防御特化と魔力収集2。
マイとユイの異次元の攻撃力によって通り道にいるモンスター全てを蹂躙して辿り着いた目的地。目の前のどこまでも広がっていくような草原には柔らかな風が吹いている。
辺りにはモンスターはおらず、特に目立った建造物もない。洞窟や、毒塊を倒した時のような地面の亀裂も見当たらない。
空を見上げてもそこには青空がどこまでも広がるばかりだ。
「ここ?」
「マップを見る限りはそのはず」
「ですけど……」
「ないもないような」
しかし、目的地がここであることは間違いない。それを証明するように、直後発生した大きな地響きに四人はすぐに気づいた。
目の前から溢れるように広がった黒。メイプルの【再誕の闇】のエフェクトにも似た現象に、四人は急いで距離を取り様子を窺う。
何かが出てくるのか、先制攻撃か。クエストに関係するものであるのは確かなため、油断はできない。
「……何も起こらないね」
「黒いのも止まったみたいです」
「真ん中に光って見えるのは……魔法陣でしょうか?」
溢れる闇の拡大は止まり、端の方がゆらめく以外には動きもなくなった。中央には黒い輝きを放つ魔法陣らしきものがあり、怪しげにメイプル達を誘っている。
「メイプル【身捧ぐ慈愛】は今のうちにお願いしたい」
「おっけー!」
ここから先は道中ほど楽に勝てるわけではない。さらに言えば、今回も変わらずマイ、ユイ、サリーは一撃も受けるわけにはいかない。
メイプルの【身捧ぐ慈愛】は戦闘において必須のスキルだ。
「念の為アイテムの効果を再確認しておくね」
依頼を受けた時にもらったアイテムは、ボスの使ったスキルの効果を打ち消す使い捨てのアイテムだった。
相当強力なアイテム、それが三つも。この先にいるのが生半可な相手でないことは明らかだ。
アイテムは二つをサリーに一つをメイプルに持たせてある。判断能力に優れたサリーが基本的にアイテムを使うことにして、リスクを分散させるため、最も倒されにくいメイプルに残る一つを持たせている。
強敵の気配に四人は気を引き締める。敵が強かろうと自分達も強いことに変わりはない。過剰に恐れることはなく、メイプルの【身捧ぐ慈愛】に守られる中、黒く輝く魔法陣上に足を踏み入れた。
黒い輝きに包み込まれて転移した四人は、光が収まっていくとともに見えるようになった周囲の状況を確認する。
周りは先ほどと同じく開けた草原だ。では違いはといえば、晴れ渡っていた空が今はどんよりとした雲に覆われていること、そして強くなった風が不吉な予感を伝えてくることの二つとなる。
「来るよ」
ここに来た時と同じように地面に闇が広がっていく。ただ、さらに別の場所へ転移などということはなく。そこからは一体のモンスター、四人が受けた最終クエスト、倒すべき相手であるボスが姿を現したのだ。
枯れ木から伸びる枝のような細い漆黒の手足はパキパキと音を立てながら動き、ボロボロの外套は赤黒い血に汚れ、頭にはマスクのように顔まで覆う動物の骨。手に持った骨でできた杖は先端から両目と同じ不気味な青い炎をゆらめかせており、四人に強烈なプレッシャーを与えていた。
ボスが腕を伸ばし杖を振るう。それに合わせて渦を巻くように暗い闇が動き出し一気に辺りに広がっていく。
「さ、集中していこう!」
「うん!」
「「はいっ!」」
闇が晴れていく。メイプルの【身捧ぐ慈愛】がなくともこれはノーダメージ。それはかき集めてきた事前の情報から知っていたことだ。
周りに広がっていた草原はどこへやら。メイプル達は高い木々が立ち並ぶ深い森の奥にいた。ボスは消えており、辺りからガサガサと幾つもの敵の気配が近づいてくる。
「森か、運いい方だね。ここはなしでいこう」
「おっけー!」
ボスのスキルによって複数パターンからエリアが選ばれ定期的に切り替わるギミック。
渡されたアイテムは相性の悪いエリアをスキップして再抽選するためのものだ。
メイプルのお陰で四人の受けは広い。他のプレイヤーなら耐えられないような場面でもメイプルなら何もないものとして扱える。選ばれるエリアの中でも厄介な地形効果がない森を最初に引けたのは、四人にとってかなり運がいいことだ。
