防御特化と十層。
目の前が一気に開け、メイプル達は小高い丘の上に立っていた。そうして辺りを見渡すと、十層の景色が飛び込んでくる。まず目に入ってくるのは正面に聳える雲を貫く険しい山。そしてその周りにいくつかの『見覚えのある』風景。
「あれ三層の機械か?」
「あの桜は四層だな。よくよく見れば和風の塔も見える」
「五層は上かな?あの辺りの雲の塊がそうみたいに見えるけど……どうだろうね?」
これまでの各層の総まとめ。
この様子なら他の層もきちんと存在するだろう。メイプル達が今いるのは自然に溢れたベーシックなファンタジー世界らしいエリア。
すなわち一層の風景の中だ。
「何だか懐かしい感じだねサリー」
「うん。もう随分経ったから。心機一転、攻略していこうよ。待っているボスのところまで」
「もちろん!」
メイプル達が話しているとメッセージが届く。送り主は運営陣。内容は十層の主目的と簡単な進め方の指針だった。
「えーとなになに……」
メイプルが内容に目を通す。
十層では魔王と呼ばれる存在が脅威として人々を脅かしている。いくつもの町を回って、多くのクエストをこなし、魔王の居場所を突き止め撃破することが最終目標となる。
「ふんふんなるほど」
各層モチーフのエリアごとには一際大きい町が一つありどこを拠点にしても問題ない。クエストルートも多岐に渡るため自由な攻略が可能、とのことだった。
「隠しアイテムやスキルもこれまでの層より多く配置されているから探してみるように……おおー!」
「もっと増やした!?すげえな。わざわざ書いてあるなら嘘ってこともないだろうし」
「十一層が恐ろしくなるような大盤振る舞いだな」
プレイヤーが強くなるなら敵もある程度強くなることが予想される。できるだけイベントには出会っておきたいものだ。
「見つからないのがどれだけあるかだよねえ」
「でもたくさんあれば一つくらいには遭遇できるんじゃないかしら」
「楽しみです!」
「探索もボスも……レアなイベントも!」
「とりあえず、一層エリア……でいいのかな?そこのギルドホームまで行こうよ」
「さんせーい!まずは休憩だね。ダンジョンも大変だったし!」
「そういうこと」
メイプル達はマップを見つつ近くにある大きな町へと歩を進めるのだった。
メイプル達はしばらく歩いて最も近くにあった町へとやってきた。
外観にはこれといって特別なところはない。目の前には石材によって綺麗に舗装された道。NPCの営む店が道を挟んで両隣にいくつもあり、奥には各ギルドホームが立ち並ぶ。建物の作りもよくファンタジー世界で見るような西洋風のものだ。
町の中のインテリアやNPCの雰囲気も特別目立つようなものはなく、だからこそメイプル達はここがかつて攻略したベーシックな一層。つまりは全てのプレイヤーの始まりの場所に近いものとなっていることを感じ取った。
そう、ここからまた始まるのだ。
「とりあえずまずギルドホームを目指します!」
メイプルが方針を伝えてマップを見つつ前を歩く。かつて見たような町並みといえど気になることはいくらでもある。一層と十層では売られているものは当然違ってくるだろうし、そこにいるNPCも異なる。用意されているクエストももちろん違う。
各層の要素が盛り込まれているといっても、同じものばかりというわけではない。
隠しエリアなどは特にそうだろう。
早く探索に出たい気持ちを抑えて、メイプル達は早足でギルドホームへと向かった。
ギルドホームへと到着したメイプル達は早速今後の方針について話し合う。
「この後はどうしよっか?」
「ここを拠点にして探索するか……他のギルドホームも開放して回るかかなあ」
広大な十層。各層モチーフのエリアごとに大きな町があり、そこにもギルドホームはあるようだ。各ギルドホームには転移の魔法陣で移動可能になっており、町から町へと場所を切り替えての探索がしやすい作りだ。
「全部開放した方がいい感じはするな。十層はどの町からでもイベントが進んでいくらしいしな」
「そうなると手分けした方がいいですかね」
「そうね。まずはそこからかしら」
探索するにもまず下地を整えてから。メイプル達はギルドホームの開放を第一目標として、さて次はどうするとなった時、クロムが切り出した。
「でだ。先に俺達から一つ提案……ってほどでもないんだが、ちょっと考えてることがあってな」
「「……?」」
心当たりがないのはメイプルとサリーだけのようで、何だ何だと続く言葉を待つ。
「十層とその後のイベントが終わったらしばらくログインが難しいって話だろ?それなら、二人が自由に攻略するのを手助けしたいと思ってな」
「ふふ、思い出を残すならいつだって楽しい方がいいよね」
レベル上げ、クエスト、ダンジョン攻略。
必要なら手を貸すし、優先する。
クロム達からの申し出はそういったものだった。
「イベントでも普段のレベル上げでもたくさん助けてもらったもの」
「恩返し……というほど畏まったものではないが、サポートしたいと思っている」
「手強いモンスターなら私達が!」
「役に立ってみせます……!」
いつだってゲームは楽しい方がいい。もちろんできることなら、離れるその時も。
「ありがとうございます!でも……今までもずっと助けてもらってたような……」
「はは、お互い様ってやつか。まあ、改めての決意表明みたいなもんだ」
「分かりました。嬉しいです」
メイプルとサリーもその申し出をありがたく受け入れる。元々隅まで楽しむためには皆の協力が不可欠だ。繰り返すことになるが、それほど十層は広い。
とはいえ、大目標は変わらない。この十層に潜む最強のボス。魔王と呼ばれる存在の撃破。本来ならそのために駆け回ってクエスト探しや情報収集をする必要があるだろうが、そこはクロム達が積極的にやってくれるとのことだ。
「とはいったものの……メイプルの方がちゃっかり重要なヒントを見つけたりしてな」
「んー、ありそうだなあ」
「ふふ、これまでのことを考えるとね」
「不思議ではないな」
「「メイプルさんすごいですから……」」
「そ、そんなにうまくいくかなあ」
「……いきそうかも?」
「もー、サリーまでー!」
「ふふ、ごめんごめん。で、メイプルはどうしたい?」
全力でサポートしてもらえると言われたうえで、目の前には広大なフィールドとまだ見ぬいくつものクエストにダンジョン。遊び方も行く先もよりどりみどりだ。
「……じゃあさサリー、皆もそう言ってくれたし、せっかくだから全部一緒に見て回ろうよ!」
「ははっ……うん。選んでいただき光栄です。メイプルさんの盾となり剣となりどこへでも」
「あはは、何それー!もー、よろしくね!」
「うん。任せて」
好きに楽しめばいい。肩の力は抜いて、頼れる仲間をたくさん頼って。こうしてメイプルとサリーの十層探索の幕が開く。
目一杯遊ぼうね。




