防御特化と締めくくり。
無事にカスミのクエストの手助けを成功させた二人は、そのままボスが落とした一際大きな鉱石を持ち帰るカスミに付き添いクエストをクリアした。残りの細かい各属性の鉱石は使えば弱い属性攻撃が可能だが、さらなる可能性の追求のためイズに渡すことにして、これで予定していたクエストの消化は済んだこととなる。
「またクエスト次第で手伝ってもらうことになるかもしれないが……ともかく、助かった」
「どういたしましてー!」
「どっちかというと私達が助けてもらってる立場だしね」
期日までの魔王挑戦のため、【楓の木】のメンバーにはかなりの助力をもらっている。
「二人のお陰で上手く攻略できたクエストだった。流石だ」
「カスミも大活躍だったよ!」
「ははは、次はもっと活躍してみせよう」
「期待してる」
「ああ期待しておいてくれ」
順調にクエストが終わり、また次のクエストを探すことになったカスミは四層エリアの町へと繰り出していく。
二人はそれを見送ってこの後はどうしようかと顔を見合わせる。
「どうする?五層エリアに戻るのもありだし、隠しエリアを探してみるなんてのも……まあ、なくはないかな?」
「んー……そうだなー……やっぱり五層エリアの方かな?そのために装備も作ってもらったんだし!」
「オーケー。あそこを進めるのが私達の役目だしね。上手くいけば残りのエリア全部一気に攻略が済んじゃうかも」
「それならちょうどいい感じで魔王討伐に行けるね!」
「そのためにも私達も進めておかないと」
「うん!」
「じゃあ五層エリアの町に……ん?」
「メッセージだ」
さて誰からだと二人がそれぞれ確認すると、どうやら【楓の木】のギルドメンバーではなく、運営からのメッセージのようだった。
「私達にとって締めくくりのイベントの内容についてだね」
「えーと……PVPかPVEを選んで参加……ふむふむ。ええっ!?参加するだけで金のメダル1枚だって!」
「おおー、流石節目のイベントだけあるね。大盤振る舞い。それだけ次に実装されるエリアの難易度が跳ね上がるってことでもあるんだろうけど」
金メダルが手に入れば自分の軸にできるようなスキルを手に入れられる可能性は高い。
このイベント前後でプレイヤーの強さは一段階変わると言っても過言ではないだろう。
「PVPはデュオ……パーティー組むなら二人までで……戦闘開始と同時に空間を区切ってスキル使用回数も回復」
「決闘みたいな感じだね」
「それが近いかも。それとは別に一定範囲内にプレイヤーがある程度集まると限定的なバトルロイヤルも始まるらしい」
「へー。順位とかってあるの?」
「いや。あくまでお祭りイベントみたいだね。強制リタイアはないし、参加賞の金メダルが全てだし、全力を出して盛り上がってねって感じ。倒されたプレイヤーも一旦敗北者用のエリアに飛んで、まだ戦いたかったら好きな場所に転移して再開できる」
「なるほどー」
順位のために戦闘を強制されている訳でもない。それぞれのプレイヤーが今の自分の実力を試しつつ、足りないものを再確認し金メダルで欲しいスキルを考えるための機会。
そういう側面もあるだろうが、まず何より戦うことを楽しむための場という側面が強いと言えるだろう。
「PVEは分かりやすいね。勝つことが非常に難しい強力なモンスターも跋扈するフィールドで力を示せだって」
「こっちは八人まででパーティーを組んで参加できるんだね」
「いつも通りのフルパーティーだね。ここで見たモンスターのうち何体かは新たなエリアでも出てきたりして」
「ありそうだね!」
「勝つことが非常に難しいモンスターってことだから、クエストで出てくるようなボスとは一線を画す相手だと思う。貫通攻撃とかバフ消しは当然で、範囲攻撃もバンバン撃ってくるみたいな」
「そうだよね。だって、勝つことが非常に難しいってはっきり言われてるもんね」
PVEの方は運営側としてもプレイヤーの現在地を把握する意図があるのかもしれないとサリーは語る。どこまでのボスなら撃破されるのか、逆に誰も撃破できないボスはどのラインなのか。
報酬が約束されているため負けることにリスクがなく、何度でもチャレンジできる状況、その上で難易度の高さも事前に伝えられている。これならどのパーティーも気持ちよく強力なモンスターに挑戦しにいけるというものだ。
「どっちかってことだけど……メイプルはどう?」
「うーん……八人で行くならPVEだよね。ちょうど皆で参加できるし!PVPならサリーと一緒にかなあ」
「……皆もメッセージは受け取ってるだろうし。またどこかで聞いてみようか」
「うん!そうだね!」
「ともあれまだイベントは先のことだし、先に魔王討伐を成功させてから行きたいよね」
「うんうん!イベントまでに頑張るぞー!まずは五層エリア!」
そう言ってメッセージが来る前に話していた通り、五層エリアの町へと転移するためギルドホームへと歩いていく。
「…………」
かつて見た夢は今もなお遠く。
大事な言葉をどうにも上手く紡いでくれない口を少し手で押さえて。サリーは先に歩き出したその背中を追うのだった。




