防御特化と宝探し。
そうしてまたしばらくして、【楓の木】の八人もついに八層の全ての場所へ行くことが可能になった。そうなればやることは決まっている。
「サリー!やっとどこでも行けるようになったよ!」
「うん、そこに本当に何かあるか確かめに行けるね」
二人が探しているのは当然あの二つのアイテムが使える場所である。
当然、パーツ集めの最中にもそれらしい場所はないかと探していた二人だったが、結局見つかることはなかった。もちろん、念入りに隠されていて見つからない可能性も否定できないが、まずは未探索のエリアに行くのが先である。
その方がよっぽど未知なるものがあることは確実なのだ。
「いつでもいいよ!」
「メイプルがいいなら早速行こう。イズさんのアイテムも持った?」
「うん!息が続きやすくなるアイテムはいっぱいあるよ」
「じゃあ出発しよう。最終的には一つ一つ見ていくしかないから、時間はあるに越したことはないし」
サリーはギルドホームから出ると、いつも通り町の外にジェットスキーを用意してメイプルを後ろに乗せる。
「ちゃんと掴まったよ!」
「おっけー!」
サリーはジェットスキーを一気に加速させると、そのまま水上を凄い勢いで走っていく。
「どこから行くの?」
「新しく行けるようになったエリアで一番広い所。飛び地になってる所は連続して探索しにくいからとりあえず後!」
「なるほど」
「それに、今から行く所はかなり高い場所だから最有力、第一候補って感じだよ」
「おおー!じゃあいきなり見つかっちゃうかもだね!」
「皆との予想が当たってたらね」
サリーはそうしてしばらくジェットスキーを走らせると、マップを確認してゆっくりと停止する。
「この下なの?」
「いや、もう少し先の方なんだけど……見たら分かるよ」
どういうことだろうと首を傾げるメイプルに潜水服を着させて、二人は水中へと飛び込む。目の前に広がるのは相変わらずどこまでも続く水と、眼下に連なる高い山脈。そして、その周りをまるで嵐のように取り囲む荒れた水流だった。
水の流れはエフェクト付きで分かりやすくなっているが、それは間をすり抜けるためなどでは決してなく、むしろ近づき滅茶苦茶に流されて死んでしまわないように付けられた目印である。
「メイプルなら生き残れるのかもしれないけど……もし出られなくなっても私じゃ脱出の手助けはできないし、気をつけてね」
「う、うん。気をつける」
少し前にも水流で痛い目を見たところなため、メイプルとしてもあれに近づくのはやめておくことにした。
「じゃああっちは行っちゃだめなんだね」
「でもあっちへ行くんだけどね」
「えっ!?」
今その危険性を説明されたばかりであり、メイプルにもどう考えても近付くべきでない場所だと、しっかり印象付けられたところである。
「行き方があるみたい。ちゃんと水流を確認しながら行こう」
「うん、サリーは知ってるの?」
「まだ中のことは情報がなかったけど入り口の位置くらいは分かってる」
「おおー!さっすがサリー!」
二人は少し離れた場所で水底まで沈むと、そのまま山脈の麓の方まで進んでいく。元は地上だった位の高度にはあの強烈な水流は存在しないようで、問題なく近づくことができていた。
「山もこんなに大きいし、入り口もいくつかあるかもしれないけど……とりあえず分かってるのはここだね」
二人の目の前には山の中へと続いていく洞窟があった。内部の酸素状況は詳しくは分からないが、外から見える限りは完全に水没してしまっている。
「まずそうなら脱出するよ。溺れちゃわないように注意してて」
「うん!あんまり長くないといいなあ……」
こうして二人は足並みを揃えて水中洞窟へ入っていく。中は明るさが調整されており、特段暗いということもなく、視界に問題はない。
ダンジョンやモンスターの様子がまだ分からないため、一旦【身捧ぐ慈愛】も使わないで奥へと向かっていく。
「あれ?何かいる?」
「いるね。ちょっと見にくいけど」
