防御特化と鉱物2。
奥へ奥へ。時折あった分かれ道や、複数回の属性ギミック被弾もなんのその。メイプル達はボス部屋を示す扉の前までまでやってきていた。
「一応ギミックおさらいしておく?」
「うんっ!えーと……」
炎は分かりやすい範囲攻撃、水はステータスダウン。そしてさらに最奥へ来るまでに遭遇した緑の鉱石由来の風と黄色の鉱石由来の土の属性ギミックだ。風は突風によるノックバック。土は地面を沼状に変えて上にいるプレイヤーの動きを封じるというものだ。
炎以外の属性ギミックは強力だがそれ単体では殺傷能力がほぼないようなものだ。
特に土のギミックなどは側にモンスターを配置していない時に設置する意味がない。だからこそ三人はこのギミックがあくまで前もって知らされたもので、これが効果的に働く、いわば本番となる戦闘があると踏んだのだ。
中ボスはおらず、適度に湧いた雑魚モンスターをサクサク倒して、ギミックを把握しながら奥へと進むうちボス部屋の前までやってきていた。つまり本番はこの部屋の奥、ボス戦であることは間違いないだろう。
「【身捧ぐ慈愛】よし。【救済の残光】よし。装備品よし。念の為水ギミックのデバフ抜きもよし!」
「準備万端!いつでも行けるよー!」
「開けるぞ」
カスミが大きな扉を開けて、ボス部屋へと飛び込む。予想に反して中には各属性のギミックの起点となる鉱石は見当たらない。替わりに奥で砂煙を立てて巨体が起き上がった。
各属性を示す四色の光が中でゆらめく巨大な結晶が繋がってできたゴーレム。機敏そうには見えないことに加え、ゴーレムとの戦闘経験もそれなりに増えてきたこともあり、メイプルは少し安心した様子でボスを見る。
しかし。
「うぇっ!?」
ボスは跳躍した。それも想定以上の機敏さで。
メイプル達までは届かないものの、一気に距離を詰めつつ地面を強く叩きつけ、部屋全体に視界を奪う砂煙を舞い上げる。
「メイプル、落ち着いて」
「うん!……?」
サリーの声に落ち着きを取り戻し砂煙の向こうからボスが突撃してくるのを警戒する。
「……!」
落ち着いて警戒していたからこそメイプルは気づいた。砂煙の中地面に淡く輝く緑の光。それは風のギミックの起点。
「【ヘビーボディ】!」
メイプルがノックバック無効を付与した直後、凄まじい風が吹き荒れる。砂嵐ごと吹き飛ばす暴風を受けつつ何とか目を開けたメイプルが見たのはいつの間にか地面に点在する緑の鉱石と、眼前に迫ったボスの輝く大きな拳だった。
本来なら陣形破壊からの強襲。初動としては十分過ぎる圧力がある動きだが、メイプルは【身捧ぐ慈愛】でノックバック効果を持つ風を全て自分に吸い寄せ陣形を維持し、大盾でしっかりとその拳を受け止める。
ただ受け止めるだけではない。発動した【悪食】はボスの拳を食い破り、強烈なカウンターでもって逆にボスのHPを削り取る。
「【全武装展開】【攻撃開始】【古代兵器】!」
それだけでは止まらない。即座に展開した二種の兵器が唸りをあげて、赤と青のレーザーがボスの胴体を貫く。
互いに最善の動き。その上でメイプルの対応と出力が上回った。
メイプルに注意が向いているうちに一気に前に飛び出したのがカスミとサリーだ。
十中八九あの飛び込みと砂煙が鉱石をばら撒くタイミングになっている。
「「【超加速】!」」
距離を取ろうとするボスをそう楽にもう一度跳ばせてはやらないと一気に距離を詰めた二人。ただの拳での攻撃であればメイプルは揺らがないため、気にかける必要はない。
「【戦場の修羅】【武者の腕】【四ノ太刀・旋風】!」
「朧【火童子】!【水纏】【クインタプルスラッシュ】!」
接近し両足を斬り刻むことで、凄まじいダメージエフェクトが弾け、両足が砕けて一気にボスがダウンする。
明確なチャンス。全員が前のめりになるタイミング。しかし、砕けて散った破片はその光を増していく。ボスの体そのものもまた属性攻撃の起点の鉱石。
気づいた時には辺りに四属性のギミックが凄まじい勢いで拡散した。
燃え盛る火、鎮静の水、束縛の土に撹乱の風。
ボスも持っていた強烈なカウンター。ダウンを餌にプレイヤーを惹きつけ一網打尽にする狡猾なやり口。
それでも。
「残念。うちにはメイプルがいるんだよね」
「新たな属性を用意すべきだったな」
後方で全てを受け止める六枚羽の守護天使。ご丁寧に道中で見せてくれたギミックは、確かに強力だがメイプルに有効なものではなかった。
「【九ノ太刀・夜叉】【四ノ太刀・旋風】!」
「【クアドラプルスラッシュ】!」
「【古代兵器】【滲み出る混沌】!」
ダウンを餌としてのカウンター。カウンターが成立しないのならそれはただのダウンでしかない。叩き込んだ強力なスキルによるラッシュがボスの体を粉々に砕いていき、それが次の属性ギミックを誘発する。攻撃すれば確定のカウンターが待っている厄介な仕様。しかし、全て正面から踏み潰して無力化する無法の怪物の前に、その強力なカウンターは力を発揮しきれずに脆くも崩れ去るのだった。




