防御特化と提案。
一方、メイプルはというとそのままミィと二人クエストを進行していた。
ちょうどミィの時間も空いており、このまま手伝ってサクサク終わらせないかとの提案にありがたく乗ったメイプルは圧倒的火力と圧倒的防御力のコンビで、文字通りモンスターを消し炭にして回ったのだ。
イグニスの優れた移動能力、そしてメイプル一人ではなし得なかった高い攻撃力は、残るクエストを簡単に消化することを可能にしたのである。
クエストも全て終わったということで二人は町まで戻ってきて達成報告をしに行くことにした。
「楽々戻ってこれちゃった!」
「シロップと比べるとね。一応【暴虐】よりも速いかな?」
「速いと思う!」
【暴虐】も普段のメイプルよりは速くなっているものの、あの外皮の与えてくれるステータスは伸びることがないため、鳥ということもあって元々【AGI】が高めなイグニスとの差は開く一方である。
ミィは入り口前にイグニスを降ろすと指輪に戻して二人で町の中へと入る。
「町はもう大体見て回った?」
「まだまだだよー。広いし、二つあるし」
「町の周りをぐるっと囲ってる壁の上には大砲とかもあったりするんだ。他にも王城以外で兵士が仕事している場所とかあったり」
「大砲とかも使うのかな?」
「イベントだよね?どうだろう、砲弾もあったし大砲まで持っていけば撃てそうだったかも?」
誰でも使える対空装備があるとなると空を飛んでいれば安全とは言い切れない。飛行能力を持つテイムモンスターの中でも機動力が高かったり、そもそも乗って空を飛ぶことに慣れている必要が出てきたりと考えることは増えてくる。
「カナデとかは町のこと見てくれてるらしいから、後で聞いておこうかな?」
「それがいいね。で、気になった所は見に行くみたいな」
「うん!そうする!」
二人は話しながら歩いて報告場所までやってきた。現状受けていた依頼の報告を終えたところで、次の難易度の依頼が新たに追加される。出て来るモンスターも強くなっていることが予想できるうえ、クエストの目的地もほとんどが森や平地だった初期クエストから、山や谷、洞窟の奥など自由に戦えないケースが出てくる地形に移り変わっていっている。
「ちょっと難しそうになったね」
「ああ、そうだな」
「あっ、そっか。えっと、ミィはこのあとは?」
周りにプレイヤーが増え【炎帝】のそれに戻ったミィにメイプルは改めてこの後の予定を聞く。
「すまないな。今日付き合えるのはここまでだ。また共闘できることを楽しみにしている」
「うん!私も!」
笑顔のメイプルにミィもニッと笑って返すと、今日はここで解散となった。突発的に組んだパーティーではあったものの、互いの能力もここまでで概ね把握していたこともあり、クエストの進捗具合は上々である。
ミィは次時間ができた時のために新たなクエストをとりあえず受けると、この後ある予定のためにメイプルと別れて建物から出ていった。
「私はどうしようかな……」
新しいクエストを進めてもよく、先程話題になったように町を見て回るのも悪くはないだろう。
どうしたものかと考えたメイプルは、ここでクエストが一区切りついたこともあり、探索先を大きく変えることにした。
「うん、どっちも進めていきたいし!」
今度は町を少し見て回るだけでなく、炎と荒地の国を本格的に探索するつもりなのだ。
【楓の木】は現状はまだ水と自然の国の探索に時間を割いている。今向こうでクエストを始めればメイプルが一番乗りだ。
「今日はもうちょっと遊んでいこーっと!」
そうして楓はここでクエストを受けるのはやめておいて再度出国するのだった。
出国したメイプルはそのままシロップに乗ると、のんびりとした空の旅を続ける。町から出てしばらく続く平地になっている辺りには、空を飛んでいるモンスターも特におらず、いたって順調で快適だ。
