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防御特化と歪んだ空間。

光が収まり全ての機械が再停止した頃、メイプル達は完全な別空間にいた。


「うわあ……どうなってるんだろう?」


「落ちたら……まずいかもね」

メイプル達がいるのは宇宙のような暗い空間。どこまで広がっているのか分からないその場所には、足場となるような岩石や建造物の残骸が浮かんでいるだけで天井も床もない。

今いる足場の淵から下を覗き込めば、広がるのは漆黒の奈落だけだ。


「ええ。ある程度落ちちゃうと即死しちゃうから気をつけて。どこまで行ったらアウトかは正確には掴めていないの」


「分かりました。気をつけます」


「メイプルちゃんもね。防御力ではどうしようもないから」


「はいっ!」


「二人なら分かると思うのだけれど……マイちゃんユイちゃんと一緒に戦ったボスで重力方向が変わる相手がいたわよね?」


「いました」


「えっと……『魔王の魔力』をくれたボスだよね?」


「その時みたいに重力方向が切り替わる場所があるから気をつけて」


「分かりました」


「気をつけます」

今回は飛行機械がある分融通は効くが、突然意図しない方向へ強制落下させられれば操作ミスも起こりうる。

事前の共有に感謝し、注意深く進むことにすると順路を探して二人は改めて辺りを見渡す。


「ボスまでは一度たどり着いているから案内は私がするわ。二人はモンスターの対処をお願いできるかしら?勿論いつもより積極的に火力支援もできるわよ」

イズは飛行機械を元のサイズに戻すと操縦席に座って、いくつかの兵装を動かしながら外の二人にスピーカーで声を届ける。


「任せてください!」


「道案内はお願いします。あとは重力方向の切り替わるエリアの位置と敵の情報について分かっているだけ」


「ええ、共有するわ。事前にまとめておいたの」

イズはそう言うとメッセージでまとめた資料を送り情報共有を行う。

クリアできなかったダンジョンと言うだけあって、道中の敵やボスの行動は強烈だ。加えてエリアそのものもこちらに不利な戦いにくい場所である。


「気を引き締めていくよ」


「分かった」

二人はモンスターが出てくる前に共有されたデータを頭に叩き込むと、前を進むイズの飛行機械を追って移動を開始した。


イズに教えてもらっているため、突然の重力変化に怯える必要はあまりない。

二人はまだ未発見なギミックの存在を警戒しつつ、飛行機械の性能を活かし高低差のある浮かぶ足場を一つ一つ軽やかに飛び移っていく。


「この辺りで……来たわ!」

その言葉に二人は武器を構える。前回同様、イズ達が出会った場所でモンスターが湧く。暗い奈落が三ヶ所グニャッと歪んだように見えたかと思うと、暗闇を裂いてモンスターが現れる。

体はガラス製のように透明、透けた内部では音を立てて動力となる機械が駆動する。胴長の機械魚はメイプル達がそうするように空中を自在に泳ぎ回ると、時折次元の狭間へ消えるように暗闇に潜行し三人を取り囲みながら距離を詰めてくる。


そうして一定距離まで近づいてきたかと思うと、急激に潜行頻度と移動速度を上げ戦闘モードに入った。

機械魚の泳ぐ軌跡にまるで鱗が散るように輝く小さな歯車が舞った直後、それらは急加速し弾丸のようにメイプル達に向かってくる。

イズから貰った事前知識でその一つ一つに防御貫通効果があることを知っているメイプルは【身捧ぐ慈愛】は使わずに装備しておいた純白の盾を構える。

珍しく体で直接受けられないため盾を構える必要があるが、【悪食】はまだ温存しておきたいのだ。


放たれた歯車の軌道はあくまで直線的なもので、近づかれたといってもまだある程度の距離はある。そのまま来る限りメイプルとて防御できないものではない。

しかし。飛来する歯車は魚達と同様に途中で次元の狭間へ消え、四方八方へ散りながらタイミングをずらして襲いかかってきた。

死角を潰すように周囲を確認し、着弾順を計算して順に弾く。

それができれば被害は出ないだろうが、それはそう簡単なことではないのだ。


「大丈夫」


「【挑発】!」

メイプルにぴたりと張り付くのは最後の砦にして最強、不可侵の盾。

むしろ攻撃を引きつけて、メイプルが対処可能な量は超えている。それでも守るのは正面だけでいい。

ギィンギィンと音を立てて、的確に、完璧に、サリーのダガーは多方向から迫る歯車を叩き落とす。

イズのお陰で事前に攻撃内容を知っていたサリー。初見の攻撃すら避けて撃ち落として見せるその技能を前に、既に手の内を明かしていては軌道をいくらか複雑化しようともその守りは貫けない。