四人を囲むように黒い人型モンスターが次々と現れる。闇をくり抜いたような漆黒の体に、ボスと同じ青い炎の揺れる瞳、長い腕と爪、ひょろひょろとした体はスピードタイプのモンスターを思わせる。
四人の想像通り、数十体のモンスターは素早く動き回ると、目にも止まらぬ早さで駆け抜けながら攻撃を繰り出してきた。
囲まれている、つまり死角からの攻撃が必ず発生するということ。それに反応できたのはサリーだけ、残りの三人はなすすべなく爪で次々と攻撃されてしまう。
「だいじょーぶ!」
「「ありがとうございますメイプルさん!」」
防御貫通効果がなければ短期決戦に持ち込む必要も、慌てていくつものスキルを使う必要もない。見た目通りスピードはあるがパワーはないようでノックバックも付いていない。
数を活かした息つく暇のない連続攻撃だが、今回もまたメイプルにとっては何もないのと同じだ。安全が確定したメイプル達は消えたボスの姿を探す。
「どこだろう?」
「ここボス以外は無限湧きだから探さないと」
「私達で減らしておきますね」
「探しやすいように……」
敵の方から向かってきてくれるなら好都合。マイとユイが回転させ始めた計十二本の大槌が近づく者全てを粉砕する。
基本フィールドでのレベル上げはこれでやっているためマイとユイもこの基本動作には慣れたもの。オート操作ではないにもかかわらず、攻撃しつつボスを探すことができていた。
「いた!」
周りのモンスターを薙ぎ倒しているうち、サリーは木々の隙間にボスの姿を発見した。
「お姉ちゃん!」
「うん……!」
見つけさえすればこちらもの。メイプルの防御に守られていることが分かっている二人は回転させていた大槌を止めてボスを見据える。
飛びかかろうとするモンスターなど気に留めず、二人はボスへと衝撃波を放った。
「「【飛撃】!」」
目の前のモンスターが全てガラスのように砕け散る。木々は幹から爆散して崩れ落ちそれに巻き込まれるようにボスがぐしゃぐしゃに潰される。完璧に決まった必殺の攻撃。それでも、HPは半分以上残っていた。
「まだ情報にはなかったけどこれワンキルは無理みたいだね」
できるプレイヤーが増えてきたとはいえ、下準備も無しにボスクラスを気軽に一撃で葬れるとなるとマイとユイだけだ。この情報がなかったのも当然と言えば当然である。
狙い通りに一撃即勝利とはならなかった四人を黒い闇の奔流が飲み込む。
「ダメージないよ!」
「ってことは……」
視界が晴れるとそこは真っ白い正方形の部屋の中。ボスの姿も見えている。これならと武器を構え直すマイとユイ。
「気をつけてここはまだ情報になかった……っ!?」
ボスが杖を振ると四人の体が宙に浮く。いや、『地面へと落ちる』。反転した重力は天井を地面としてメイプル達を強制的に移動させた。
「わわわっ!?」
「【身捧ぐ慈愛】が効かないだけマシだけど……!」
メイプルが重力方向の変化を全員分受け持ってしまっていればマイとユイが取り残されていた。
しかし、落ち着いている暇などないと、頭蓋骨の形をしたいくつもの黒い輝きが落下する四人に放たれる。
先ほどのエリアと違い攻撃に付随する効果は未知数。迎撃態勢も整っていない中、受けるのはリスクが高いとサリーは判断した。
「メイプル、面白いの見せてあげる!【水竜】!」
竜巻のような太い一つの水流がサリーの展開する青い魔法陣から放たれる。先端には水でできた竜の頭部がついておりうねる水流そのものが一体の竜のようだ。
それは飛んでくる攻撃を飲み込んで無力化しながらボスへと迫る。ボスはそれを即座に転移して回避したものの、その隙に四人が着地し体勢を整える余裕ができた。
「ふふ、メイプルの【毒竜】にも負けないよ」
「さっすがサリー!【水操術】?」
「そそ」
使い込んでいるだけあって、レベルも上がりスキルも増えた。サリーのお陰で一旦落ち着ける。こんな部屋はさっさと攻略して脱出するに限ると、四人は浮かびながら距離をとって再度杖から黒い輝きを放つボスを見据えるのだった。
ここから反撃。と、意気込んだはいいものの、現実はそう上手くもいかなかった。
