防御特化と出国。
さくっとクエストをクリアして町へ戻ってきた二人はクエストクリアの報告のため依頼カウンターへと出向く。
九層でできることの多くはここを起点としているため、出て行った時と同じように多くのプレイヤーで賑わっていた。
「報告すればいいんだよね?」
「うん、そうらしい」
二人がある程度カウンターの近くまで行くとクエストの表示が切り替わり報告可能となる。青いパネルに表示された達成の文字をタップすると、報酬として素材とゴールド、さらに追加の経験値を手に入れることができた。
「おおー!」
「受けた時にもらえるっていうのは書いてあったけど、改めてもらうとちょっと得した感じするよね」
「するする!」
坑道での戦闘でも素材や経験値は普段通り手に入れることができている。クエストでさらにもらえる分だけレベルアップ等もしやすくなっており、クエストは受けるだけ得だと言えるだろう。
九層の中心となる要素なだけあって、クエストを受ける方がいいとプレイヤーが自然に判断するような作りになっているわけだ。
「皆はまだみたいだね」
「戻ってくるって決めてたわけでもないし、さらにもっと探索してる可能性もあるね」
九層にはまだ足を踏み入れたばかりであり、ほとんどが未知のエリアである。八層と違い探索できる場所にこれといった制限もないとなれば広大なフィールドを歩き回るだけでいくらでも時間を使うことができる。
「どうする?どんどん次のクエスト受けていってもいいし、もっと他にレアイベントを探すのもあり」
クエストはかけた時間に合わせて安定した報酬をもたらしてくれるが、隠されたイベントやアイテム、ダンジョンを見つける方が急成長できる可能性は遥かに高くなる。とはいえ九層のメインはクエスト進行であり、地道に依頼をこなすことでさらに先のクエストが解放されることを考えるとそれに時間を割く必要も出てくるだろう。
「うーん……どうしようかなあ……」
メイプルがどうしようかと悩んでいると入口の扉が開き見知った顔が中に入ってくる。メイプルとサリーが人混みでも目立つ装備をしていることもあり、向こうも二人に気づいたようだった。
「やあ二人とも。そうか、今のところ【楓の木】はこちら側にいたのか」
「リリィさん!」
「【ラピッドファイア】はこっちですか?」
「半々といったところかな。どちらも見てみないことには分からないからね」
【楓の木】が予定していたように【ラピッドファイア】もギルドメンバーをそれぞれの国に送り込んで情報を揃えている段階のようである。
「イベントでもこのフィールドを模したものが使われるようですから」
ウィルバートの言う通り細部まで情報を知っているかどうかは戦闘において重要になってくる。大規模ギルドならそこに人数をより多くかけられるため、アドバンテージを活かそうというわけだ。
「ですね。私も準備期間だと思っています」
どのプレイヤーも九層の探索をするとともに、その先にある対人戦を見据えている。
「私達はどちらの国にも一度入ってきたが……早めにどちらもその目で見てみるといいと思うね。やはり自分で見てみないことにはどちらの国につくかは決めにくいだろう?」
今回は二つの国でフィールドの性質が大きく異なる。ギルドメンバーから伝え聞いたり、掲示板から情報を収集したりすることはできるが、百聞は一見にしかずというものだ。
「国ごとにクエストも用意されていますから。イベントまでにどちらもクエストをこなすとなると難しいでしょうね」
「なるほどー……」
まだクエストをクリアして行った先に何があるかは分からないが、それがイベントを有利にするものである可能性も捨てきれない。中途半端にどちらもというより、どちらかの国に属することを早めに決められる方がいいだろう。
そのためにリリィ達は最初のうちにどちらも見ておくという選択を取ったのである。
「じゃあさサリー、向こうも見に行っちゃおうか?」
「いいよ。ここは先人にならっておこう」
ちょうどどうするか迷っていたところに一つ方針ができた格好となる。もちろんこれで属する国を決めることにはならないが、早め早めに動いていくようにしたのだ。
「役立ちそうなものを見つけたら教えてくれると助かるよ」
「ふふふ、ライバルになりそうな人には教えられません」
「はは、それは残念だね」
それはそれとして、現時点では特に対立しているわけでもない。ダンジョンなどともに攻略することがあればそこは力を貸し合うということに変わりはない。
あくまでも、対人戦も気にかけているというだけなのだ。
「では、機会があればまたパーティーでも組んでどこかに」
「はい!」
小さく会釈をしてウィルバートとリリィは奥へ向かっていく。広い部屋の一角にはプレイヤーが集まっており、合流したことから【ラピッドファイア】の面々であることが察せられる。ここからでは何を話しているかは分からないが、おそらく情報を交換しているのだろう。
「じゃあさっそく出国だね」
「むこうはどんな感じかなあ」
「イメージ的には攻撃力の高いモンスターとかトラップとかが多そうな感じだけど……」
それもこれも行ってみなければ分からない。最初こそしばらく滞在する予定だったものの、二人は一旦逆側、炎と雷、荒れた大地の広がるフィールドへと向かうのだった。




