防御特化と不穏。
外壁を越えて少し飛んだところで、レイはゆっくりと高度を下げていく。
「ヒナタは飛んでいる敵を落とすことができるので……念のため、お願いします」
「ああ、急に落とされては動きも制限されるからな」
地面に降りた二人が辺りを見渡すも、そこには荒地が広がるばかり。所々に大きめの岩があり、隠れられる場所はあるものの、現状敵の気配はない。
「降りるところを待ち構えていた……というわけでもないようだ」
「ですね。矢の一本や二本飛んでくるかと思いましたけど」
【ラピッドファイア】がいる可能性も考慮しながら、ペインとサリーは警戒しつつ、周囲の確認を開始した。
ベルベットとヒナタはその能力の影響範囲と引き換えにとにかくエフェクトが派手だ。二人を倒すために接近してきたなら気づかないはずはない。
となれば警戒すべきはウィルバートだ。索敵能力を活かしての奇襲が得意な彼であればついてきていてもおかしくはない。
サリーの【氷柱】も使いつつ、できる限り敵陣方向からの射線を切って辺りを確認するものの、二人が目にした雷光を最後にフィールドはいつもの様子に戻っていた。
「……いない、か?」
「大軍がいるような雰囲気はないですね」
「どこかに潜んでいる可能性はあるが……これ以上進んでもキリがないな」
「はい。町の周りを重点的に確認して戻りましょう……嫌な感じではありますけど」
いるかもしれない。それを確かめるために敵陣方向にどこまでも進んでいく訳にはいかない。最低限、町の近くに大軍が迫っていないことが分かれば十分だ。
「どう思う?」
「どこかにいる、とは思います。ただ、積極的に戦うためではないような……」
サリーがメイプルとフレデリカと共に毒による奇襲をした時のように、ある程度の戦果を得て帰るつもりなのか、あるいは昼間イズを送り込んで爆弾を設置した時のように、何かしらのトラップを設置しにきているのか。
実際にいたという痕跡を掴まなければ、全ては推測でしかない。
「雷もちょうど俺達が見ていた瞬間だったから気づいた。そういった面もある。派手に見えたが、あくまで奇襲の予定なのかもしれない」
「ああ……それはありそうですね」
今回のフィールドにおいては雷鳴も雷光も、聞こえたからといって特段警戒するものではないのだ。屋内にいて音だけが聞こえたとして、違和感を覚えるプレイヤーは少ないだろう。
「念のためしばらく警戒を続けようと思う。ギルドメンバーに連絡を入れて交代で、少し様子を見る」
仮に近くまで来ているとして、長く敵陣内にいることはリスクが高い。疲労も無視できないだろう。しばらく待ってみて大きな動きが見られないならこちらも休めばいい。
町が近いため、こちらの方が容易に人数を割くことができるのも有利な点だと言える。
「こっちも連絡しておきます。数は多い方がいいですし、皆いてくれると頼もしいので」
「それは助かる。どうにも敵の動きが読めない」
二人はそれぞれギルドメンバーに指示を出すと、背後から攻撃されることのないよう、警戒に警戒を重ねてその場を後にするのだった。
その頃、メッセージを受け取った王城内。
「おっと……こりゃあ……」
「早速不穏な気配といったところか」
大きなテーブルを囲んでイズの並べた食事を取った後、そのまま休んでいた【楓の木】の面々にサリーからのメッセージが届いたのだ。
「サリーもよく気づくね。僕だったら見逃してたかも」
「カナデなら普段と違うって言いそうな気もするわ」
「そうかな?」
「でも、どうしましょう?」
「本当に来ていたら……」
「ペインさん達だけに頼るのも悪いし……うん!私達も行こう!」
「オーケー。メイプルがそう言うなら異論はない。ただ、誰が行くかはちょっと考えがある」
珍しくクロムがそう言うと、メイプルはその考えを聞いてみなければと耳を傾ける。
「ここは俺が出る。メイプルはまだしばらく無理はさせたくない。俺なら運が良ければ何回ミスっても問題ないしな」
クロムはメイプルと違ってもしもの時に前線に素早く駆けつけることはできない。
戦闘が起こるとして、先に戦場にいるべきなのはどちらか。それは明白だ。
「なら私がついていこう。一対多となるとマイとユイはクロムが守りきれない場面が増える。辺りが暗闇なら尚更だ。それに……」
カスミは周りにいるメンバーの顔をチラッと見ると少し苦笑する。
「他の面々はあまりにも替えが効かないからな」
イズのアイテムもカナデの魔導書も他のプレイヤーでは真似できない。メイプル達極振り組は尚更だ。
「陣営として勝ちを目指すんだ。なら、こういう危ない役回りは任せてくれ。つってもそうそう死んではやらないからな?」
「危なくなったなら力を借りる。まずは私達で様子を見る」
「……分かりました。お願いします!気をつけてくださいっ!」
メイプルのクロムとカスミへの信頼。それを言葉から確かに感じ取ると、二人はリスクを承知で王城から出ていくのだった。