重力方向の切り替わりが想定以上に早く、戦闘の要である極振り組三人の対応が追いつかないのだ。
「わわわわっ!」
「メイプルさーん!」
「止まっていられないです……!」
「ボスは転移するし……着地する度すぐ重力変えられると……」
現状転がっているサイコロの中に入れられているような状態で、とても戦闘どころではない。
何とか順応できているサリーが魔法を撃ってもボスは瞬間移動によってそれを躱してしまう。ボスの攻撃をサリーが捌いている間は負けはしないが、勝つ頃にはメイプル達が疲弊して残りの戦闘に支障が出るだろう。
「メイプル、マイ、ユイ!ちょっとこの部屋はスキップする!」
「わ、分かった!」
「「助かります……」」
サリーがクエスト受注時に貰ったアイテムを使用すると、何もない真っ白な長方形の部屋だった周りの景色は崩れて、別のエリアへと移り変わる。
やってきたのはいくつもの大岩が並び死角の多いエリア。ここはサリーの頭に入っていた。森と近しいコンセプトであると分かっているサリーは、当たりを引いて安心したようによしと頷く。
そんな中メイプルはというと。
「サリーーー!」
地面から飛び出してきた大きなワームに突き上げられて齧られている最中だった。齧られているうちは身動きも取れず、攻撃もできない拘束状態だが、メイプルに限っていえばたいした問題ではない。
「ごめんメイプルちょっとそのままで!マイ、ユイ、先に周り片付けちゃって!」
メイプル本人が狙われているうちは他のプレイヤーがより自由に動きやすい。【身捧ぐ慈愛】は攻撃を引き受けるだけであって目の前からモンスターそのものをどかすスキルではないからだ。
「メイプルさん!」
「ちょっと待っててくださいね!」
モンスターを受け持ってくれているメイプルのため、二人は迅速に作戦を実行する。
いつも通り高速回転し始める必殺の大槌。しかしそれの狙いはワームではなく、周りの大きな岩石だった。
大槌が直撃する度、岩石はまるで発泡スチロールかなにかのように容易く崩れていく。響く轟音と舞う砂煙のみが目の前のそれが真に岩石であることを伝えている。
ものの数分で並ぶ大岩は全て小石に変わって、見通しの悪い岩のジャングルは草原よろしく真っ平になった。
「「終わりました!」」
「ナイス!そのままメイプルも助けてあげて」
特殊な防御手段を持たないモンスターではマイとユイの攻撃は受けられない。整地のために振るわれていた大槌がモンスターに向いた時、待っているのは死ただ一つだ。
マイとユイは拘束から解き放たれたメイプルを受け止めて、改めて周りを確認する。
大岩を砕き回ったせいで舞い上がった砂煙も落ち着いて、遮るもののないバトルフィールドにボスの姿を視認する。
目の前には蠢くワーム達、本来そう容易く距離を詰めることなどできない陣形。
「メイプルさん、サリーさん!」
「ついてきてください……!」
「おっけー!防御は任せて!」
「最後はこっちで動きを止めるから」
とはいえそれは普通のプレイヤーであればの話だ。迫り来るワーム達とマイとユイが衝突する度、ただ一度攻撃動作をとることも許されないままワーム達は粉々になる。
まさに鏖殺。一歩歩くごと増え続けるキルスコア。攻防一体の回転する大槌が、新たに地面から飛び出し二人を狙う命を即座に刈り取っていく。弱点を埋める環境さえ整えられればマイとユイは最強だ。
ボスの攻撃はサリーが魔法で、メイプルが銃撃で相殺しているため、もはや二人の足を止めるものは何もない。
「朧【拘束結界】!」
サリーがほんの一瞬ボスの動きを停止させる。一瞬あればそれでいい。二人が射程内に入って攻撃準備を整えれば、瞬き一つする間に全ては終わる。
「「【飛撃】!」」
二回目の直撃。ボスのHPは半分を割った。HP残量を見るにあと二回で倒し切れる。一撃死はしないようになっているといっても、四発で確殺という事実は常軌を逸している。
「よーし!この調子でいこう二人とも!」
「「はいっ!」」
まずはエリア変化で当たりを引くことだ。それができれば格段に楽になる。そして、そうでないとしても。
