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防御特化とスタン耐性。

メイプルがボスにひたすら拉致される分、想定通りカスミとサリーにとって雷を避ける別のゲームが始まった。ハクまで避けさせている余裕はないため、ささっと指輪に戻してカスミは回避に集中する。


「自分達を狙って落ちてくるのと、避け先を狙ってるようなのがある」


「分かってはいるが……!本当によくやるものだ」


「頑張って。回復は用意してるから」

カスミの動きが悪いわけではないが、仕組みが頭で分かっていても【心眼】のサポートなしでは完璧には避けきれない。できないからこそ基本どのプレイヤーもHPと【VIT】のステータスに振っているのだ。

ともあれサリーが完璧に回避をこなすことと、メイプルがあまりにも硬いことによって、ボスが効率よく三人のプレイヤーに攻撃を仕掛けているにも関わらず、この奇妙な戦場は壊れずに維持されていた。


「ちょうどいい訓練でもあるんじゃない?HPを減らせばボスの攻撃も激しくなるだろうし」


「それも……そうだな!」

今のうちに慣らしておけば後半の苛烈な攻撃への対処も幾分か楽になるだろう。

そうしてメイプルが拘束され、口から溢れ地面に転がり落ちる流れがもう何度繰り返されたか分からない頃。カスミがサリー同様雷を避けられるようになり、悠々とメイプルの再拘束を待つようになった頃。

メイプルから歓喜の声が上がった。


「やったー!かんせーい!」


「お、ようやくきた?」


「いつの間にか私の回避も上手くなってしまったな」

メイプルのスキル欄に燦然と輝く【スタン無効】の文字。数時間と引き換えに確保したスキルはメイプルをスタン対策の高額アイテムや装飾品から開放した。


「さて、いよいよ反撃だな。敵の攻撃にももう慣れた。次の手を見せてもらおう」


「ね。メイプルもこれなら捕まり得なんじゃない?さあ、来るよ!」


「おっけー!こーい!」

電撃ともに凄まじい速度で突っ込んできたボスの攻撃を、メイプルは回避できないしする気もない。むしろさあ食べてくれとばかりにばっと手を広げて待ち構える。

ばくんと閉じた大口を両サイドに立ったサリーとカスミが斬りつけてダメージを与える。

目的を達成した今、もう逃してやる理由はないのだ。そしてそれは連れ去られたメイプルも同じこと。スタンを受けず、ダメージも受けず。今のメイプルは拘束下にあらず、その防御力によって密着してゼロ距離戦闘が可能になった、ボスにとって最悪の状態なのだ。


「【砲身展開】【攻撃開始】!」

伸びる兵器が大量の弾を口腔内にばら撒く。一メートルしか弾が飛ばないこともこの距離であれば関係ない。

炎のブレスと間違うほど、口から溢れる大量のダメージエフェクト。特別防御力の高いボスでもない大蛇が無事に受け切れるものではないのは明らかだ。


「【古代兵器】!」


「すっご、流石」


「あの距離感に立てるのは唯一無二だな」

花火のように夜空を彩る青と赤の光と爆発音、それに混じってダメージエフェクトと反撃の雷。しかし、今の攻撃パターンではこの暴力にボスが対抗できないのは分かっている。

サリーとカスミは自分達がしくじることがないよう、安全重視で回避に集中しボスのHPと動きを注視する。そうして激しい地鳴りが始まったのは何度目かの拘束によりメイプルがボスのHPを半分程まで削った時のことだった。


「カスミ、下!」

サリーとカスミ、遅れて上空で拘束が解けて落下中のメイプルがそれぞれ変化を察知する。

地面を突き破って溢れた紫の太い雷がうねるように暴れて三人に向かってきたのはサリーの呼びかけからすぐのことだった。


「……!」


「こっちは気にしないで!」


「【八ノ太刀・疾風】!

