防御特化と察知。
間の話で短めです。
日は跨いでしまいました。
「じゃあメイプルは一旦休んでて」
「はーい!」
メイプルを王城の最奥に送り届けたサリーは、部屋の扉を閉めてこれで一安心と一息つく。
敵の攻撃がいかに強力だとしても、王城を破壊してメイプルを倒すのは不可能だ。
「町が戦場になるのはまだ先のはず」
外壁、城下町、そして王城。そのいずれにも耐久値は設定されている。
最終決戦。門、さらには外壁を破壊して町に雪崩れ込む。そうやって攻め込むのが自分達であることを望むばかりだ。
「上手くいったようだな」
「あ、ペインさん」
ペインにはフレデリカから報告があり、先程の奇襲について戦果は共有済みだ。
「見つかってはいないはずです。誰がやったか察しはついていると思いますが」
「ああ。最後に【毒竜】を使ったと聞いている。あれほどの毒を生成するプレイヤーは一人だけだ」
「この後はどうですか?」
「難しいところだ。休息に入っているプレイヤーが多い。大人数での戦闘はそうそう起こらないだろうし、出撃しても戦果を得られないことが多くなるのは間違いない」
無理に出撃しても悪戯に疲労が嵩むばかりである。敵が動かないのであれば、こちらも派手に動く必要はない。
それでも出撃するとなれば、それは何か明確な目的を持って行われるものになる。
「私もスキルによる索敵はできないので、効率よくとなるとフレデリカが必要になりそうで」
フレデリカもあちらへこちらへ、多くの戦場に参加している。それでも疲労を感じさせずいつもと変わらない調子だが、休むタイミングは必要だ。
「ドレッドがいれば夜も仕掛けられると考えていたが、難しくなった。特にシャドウのスキルは替えが効かない。【楓の木】は?」
「正直なところ、迎撃メインが望ましい……と思っています。こっちはメイプルが万全でないので」
「こちらとしてもここで倒れられては困る。分かった、無理な戦闘はできるだけ減らし相手の動きを牽制する方向で行こう」
「助かります」
普段通りのメイプルであれば【機械神】による自爆飛行で戦場に駆けつけることができるが、【不屈の守護者】なしでは駆けつけた先での戦闘に不安が残る。
そうして、方針も固まったところで、廊下に並ぶ窓のガラスを強烈な光が照らした。
それは遠くに輝く雷光。ここ、炎と荒地の国のモンスターの属性は雷と火、地形もそれにならってあちこちでマグマが噴出し雷が駆け巡っているのが普通だ。
しかし。
「ペインさん」
「……ああ、見に行こう」
違和感。
それが地形によるものでないような感覚。
周期、方向。
地形に関しても全てを把握できてはいないため確信はできないが、自然発生したものでないならそんなことをするのは一人だけ。
メイプルが毒沼を残すように、このゲームには雷を残すプレイヤーがいる。
「レイ、頼む」
サリーとペインは素早く外に出るとレイに乗って空を行く。
「仮に【thunder storm】だとしてわざわざ派手にやる必要はないはずだが」
「はい。それに、もしそうなら相当速い。どうやって……?」
「罠かもしれない。最悪の場合レイに庇わせる。安全重視だ」
「分かりました」
ヒナタがドラグとドレッドを閉じ込めたスキル【隔絶領域】の効果も完全に把握できていない。誰をどう閉じ込めるか分からないため、戦闘において個人で完結していて、かつトップクラスの強さの二人だけで行くことがリスク軽減になる。
ペインもサリーも一撃なら耐えられるスキルを持っている。一度のミスなら問題はない。
リスクは減らせるだけ減らして、様子を見る必要があるのだ。場合によっては大群が迫っている可能性すらあるのだから。
危険を感じ次第即撤退。そのつもりで二人は外壁に向かって空を移動するのだった。




