防御特化と共生。
階段を下りるメイプルだが、壁に照明もなく階段も石でできているようで、整えられた先程の書庫とは少し違う雰囲気が漂っている。
「転ばないようにしないと……えーっと、灯りを用意して……」
メイプルはイズに作ってもらったライトを取り出して起動する。ボール状のそれは起動すれば自分の近くに浮いたままついてきて周りを照らしてくれる便利なものだ。ランタンなどと違い片手が塞がってしまわないのも嬉しい点である。
荒削りな石の階段と同じような材質の壁。突然ここに放り込まれたとしたなら誰もがダンジョンだと勘違いしてしまうような場所である。
ただ、実際は王城内部ということもありモンスター出てこないようだ。メイプルの足音が暗闇に響くばかりで他の物音は一切ない。
そんな中をしばらく進むとライトが照らし出す先に扉が一つ見えてきた。
「他には何もないのかな?」
扉を開ける前に周りを確認してみるが、特に別の道もなければ他に特徴的なものもない。それなら開けてみるしかないとメイプルはドアノブを掴む。ゆっくりとドアノブを動かすとそれに合わせて扉が開いていく。
メイプルが中へと入ると、そこは随分長い間人が入ってきていないようで、扉を開けた際の僅かな風で埃が舞ってライトに照らされるのが分かる。
「ここはもう使われてないのかな?」
ただ上の階同様、ここも書庫として使われてはいたようで本棚が並んでおり、取り残されるような形で本も多少残っていた。
ぐるっと見て回ったら戻ろうと決めて、メイプルは古い書庫を歩いていく。
「何かあるかなあ……うーん、変な本ばっかり」
全体的に本棚には空きがあり、ぎっしりと本が詰まっているわけではないため、倒れていて抜き取らずとも表紙まで見えるものもあるのだが、表紙にまるで本物かと思うような妙に生々しい目のレリーフがついていたり、一瞬脈打っているように見えるものがあったり、赤黒い染みがついていて保存状況がよくなさそうに見えるものがあったりするが、どれも見た目がいいとは言えずメイプルの興味をそそるようなものはない。
「上の方が綺麗な本多かったし読むのはそっちにしようかな」
タイトルすらないものも多く、どんなものかも分からないのなら尚更手に取る理由がない。
メイプルが決めた通りぐるっと部屋の中を歩いて回り、一周して戻ろうかといったところでメイプルの足音しか聞こえなかった空間に別の音がする。
それはメイプルの背後。正確には耳元からだった。
「……なあ、こっちに来てくれ」
「わっ!?だ、誰!?」
掠れた男の声にメイプルが慌てて振り返るものの、そこには暗闇が広がるばかりで何もいない。真後ろに立っているように思えたメイプルだったが、もしそうならたとえサリーよりさらに速かったとしても視界から消えることはできないはずだ。
声は記憶にないものであり知り合いの悪戯ではなさそうだが、周りを見渡してもそれらしき存在は確認できない。
しかし、まさか聞き間違えたということもないだろうと、メイプルは正体を突き止めるために書庫内を歩き回る。
「こっちだこっち」
「わっ!また……!」
突然話しかけてきて驚きはするものの、現状害はないため、唯一の手がかりである声に従って言われた方に歩き、声の示す場所へと近づいていく。
そこにあったのは本棚とは違う、メイプルの胸あたりの高さの台だった。台の上には一冊の本が置かれており、赤い文字の書かれた包帯のようなもので読めないように封がされている。
「それを開けてくれればいい」
「これ?……もー、言うだけ言っていなくなっちゃうんだから……」
メイプルからの問いかけには何も返ってこないため、言われたようにするしかない。
「ほどけばいいかな?」
メイプルが本を持ち上げ巻きついた布を取り払うと、本から発生した強烈な風と共に、魔法陣に使われているものに似た赤いエフェクトが一気に部屋に広がっていく。
突然の強風で吹き飛んだメイプルは何かまずいことが起こっていることを察して、慌てて床を這って本を閉じて包帯を巻き直す。
メイプルの対応が正解だったのか、吹き荒れる風は収まり、書庫には静寂が帰ってくる。
「びっくりした……何だったんだろう」
「助かったぞ。しばらくお前の魔力を借りるとする」
「わわっ、もー誰!?」
変わらず聞こえてくる声に辺りを見渡すメイプルだが、やはりメイプル以外に誰かがいる様子はない。
一方的に話しかけられてもどうしようもないとメイプルが困っていると、背後でバァンと勢いよく扉が開かれる。
「わっ!……お、王様?」
そこにいたのは最初に玉座の間で対面したっきりの、この国の王である竜人だった。
彼女はメイプルの近くまで歩いてくるとその顔をじっと覗き込む。
「お前どうやって入った?」
「えっと、階段を下りて……」
「ここにいるやつに仲間だと思われて呼び込まれたか……ふーん?」
王はメイプルの両頬を掴んでぐいぐいと引っ張る。
「にゃ、にゃにしへるんれすか!」
「禁書に仲間扱いされるとは……お前本当に人間か?引き裂いたら変なものが出てきたりするか?」
王が手を離したところでメイプルは慌てて少し距離を取る。
「でてきませんっ!」
