放たれ、空間ごと抉るような勢いで八人を抹消せんとする。
「「【巨人の業】!」」
暴力には暴力を。理外の一撃には同じく理外の一撃を。枷を外したマイとユイの膂力によって振るわれた大槌は武者の斬撃と衝突し、凄まじいエフェクトと轟音を発生させながら、それを跳ね返す。
「流石ね!期待通りよ!」
「よしっ、えっと……ここからは……!」
「よろしくお願いします!」
マイとユイにとって重要な仕事はこれが最後。あとは作戦通り他のメンバーに託したと、上手くいってほっとした様子で地上に声をかけるのだった。
マイとユイが託した段階で武者のHPは残り三分の一程度。
跳ね返された炎の中から立ち上がり再度二刀流に切り替えた武者が刀を地面に突き立てると、地中より溢れた炎がバフをかけるように武者の体を包んでいく。それを合図にして、メイプルはスキルを発動した。
「【イージス】!」
展開されたのは攻撃全てを無効化する輝くドーム。その直後、瞬間移動と言っていい程の速さで駆け回った武者により放たれた、空間を埋め尽くす程の数の剣閃。【イージス】は受ければ致命傷といえるそれを全て無効化して、メイプル達を生き残らせる。
知っているからこそ可能な先置きの無敵スキルにより敵の逆転の一手を潰したメイプルだったが、武者もそのまま倒れるつもりはない。変わらず高速移動を続ける武者は、目の端に残像が一瞬映る程度で、最早どんな魔法もまともに当たりはしない。
「カスミ!お願いっ!」
「【心眼】【戦場の修羅】!」
【心眼】がサリーの予測と明確に違う点。それは察知するための僅かな気配すらない少し未来の攻撃の放たれる場所が正確に分かるということだ。
「【一ノ太刀・陽炎】!」
高速移動を続ける武者は攻撃の瞬間、そこに止まり刀を振るうため見えるようになる。事前に把握し、同じ瞬間移動を武器とするカスミだけはそこに一切のタイムラグなく追いつけるのだ。【戦場の修羅】の効果でクールダウンが大幅に短縮されていることを活かし、【心眼】の連続使用で敵の位置を未来視して、【一ノ太刀・陽炎】で斬り返す。
カスミと武者、二人きりの高速戦闘についていけるプレイヤーはいない。
二人の勝敗を分けたのは繰り出す斬撃の位置が正確に分かっているかいないか、ただそれだけだった。
「【一ノ太刀・陽炎】!」
武者の攻撃を受け止めながら、首元にカスミの刀が深い傷を残す。HPは残り一割。一度膝をついた武者は足に力を込め、最後の攻撃に打って出ようと跳躍し距離を取った。時間こそ短くはあったものの息の詰まるような攻防。【戦場の修羅】のデメリットで全てのスキルがクールダウンに入り、カスミは刀を鞘に収める。
それはカスミもまた自分の役割を全うしたことを示していた。
距離を取った武者はマイとユイに振るったものよりもまだ大きい大太刀を構える。それが振り抜かれた時に巻き起こる惨劇はミィの【黎明】と似たようなもの。【イージス】のような無敵効果すら貫通し、あらゆる全てを細切れにし灰になるまで焼き焦がすだろう。
追撃は全てを跳ね返す炎の渦のバリアで拒絶し、大技の準備をするだけの時間を確保する。
「カナデ、サリー!お願い!」
「うん。僕らの出番だね」
カナデはソウを呼び出すと自分の姿に変え、同種の魔法を倍の数唱えられるようにする。
「【ハイドロレーザー】!【タイダルウェイブ】!」
「【水竜】【鉄砲水】」
「ソウ【ハイドロレーザー】【タイダルウェイブ】!」
そこから放たれたのは大量の水。サリーは【水操術】で、カナデは【水魔法】を中心に武者へと水で攻撃し続ける。
水属性というのが重要で、これは武者を守る炎の渦のバリアを破壊する上で、有効な属性となっていたのだ。
「「メイプル!」」
防御がなくなった瞬間、二人はメイプルに声をかける。
道は開いた。後はまっすぐ最速で。
「【砲身展開】【攻撃開始】!」
メイプルは自爆し飛行機械よりも一直線に速く武者の元へと飛んでいく。
正面に構えているのは『闇夜ノ写』。皆が頑張ってくれたおかげで温存できた【悪食】を叩き込む。これがこの戦闘に勝つために全員で見据えていた終着点だ。
「やああっ!」
武者の懐へ飛び込んだメイプルは構えた大盾を叩きつける。それは作戦通り大技を繰り出される前に残った武者のHPを吹き飛ばし、練り上げられた今回の作戦は無事完遂されたのだった。
四層エリアに戻ってクエストを達成し、メイプル達は無事『魔王の魔力・Ⅲ』を手に入れることに成功した。
「ふー、無事勝ったなあ。よしよし」
「四層エリアのボスはかなり強かったわね」
「武闘派だったね。僕らも準備してなかったら厳しかったかも」
八人で適切なスキルで大技を返していなければ勝利は掴み取れなかっただろう。
全員がそれぞれの役割を遂行したからこそ、道中も重要なスキルを使うことなく切り抜けられた。少人数で向かっていれば道中のモンスターの群れも、相当大きな脅威となっていたのは間違いない。
「ふむ。これでいよいよ後半戦といったところだな」
「八層エリアも二人はいつでも攻略を進められるようにして待ってるから、暇ができたら来てよ」
「六層エリアは……メイプルだけでも来るか?」
「そうします!」
「うん、楽しんできて……」
サリーが行くべきでない場所はある。たとえば範囲攻撃が飛び交う場所、必中の攻撃が飛んでくる場所、そして何より六層。
「あとは五層エリアですね!」
「えっと、どうですか……?」
「そっちも順調!どんどん進んでるよ!」
「出てきたボスも今回のみたいに厄介なのはいなかったしね」
残るは五層エリア、六層エリア、八層エリア。そのどれも手付かずという訳ではないことを考えると、カスミの言ったように十層攻略も後半戦。終盤に差し掛かっているということだろう。
「まだ魔王の情報はないみたいだぞ。流石に一番乗りは難しいとは思うが、この人数から考えるとなかなか早いペースなんじゃないか?」
「ですね。まだプレイヤー間で新鮮なうちに挑戦できそうです」
「一回で勝ちたいところではあるわね。今回のボスはかなり大変だったもの」
魔王に挑戦するためには『魔王の魔力』を消費する必要がある。勝てなければ全種類のボスをもう一度倒さなければ、魔王への挑戦権を再獲得できないのだ。
勝ったとはいえボスは簡単に倒せる相手ではないためできることならそれは避けたい。
「皆で頑張ればきっと上手くいきます!今回みたいに!」
「だな。よし!そん時はまた全力でやるとするか!」
「ああ、挑戦する時を楽しみにしておこう」
「それに、その後にはイベントもありますから……!」
「まだまだやることがいっぱいです!」
「うんうん。ちょうどラストスパートってところだね」
「私も最後まで気を抜かずに頑張るわ」
全員が最終目標に近づいてきたことを改めて実感する中、サリーはメイプルの目を見て語りかける。
「メイプルも、最後までよろしく」
「もっちろん!ぜーったいクリアしようね!」
「うん。そうしよう」
魔王討伐を固く約束して、メイプルとサリーの十層探索はまだ続く。確かな終わりも側に感じながら。




