防御特化と決戦の時2。
こちら二戦めとなります。
荒地にて向かい合うリリィ、ウィルバートとペイン、クロム、カスミ。
レイの突進によるペインの強襲をいなしたリリィはそのまま大群を召喚し人数差を逆転させる。
「【血刀】!」
「【光輝ノ聖剣】!」
カスミは刀を液状にして、ペインは剣から光の奔流を放つことで、剣を持って迫るリリィの兵士達を最も容易くバラバラに破壊していく。
「【再生産】」
「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】!」
しかし、壊されても即座に新たな兵が追加され、バフを受けてリリィとウィルバートへの道を塞ぐように立ちはだかり、今度は数にものを言わせた銃撃で三人を攻め立てる。
「【活性化】【マルチカバー】!」
ネクロを纏ったクロムが銃撃を受け持つ。ダメージこそ入るものの、自己回復能力に長けたクロムを倒し切れるほどではない。
「ある程度減らしてくれればこっちは問題ない!」
生み出される兵士はそこまで脅威とはならないものの、とにかく数が多く範囲攻撃が特別得意でない三人では、スキルを使わず一掃するのは難しい。
「ペイン、私がやろう。このまま倒していても仕方がない」
「ああ。任せる」
「【覚醒】」
カスミはハクを呼び出すと即座に【超巨大化】させ、兵士達に突撃させる。その巨体はうねりながら兵士を押し潰す。
「ははっ、こうも簡単に倒されると悲しいね。彼らもそれなりに強いはずなんだが」
「どうせまた生み出すのだろう?」
「勿論」
言葉通りリリィも次々に兵士を生み出し対応を強制させるが、ハクのせいで優位を取りきれない。
そうして兵士の壁が崩れたタイミングでペインが一気に踏み込む。
「【破砕ノ聖剣】!」
「はっ……!」
ペインの振り抜いた聖剣をリリィはその手に持った旗で受け止める。
「一応、槍使いとしてやっているからね!」
リリィは剣を弾くと、そのまま旗を構えてペインに素早い突きを繰り出す。
召喚が強みではあるものの、武器を使った接近戦ができないわけではない。
「【砂の群れ】!」
「流石、器用だな」
「嬉しいね」
リリィは呼び出した兵士をペインに向かわせ、常に複数人で取り囲む。
一体一ならペインが優位だが、次々に生み出される援軍が、リリィに一撃を加えるだけの余裕を作らせない。
カスミがハクと共に兵士の対応を続けている分、これでも人数差はマシになっている方だ。
「【カバー】!ネクロ【死の重み】!」
「【断罪ノ聖剣】!」
クロムとペインに合わせて前に出て、リリィの移動速度を低下させつつ周りの兵士の攻撃を引き受ける。
ペインへのプレッシャーが弱まったその瞬間。リリィに対して一気に斬りかかる。
「【その身を盾に】!」
召喚した兵士を呼び寄せて、無理やりペインの攻撃を庇わせると、手に持った旗で前方を薙ぎ払いバックステップで距離を取る。
「大丈夫ですかリリィ」
「ああ。しかし……この三人相手ではやはり厳しいね」
ペイン達はウィルバートがバフを撒くことに徹しているのを見て、二人の戦法がシナジー重視の単純なものでないことを確信する。
今の場面であればバフを撒くよりも、ウィルバートが攻撃参加した方が効果的なはずだ。
そうしないのはできないか、できたとしても何か大きなデメリットを背負うか、そんな予想が立つ。
「カスミ、このまま押し切りたい」
「分かった。合わせよう」
「防御は俺に任せてくれていい」
距離を取られて、ウィルバートに交代され即座にカスミが射抜かれる。それが最悪のケースだ。
ハクのHPも兵士によってじわじわと減っている、下手に長引かせず早めに仕掛けるのがベストである。
手短に作戦を共有した三人はタイミングを合わせて、一気に畳み掛ける。
「【剣山】!」
「【破壊ノ聖剣】!」
ハクの体当たりに合わせて二人のスキルで兵士達を一掃すると、三人は空いたスペースに飛び込んでいく。
「ウィル。やろう」
「……!」
リリィの呼びかけにウィルバートは小さく頷いた。
「【休眠】」
リリィの宣言は三人にとっても聞き覚えのあるもので、だからこそ違和感があった。
テイムモンスターを呼ぶなら【覚醒】のはずだろうと。
「【権能・天罰】」
「【心眼】!」
ウィルバートの宣言したスキルがバフでないと判断したカスミは即座に【心眼】を使用する。
一帯に降り注ぐ赤い柱は攻撃が行われる場所を示す。それを見るやいなやカスミは素早くハクを指輪に戻して叫んだ。
「クロム!」
「【守護者】【ガードオーラ】!」
降り注ぐ光の柱が通過した部分にダメージを与える。攻撃を受け続けることがないよう範囲外に脱出した三人は発生源である空を見上げ、その存在を認知する。
雲が流れ、晴れた夜空にうっすらと浮かび上がったのは、巨大な眼とそこから広がる亀裂のような枝のような模様。
遥かな空から地上を見下ろすその眼を見て、三人はウィルバートの索敵能力の根源を理解した。
「おおう……すげえもんテイムしてやがったな」
「私達のは特別製でね。二人で制御しているのさ」
「ここからが本番というわけか」
「なるほど。尚更通すわけにはいかなくなった」
一つのテイムモンスターの能力を分け合う形で、リリィとウィルバート、二つの指輪を使って天上の眼の力を借りている。
【休眠】の仕様も特別だ。どちらかが【休眠】を使用すれば、分け合っていた能力が片側に流れ込むだけでなく、スキルも解禁される。