「……よし」
サリーは残るスキルとそれを使って組み立てられる戦略を脳内で整理する。
勝てそうな時ほど、足元を掬われないよう気を配っておかなければならない。
特にこのパーティーにおける危険感知の比重ははサリーにかなり偏っている。
つまらないミスで負けないように冷静に対応するのがサリーの役割だ。三人が押せ押せのムードの中、サリーはしっかりと気を引き締めるのだった。
目の前で世界は黒い輝きに覆われ再度崩壊し、素早く再構築される。
辺りは眩しいほどの赤。燃え盛る炎に完全に包まれていた四人は、直後メイプルから弾けたダメージエフェクトを見て状況を把握する。
「【救済の残光】!」
メイプルが削られるということは固定ダメージ。それも複数人の分を一気に受け持ったせいでHPは大きく削れ、スキルによる自動回復込みでも受け切れない。
ここはアイテム使用での転移が安定択。メイプル達でなくとも固定ダメージを与える炎の中で戦いたくはない。誰もがまずそう思う。
「メイプル!」
「うん!」
やはり、情報こそ最大の武器だ。サリーは炎の向こうの黒い輝きをしっかりと見据える。
赤一色の背景に、ボスの纒う黒い輝きはよく映える。
このエリアの情報はあった。その中でも最重要だったのはボスが一定時間ごとでしか移動しないというものだ。
「【水の道】!」
「【全武装展開】!」
サリーはマイとユイを糸で繋いで空中に伸ばした水を泳ぐ。メイプルはそれに合わせるように爆風で真下を飛んでいく。
メイプルの役目は【身捧ぐ慈愛】の範囲内に三人を入れ続けること。サリーの役目はマイとユイを空中に浮かぶボスの元へ届けること。
思わず再抽選したくなる中、四人は踏みとどまって超短期決戦を仕掛けたのである。
「動かないなら簡単です!」
「ユイ!」
サリーが糸で無理やり引っ張り上げているため身動きは取りづらい。正確に狙って攻撃できないからと二人は宙に浮く十二本の大槌を、縦に三本横に四本と並べ替えて長方形を作る。
「「せーのっ!」」
隙間がなければ外れようがない。マイとユイが息を合わせて振り下ろした大槌は、まるで一本の巨大なハンマーのようになってボスの体を強打し、轟音と共に地面へと叩きつけたのだった。
「よしっ、ナイス二人とも!」
サリーは上手く着地すると、マイとユイに繋いでいた糸をほどく。
「上手くいきました!」
「よかったです……」
「ありがとー!難しいのに一発だったね!」
成功しなければメイプルが耐えきれないため即再転移だったが、ここはマイとユイの素晴らしいプレイングが光った。
「アイテムも二個残ってる。落ち着いてラスト決めよう」
「うん!」
「「はいっ!」」
ボスのHPもマイとユイであればあと一発分。炎が消え去り、辺りに黒が広がっていく。いつの間にか周囲はここに来る前と同じ障害物一つない草原に変わっていた。
そんな中目の前の地面からズッと這い出るようにボスが姿を現す。それを見て、ここで決着をつけると、マイとユイは即座に大槌を叩きつけた。響く轟音。大槌の下に見えなくなったボスはしかし、大槌をすり抜けてそのまま一歩前に踏み出すと、目の前に魔法陣を生成し黒く輝くレーザーによって攻撃してきた。
「効いてないです……!」
「あ、当たったはずなんですけど」
「大丈夫!こっちも効いてないからっ!」
「「メイプルさん!」」
狼狽える二人をメイプルが落ち着かせる。そうしているうち、周りからは次々とボスと同じ見た目の敵が産み出されていく。
「大丈夫大丈夫、こっちにはメイプルがいるし、相性は悪くないはずだから。落ち着いて本体を探して」
「「はいっ!」」
倒すことのできない敵に囲まれ、四方八方から次々に強烈な魔法攻撃が飛んでくる。
それだけ聞けば絶望的だが、そこにメイプルを一つ置くだけで不思議なことにそれら全ては問題なくなるのだ。
あとはこの中からボスを見つけ出す必要がある。攻撃がすり抜けて倒せないのは厄介ではあるが、悪いことばかりではない。
「いつも通りやるよお姉ちゃん!」
「分かった」
「こっちは任せて!【攻撃開始】!」
「【鉄砲水】!」