「【展開・右手】!」

守りをサリーに任せてメイプルが反撃の銃弾を放つ。しかし敵の守りも固く、メイプル達が攻撃を弾ける距離感を保っているが故に、着弾に合わせて次元の狭間へ潜ってしまいメイプルの攻撃は当たらない。

それでも。継続的な遠距離攻撃ができるメイプルが敵の回避を簡単に誘発させられるのは確かな事実なのだ。


「流石よ。これなら……!」

長距離かつ着弾までのラグが少ない攻撃。普段のイズには難しいが、改造に改造を重ねたこの空飛ぶ装甲車に乗っている内は別だ。

実体を見せた機械魚を素早い操作でロックオンすると、イズはガシャンと大きなレバーを引いた。

取り付けられた巨大な砲口が赤く発光する。そこから溢れ出した炎は指向性を持ち、泳ぎ出てきた魚に向かって一直線に襲いかかった。

遠く暗闇を照らすように、魔法使いの操る高威力の魔法にも劣らない炎が大きなダメージを与えていく。


「すごーい!」


「どれだけ改造したんだろうね……」

あの様子だと射程や威力も普通に砲を取り付けただけのものではなさそうだ。


「っと、気にしている余裕は流石にないか……!」


「任せたよサリー!」


「大丈夫。ミスはしない」

今回の防御の要はサリーだ。ステータスや保有するスキルだけ見ればそれはおかしな話ではあるが、事実この戦線が安定しているのはサリーの技術によるのである。


「本当……あれは真似できないわね」

期待通り異次元の対処で被害をなくすサリーを操縦席で確認しつつ、イズはメイプルと連携しての撃破のため、次の弾を込めて機械魚が現れる瞬間を狙うのだった。




「イズさん!」


「ええ、任せて!」

メイプルのレーザーを避けながら歯車を射出し、攻防一体の動きで攻め立てる機械魚。しかし次元の狭間より出てきたところを正確に狙われ続けては苦しく、一匹二匹と撃墜されていく。それでも絶えず飛ばし続けた輝く歯車は百を超えるだろう。

その上で防御貫通かつダメージも無視できない。相当なプレッシャーを持つ弾幕は、基本的にどんなプレイヤーにとっても脅威であるのは間違いない。


「うん。そろそろ大丈夫かな」


「最後の一匹!」

それでも、その全てを撃ち落とす怪物が敵にいては一切ダメージに繋がらないのだ。

まるで機械であるかのように、機械魚よりも精密に正確無比に。この埒外の存在、サリーによって本来機械魚が有利に進められるはずのダメージトレードは成り立たなくなる。


一匹倒れる度弾幕は薄くなる。最大出力で越えられない守りを越えられるようになることは当然なく、やがてメイプル一人でも盾で受け切れてしまうほど弾幕は薄くなっていった。

