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防御特化と入国。

氷と水、緑に溢れるフィールドを離れるように二人が歩いていくと、徐々に足元の草花はなくなり、広がっていた森も見られなくなっていく。

二種類のフィールドの境目は荒れた大地と豊かな森が混ざり合うような形になっている。ところによって優勢な方が変わるといった様子だ。


そんな境目の部分を抜けるといよいよ反対側のフィールドが目の前に広がってくる。

そこは背の高い岩石が岩の森とでもいうように並び、その合間を砂地が埋めている場所だった。岩からは定期的に電撃と炎が走っており、反対のフィールドにおける水の道や氷の結晶のように、このフィールド独自の雰囲気を形成している。

さらに小川のかわりにドロドロとした溶岩が流れており、辺りを照らし出している。


「あれは触れない方がよさそうだね」


「うん、溶岩は燃えちゃうもん」

メイプルも固定ダメージ相手にはどうしようもない。防御力がいくら高くともそれを参照できなければ意味はない。




町まではフィールドを横断していく必要があるため、当然途中モンスターと遭遇することもある。二人が岩場を歩いていると、岩陰から一メートルを越える大トカゲがぞろぞろと姿を現したのだ。


「ふふん、こっちなら!【全武装展開】!」

メイプルは兵器を展開すると全方向に無差別に弾丸をばら撒く。基本的に避けることなど不可能といえる弾幕は近寄って来ようとしたトカゲたちを次々に打ち抜きHPを削っていく。しかし、流石に九層というべきかそれだけで撃破とまではいかず、周りを取り囲んだ状態で反撃とばかりに口から激しい炎を吐き出す。


「ちょっと避難するよ!」

【身捧ぐ慈愛】を発動していないため、サリーは巻き込まれないよう素早く空中に見えない足場を作って上空へと避難する。メイプルはというものの、互いに攻撃を受けながらの攻撃となるが、その防御性能には違いがありすぎる。トカゲ側も硬い鱗による防御はなかなかのものだが、メイプルの体には遠く及ばない。炎に包まれ火柱の中で直立したまま、壊れた分だけ兵器が新たに生産される。

少し離れた位置に着地したサリーはその光景を眺めていた。


「大丈夫……なのがおかしいんだけど。問題なさそうだね」

メイプルのHPバーはピクリとも動かず、そうしているうち被弾が多かったトカゲから順にばたりと倒れて消滅していく。

対抗する手段がなければどれだけ攻撃を繰り出そうと、数を用意しようと変わらないのだ。

メイプルを包む炎もトカゲの数が減るとともに小さくなっていきやがてそれは完全に収まった。


「危なげなかったね」


「ただの炎だけなら大丈夫!」


「トカゲは大丈夫と……他のモンスターも見てみないとね」


「?」


「ほら、このフィールドをそのまま使って戦うならモンスターも出てくるかもしれないでしょ?攻め込む先に苦手なモンスターが少ない方がいいかなって」


「おおー!確かに!」


「封印とかも嫌だけど単純に攻撃的なモンスターが多いのもなーって。出てくるとして扱いも分からないしね」


「ふんふん、なるほど……」

メイプルもどんなモンスターがいるかは覚えておこうと認識を改める。今までとは違い次回イベントの内容が早めに告知されていることもあって、普段の探索とは意識する場所も変わってくるというわけだ。


「じゃあいい感じに隠れられる場所とか探しておくといいってことだね!」


「そそ、奇襲されにくくなるし奇襲しやすくなるからね。あとは……飛び出した先が溶岩だまりみたいなこともなくなる」


「それは大事かも!」

それなら今回はモンスターの様子を観察しつつ町まで行こうと、二人はシロップに乗って空を行くのはやめにして地形なども確認しながらとすることにするのだった。




そうしてほどなくして町のちかくまで辿り着いた二人は出会ったモンスターを振り返る。


「えっと……棘を飛ばしてくるおっきいサボテンと、地面から出てくるおっきい虫と、クエストで戦った氷の塊の炎バージョンと雷バージョン!」


「サボテンくらいかな。貫通っぽかったのは。また今度調べておくね」

棘が飛んでくるのを見て、見た目からして流石に体で受けるわけにはいかないと盾でガードしたため真偽の程は分からない。大量に飛んでくる棘が防御貫通攻撃の場合、【不屈の守護者】も多段ヒットには弱いため直撃すればメイプルのHPだと危険なのだ。ただ、他のモンスターはエフェクトからして問題なそうだったためその体で受けて貫通攻撃でないことは確認済みである。

