防御特化と日常11。
「やりました!」
「上手く決まりました!」
事前に準備してきた連携の一つ。それぞれが役割を遂行し、メインアタッカーに完璧に繋げた。
一撃ですら耐えられない程強烈な二人の攻撃。
それが十六連撃になって耐えられるものなどそういない。記憶を遡っても、しっかりと耐え抜いたのは複数ギルドで囲んで倒したレイドボスくらいである。
しかし。炎の壁から黒い影は空へ舞い上がる。王はいまだ健在、しかも驚くことにそのHPは想像の数分の一しか減少していなかったのだ。
「「ええっ……!?」」
「マイ、ユイ!」
「一旦引くぞ!」
カスミとサリーは困惑する二人を抱き上げてその場から即座に離脱する。
火炎が四人のいた場所を焼き尽くしたのはその一瞬後だった。
「ダメージ自体は入ってる。威力に応じたシールドか何かか?」
「ですね。どのプレイヤーの攻撃力も上がってますしワンキルされないようになっているのかも」
通常攻撃や基本スキルでここまでダメージが出るのは二人くらいのものだが、ヒナタがデバフをかけた後のベルベットの【爆砕拳】や【多重全転移】使用後のペインの【断罪ノ聖剣】、それほどとまではいかずともバフやデバフを効果的に使えば他のギルドのメインアタッカーも大きなダメージを期待できる。
次はもう十層だ。積み重ねてきたスキルに対抗するべく敵も強くなっている。それが隠しエリアのボスともなれば尚更だ。
「そう簡単には勝たせてくれないということか!」
「それでもダメージは入ってるわ。同じようにいきましょう!」
マイとユイの攻撃に防御が働いても、最大火力がこの二人であることに変わりはない。
一発が重いため瞬間的なダメージが高く、リスクをとって攻める回数を減らせるのも強力だ。
「私とサリーでチャンスを作る」
「また見逃さずに攻めて」
「「はいっ!」」
二人が再度飛び出したのに合わせて、王は大量の炎を放つ。
「それはもう」
「見切ったぞ!」
降り注ぐ炎の雨の中を縫うように二人が駆け抜ける。空を飛び回り、発射位置を変えて次々に火球で攻撃するものの、宣言通りその全てを躱して距離を詰める。
盾を持たないプレイヤーにとって回避能力は生命線。スキルを使わないで攻撃を避けられれば避けられるほど戦いを有利に進められる。
サリーは言わずもがな。カスミの回避の練度も高い。
「【ウィンドカッター】【ファイアボール】!」
「【血刀】!」
サリーが魔法で障壁を剥がし、カスミがダメージを稼ぐ。マイとユイを中心としつつも、二人もダメージを稼ぐ。
集中力が切れミスが起こる前に戦闘を終えるためには、できる時に少しでも多くHPを削っておくことが重要だ。
ダメージを受けるばかりではないと王は次なる攻撃を繰り出す。
後方への炎の槍による攻撃。
広範囲かつ高威力。強力な攻撃ではあるものの、今回は後方に待機するメイプル達もより万全の準備ができていた。
「壁を使って!」
「メイプル、念のため【カバー】もだ!」
「分かりました!」
「【魔法障壁】!」
サリーとカスミが注意を引きつけている事間に設置したバリケード。緊急で対応した先程とは違いしっかりと複数枚重ねて置かれた分厚い壁は、カナデの障壁と合わさって、砕かれながらも王の攻撃を受け止めた。
「これなら手が空くな!メイプル!」
「サリー!私もいけるよ!」
「オッケー!」
「【全武装展開】!【攻撃開始】!」
直接当たらなくとも問題ない。メイプルは弾幕によって王の移動を制限し、あわよくば障壁を破りにかかる。
メイプルが攻撃に意識を向ける分、イズは緊急避難用のバリケードを設置しつつ、ゴールドを消費しその場で追加のバリケードを生産し防御を固める。時間と隙、資材さえあればこの防壁にクールダウンはない。
「【古代兵器】!」
メイプルの近くに浮いていた黒いキューブが光を放って拡散し、それぞれを繋ぐように青いレーザーが網目状に走る。
「メイプル、足場を頼む!」
「シロップ【大自然】!」
「【八ノ太刀・疾風】!」
カスミはメイプルから王に続く道をもらうと、移動速度を上げ、伸びた太い蔓の上を駆け抜ける。
「よし……【始マリノ太刀・虚】」
辿り着いた射程内。白く染まる髪。カスミ特有の瞬間移動によって足場の有無も関係なく、王の背後へ転移する。
デメリットである耐久度減少も問題なく乗り越えて、突き出した刀が王の障壁を破壊する。
「【七ノ太刀・破砕】!」
振り抜いた刀が王の背中に直撃し、ノックバックによって王を前方へ吹き飛ばす。
事前に背後に転移したことで飛ばされるのはメイプル達の待ち構えるところだ。
「あとは、頼んだ!」
クロムとメイプルが不意の攻撃に備えつつ、マイとユイが武器を構える。
十分に引きつけて。
「「【ウェポンスロー】!」」
放り投げた鉄塊は吹き飛んできた王を巻き込んで逆方向へと跳ね返す。
凄まじいダメージは、またも軽減されはするものの、カスミが一連の攻撃で与えたダメージを遥かに上回って王のHPを大きく削る。
インベントリを操作し、放り投げた大槌を回収し装備し直したところで王が翼を広げ飛び上がる。
「……中々やるな。もう少し本気で行くぞ」
王が両手を広げるとそれに合わせて超巨大な火球が頭上に生成される。
地上全てを焼き尽くされてはバリケードでは防げない。
「皆、しまえる分はしまって。ここは僕らでなんとかする」
防御を固めようとする面々にカナデが呼びかけ、七人はバリケードの回収に切り替える。
空からは漆黒の太陽が落ちてくる。
まともに受ければただでは済まない。
「ソウ【覚醒】」
カナデはそれでも落ち着いてソウを呼び出す。
【擬態】によってソウの見た目はメイプルに変化し、いよいよ着弾直前となったその瞬間。
「ソウ【身捧ぐ慈愛】」
全てを受け止める暖かな光が八人を包み込むのだった。




