防御特化と四層エリア。
装備を待っている間、レベル上げをするのも選択肢の一つではあった。ただ、念のため戦闘を避ける意味も込めて、まだ行っていないエリアの拠点を見にいく時間とした二人は四層エリアの町にやってきていた。
「わぁ……外から見るのとじゃ本当に違うんだね」
「結界みたいな感じなのかな?」
ギルドホームから出た二人が見上げた空は星が輝く綺麗な夜空だった。
十層は常夜という訳ではない、そのため遠くから見ている分には通常のフィールドに桜が並んでいるように見えていた。
ただ、一度四層エリア内へと入ると景観は一変する。外から見えていたのは仮初の姿。まるで別世界のように物怪が闊歩する夜の和風の町並みが二人を出迎えた。
「やっぱりすごいねー」
「綺麗だよね。このゲームではここと四層そのものだけだし」
久しぶりの和風エリアを堪能していると、待ち合わせ相手のカスミがやってきた。
「聞いたぞ、二人が撤退とは珍しいな」
「万全の態勢で挑んだ方がいいと思ってさ」
「そうだな。毎回【ピアースガード】を使うわけにもいかないだろう。一区切り付ける十層なだけあって貫通攻撃だけじゃない。バフ消去やデバフも以前より見るようになった」
「カスミは攻略は順調?」
「ああ、順調だ。四層エリアということもあって楽しく進められている」
「ここも普通にクエストを進めていくのとはちょっと違うんだっけ?」
「そうなるな。クエスト自体は発生するが、クリアした時に同じ場所で次のクエストに即繋がるというのは稀なケースになる」
「へえー……じゃあどうするの?」
「クエストクリアや特定エリアの到達……そういった条件を達成することで、あるポイントが貯まるんだ。それを貯めきることが最終目標になっていると思う」
一度探索した場所でもポイントの量に到達エリアの数や種類、持っているアイテムやゴールドなど、条件の変化がクエストを誘発する。
そのため探索はかなりの手間を要するものとなっていた。
ただ、それはカスミにとっては苦ではないようで、隅から隅まで探索し、攻略の進行度によってNPCの反応が変わったりすることを含め、この和の町並みを楽しんでいた。
「話は聞いていたからな。観光ついでに二人にはこの町の攻略を手伝ってもらいたい。ちょうど町の中だけで終わらせられるクエストがいくつかあるんだ」
「任せてください!」
「それに私達が行くことで別のクエストが見つかったりする可能性もあるよね。ほら、イズさんにも色々な素材を持ってるって言われた所だし」
「それにも期待している。どうしても一人だと見つからないものもあるだろうからな」
「頑張ってきます!」
「ああ、頼んだぞ」
パーティーを組んでおけば受注者のクエスト達成に貢献できる。今は可能な限り戦闘を避けたい二人は町から出ないでできる手助けを探していたのだ。
「今回のクエストは簡単だがちょっと面白いんだ。二人には買い物をしてもらう予定でな……見てもらった方が早いだろう」
まずは一度見本を見せようと、カスミはマップを確認して少し行った先の店へと入っていく。
「おじゃましまーす……」
「骨董品店……かな?」
カスミに続いて店の中に入った二人の目に飛び込んできたのは並べられた陶器や飾られた武器。通常のNPCショップとは雰囲気が異なる店内を見渡していると、カスミは並んだ物品を一通り見ると最後に一つの陶器を手に取った。
「ふむ……」
「これを買うの?」
メイプルもその陶器を確認するが、効果等の説明欄は全て空白、アイテム名も『貴重な陶器』となっておりどういったものかは分からない。
「そうだな。今回はこれだ」
そう言うとカスミはNPCの店主とやりとりをし、二人の見ている中上手く値切って納得いく値段でそれを手に入れたようだ。
「二人とも見てくれ」
アイテムがインベントリに入ると同時に本当のアイテム名が判明し、『貴重な陶器』は『鬼灯』という固有名に変わった。
「おー、つまりこれが狙いの真作とかそういうこと?」
「流石サリー、理解が早いな。そう、今回のクエストはこの町にあるいくつもの骨董品店から必要な数の真作を見つけて買ってくることだ」
「む、難しそう……」
「私が一人でやってもいいんだが、いかんせん数が多くてな。それに二人にとってもちょうどいい息抜きになると思ったんだ」
「確かに。メイプルの言う通り難しそうではあるけど……十層でも戦闘続きだったしね」
息抜きに頭を使ってのクエスト攻略も悪くない。ただ、二人が感じているようにどうやって見分ければいいのか分からなければ困難を極めるだろう。
「私が自分用にまとめておいたメモがある。本物の特徴をそれぞれ真作の種別ごとに記載したものだ。もちろんまだ完璧でない部分もあるだろうが、これを見れば少しはやりやすくなるはずだ」
「なるほど。それなら」
「うん、やってみよう!」
「必要なゴールドは渡しておこう。気にしないでいい。クエスト受注時に配られたもので、これはクエストでしか使えないんだ」
「無駄遣いできないねサリー……」
「勿論偽物を買ってもゴールドは減る。ふふ、しっかり見極める必要がある」
そう言うとカスミは二人にメモを共有する。足りなくなれば自腹だということだろう。そう何度もミスを繰り返すわけにはいかないと、二人はカスミのメモを確かめる。
「任せて……えぇ?」
「すっごい多いっ!」
送られてきたメモのページ数を見て二人は目を丸くする。カスミはこれを全て覚えて、当然のように今の買い物をしたのだと思うと、見分ける箇所の多さにくらくらしそうだ。
「これ全部買って見分けたってこと?」
「いや、他の町にもあるような図書館の力を借りた。攻略のヒントとして、見分け方が書かれた本があったんだ。カナデのお陰で図書館の有用性は証明されていたからな」
「が、頑張らないと!」
「そうだね。息抜きとはいえミス続きは良くないし」
「二人の活躍に期待しておこう。目的の店は町に点在している。人力車を使うと楽に回れるぞ」
「ちょうどいいね。移動中にメモに目を通しておきたい」
「うん!今のままじゃ何も分からないもんね」
カスミと一旦別れて、二人の四層エリア骨董品店巡りが始まったのだった。




