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防御特化と偽装。

町から出た三人はローブに身を包み、正面の平地を避け、フィールドの端の方へ向かって遮蔽の多い森の中へと入っていく。

見通しの効く場所と比べて奇襲の危険は上がるものの、それは相手も同じことだ。

であれば三人だけで行動するサリー達は、主戦場となり人が多くなることが予想される正面よりもこちらの方が都合がいい。

それに、奇襲の危険が自他共に上昇するのなら、有利不利は索敵能力で決まる。


経験でスキルを上回るレベルの索敵を行うサリーは、スキルエフェクトや発声がないことを活かし、より察知されにくい奇襲を可能としていた。

クロムとカスミもその能力を信頼しているが故に、危険な森の中だとしてもこちらに分があると踏んで移動しているのだ。

それに、仮に良くない形で接敵することになったとしてもその時のための戦略は用意してある。


「……いる。気をつけてください」


「オーケー」


「分かった」


クロムとカスミにはまだ感じ取れないものの、サリーが言うならそうなのだろうと音を立てないように後をついていく。

そうして少し行くと、立ち並ぶ木々の合間に敵陣営のプレイヤーが五人で進軍する様子が見えた。

ただ、マップの端なこともあってか数は少ない。敵陣営もこんな場所が主戦場にはならないことを分かっているのだ。

人数差はあるものの、これくらいなら上手く隙をつけば一気に押し切れるだろう。

しかし、サリーは敵の様子を確認して少し険しい表情を浮かべた。


「守りが堅いな……」

五人の構成は索敵要員だと思われる短剣使いが二人に大盾使いが三人だ。大盾使いは盾を構えて外側を向き、警戒しつつ陣形を組んでいる。

気づかれないように近づき、その上で先手を取って倒し切るのはどうにも難しそうである。


「どうする。やれなくはないと思うが」


「ああ、一応あれくらいの数なら俺も守ってやれると思うぞ」


「……ここは予定通り行きましょう。相手も相当警戒していますし、次にいつプレイヤーと出会うかも分からないので」


「分かった。なら俺先頭で少し移動するか」


「よし見つからないように行こう」

三人は音を立てないようにしつつ、適切な位置まで距離を詰める。




三人がそうやって近づいてきていることにまだ気づいていない五人組は、辺りを見渡しつつ先へ進んでいく。五人からしてもここはもはや自陣とは言えない場所であり、いつ会敵してもおかしくない状況に緊張感も高まる。

大盾で防御を固めているため、遠距離からの魔法攻撃ならば問題ないと、接近されていないかをより慎重に警戒しているのだ。

敵プレイヤーの姿のない静かな森は、それでも空気が張り詰めているように感じられる。そんな静寂は横からの声によっていきなり破られた。


「【断罪ノ聖剣】!」

叫ばれたスキル名を聞いて、五人はギョッとしてその方向を見る。遥か向こうから迫ってくる光の奔流。触れればただでは済まないであろうそれに、大盾使いですら急いで回避を選択する。幸いにも僅かに狙いが逸れていたこともあり、五人は何とか難を逃れることができた。

光が収まって素早く敵を確認すると、遠くにいたのはローブに身を包んだ四人組だった。

そのうちの一人は青い装飾のなされた大きな剣を振り下ろした姿勢であり、五人の射程をはるかに上回る位置から攻撃してきたことが分かる。


「あ、あの剣!あのスキル!」

慄く五人が戦闘が撤退か、判断する前に四人のうちの一人がさらに畳み掛ける。


「【神速】」

その声と共に一人の姿が消失したのを見て、五人は確信を持った。


「【集う聖剣】だ!退くぞ!」

流石にこれを相手にはできないと、五人は距離を詰められる前に急いで撤退する。木々と茂みに紛れて素早く退いた五人を追撃することはなく、ここは牽制するような形で幕引きとなった。


「ふー……案外分からないもんなんだな」


「距離もあった。それにローブも着込んでいて誰かは分かりにくい」

ペインの剣に似せた剣を持っていたのはクロムだった。イズ作のそれをよくできてると感心しつつ、クロムはインベントリにしまい込む。


「上手くいきましたね」


「おお、想像以上にな。なるほど……これが【偽装】かあ」

【断罪ノ聖剣】として放たれたそれは、サリーのスキル【鉄砲水】を光のエフェクトに変化させたものだった。クロムは撃ち終わった後の格好だけ真似をしただけなのだ。

一人増えた分は【ウォーターウォール】に【影分身】のエフェクト変更をして人型に、【神速】は【超加速】の名称を変えつつ、朧の【瞬影】を発動させてそれらしく見せたのである。


「イズの変声機も役にたった。よく聞けば声も背丈も違うものだが……」


「【断罪ノ聖剣】も【神速】も今じゃあ知らない奴がいないくらいだからな」

細かい部分の違和感はあるものの、それを隠せてしまうほど特徴的で一人しか持っていないようなスキルがある。それを撃たれれば違和感など吹き飛んでしまう。【毒竜】を使うのはメイプルで【炎帝】を使うのはミィ、【断罪ノ聖剣】ならペイン、こんなことはもう周知の事実である。

そんなスキルを使う四人組。であれば目の前にいたのが【集う聖剣】以外であるなど、ありえないはずなのだ。


「これで、こっちにペインさん達が来ていると思わせることができたはずです」


「んじゃあ援軍が大量に来る前に退くとするか」


「本命である【集う聖剣】には頑張ってもらおう」


「「「逆側で」」」

三人は敵陣営が反転してくる前に、より警戒が強まるであろうこのエリアを立ち去るのだった。





町の外壁上で索敵を続けていたフレデリカはサリーからの連絡を受けて、外壁から離れることとなった。


「じゃあメイプルー、あとよろしくー」


「うん!頑張って守るよ!」

フレデリカはメイプルに防衛を引き継ぐと、自分にバフをかけて急いで町の端の方へ向かう。そこではペイン、ドラグ、ドレッドを中心として【集う聖剣】のギルドメンバーが集まっていた。


「おう!きたかフレデリカ!」


「サリーから連絡があったからねー。どうやったのかは知らないけどー」

サリーの伝えてきた内容を信じるなら、自分達は今いる方向とは真逆を攻めていることになっている。


「同じ陣営である以上嘘をつく意味はねえ。まー、予定通り作戦が進んだってことだろ」


「どうやってんのか分かんねえけどな。やっぱあれか?【影分身】とかそういったやつか?」


「これまでの決闘ではそんなことはできてなかったし、何か新スキルだと思うけどねー」

スキルとできることについてある程度は聞いているものの、完全に内容を知っているわけではないのだ。

「あまり話していても時間が惜しい。急いで進軍しよう。敵も俺達がいるはずの場所に対応しにくるはずだ。ちょうど逆側に戦力が偏ったところで手薄なこちら側を叩く」

ペイン達は自分達が強いこと、そして敵陣営にとってどれだけ脅威であるかを知っている。敵が連携を取っていればいるほど、多くの戦力が割かれることは間違いない。適切に対処しようとすればするほどサリーの罠の効果は大きくなる。


「予定通り目につかないように隠れて進む。途中出会った敵プレイヤーは全て倒していく。俺達の本当の位置を知られるな」

ペインの指示に集まったギルドメンバーそれぞれが頷く。まだ死を恐れてあちこちで小競り合いが続く中、先手を打つべく【集う聖剣】は町を出たのだった。


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