実際のところあれこれ出てきてもおかしくはないくらいに体に色々宿しており、なんならその辺の並の化物よりよっぽどそれらしいとも言えるのだが、分類としては変わらず人間ということになるだろう。
「何でもいいが、そんなものと共生してると食い尽くされるぞ。勝手に入った罰というわけだ」
そう言うと王は両手を胸の前で合わせてゆっくりと離していく。すると、ばちばちと赤黒い光が弾け、空中にメイプルの全身が映るほどの大きさの鏡が出現する。
これを見ろということだろうと、メイプルは近づいて鏡に映る自分を見て目を丸くする。
「な、何これー!?」
「体の中に入ったやつに吸い尽くされて干からびる前に何とかするんだな!」
フェイスペイントでもしたかのように、メイプルの首元から顔の半分ほどを真っ黒な模様が覆っていたのだ。手で擦ってみてももちろん落ちることもない。それは体を蝕んでいるようにも見える。
困惑するメイプルだが、そんなことはお構いなしにクエストが一つ強制的に開始される。
「『禁忌の主は』……うぅ、聞いたことない……」
サリーやミィと話している際には出てこなかったクエスト名に、ここからの見通しも全く立たない状態である。
「その体じゃあ魔法も何もまともに使えないだろうからな!死んだら骨だけ拾ってやろう。そんなものばら撒かれても困る」
「ええっ!?」
メイプルがスキルを確認すると、装備品も含め発動するようなスキルは何もかも使えなくなってしまっているようだった。自慢の防御力はパッシブスキルであるが故に残っているものの、これではただの異様に硬い置物である。
王の口ぶりからするにこのクエストが終わらないことにはこの状態から元には戻らないだろう。イベントも控えている中それでは困るのだ。
「急がないと!」
メイプルはクエストをクリアするために王城から飛び出していくのだった。
835名前:名無しの大剣使い
ちょっと!あなたのとこの娘さんグレてます!
836名前:名無しの弓使い
きっとファッションだよ
837名前:名無しの槍使い
誰?
838名前:名無しの大剣使い
メイプルちゃん
839名前:名無しの槍使い
あぁ……
840名前:名無しの魔法使い
グレたの?見ためはあんなだけど精神面は変わらずではなかったのか
841名前:名無しの大剣使い
町ですれ違ったけど顔の半分くらいまでなんか黒いシミみたいなの広がってたわ
842名前:名無しの槍使い
どれかのスキルの副作用かな?
該当しそうなものが多いな……
843名前:名無しの弓使い
ファッションかもしれないだろ!
844名前:名無しの魔法使い
感性ぶっ飛んでるとこあると感じてるけどそういう方向性とは違うと思う
845名前:名無しの大盾使い
おおーやったか
846名前:名無しの槍使い
保護者ー
ちゃんと目を光らせておかないから何かグレてますよ
847名前:名無しの大盾使い
皆で話してたんだよな
自由行動させておくのが一番うまくいくって
848名前:名無しの弓使い
教育方針の転換を願います!
願います!!
849名前:名無しの槍使い
あーあまた人の身を外れてしまいました
あなたのせいです
850名前:名無しの大盾使い
素晴らしいことじゃないか
851名前:名無しの魔法使い
マッドサイエンティストかな?
852名前:名無しの大盾使い
実際どういうものかはまだ聞いてないし何なら本当にファッションの可能性もある
853名前:名無しの槍使い
確かにゼロではないわな
フェイスペイントくらいなら店売りでいくらでもおいてあるし
854名前:名無しの大盾使い
ただ聞いてる限りそうではなさそうだが
するにしてももうちょっとこう……かわいい感じだろ
855名前:名無しの槍使い
結論出てるわ
あーあまた人の身を外れてしまいました
あなたのせいでーす!
856名前:名無しの大剣使い
かわいい子には旅させるな!
857名前:名無しの弓使い
でも流石に永続的に見た目変わるスキルとかは見たことないからスキルじゃない説もある
858名前:名無しの大盾使い
イベント近いし効果の程はその身で確かめてくれ
859名前:名無しの大剣使い
せめてその目の方で頼む
860名前:名無しの魔法使い
黒色から連想されるものにいい思い出ないよ〜
861名前:名無しの槍使い
のんびり過ごさせてるだけで強くなるのローコストだなあ
862名前:名無しの弓使い
とはいえ実はメイプルちゃんが適合できるスキルの範囲って狭いからいいスキルでも結果的にハズレになるかも
863名前:名無しの魔法使い
ステータス割合で上げても仕方ないしなあ
864名前:名無しの大剣使い
俺達いっっっつもそう言ってるけど
化けなかったためしないんだよなあ
865名前:名無しの魔法使い
ゆるして〜たのむ〜
866 名前:名無しの弓使い
皆!同じ陣営!行こうな!
味方なら心配するようなことは何もない。さらにイベントではバフ等の効果をより広範囲に適応できるのだから、得られたスキルがそれに属するものなら万々歳だ。
こうして決意を新たに、この情報をそれぞれのギルドに持ち帰る掲示板の面々なのだった。