「改めて空から見ると……見通しいいなあ」
上空から見ているからというのももちろんあるが、見通しがいい理由はなにより平地が続いているせいである。
町を出てからしばらく続く平地は攻めるにも守るにも難しい地形だ。第四回イベントの時のような不意打ちや奇襲を用いて戦闘を有利な状況で開始する戦法は、ここまで見通しのいい平地となると使えない。
町の正面は数対数の勝負になることは間違いない。であれば周りはどうなっているかと、メイプルは左右に目を向ける。
正面から外れるとそこには様々な地形が広がっており、メイプルが攻略した凍てつく森のようなものから、サリーが調査していた踏み入るだけでデバフのかかるエリアなど一癖二癖あるものが存在している。
「サリーの作戦だと……平地よりもあっちの方とか行くのかな?」
今までのイベントの傾向からメイプルも自分なりにどんな風に攻めるかを予想してみる。【楓の木】の中で空を自由に移動できるのはメイプルだけだ。だからこそ、メイプルにしか見えてこない部分も必ずどこかにあるだろう。
「あっちの方は空にもモンスターいるし飛べないけど……向こうの方は飛びやすそう!」
空を飛ぶ時に気をつけることは他に何かあったかと今までの飛行を振り返ってみる。
「……そうだ風!」
メイプルが痛い目に遭ったのは三層の時に横からの突風でシロップから強制的に吹き飛ばされた時である。
脅威となるのは見えるものだけではないのだ、強風はその中でも代表的なものになる。
「むむむ……やっぱり見てるだけじゃ分からないよね。よしっ!」
これからは積極的にシロップで移動することに決めて、町までを飛んでいく。空に関してはメイプルが調べてサリーの手助けをするつもりなのだ。
未知の場所の探索でも【不屈の守護者】と【暴虐】が残っていれば、相当なことが起こらない限りは倒されてしまうこともないだろう。
本人の移動能力が低いことが難点ではあるものの、それ以外の能力は調査の際の大幅なリスク軽減に役立っており初見での攻略に適任と言える。
新たに空の探索を今後の予定に追加すると、メイプルは町へと向かってシロップを飛ばすのだった。
町の中へと入ったメイプルは早速クエストを受けに行こうとしてその足を止める。
「こっちの町にもミィの言ってた大砲とかって置いてあるのかな?」
そういった部分に差はなさそうに思えるが、先程自分の目で確かめてみようと決めたところでもあるため、メイプルは町を囲む壁に沿って歩いてみることにした。
ミィの話なら壁沿いのどこかに壁の上へ出られる階段があるはずである。
「暑そう……そうでもないのかな?」
町の中を巡る溶岩を眺めながらしばらく歩いていると、壁の側面から突き出した階段を見つけることができた。
「あった!」
メイプルは長い階段を上り壁の上に出る。壁の上は通路になっており、両側がメイプルの胸くらいまでの高さになるように間が低くなっていて、そこにはミィの言っていたような大砲などが並んでいた。
「穴が空いてるから……ここから先っぽだけだして撃つのかな?」
どちらの国も同じように町の前は隠れる場所のない平地が続いている。大砲の威力がどの程度のものなのかは分からないが、それはそれとしてこの上を取っているという状況が強力である。遠距離攻撃は各プレイヤーが所持しており、通路と壁の高さの差を活かして全員で魔法や弓での攻撃をすれば生半可な方法では町へ近づく前にボロボロにされてしまう。
メイプルもここから兵器や毒による攻撃を放ち続けるだけで【蠱毒の呪法】の即死効果も込みで甚大な被害をもたらすことができるだろう。
そもそもメイプルはその性質上向かって来る相手に対してめっぽう強いのだ。
「あっ!砲弾もある!……使えるのかな?」
砲弾の前まできたメイプルはそこで採取が可能なことに気づく、手に入るものは当然大砲の弾であり、どうやら三個までなら持てるようだった。
