防御特化とヒント。
そうしてしばらく進んでいると、スライムの他にも様々なモンスターが出てきた。ただ、それは鳥だったり獣だったり、水中より地上にいる方がらしいものばかりである。水中にいられるようにするためか、先程のスライムのような青いゲル状の体をしているのが特徴的だった。
「八層にも今までみたいなモンスターいるんだね!」
「今までみたいって言うと語弊がある気もするけど……でも確かに何故か水中にいるって感じだよね」
水中で活動し、水の魔法を使って攻撃してくるが、魚系のモンスターのように素早く泳いで距離を詰めてきたりはしない。
どのモンスターにも地上に適した能力のまま水中にいるようなちぐはぐさが見てとれた。
「動きが鈍いのは助かるからいいけどさ」
「私も反応しやすいし!」
「だね」
メイプルと比べられるような相手なら、サリーの方がよっぽど速く動くことができる。八層のモンスターを上回る速度で水中を泳ぎ回っているのだからそれも当然だ。
それもあって、二人は特に苦戦することなく進むことができていた。放ってくる水魔法は範囲も広く強力だがメイプルがいれば一切無意味であり、総じて脆いモンスターはサリー一人でも十分撃破可能な範囲である。
「一人で来なくてよかったー……どのモンスターも倒せなくて困っちゃうところだったよ」
「本来盾役はダメージを出す人と一緒にいて一番輝くものだからね。だからソロプレイはちょっと厳しいことが多いはずなんだけど」
「ふふふ!攻撃にもちょっと自信でてきたよ!」
「流石に使いこなせてきてるもんね」
毒を撒き散らし、化け物を呼び出し、大量の兵器で敵を蹂躙して先に進むのは大盾使いがやることではないのは間違いない。
ダメージを出せるのはパーティーにとっていいことだが、それがなくても戦える方が健全である。
「しばらく行ったら他のタイプのモンスターも出てくるかもしれないし、その時はよろしくね」
「うん!残弾もばっちりです!」
「それは頼もしいね」
サリーはメイプルとは違って、使用回数に制限があるスキルを戦闘の中心に組み込んでいるわけではないため、しばらく探索したものの二人のリソースは特に減ってはいない。
もしボスが普通の肉体を持って現れたなら、ここまでは温存するしかなかったスキルが容赦なく襲いかかることになるだろう。
そうして水中の通路をしばらく進んでいった二人はいくつかの道に分岐していく広い空間を視界に捉える。二人は慎重に一歩踏み入るものの、特に中ボスのようなものが出てくる様子もなく、分かりやすい分岐点というだけらしかった。まだ先は長そうだと、サリーはメイプルの様子を確認する。
「息もまだ続く?」
「大丈夫!……?」
「メイプル?」
メイプルはどこか違和感があるのか潜水服の胸の辺りをぽんぽんと叩いている。
「どうかした?酸素は……数値上は問題ないみたいだけど」
「何だかこの辺りが少しあったかい感じ……?」
「……なるほど?状態異常とかでもないみたいだし」
サリーはそうして少し考えると、思いついたことを話し始める。
「特にダメージとか状態異常もないし、モンスターがいる気配もないなら、何かのヒントかな?私が感じてないってことはメイプルの持ってるスキルかアイテムが反応してる可能性がある」
「おおー、そうかも!」
「ただ……いい内容か悪い内容かは分からない」
「……?」
「とてつもなく強いモンスターの居場所を危ないよって教えてるのかもしれないし、逆に良いアイテムの場所を教えてくれてるかもしれないってこと」
示しているものがあるとして、果たしてそれが近づいて良いものなのかどうかは分からないのだ。今正確に分かるのは、ここまでなかった変化がメイプルに起こっているということだけである。
「メイプルはどう思う?」
「うーん……サリーの言った通りヒントっぽいし、反応する方があったらそっちに行こうかな?」
「とんでもないモンスターがいるかもよ?」
「サリーと二人なら勝てるよ!」
笑顔でそう言い切るメイプルにサリーは目を丸くするものの、可笑しそうに少し笑って自信ありげな表情を見せる。
「そうだね。メイプルとなら勝てるかな」
「それに……そんなに嫌なあったかさじゃないから変なことにはならない気がするんだよねー……本当にそんな気がするだけなんだけど……」
「そう?メイプルの勘は当たるからなあ……」
それなら少しでも反応が変わる方へと行ってみようと二人はまた泳ぎ始める。
まずは目の前に続くいくつもの分かれ道をどちらへ進むか決める必要がある。
「じゃあ一つ一つ少し前に出てみよう。何か反応があるかも」
「分かった!」
サリーに促されて少し通路を進んだところで止まったメイプルは特に変化はないと首を横に振る。
「多分変わってないと思う!」
「じゃあ次だね」
そうして時折通路に入りながら壁沿いにぐるっと回っていると、そのうちの一本の通路の前でメイプルが立ち止まって首を傾げる。
「どうかした?」
「うーん……一瞬あったかくなったかも?」
「本当?」
「気のせいかな?」
「ならもう一回試してみればいいんじゃない?隣にずれてまた前に立つ」
「そっか!そうだね!」
メイプルは隣へ移動するとまた同じ通路の前に戻ってきて意識を集中させる。
「どう?」
「変わった!」
「おっけ。ならこの先がいいかな」
変化があるということは、その先には他にはない何かがあると察せられる。
ここからは一度通路の前に立ってみて確認してから進む必要があるようだ。
そうしてメイプルの感覚を元に通路を進む二人がしばらく行くと、次の別れ道に続く広い空間に出る。またメイプルに探ってもらおうとしたところで、バチバチと光とも電撃とも取れる何かが中央で弾ける。