反応は三者三様。余裕を持った展開だったこともあり、この後の展開について意識できたことでここは攻撃を受けてみることにしたメイプル。大振りな攻撃にここは回避できると確信したサリー。自分がダメージを受けることで今後の展開の幅が狭くなることを危惧し確実な回避を試みるカスミ。

結果としてそれぞれの動きは意図通りに機能し、極太の雷光は落下中のメイプルだけを飲み込む。

大きな音と共に雷光に包まれメイプルの視界が紫の光に染まり、ダメージエフェクトと共にHPの三分の一ほどが消失する。


「いっ……たた」


「【ヒール】!」

サリーからの即時回復をもらいながら、地面に落ちるところを受け止めてもらって、そのまま抱かれて隙なく移動する。防御貫通攻撃による確かなダメージに目を細めながら、しかしメイプルは手応えありというような満足気な表情をしていた。


「装備効いてるね」


「うん!作ってもらって正解だった!」


「じゃあこの調子で後半分気合い入れていくよ」


「うんっ!」

貫通攻撃であることは事実であるため、サリーはメイプルを背負い直してそのまま走り出す。

デバフを受けた状態で人を背負っている現状、動きにくいのは間違いなく、戦えるような状態ではないはずだ。

この制限を加えてなおサリーの回避はカスミより高い精度を維持しているのだから驚くより他にない。


「脱帽だな……サリー!接近した所を叩く」


「頼んだメイプル!」


「了解っ!」

メイプルを背負って両手が塞がっているサリーは攻撃を一任して接近だけを担当する。

メイプルに足りない機動力をサリーが補い、メイプルが貫通攻撃以外を防御する。

攻撃の大半を無効化し、新たな攻撃である噴出しうねる雷光だけを避ければいい状態にすれば、カスミとサリーの負担は少なくなる。

メイプルがボスに連れ回されずサリーのコントロール下にいるようになったお陰で【身捧ぐ慈愛】の防護も取り戻した。

ここからはもう勝利まで迅速に詰めるだけだ。


「【悪食】は?」


「口の中で使っちゃった」


「近づくから【古代兵器】で攻撃お願い【機械神】はちょっとバランス取りきれない」


「分かった!」


「メイプル、注意引いて欲しい!」


「【挑発】!」

隣に浮かぶ黒いキューブ。敵をその射程内に収めるため、サリーはメイプルを背負って駆け抜ける。

メイプルに【挑発】を使わせたことで全ての雷が襲いくる。そうさせたのはサリーの自信、いや確信。

躱せるという確信があるが故に、ここはカスミの負担まで背負うことにしたのである。


「助かる【九ノ太刀・夜叉】!」

二人が注意を引いてくれていることで完全にフリーになったカスミはHPと【VIT】を犠牲に与ダメージを増加させ、ボスが地上に降りてくるタイミングに合わせて【一ノ太刀・陽炎】を起点にして高速で距離を詰める。

ボスはメイプル一直線。


しかしこれまでと唯一異なる、そして絶対的な差。それは文字通りサリーがメイプルの足となっていること。


サリー完璧なステップで突進を紙一重で避け、ちょうどカスミと頭部を挟み込む形でメイプルの武器の射程内にボスを収める。


「頼んだよ二人とも!」


「【武者の腕】【紫幻刀】!」


「【古代兵器】!」

大きく開いた口を両側から凄まじい攻撃が襲う。それは夥しい量のダメージエフェクトを散らせながらボスのHPを削り切り、パリィンと高い音を立てて、視界を覆い尽くすほどの紫の雷光を残してボスの姿は消えていった。


「やった!」


「ダメージ計算完璧だったね」


「メイプルが削っていく所を観察できたからな。余裕を持って計算できた。ただ……すまないが元に戻るまでは待ってもらえないだろうか。この姿で外は……少しな」


「勿論」


「はーい!のんびり待とう!」


「助かる」

倒しきるために必要なダメージを確保するため、小さくなる他なかったカスミが元のサイズに戻るまで、三人はボス戦の疲れを抜きつつゆっくりと時間を過ごすのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 私が彼女達と闘うとしたら ・・・ 倒す方法は思い付くけど 成功率の低さと 実行の困難さに眩暈がします。 運の要素も絡むので はっきり言って無理ゲーです ・・・。
[一言] 毒竜(ヒドラ)みたいにモグモグ食べなかったのか……
[一言] 運営「あああああああ!!!!!」
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