そして、大トカゲの時点で分かっていたことではあるが、フィールドに現れるモンスターは完全に違うものになっているということだ。


「属性とか攻撃方法との相性も考えておいた方がいいかも」


「考えることいっぱいだねー」


「どのプレイヤーもできることが増えたしね。その分考慮することも多くなっちゃうかな」

レベルが低くスキルが少ないうちは、取れる手段がそもそも少なかったため、考えてもどうしようもないことが多かった。ただ、今はもうそうではないのだ。


「このくらいのモンスターならぶっつけ本番でもいいけどね。念のためってやつ」

多少厄介と言えるモンスターはいたものの、あくまでもフィールドに常に湧くタイプのモンスターだ。基本的に経験値を稼ぐために倒されていくものであり、特別強くされているわけではない。九層に来るようなプレイヤーを追い込むのは、大体ボスモンスタークラスである。


「ずっと話してても何だし、入ろうか」


「うん!」

二人はもう街の入り口までやってきている。街を取り囲む背の高い壁と、開かれた門の先に見える黒を基調とした町並みには、向こうで氷と水が装飾に使われていたように、雷と溶岩が町を巡っているのが見える。

白を基調とし水と自然に溢れた国と比べて、禍々しく荒々しさを感じさせる国の中へと二人は足を踏み入れるのだった。




町の中へと入っていってまず分かるのは、二つの国に設備としての差はないということである。門からはまっすぐに大きな通りが伸びており、見覚えのあるNPCのショップの看板もほぼ同じ位置関係に確認できた。