「……!」
「サリー、何か出てきそう!」
「構えてて!」
メイプルが盾と兵器を構え、サリーがいつでも攻撃に移れるよう二本の短剣を握り直すなか、激しい音と光は収まり、そこには沈むことなく静止している立方体があった。
石を組み合わせて作られているように見えるそれを観察していると、亀裂が走り幾つかのパーツに分裂し、内部には青い核のような輝きが見えた。
それと同時に上にHPバーが表示され、戦闘態勢をとったのかクルクルと回転し始める。
「ゴーレムにちょっと似てるかな?」
「あの時の?」
「うん、材質とか」
同じ石材というだけでなく、作りや色合いも似ていることには、あの水中神殿とこの場所の関わりを感じさせる。であれば、二人の目的地はこの先にある可能性は高くなる。
「これは当たりかもよ」
「ほんと!?よーし、じゃあますます頑張らないとだね!」
「うん、きっとこれが守っている何かがあるはず」
守っているだけあってただでは通さないと、同じように光が弾け先へと進む通路が石の壁で封鎖され、それに合わせるように立方体の周りに魔法陣が展開される。
「準備できてるよ!」
「助かる!」
【身捧ぐ慈愛】を使えるよう意識しつつ、出方を見ていると、魔法陣の光に合わせて体がゆっくりと左へ流されていく。
「攻撃じゃない……ダメージはないよ!」
「でもこれって、わわわっ!?」
水の塊をぶつけられた訳ではなく、もっと大規模な変化がこの部屋全体に起こっていた。魔法陣の効果により、ボスの回転に合わせて水流が発生しており、問答無用で一定方向へと押し流され続けるのだ。
「【攻撃開始】!っとと、狙いにくい……!」
メイプルは展開しておいた兵器で攻撃するものの、その防御力を生かして弾幕を張る運用がほとんどなため、動きながら敵を狙うことに不慣れであり上手くダメージを稼げない。
「核以外にもダメージが通るのはよかった。私も攻撃するからメイプルもできるだけダメージ稼いで!」
「分かった!今までの分頑張るよ!」
道中は水の体を持ったモンスターばかりだったため、ようやくまともに攻撃できる敵が出てきたのだ。まだまだ弾にも余裕があるため、メイプルもここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。
「これくらいの水流なら……!」
サリーは流れに逆らわずに加速すると円を描くように高速で距離を詰める。ボスもそれに反応して魔法陣から水の槍を生成するものの、サリーの接近には間に合わない。
「【トリプルスラッシュ】!」
ほんの一瞬、すれ違うその間に叩き込める中で最もダメージの出せるスキルで六つの深い傷をつけるとそのまま水の流れと共に離れていく。
「加速できるしむしろありがたいくらいだね」
「サリーすごーい!よーし、私も……」
狙いを定めて、というのはそこまで得意でないメイプルは、それでも攻撃を命中させるために特大の砲口を生成し中央へと向ける。
しかし、それがレーザーを発射するより先にサリーを狙って放たれた何本もの水の槍が水流に乗って迫ってきた。
同じ水流の中にいる相手にある程度きっちり追いつくように作られている様で、サリーはともかくメイプルの速度では逃げられない。
「わっ!?ちょっと待って!」
「大丈夫、任せて!」
サリーは素早く近くに来ると、流れの中で姿勢を整えてメイプルの前に止まり、兵器を水の槍から守るために立ち塞がる。
「ふぅっ……!」
水中に素早く振るわれた短剣の青い光が閃き、迫ってくる水の槍のうち、メイプルに当たる軌道のものが全て撃ち落とされる。
本体はよくとも、基本的に兵器の方は攻撃に耐えられないため守る必要があるのだ。
「ありがとうサリー!よーしっ!【攻撃開始】!」
細かい狙いが定まらないならある程度ずれても当たるような攻撃をすればいいと、メイプルは赤く輝く巨大なレーザーを中心に向かって発射する。それは水流などものともせずに中央に到達すると、立方体の半分を焼き尽くしながら貫通し、奥の壁に直撃して爆発する。
「うぅ……ちょっとずれちゃった」
「十分だけどね。どんどん撃っちゃって。私が隣で弾いておくからさ」
「うん!」
メイプルの兵器のいい使い所なため、サリーは攻撃を中止してメイプルの防衛に回る。
相手としては何とかメイプルの兵器を壊していかなければならないが、サリーの防御網を突破するのはかなり厳しい。短剣で弾く他、【ウォーターウォール】など魔法で壁を生み出すこともできるのだから、多方向から狙っても攻撃はそうは通らないのだ。
「よーし……よーく狙って!」
「こっちは気にしなくで大丈夫だよ」
「【攻撃開始】!」
結果、次々に放たれる深紅のレーザーによってその体が粉々になるまで、メイプルの兵器に傷の一つすらつけることはできなかったのだった。
立方体が跡形もなく消し飛んで消滅したのと同時に部屋全体の水流も停止し、元通りの穏やかな水中が戻ってくる。
「そんなに強くなかったね」
「普通ならもう少し苦戦するかもしれないけど……うん、特別難敵って感じではなかったかな」
「サリーが守ってくれたから兵器もまだまだ大丈夫!【悪食】もあるよ!」
多くのスキルを温存したまま突破できているのはサリーの存在が大きいだろう。その防御によってメイプルはレーザーで絶え間なく攻撃することができ、兵器も壊されず最低限の生成で済んだのだ。
「じゃあ奥へ行こう。ここからはメイプルが先頭で」
「はいはーい!」
こうして二人はさらに奥へと進んでいくのだった。