そうして、イズの放った暴風の砲弾が最後の機械魚の頭から上を粉々にしながら吹き飛ばし、奈落へと沈め第一戦はメイプル達の完勝と言える結果となったのだった。

まず無事に敵を退けた所でイズから声がかかる。


「流石ね。でも、大丈夫?かなり大変な役割だったと思うわ」


「大丈夫です。これくらいならあと何回やっても」

これくらいというにはあまりに負荷の大きい戦闘だったとイズは認識しているが、サリーの言葉からは嘘をついている様子や無理をしているような雰囲気は感じられない。

つまり、本当にこれくらいは当たり前にこなせる程になったということなのだろう。

サリーもこのゲームを続けて随分時間が経った。元から高い技術を持ってはいたが、戦闘経験を積むことでそれはより磨き上げられた。

であればこのパフォーマンスを続けられたとしてもおかしくはない。


「分かったわ。でも無理はしないでね」


「はい。あくまでボス戦が本番ですから」

ボスまではメイプル達なしでも辿り着けているのだ。二人の力が本当に必要になるのはまだ先である。その時になってガス欠では手助けするためにここへ来た意味がないからだ。




サリーの負担を気にしつつ、一行は順調に奥へと進む。

結果として、イズの心配をよそにサリーは宣言通り重要な役割である防御面を担い切ってみせた。そう、目の前にはボスへとつながる扉が聳え立っていたのである。

扉は浮かぶ瓦礫の上にあり、後ろは暗闇が続くばかりだが、何度も見てきたボス部屋の証であり間違いはない。

今回はそもそもが普通の壁や床があるダンジョンではないのだ、ボス部屋は扉の向こう、隔絶された空間となっていると予想がつく。


「それにしても驚いたわ……すごいすごいとは思っていたのだけれど……」


「本当にすごいよー!いくつ弾いたんだろう……?」


「強くなるために日々特訓してるからね。あと、決闘相手も手数とか遠隔攻撃とかで攻めてくるタイプだし慣れてた部分もあるかも」

言うまでもなくフレデリカ、続いてベルベット、稀にウィルバート。

この面々を相手にして勝ち続けられることそれそのものが、サリーの弾幕への対処がいかに上手いかを示していた。


「さて、まずは分かっている部分を再確認しておきましょう」


「ですね」

まずはボス戦前に敵の攻撃パターンを改めて確認する。中にいるボスは道中モンスター同様機械でできており、見た目は大きな白鳥のようなものだ。

かつて戦った『銀翼』とはタイプが異なり、優雅に空を飛び肉弾戦は仕掛けてこないものの、時空を歪めて金属製の羽をあちこちから射出してくるのがベースとなっている。発射された羽は途中で次元の狭間へ消え四方八方から襲ってくるのは勿論、急停止や急加速すら可能としているとのことで、弾くこともより難しくなっている。

やはり雑魚モンスターとは格が違うというわけだ。


「これだとイズさん達が四人でクリアするのは厳しいのも分かります」

カナデは本を粗方使い切って対人イベント前のスペックに戻るのにまだ時間がかかる上、そもそも魔法障壁はそう連発できないため、この手数で着弾のタイミングまでずらされては被弾の許されないマイとユイを守るのは困難だ。


「とはいえ大盾使いも相性がいい訳ではないし……強力なボスだと思うわ」

雑魚モンスターが標準搭載していた防御貫通は当然ボスも備えている。

メイプルとしても【身捧ぐ慈愛】で完封して、相性有利を活かして楽に戦えるような相手ではない。


「イズさんには頼もしい飛行機械があるから、それを活かしながらやろう」


「おっけー!」

防御貫通を前提とするため、メイプルより装甲車の中のイズの方が安定して耐えられる。

必要に応じてイズにも敵の攻撃を受け持ってもらうこととしつつ、基本の形は変わらない。

メイプルとイズのどちらかが敵の回避を誘発し、もう片方が攻撃を通す。

サリーは防御に全リソースを注ぎ、敵の攻撃を無効化することに専念する。

道中から変わらず作戦の要はサリーだ。


「ふー」

激しくなることが予想される戦闘を前にサリーは一つ深呼吸をして集中力を高める。


「大丈夫そう?」


「任せて。それに……練習しておいたとっておきを見せてあげる」


「頑張って!」


「ん、そっちこそ」

自身あり気に言うサリーを疑う必要はない。昨日も今日も明日も、メイプルはサリーを信じている。任せてと言われたなら、後は自分の役割を果たすのみだ。


「最後にバフだけかけて入りましょう。底上げはいつだって重要よ」

イズは三人に効果が掛かるようにいくつもの香を焚き、結晶を砕いて、ポーションを手渡す。

全員の体から複数の輝くオーラがゆらめく中、バフの効果を少しでも長く残すために、三人は目の前の扉を開けて、急いでボス部屋の中へと飛び込んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >防御貫通効果を持つ歯車型自律兵器群  メイプルだけを殺す機械かよ!(汗) [気になる点] 高機動接近戦射撃戦から砲撃戦までこなし分身まで使うサリーはF91っぽいな [一言] メイブル…
[一言] ボスの概要を読んだ後、運営の声が聞こえた気がします。 「フッフー、鈍足では避けきれない無数の弾丸に防御力を無視する貫通攻撃。今度こそメイプルを倒してやる!」 っと。
[良い点] イズの飛行機械も凄いけどサリーも凄い。 [気になる点] 飛行機械に乗っていてる被弾の許されないマイとユイが今後どのような活躍を見せてくれるのか気になりました。 [一言] 次回も楽しみです。…
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