防御特化と四層エリア5。
鳴り響いていた雷が止んで、六体全てを撃破したことを確認した二人は一旦武器を収める。
「さっすがー!このモンスターなら大丈夫だね!」
「メイプルの防御あってこそだから」
「この守りがあるなら何度出てこようと私達で処理できる」
「お願いしまーす!」
カスミのスキルによる瞬間移動は移動速度低下や【AGI】へのデバフに対してめっぽう強い。それは同じように高速アタッカーを務めるサリーにはない強みと言えるだろう。
「乗ってくれ。また敵が出てくるまで移動しよう」
すーっと地面に近づいてきたハクの頭に乗って再度移動を開始する。
「もうしばらくすれば四層エリアは『魔王の魔力』まで辿り着ける予定だ」
「順調だね!」
「二人が二エリア攻略する間ずっと四層エリアを奔走していたからな」
「お陰で効率よく進められそうだし、本当助かってる」
「昨日聞いたところではクロムのいる六層エリアに関しても順調なようだ。勿論、予定外のことが起こらないとは限らないが案外余裕があるかもしれないな」
三月末までに魔王討伐を目指す都合上、時間に制限はある。ただ、せっかくの総まとめの十層だ。やはり攻略一辺倒で駆け抜けてしまうのは少し味気ない。
「空いた時間であちこち巡ってみるといい。ふふ、四層エリアはいいぞ」
「そうだなあ……本当に終わりが見えてきたらぐるっと最後に回ろうかな?メイプルなら魔王討伐直前に何かスキルを見つけちゃったりすることもあるかもだし」
「見つかるかなあ?」
「いやだってもう既に分裂するようになったし……」
「た、確かに……」
どんな敵が現れようとも十分戦っていけるだけのスキルは持っているが、増えるに越したことはない。【毒性分裂体】は運良く見つけられたが、メインとなる各エリアクエストの進行上にはいわゆる妙なスキルはそう多くはないだろう。
「私もメイプルのまだ見ぬ最終進化に期待しておこう」
「サリーにもいいスキル見つかるといいな」
「ね。まあ攻撃スキルなら【虚実反転】で借りられるし、自由度は高くなったから現状でも悪くはないけど」
サリーとしてもスキルが増える分にはいくらでも増えてかまわないのだ。
いつだってレアなスキルや隠しクエストは歩いているだけでは見逃してしまいそうな秘境にあるものだ。攻略だけでなくそういった場所に目を光らせる意識を持てばあとは運次第である。
「む、また来たか!」
そんな話をしていると再度雷鳴が鳴り響いて、先程の獣達が数を倍にして三人を取り囲んだ。
「多いな……勝てはするけど……」
「ダメージは受けないし、ハクに手伝ってもらえないかな?ぐるぐるって囲んじゃえば!」
「確かに。安全確認はできてるしそれでいこう」
「分かった。メイプル、一度引きつけてくれ!」
「【挑発】!」
十二体の獣が眩しいほどの電撃と共にメイプルへと殺到する。
普通の大盾使いであれば十分脅威となる量も、メイプルならば問題ない。
「ハク!」
メイプルに飛びついた敵を三人ごととぐろを巻いた中へと閉じ込め蓋をしてしまった。
ハクかカスミかを倒さなければこの檻から出ることはできないがそれはメイプルが阻止している。この監獄から出る術はない。
「二人とも耳塞いでて!」
メイプルはそう言うと夥しい量の爆弾を取り出して足元にばら撒いていく。
「着火ー!」
密閉された空間の中百近い爆弾が一斉に爆発し、敵味方問わず全てを爆炎で焼き焦がす。
しかし、メイプルの庇護下にあるテイムモンスターとパーティーメンバーはこの豪炎を免れる。メイプルを傷つける力がない相手に対してはあらゆる無法が許可される。
「終わった?」
「素材だけ拾っておこう。ここ以外では見た記憶がないモンスターだ」
「よーし、成功!」
「次からもこれでいこっか。消耗品の爆弾を使わなくても、ハクに囲んでもらうだけでかなり楽になるから」
「敵の強みの機動力を奪えば私達にかかったデバフも意味をなさないな。ボスもこの調子でいけばいいのだが……」
「流石に」
「だろうな」
道中のモンスターも一種類ではないだろう。本番と言えるボス戦も残っている。気を緩めることなく勝てる相手には楽に勝って、集中力を維持しつつ効率よく、幾分近づいてきた輝く十字の光の下を目指すのだった。




