防御特化と日常。
月日は少し流れて。冷え込みはより本格的になり、『NewWorldOnline』にも変化があった。
「雪だー!」
「雪だねえ」
メイプルとサリーが見上げる空からは白い雪が降り続いていた。
十二月に入ってから各エリアに降り出した雪。
ナンバリングされた大規模なイベントではないものの、季節ごとに開催されているモンスターからドロップするアイテムを集めて交換するようなイベントが同時開催されている。
一層から最新のここ九層まで、どの階層でも雪が待っている。
「クリスマス辺りまでは降ってるみたいだよ。八層なんかは水面が一部凍ってたりもするみたい」
「探索しやすくなるかも?」
「凍ってるところの下は直接潜れないから一長一短って感じかな」
「確かに」
それはともかく。今回はのんびりとドロップアイテム集めをすることが目的だ。期間は十分ある。日々ログインしてモンスターを倒していれば全てのアイテムの交換は容易だ。
メダルは流石にないものの、ポーション類や素材、ゴールドに今回限りのおしゃれな衣装。最後にはギルド設置用の、ギルドメンバーステータス上昇アイテムが手に入るのだから遊び得である。
という理由もあり。メイプルとサリーは二人九層のフィールドへと向かっていく。
どの層でもイベントアイテムはドロップするが、それならモンスターにそこまで癖がなく、フィールドの探索もしやすく、レベル上げも捗る九層がベストだ。
そうして町の出口までやってくると待ち合わせていた二人が手を振っているのが見えた。
「メイプルさーん!」
「こっちでーす!」
「マイ、ユイー!早速行こー!」
「はいっ、ツキミ!」
「ユキミ!」
「よっと、乗せてもらうね」
メイプルとサリーは【巨大化】したツキミとユキミに乗せてもらうとそのままフィールドへと飛び出した。
「行き先は伝えておいた通りで」
「分かりました!」
二人はツキミとユキミを走らせる。同時に乗れるのは二人が限界だが、本来飛ぶはずのないものを無理やり飛ばしているシロップよりもずっと速い。走っているのが正常な状態なのだから当然だとも言える。
そうして四人がやってきたのは炎があちこちから噴き出て、空中地面問わずいくつものダメージゾーンを生成している危険極まりないエリアだ。
「ここはモンスターはガンガン湧くんだけど……まあ見ての通りだから。水魔法とか使えば一時的に鎮火できるけど……ね?」
サリーの言わんとしていることは三人にも理解できた。
「ここは私の出番だね!」
メイプルは【身捧ぐ慈愛】を発動し、全員を守る態勢に入る。降り注ぐ炎も燃え盛る大地も、メイプルの防御力の前には無力だ。
「うんうん!大丈夫!」
「助かります!」
「これなら、中に入れます……!」
「固定ダメージを付けて出直してこないとね」
炎ではなく溶岩なら。過去に苦しめられたこともある溶岩はメイプルの好敵手である。
三人が足を踏み入れると、それに反応してあちこちから炎がポンポンと弾け、中に赤い瞳を持つ火球となって漂いだす。
「私達で引きつけるから、後は頼んだよ」
「「はいっ!」」
マイとユイはツキミとユキミを指輪に戻し八本の大槌を構えた。
「【大海】!」
「【挑発】!」
水が足元に広がるのに合わせ炎が消えていき、それを止めようとしてか、サリーに向かってモンスターが殺到する。
逆方向からはメイプルの【挑発】の効果を受けたモンスターが、メイプルを倒すために我こそはと近づいてくる。
そしてそれら全ては四人の周りを回転する鉄塊。赤い光を纏った六本の大槌に飛び込んで蒸発するように消滅した。
【決戦仕様】の効果を受け当たり判定が大きくなった大槌は、壁となってモンスターの接近を完全にシャットアウトする。反撃のチャンスも与えない。当たりどころ、モンスターの種類。それ全て問わず一撃必殺だ。
「えっと、大丈夫そうです」
「このまま回しながら進みましょう!」
「どんどん呼び寄せるね!」
「水を出すスキルはまだまだあるからどんどん倒そう。ここ穴場っていうかわざわざ使うのがメイプルくらいだから、他の人は基本いないと思うけど……注意してね」
回転する大槌が直撃すれば、ダメージこそ受けないが吹っ飛びはするだろう。
どこまで飛ぶかは分からないが、快適なものではないのは間違いない。
「あ!落としましたよ!」
粉砕機と化した大槌の下にぽとぽととドロップアイテムが落ちてくる。
そこには真っ赤なサンタの帽子があった。
今回のイベントのドロップアイテムだ。
「こっちで拾っておくから倒すのに専念して」
「守りも大丈夫!」
「はいっ!」
「どんどん行きます!」
マイ、ユイ、メイプル。
弱点を突いてこない対モンスター戦において異常な強さを誇る三人は、モンスターが飛び込んできてくれる環境さえあれば超高速の狩りが可能である。マイとユイを超える撃破速度を持つプレイヤーはいないと言っても過言ではない。後は防御とモンスターの呼び寄せができ、周りに人がいなければ完璧だ。
全ての条件を満たす、ここは最適な狩場なのである。サリーはドロップアイテムを集めながら、周回する大槌を見る。
「流石に慣れたなあ」
「大槌に?それとも手の方?」
「両方」
最初は怖かった【救いの手】もずっとこうして見ているうちに日常の一部となっていた。六層に立ち入ることはないが、【救いの手】であればもうどうということはない。
「じゃあサリーもどう?サリーならもっと上手く使えると思う!」
「あー、うん……考えとく」
「いつでも手伝うからね!」
「ふふ、ありがとう」
今日でアイテムを集めきってしまわんばかりの勢いで、爆散するモンスター達と滝のようにこぼれ落ちるドロップアイテム。
改めて頼もしくなったものだと、二人はマイとユイによる蹂躙を眺めるのだった。