ポーションのように大量にインベントリに放り込んで連射というわけにはいかないが、何人かでぐるぐると持ち回りで撃てば攻撃し続けることも可能だろう。
「一回撃ってみよう!」
メイプルが大砲の前に立って砲弾を使用すると、自動的に弾が込められ、大きな音がしてフィールドに向けて砲弾が発射される。
「おおー……でも当てられるかなあ……?」
対人戦では狙う対象はプレイヤーになる。普段使っている【機械神】の兵器と比べて狙いの付け方が大雑把になることも考えると、メイプルは自分の技術では当てるのは難しいように思えた。
「あることだけ覚えとこっと。イズさんとかサリーなら上手くできるかもしれないし」
大砲はいくつもあったが特にそれぞれで威力や効果に差があるわけではなかった。全員で撃てば脅威になるかもしれないが、それは本番で試してみる他ない。
ここはこれくらいにして元来た方向へ戻ろうとしたメイプルだったが、ちょうどそこで階段を上ってきたプレイヤーと鉢合わせる。
「あっ!フレデリカ!」
「ん?ああー、やっほーメイプル。今日は一人?」
「皆フィールドのどこかにはいると思うけど……一人で探索中!」
「そうなんだ。こうやってメイプルと会うのは珍しいねー。目立つ装備とスキルのはずなのに……普段どこ探索してるの?」
「うーん……みんなと同じで普通にフィールド歩いているだけだよ?」
「【楓の木】の普通は信用できないからなー」
「えー!そんなことないよー!」
「ふふふー、どうだろ」
【楓の木】が保有する異様なスキル群のことを思うと疑いたくもなるものだ。
「フレデリカもここ見にきたの?」
「そそ、私が情報収集と後方支援担当だからねー」
フレデリカはそう言って壁の上からの景色を確認する。
「バフは……あの辺りまでかー。うち人数多いしあんまり固まっても範囲攻撃が……」
レイドボスと戦う時もフレデリカの無尽蔵のMPと大量の広域バフスキルは強力な武器となった。
しかし本人は前衛でガチガチに防具を固めているようなプレイヤーよりは耐久力に乏しく、できることならこの壁上のような安全な場所からの支援をしたいところである。
とはいえ射程の問題もあり、それは陣形に関わってくるため、陣取った場所でのメリットデメリットはよりシビアに考えておかなければならない。突然戦場のど真ん中に放り込んでも生き残っていそうなメイプルとは訳が違うのだ。
「フレデリカはこっちの国にいるんだね」
「んー?まー今はねー。結局どうするかはまだ決まってないけど。そう言うメイプル達はこっちなのー?」
「今いるのは私だけかな?皆で手分けして探索中なんだ!」
「【楓の木】人数は少ないもんねー」
所属するプレイヤーがはるかに多い【集う聖剣】なら、同じように探索を進めていたとしてももっと多くの情報を持っているのは間違いない。
情報収集の得意なサリーでも十人分の情報を同じ時間で集めてきたりはできない。人員の数の差は簡単には埋められないものなのだ。
「最終的にどうするかは分からないけどー。ペインはギルド全員で同じ側に行こうとしてるっぽい」
「そうなんだ」
「その方が勝ちやすいんじゃない?まー、私はギルドマスターの方針に従うかなー」
フレデリカとしてはどちらの国に属してもたいして変わりはないようで、それならばペインやドラグ、ドレッドと同じ陣営の方がやりやすい。
「勝ち馬には乗っておけーってねー」
「【集う聖剣】強いもんね……」
「それはどーも……でさ、人数は少ないって言っても少数精鋭、イベントでも活躍してる【楓の木】のギルドマスターに相談なんだけどー」
「な、何突然?」
「ちょっとうちのギルドホームで話でもしていかない?」
「へ?」
意外なお誘いに不思議そうにするメイプルだったが、特別断る理由もなく、フレデリカの提案を受けて後をついていくのだった。