一つ大きく違うのはプレイヤー以外に人が少ないことだろう。

といってもあくまで少ないのは人だ。この町を歩いているNPCは獣の耳や尻尾、竜の翼など、それぞれ人にない特徴を持っていたのである。


「なるほど。こっちはそんな感じかあ」


「四層みたいな感じだね!」


「確かに近いかな?」

二人は町の様子を確認しつつ、同じように城の方へと向かっていく。既に受けていたクエストは自動的に一旦進行停止し、新たに城へ向かうクエストが受注された。

やはり国ごとにクエストが存在し、さらにそれらを同時に受けることはできないようである。


「ま、どっちかを選べってことか」


「そうみたいだねー」

手順はこちらも変わらないため、同じように少し高い位置にある城を目指して、大通りを進み長い階段を登る。

そうして城の目の前までやってくると、以前浮遊城で見たような、顔まで完全に爬虫類のそれになった竜人が兵士として立っており、二人に対応してくれる。

やはりこちらも同じように一度王の元へ案内してくれるようである。城の中を歩いている間、時折王や国についてほんの少しではあるものの情報を話してくれる。


「ウチの王様は強えからなあ。この時間なら玉座の間だろうが……変なこと言って叩き潰されないようにな!」

そう言って竜人の兵士は笑う。


「ど、どんな人なんだろう……」


「あっちの王様よりは力で押してくるようなタイプなのかも」

あちらはその見た目から肉弾戦というより魔法での戦闘を予感させたが、こちらは話を聞く分にはどうもインファイターのように思われる。


「そうだったとしたら水と自然の国の王様の方が陣営対抗では強そうだよね。味方してくれるかははっきりしてないけどさ」

プレイヤーの数から考えるに、大人数でのぶつかり合いがあちこちで起こることになると予想できる。

となると接近戦がいくら強くとも、体が一つでは対応しきれない部分も出てくる。

魔法ならものによってはその弱点をカバーするようなこともできるかもしれない。


「カナデが何冊かすごい射程が長い攻撃ができる魔導書持ってたりするし」


「確かに……近づけないと困っちゃうけど、魔法はそんなことなくていいよね!」

メイプルの場合はそのステータスのせいもあって、相手に近づけないような場面はよくあり、射程のあるなしがどれだけ重要になるかは理解できていた。

そうこうしているうちに王のいる部屋の前までやってくると、同じように兵士が扉を開け、中へと招き入れられる。


「広っ……」


「本当だね!」

こちらの玉座の間はぱっと見て、水と自然の国の1.5倍程。さらに部屋の中に玉座に座った王らしき人物以外誰もいないこともあってより一層広さを感じさせる。


「王!客人です!旅の者で!」

兵士が呼びかけると王と呼ばれた人物は立ち上がる。すると、王は何とそのまま膝を曲げ勢いよく跳躍し、二人の前まで飛んできて空中で静止しゆっくりと地面に降り立つ。

改めて近くで見るとどんな人物かがよく分かる。身長は二人よりは少し高い程度、メイプルより少し長いくらいのぼさっとした黒髪に、細い体つきの女性であるが、それ以上に特徴的なのは硬そうな鱗に覆われ鋭い爪が伸びる手足と背中から伸びる竜の羽、そして大きな尻尾だった。


「んー?」

王は顔を寄せて二人を品定めするようにしばらく見た後、満足したのか少し距離を空けて尻尾と翼を黒い光に変えて消滅させ、手足を人間のそれと変わらないものに変化させた。


「何だまたひ弱そうな奴らだな!」


「ひと見かけによらないですよ。王だってそうじゃないですか」


「ハハ、それもそうだ。旅の者、我が国へよく来た!歓迎しよう!」

二人は同じように歓迎の言葉と近々起こるイベントに関連した話をもう一度聞いて、所属と依頼の説明を受ける。


「敵になった時は容赦しないからな。嫌なら味方についておくといい!」

王は自分の強さに自信があるようで、一通り説明をし終えると最後にそう言ってのけて、兵士に命じて二人を外まで案内させた。

玉座の間からの帰り道で二人は短い間に感じたあれこれを共有する。


「……あんな感じだった、と」


「本当に強そうだったね!」


「戦うなら最初近づいてきた時みたいな機動力を考慮しないといけないし、翼生えてたから普通に飛ぶだろうし……あっちの王様と比べると戦う様子は想像しやすいかな?」

予想通り肉弾戦が得意そうな雰囲気である。もし竜を元とした膂力があるならば攻撃力も相当なものだろう。


「あと素早い人型の敵は的が小さいっていう強みもあるし」


「サリー が言うと説得力あるかも」

少なくともメイプルではあの速度についていくのは骨が折れることだろう。


「王様とも戦うことになるなら、こっちの味方をした方が楽になりそうではあるね。メイプルがいれば範囲魔法には相性がいいし。ほら、肉弾戦って感じじゃないお爺ちゃんの方は魔法を使ってきそうだから」


「なるほどなるほど」

とはいえ、これはまだ全て予想の段階でしかない。実際のところどうなのかは今後の情報収集次第である。

ともかく、これでどちらの国のトップにも会うことができ、一部のモンスターも確認が済んだ。いよいよここからは情報を集めながら、最終的にどちらの国に属するかを決めていくこととなる。


「まだイベントまで時間は結構あるしのんびりやっていこう」


「うん!」

まだ九層の探索ははじまったばかり。あくまで全てはこれからである。

こうして二人はまた新たな情報を一つ得て城を出ていくのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] これで…また脱線してどっちの陣営にも入り損ねて、手違い的にたった八人の第三極『楓の木になって、両陣営共に敵に廻して七転八倒になったら、まさにメイプルらしいね(笑)
[気になる点] イベント後にフィールドが固定化されちゃうならスリップダメージフィールドである溶岩は嫌だろうな。
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