四方を向くよう背を向けて、四人はそれぞれの方角へと攻撃を開始する。マイとユイは大槌で、メイプルは銃撃で、サリーは呼び出した水に混ぜたアイテムによる攻撃によってボスの幻影と言える敵達を次々に攻撃する。
今回重要なのは威力ではなく攻撃範囲。メイプルが角度を変えつつばら撒けるだけばら撒いた銃弾。そのうち一つが確かにダメージエフェクトを上げた。
「いたかも!」
本体まで攻撃が効かないなどということはない。その予想は当たっていたようだった。
「【超加速】!」
「二人とも乗って!」
サリーが見失う前に一気に加速する。展開した兵器にマイとユイを乗せたメイプルが【カバームーブ】で追いついて、サリーの速さを活かして距離を詰める。
「マイ、ユイこの辺り!振り回して!」
「「【決戦仕様】!」」
サリーの言葉を受けて二人は大槌を振り回す。いくつもの幻影をすり抜けて、二人は当たりを掴み取る。回転する死の具現たる鉄塊はバキィンと高い音を立てて、ボスを文字通り粉々に砕き割った。
「当たったー!」
その音は四人の勝利を示すもの。上手くいったと笑顔のマイとユイにメイプルとサリーも笑顔を返して、辺りに広がる闇が消えて元の景色に戻っていくのを眺めることにするのだった。
ボスの撃破に合わせて元のフィールドへと戻ってきたメイプル達は、まず空中をゆっくりと落ちてくる黒い塊を確認した。
それは四人の目の前まで落ちてきたところで静止してふわふわと浮かんでいる。
「手に取ってみたら?」
「うん」
メイプルはサリーに言われて塊に手を伸ばす。そうして手を触れた途端。黒い塊は弾け、同時にクエストクリアの通知が流れた。
メイプルとサリーが確認するとインベントリの中には『魔王の魔力・Ⅰ』というアイテムが一つ入っており、アイテム説明には全て集めて使用することで魔王への道が開くという内容が書かれていた。
「パーティー全員が持っている必要はなくて、使ったプレイヤーのパーティーを連れていくって感じ」
「じゃあ皆で集めていけば結構すぐなのかも!」
「一回入ってみるだけならギルドで協力するのが一番手っ取り早いね。自分のタイミングで何回もドロップ品を狙うとかだと全制覇しないと駄目だけど」
今回の目標は忙しくなる前に魔王を撃破すること。サリーの言うようにメイプルはドロップ狙いというわけでもないため、皆で協力して進められるのは助かるポイントだ。
「これで今の町のクエストは一段落したのかな?」
「そういうことになるね。前も話したけど隠しエリアとかイベントは探し出すとキリがないから、一旦後回しかなあ」
やはりあるかないかわからないものを探すのは難しい。さらに言うならメイプルには時間もそこまでない。持ち前の幸運によって偶然出会うことに期待して、魔王挑戦のために必須となるエリアの探索を進めていくのがベターだ。
「マイ、ユイ、すっごく助かったー!今日はありがとう!」
「お役に立てて嬉しいです!」
「タイミングが合えばまたいつでもお手伝いします……!」
マイとユイの手助けはメイプルとのシナジーもあってとても強力だ。可能ならボス戦では力を借りたいところである。
「メイプル、次はどこへ行ってみる?」
「どうしようかな……言ってた通りに三層エリアの方とか?ほら、空を飛べる靴とかあるんだよね?」
「「ありますっ」」
「それだと私は嬉しいかも。やっぱりこの靴だけだと空を飛ぶにも限界があるからさ」
【水操術】【氷柱】【糸使い】に【黄泉への一歩】の足場生成。スキルによってプレイヤーには通常不可能な空中機動を可能にしているサリーだが、クールタイムや【黄泉への一歩】発動時のステータス低下がある以上制限はある。その点三層にいた頃使っていた機械にはそれがない。この後の戦闘の自由度が大きく変わってくるなら攻略順は先の方がいい。
「三層エリアは私達とイズさんカナデさんで攻略中です!」
「聞いてくれれば教えられることもあるかもしれません」
「うん!頼りにしてるよー」
「「はい!」」
次の目的地も決まったところで、メイプルとサリーはもう一度お礼を言ってマイとユイの二人と別れたのだった。




