防御特化とロストレガシー。
ボスを倒して自由落下していく中、サリーは姿勢を整えるとメイプルを抱き上げ、空中に足場を作って地面まで降りていく。
「よっ、と!」
「ありがとサリー」
「うん、お疲れ様。さて……ちょっと変だね」
「えっ?……あっ!さっきのボスまだ残ってる!」
いつもならモンスターは光になって消えていくのだが、先程動きを停止させたキューブはまだその場に残り、今は落下して様々な素材の山に埋もれている。
「調べられそうなところ多いし、確認してみよう。もう一回来るのも手間だし、そもそも来られるとも限らないし」
「そうだね」
通常フィールドでない場所は侵入に特殊な条件が設定されていることがほとんどだ。再現したつもりでも認識していない条件のせいで同じ場所へ来れないこともザラであるため、探索は心残りのないように行う必要がある。
二人は本命は後にして、周りに転がっている大量のガラクタの中に持ち帰ることができるものはないかと漁ってみる。
「んー、メイプルー何かありそう?」
「ないかもー!特に見つかってないよー!」
「流石に雰囲気作りでしかないか……本当に全部探してるとキリがないし……」
あらかた調べたものの、結局特にインベントリに入るようなアイテムは存在しなかった。ただ、ないと分かったなら、改めて目の前のボス本体に集中できるというものである。
「また動き出さないかな……?」
「流石にないと思うけど、ほら入って来た辺りに魔法陣出てるし」
「ほんとだ、じゃあ安心だね」
ボスは最初の立方体の形ではなく、戦闘中の時のように中央でパッカリと綺麗に二つに割れてしまっている。
「あれ出してみてよ。反応あるかも」
「うん!似てるもんね!」
メイプルはインベントリから『ロストレガシー』を取り出す。手のひらサイズの黒い立方体はボスのミニチュア版といった感じで、見た目はほとんど変わらない。
「近づけてみるね……わっ!?」
メイプルが近くにアイテムを持っていくと、『ロストレガシー』の表面に青い筋がいくつも入り、バチンと音を立てて、衝撃と共にメイプルの手からこぼれ落ちる。メイプルが拾い上げようと手を伸ばしたところで、ボスだった巨大な立方体が呼応するように音を立て始めた。
「メイプル!」
サリーが危険を察知してメイプルを下がらせた直後。間に転がっていった『ロストレガシー』を挟み込んで、二つに分かれていたパーツが一体化する。
「ありがとう、挟まれちゃうところだった」
「一応警戒しておこう」
「そうだね!」
ボスだったものが再度動いているところを目撃したわけで、もう一度戦闘が始まる可能性も否定できない。事実二人はそういったダンジョンを攻略したこともあるのだ。
しかし、その心配は杞憂だったようで、立方体は強い光を放ちながら小さく小さく縮んでいき、結局飲み込まれた『ロストレガシー』のサイズになってしまった。
「飲み込んだ……というより飲み込まれたのかな?」
「合体って感じ?」
「それが近いかも」
強烈な発光も収まったため、メイプルはそれを拾い上げて確認する。
するとアイテム名こそ変わっていないものの、スキルが一つ追加され、アイテムから装飾品に種別が変更されていた。
「装備できるようになってる!」
「おおーいいね。装飾品は枠がキツいけど……どんな感じ?」
メイプルはウインドウを開いたままサリーが確認できるように少しずれて一緒に効果文を読む。
『ロストレガシー』
【古代兵器】
所有者が攻撃した時、攻撃を受けた時に追加でエネルギーを取得する。
エネルギーを消費することで形態を変化させ武器として扱うことが可能になる。
一定時間エネルギーを獲得しなかった場合、エネルギーは時間経過で徐々に減少する。
「さっきのボスがやってたやつかな?MPでもなくてエネルギーっていうのを消費するみたいだし」
「付けてみよっか?」
「そうだね。見てみた方が分かりやすいかな」
メイプルは装飾品の指輪を一つ外すと代わりに『ロストレガシー』を装備する。すると黒をベースに青いラインの入った怪しげなキューブが一つメイプルの近くに浮かんでついてくる。
「適当に攻撃してみて」
「【砲身展開】【攻撃開始】!」
メイプルは誰もいないところに銃弾をばら撒くがエネルギーのゲージは一向に伸びていかない。
「あれれ?」
「……空撃ちじゃダメっぽいね。攻撃を受ける方はどうかな?」
「じゃあ爆弾で!」
メイプルは足元に爆弾を並べると躊躇なく着火する。それは少しして大爆発を起こしメイプルは爆炎に包まれる。
当然ダメージなどないことが分かっているが故の動きだが、サリーも一瞬真顔になるというものだ。
「サリー!ちゃんと増えたよ!減っていってるけど!」
「基本は戦闘中に使う感じなのかな。攻撃して増やすのが普通の使い方だと思う。爆弾で下準備する選択肢があるのはメイプルくらいだろうし……」
攻撃を受けた時にゲージが増えるのは確かだが、そちらを中心に運用するものでないのはなんとなく察せられる。
メイプルは溜まったゲージを消費して、早速一つスキルを発動してみる。
「【古代兵器】!」
メイプルがスキルを宣言すると浮かんでいたキューブは一気に二メートル程のサイズとなりバカリと二つに分かれて中からガトリング用の筒が伸びてくる。
「……撃たないのかな?」
「基本自動攻撃なんじゃない?今は対象がいないし」
「なるほど、でもよかったー。これ以上銃が増えると持ち切れないから」
「そんなことあるものなんだね……」
そもそも持ち切れないほど銃器を持つ大盾使いとは一体何なのか、銃使いと言うにはあまりに硬く、大盾使いと言うには攻撃能力が高すぎるのだ。
「ま、無事に手に入ったし何よりだね」
考えても意味のないことだと、サリーはメイプルの純粋な強化を祝う。手に入ったスキルやアイテムはどれも強く、状況を変えるきっかけになりうるだろう。
「これでもっと役に立てるよ!」
「いいねー。期待してるぞー」
「ふふふ、任せたまえー」
こうして新たな力を手に入れて、二人はこの場所を後にするのだった。




