防御特化と四層エリア2。
店を出て二人は近くで人力車を確保すると、石畳の道の上を心地よい振動を感じながら移動する。飛行機械でも移動はできたが、今回はまずカスミのメモを見たかったのだ。
「こ、こんなに……見分けられるかなあ」
「ページごとに刀なら刀、壺なら壺って分かれてるからメイプルは前から確認していって。私は後ろから見ていくから」
「それなら半分でいいもんね!」
「前半のものは頼んだよー?」
「分かった!後半は任せた!」
「ふふ、オッケー。任せておいて」
丁寧に画像もついているため、メイプル達でもどこに注目すればいいか把握しやすい。
そうしてメモを確認していると、人力車は目的地についたようで、二人は料金を払って降りると目の前の店の戸を開いた。
「わっ……」
「おおー、中々多いね」
先程の店以上に並んだ骨董品の数々、この中にクエストに必要な品はあるかもしれないしないかもしれない。
見分けられないからと全てを買ったとしても、成果を挙げられないことはあるのだ。
だからこそ、メモと照らし合わせてしっかりと必要なものを見極める必要がある。
「とりあえず私は武器系から見るね。一番頭に入ってきたし」
「あはは、サリーらしいかも」
「メイプルは?」
「壺とかの方からみようかな?」
「二、三個当たりがある場合もあるらしいから注意深くいこう」
「うん!」
二人はそれぞれ確認用にメモを開きつつ、目の前の実物と照らし合わせていく。
メイプルは並んだ大きな壺の前に立って、一つ一つじっとメモと見比べていく。
「えーっと……これは……模様がない。こっちは……あ、色がちょっと違うのかな?」
参考にできるものがあるお陰で、一か八か勘でそれっぽく感じるものを選ぶなどという博打をしなくて済む。
しばらくじっと壺を見て、どうやらここには求めているものはないと結論づけたメイプルはそのまま隣の茶器へと移っていく。
「ふんふん……色と形と大きさと……」
メモの内容を呟きながら、見逃すことがないように目を皿のようにして茶器を確認していたメイプルは一つの茶入の前で立ち止まった。
「これ……うん、うんうん!サリー!」
「お、あった?」
「どうかな……?」
まだ購入前なら間違っていても引き返せると、二人でメモを確認しながら慎重に特徴を確認する。
「合って……そうだね」
「やっぱり?」
「うん」
「じゃあこれは買っちゃおう」
「私の方も一つ気になるものがあってさ」
「え!どれどれ、見に行く!」
「こっちこっち」
サリーが案内したのは一本の槍の前だった。こちらも二人でじっくりと見た目を確認して、買っていいものか判断を下す。
「大丈夫そうな気がする」
「メイプルも?」
「うんっ!」
「よし。なら、これも買っていこう。三個目もあるかなあ」
「全部見てみよう!」
「急いでいるわけでもないし、最初だしね」
見逃しがないかどうか一通り骨董品を見て回った二人は、メモと一致している物がじっくり確認した二つだけだと結論付け、茶入と槍を買うことにした。
「あれ?値引きってどうするんだろう?」
「見てた感じだとカスミの時は選択肢が出てたみたいだったけど……出ないってことは、四層エリアで色々やってるカスミだけのものなのかも」
「お金足りるかなあ……?」
「ミスしなければ大丈夫だと思う。ほら、あくまでクエストな訳だし、達成できないようにはなっていないはず」
どうであれ今は答えの出ない話だ。二人は自分達の目利きが間違っていないことを願いつつ、値段通りゴールドを支払い二つのアイテムを購入する。
「槍は……【水仙】!こっちは【葵】だって!」
「おっ、てことは両方あってたかな?」
「そうみたい!よかったー」
幸先のいいスタートにメイプルはほっとして笑顔を見せる。メモと照らし合わせての自分達の目利きは間違っていなかったようだ。
「ふぃー……ちょっと緊張したかも」
「確かに。でも、自信もついたんじゃない?」
「この調子で次も行っちゃおう!」
「じゃあ人力車を呼んでくるよ」
「はーい!」
僅かな待ち時間にもメモを確認しながら、次の店でもいい買い物ができるようまだ覚えていないページを頭に入れるのだった。
四層エリアで買い物を続けカスミから任された分の骨董品店を全て巡って、最後の店から二人で出てくると、インベントリにずらっと並ぶアイテムを確認する。
固有名のついた骨董品は十分買うことができたと言えるだろう。
「結構買えたんじゃない?」
「だね。メモが本当に役に立った」
「ねー!お陰で偽物は買わなかったし!」
カスミのメモに書かれていたのは買うべき真作の特徴だ。慎重にそのメモと照らし合わせて買い物をしていれば、真作を見逃してしまうことはあっても贋作を間違って買う可能性は低くなる。頼まれごとだったこともあり、丁寧にメモを見て、買う前には二人で確認もとったため贋作は一つも買わずに済んだ。
「カスミに連絡して合流しようか」
「そうしよう!」
ギルドホーム前で合流することにして、二人は飛行機械で空を飛んで行くのだった。




