防御特化と決定。
そうしてしばらく九層のフィールドを見て回ったことで、メイプル達もある程度どこが強くどこが弱いかを確認することができた。
情報の量も多くなってきたため、八人は中間報告という形でギルドホームに集まっていた。
共有しやすいように大きなテーブルの真ん中に九層の地図を広げ、それを囲んでそれぞれが情報を記入していく。
「おおー、こうやって改めて揃えると壮観だな」
サリーの集めたモンスターの情報などは細かすぎて書ききれないため、地形や隠れ場所、どういった特殊な効果が発生するかなど元の地図からすると随分詳しく記載されたものになった。
「私が素材、サリーちゃんがモンスターについてまとめているわ」
「手が空いていたら読んでみてください。ネットで拾えるものより詳しい部分もあるのと、【楓の木】に合わせた対応方法も書けるところは書いてあります」
「それはすごいな。あらかじめ対処法を知ることができるのは大きい」
「そうだね、とりあえず僕は見ておくよ。覚えるのは得意だし、咄嗟に教えられる人はサリー以外にもいた方がいいだろうしさ」
カナデの記憶力なら全て覚え切るのに一日とかからない。なんなら今日解散するまでに全部覚えてしまえるくらいである。
分かりやすくまとめてあるとはいえ、戦闘中に毎回攻略情報を確認するわけにもいかない。覚えられるなら覚えておくべきだ。
「まあマイとユイがいる場合の対処法は大体一行しか書いてないですけど」
「そりゃそうだ」
近づいて殴る。これで終わりである。そうでないもの、メイプルが出会った電気の塊などは属性をつけて殴るに変わっているだけだ。
当たれば勝てる。ボスの一部にも適用できてしまう二人だけのルールは戦闘中に考慮すべきあれやこれやを全て無かったことにする。形態変化は行動パターンの追加が二人の前から消えてしまうのもよくあることだ。
「私達はちゃんと見ておく必要があるな」
「そうだな。雑魚モンスターとはいえワンパンってわけにはいかねえしな」
それ相応の大技を使えば別だが、基本は削り合いになる。特に厄介な攻撃をしてくるモンスターは気を付けておかなければならない。
そうして擦り合わせをしていると、全員に同時にメッセージが届く。
「あっ、次のイベントの情報が来てます!」
「えっと……ちゃんと詳しいことも増えてます」
やると言われていた第十回イベントだが、おおよその内容は分かっていたものの詳しいことはまだだった。ようやくそれが告知される時が来たのである。
全員がメッセージを開いて内容を確認する。
「国ごとに分かれて二陣営での勝負。所属はイベント前日に入国していた方になるみたいだね。九層に来てない人もイベントに合わせて選べるらしいし、選ばなかった人だけ数を合わせて割り振られるってさ」
「なるほどなるほど」
「あとは地形やモンスターもそのままみたいだな。これは予想通りか。おっ、面白いことも書いてあるぞ」
「自分達の陣営のモンスターは攻撃してこなくなるのね。それに、町でアイテムを手に入れてモンスターに使うとある程度言うことを聞かせられるってことは、テイムモンスターみたいにできるってことかしら?」
これは予想していなかった点である。プレイヤー以外にも防衛に参加する戦力がいるとなると、単純に数が増えて攻め込むのはより難しくなる。
効果時間は五分とそこまで長くないようだが、モンスターの能力を活かせばより柔軟な攻めと守りも戦略として組み込める。
それに効果時間が切れてしまっても、細かい命令ができなくなるだけで、自分達を襲ってはこないのだから頼り得である。
戦場に連れてきさえすれば相手プレイヤーも無視はできない。
「なんでも連れてこられるわけではないようだが、これは警戒する必要がありそうだ」
モンスターに関してはまだあり、全プレイヤーが参加するため、一部のモンスターは能力が低下しているとのことである。また、一定のレベルを超えたプレイヤーが立ち入ると能力に制限がかかるエリアもあり、プレイヤーのレベルに応じて活躍の場を分けているようだった。
「自分に合った場所で戦うのがいいね。僕も流石にある程度レベルが上がっちゃったから制限に引っかかっちゃうな」
「カナデとマイとユイ辺りが駄目だったら九層に来ている人は基本皆無理かなあ」
サリーの言うように、三人は特殊な戦闘能力によってレベルに見合わない性能を持っているため戦えているが、九層にいるようなプレイヤーなら基本はもっとレベルも高いものだ。