「では、ここからは二人で攻めるとするよ」
「見え過ぎるというのも何かと困ったもので……私としても早期決着としたいですね」
ウィルバートはより遠くまで見通せるようになったことで、強制的に頭に流れ込んでくる大量の情報に少し顔を顰めつつ背後に魔法陣を展開した。
「【権能・劫火】!」
「【玩具の兵隊】【ラピッドファクトリー】」
「くっ!中々滅茶苦茶しやがるな!」
ウィルバートが展開する魔法陣からは権能と称したさまざまな属性の攻撃が放たれる。
先程までのバッファーとしての能力に加えて、魔法使いと言っても過言でない威力。ウィルバートの脅威度が一気に跳ね上がる中、クロムのガードによって得た余裕を活かし、舞い散る炎を斬り裂いてペインとカスミが駆ける。
「【範囲拡大】【守護ノ聖剣】!」
ペインの範囲攻撃が群がる兵士を薙ぎ倒し、リリィを守る壁を取り払う。
「【一ノ太刀・陽炎】【武者の腕】!」
一瞬の隙があれば飛び込める。カスミは素早くリリィの前まで転移すると三本の刀で斬りつける。
「速いな!」
リリィはカスミが振るう妖刀を旗で受けるものの、後方から振るわれる【武者の腕】が持つ刀がその身を斬り裂く。
「【権能・再生】」
「器用なものだな……!【三ノ太刀・孤月】!」
ウィルバートにより回復したリリィに再度カスミが接敵する。召喚を中心とした戦闘スタイルのリリィと比べれば、機動力や一対一の強さはカスミが上回る。
「【再生産】」
「レイ、【聖竜の息吹】!」
輝くブレスが呼び出した兵士を吹き飛ばした所に今度はペインが突進する。
「はっ!」
ギィンギィンと音を立てて、数度武器がぶつかり合う。優勢なのはペイン。武器を弾き、放った斬り上げがリリィの肩を深く斬り裂く。
「【傀儡の城壁】!」
壁を生み出しリリィは再度距離を取ろうとするが、ペインとカスミはそれを許さない。
ウィルバートの生成する炎と水をも乗り越えて、生み出された壁を破壊し、もう一歩前に出る。
「【四ノ太刀・旋風】!」
リリィのガードの上から叩きつけられるカスミの強烈な連撃に、耐え切れず体勢が崩れる。
後一手。しかし、声が上がったのは後方だった。
「誘い込まれてる!」
「……!」
それは役割による速度の差。息つく暇すらない高速戦闘。引いていくリリィの動きは、カスミとペインがクロムを残して少し飛び出す形を生み出していた。
「ウィル!」
「【権能・重圧】!」
「ぐっ……!」
足を止められるのはクロム。そこは【カバームーブ】の範囲外。
一瞬の逡巡。その隙にリリィが僅かに距離を空ける。カスミはすぐさまペインとアイコンタクトを交わした。ここは引く。
「「【クイックチェンジ】!」」
それと同時、リリィとウィルバートの装備が切り替わる。戦闘スタイルの変化。射程は大きく変化し、一撃必殺の矢が狙いを定める。
引かせなどしない。詰めさせもしない。
「始マリの……!」
最速の一射。早撃ちなら負けはしないと、カスミの転移に先んじて放たれた一本の矢は、正確な狙いでもってカスミの体の中心を貫いた。
「ぐっ……!」
上手くいった。リリィとウィルバートに流れるほんの少しの安堵。死の間際、カスミはその隙を見逃さなかった。
「……【身喰らいの妖刀】」
「何だ?」
「これは……!」
消えていくカスミが最後に宣言したスキルによって地面に突き刺さった血に濡れた何本もの妖刀が現れ、薄紫の霧が辺りを包み込む。
それはカスミのステータスの一部と引き換えに放つことができる解除不可能な長時間のデバフ。
一日一回という制限よりも重い、不可逆のリソースを要求するこのスキルの打ちどころはまさに今だった。ただで死んでやるつもりなど毛頭ない。多少のステータスで勝利を買えるなら、それほど安いことはないのである。
「後は頼む」
消滅するカスミの言葉にペインは一つ頷いて返すと、剣を握り直す。
「上手くやったと思ったけどね」
このデバフが残っている状態ではペインとクロムを相手にすることはできない。
これがこの作戦を必ず成功させるための最終手段。ベルベットとヒナタの援護には行かせない。
このままここにいても出来ることが何もないことを悟った二人は素早く決断する。
「【休眠】」
「【覚醒】!」
「レイ【全魔力解放】【光の奔流】!」
ペインが輝く聖剣を振りかぶる中、ウィルバートは天上の眼の権能をリリィに全て移譲する。
「【権能・超越】【陣形変更】!」
「【範囲拡大】【聖竜の光剣】!」
二人の姿が消失し、そこを光の波が飲み込んでいく。その勢いは止まることなく。暗いフィールドを照らし出しながら薙ぎ払った。
「届いたか……?」
町で見た【陣形変更】の移動距離ならば届いていてもおかしくはないが、確認する方法はない。
「悪い。俺が出遅れた」
「いや、俺達が出過ぎたせいだ。距離を取られてウィルバートに切り替えられないように攻めたことが裏目に出た」
リリィが装備を切り替えようものなら、防御能力は一気に低下する。その瞬間に薄くなった前線を突破して勝ち切れるように狙っていたが、リリィとウィルバートの装備変更を交えた戦い方の練度がこちらの警戒を上回った。
「カスミに申し訳ねえな。何としても勝たねえと」
「リリィとウィルバートは戦闘参加はできない。反転しよう」
カスミが倒されてしまったものの、代わりに二人を戦場から除外することには成功した。
痛み分け。これを有利へと傾けるため、クロムとペインは援軍としてメイプルとサリーの方へ向かうのだった。