そんな三人でもレベル制限にかかるなら、本当に低レベルプレイヤーが主役となるエリアということだろう。
さらにモンスターは一定周期ごとに相手陣営に総攻撃をかけるようになっているとのことだ。
プレイヤーとしてはそれに乗じて攻撃するのが基本戦略になるだろう。
「町の人も防衛に参加するって書いてありますよ!」
「おおー。そうなるといよいよ守りは盤石だな。NPCが大砲とか使ってくれるってことだろ?」
「とはいえどれくらい強いか、数値的な部分は現時点では分かりませんし頼り切るのは難しそうです」
「あー、まあそれもそうだな」
サリーの言うことももっともだ。あくまでNPCはサポート枠であり、それだけで町を守ることはできないように作られているのが自然に思える。
「期間は時間加速下で三日。もしくは敵陣営のプレイヤーが玉座に触れた瞬間まで……」
メイプルが文章を読んで頷く。攻め入ることに成功すれば早期決着もありうる。また別のケースとして一発逆転なども狙える設定となる。
また、どちらも玉座まで辿り着けなかった場合は脱落したプレイヤーのより少ない陣営の勝ちとなるようだ。
侵入されないように防衛ラインは強力にする必要があるだろう。それこそメイプルやペイン、ミィやベルベットなど個人の能力が高い面々が無理矢理飛び込んできた際に、止められませんでしたでは目も当てられない。
ただ、そういったプレイを強烈に抑制する文言もその後に付け加えられていた。
「ワンデスで脱落か……中々厳しいな」
「その分一人倒すことの価値は大きいだろう。敵の戦力が確実に減少する訳だからな」
一度倒されればそれで終わりとなると、死亡覚悟の思い切ったプレーというのは難しくなる。攻撃を受けることの多いフロントラインをいかに死なせないかは大事になってくるだろう。
一方的に負け続ければ、数で押されて次の負けにつながってしまう。
もちろんそれでも王城突撃による逆転が存在するつくりなため、勝っていても気は抜けないようになっているのだが。
「おお?すごいことも書いてあるぞ、皆見てみろ」
クロムに言われてメイプルは届いたメッセージをスクロールしていく。メイプルがどれだろうと目を通していると、サリーが先にクロムの言いたいことを察したのか文章を読み上げる。
「同陣営のプレイヤーとモンスターについて自分と一定範囲内にいる場合は追加でパーティーとしてみなす。ですか?」
「それだそれ。これ、メイプルの……」
「【身捧ぐ慈愛】の範囲に取れそうですね……」
「だよなあ」
それがどれだけ強いことか、この場にいる全員が理解できた。本来パーティーにしか適用できないものだが、その範囲が広がれば広がるだけ、実質的にメイプルの防御力を持つプレイヤーが増えることになる。
それは戦線を維持することを非常に容易にするだろう。またメイプルのスキルの認知度が高いこともここではプラスに作用する。説明しなくともメイプルが天使になれば何が起こるか、多くのプレイヤーは把握できているのだ。
「ちゃんと活躍できるよう頑張るね!」
「おう、そうしてくれ。と言いたいところだが……ほら、俺達こうして話してるけどな、同じ陣営ってことでいいのか?」
「そう言えば詳しく決めてはいなかったな」
「そうねー。なんとなく同じだと思っていたわ」
「メイプルさん、どうするんですか?」
「私も……聞いてみたいです」
「そうだね。作戦も何もかもそれからかな」
「そっか、そうだよね。うーん……私は皆で一緒に戦いたいかなあ」
メイプルならそう言うと思っていたとばかりに頷く面々を見て、【楓の木】の方針は固まったと言える。
「サリーもそれでいい?」
「私?……うん。メイプルがいいなら私もそれでいいよ」
「じゃあ【楓の木】は一緒に同じ陣営で!」
方針が決まったならここからは【集う聖剣】とも相談した共闘や、どちらの国を選ぶかなどイベントに向けてより具体的な準備を進めるフェーズとなる。
「なら細かい作戦も決めていこう。特に、倒されやすいけど相手にとっての脅威度が高いマイとユイなんかは滅茶苦茶狙われるだろうし」
「そ、そうですか?」
「ううっ……大丈夫でしょうか?」
「その分手厚く守る必要があるな。俺達だけじゃなく味方のプレイヤーも守ってくれると思うぞ、前回のイベントでレイドボスと対等に殴り合ってるとこ見てるしな」
二人が敵にも味方にも最高戦力認定を受けているのは間違いないだろう。
残る時間はそう長くはない。変わらず今できることをやってイベントに備えるメイプル達なのだった。