ふわふわと漂うように水中を移動しているのは、三体の全身が水でできたスライムのようなモンスターだった。輪郭がわかるように周りの水より濃い色をしていなければ、見つけることも難しかっただろう。
「じゃあ先手必勝だね!」
メイプルは兵器を展開すると、モンスター達へ大量の弾丸で一気に攻撃する。
それは雑魚モンスター程度なら基本容易く吹き飛ばせる弾幕だったが、今回はそうはいかなかった。
メイプルの弾丸が迫ってきたことによって戦闘状態に入ったスライムは、その体を薄く広げていきメイプルの弾丸を全て受け止める。
弾丸はスライムの体を貫くことなく勢いのまま引き伸ばすと、限界になったところで元に戻って跳ね返ってきた。
「か、【カバー】!」
メイプルは大盾を背中に隠すと、素早くサリーの前に立って跳ね返された弾丸を体で受け止める。
メイプルは自分の攻撃が直撃しても問題ないが、万が一サリーに当たろうものなら一撃死である。
「魔法じゃないと駄目っぽいね」
「えっと……そうなると……」
「毒は止めておいてくれると助かるかな」
「だよねー」
メイプルの攻撃手段は【機械神】【滲み出る混沌】【毒竜】となっており、魔法と言えるものは【毒竜】のみである。しかも、水中で毒を使えば無差別攻撃となりとんでもないことになるのは今までで証明済みだ。
【悪食】ならば問答無用で飲み込めるだろうが、雑魚モンスターを倒すために使っていてはきりがない。
「アイテムで武器に纏わせることはできるけど機械神の方には効果ないし……サリー!」
「うん、任された」
何も無理に自分の中で解決策を探る必要はない。そのために手広くスキルを取り色々な状況に対応できるようにしているサリーがいるのだ。
「隣ついて行くよ!いつもみたいに後ろから撃ったりできないし」
「ん、いつものだね」
サリーがぐんと加速してスライムに接近すると、メイプルは【カバームーブ】でそれに追いついていく。もしもの時の備えは万全だ。
「【サイクロンカッター】!」
サリーの手の上で渦巻く風の刃が大きくなっていき、スライム三体を巻き込むように放たれる。すると今度は攻撃が跳ね返ることはなく、そのままスライムの柔らかい青い体を切り裂いてかなりのダメージを与える。
「思ったより脆い……?跳ね返す以外はそんなにかな?」
特段威力の強化もしていないため八層までくるとやや力不足気味な魔法によって一気にHPが削れるのを見て、一部の攻撃を完璧に跳ね返す代わりに他の数値は低くなっていることを察する。
ただ、跳ね返す以外に攻撃手段がないということもなく、三体で力を合わせるようにして青い魔法陣を形成し、そこから大きな水の塊を放ってくる。
「【カバー】!」
貫通攻撃ではないと踏んだメイプルが前に出てそれを受け止めると、水の塊は直撃と同時に弾けて衝撃を発生させる。
メイプルにとって衝撃程度は何ら問題ではなく、【悪食】も温存してサリーの次のアクションを待つ。
「これはどう?」
メイプルが攻撃を受けているうちに素早くインベントリからアイテムを取り出したサリーは、手の中に収まっているクリスタルを砕いて武器に雷を纏わせると、水属性の追加攻撃ができる【水纏】も発動して、再度前に出る。
「【トリプルスラッシュ】!」
魔法とは違って順当に威力を上げ続けている武器での攻撃は、雷によってスライムの体を焦がし、続く纏った水の追撃は残ったHPを吹き飛ばした。
「よし、終わりっ!」
「思ったより簡単に倒せたね。跳ね返された時はどうなっちゃうかと思ったけど……」
「他のモンスターと一緒に出てきた時は要注意かな?アイテムを使ったりすれば武器でもちゃんとダメージを与えられるみたいだし、単体で出てきても大丈夫」
「じゃあもっともっと進んでいこー!」
「そうだね。急ぐに越したことはないかな」
「でも水の中にもスライムっているんだね。なんだか溶けちゃいそう」
「確かに。んー、水の中にいるのはちょっと珍しいかな?」
地上で跳ね回っている姿はよく見るものの、水中での活動には向いてなさそうなボディである。事実今回は水の流れに乗って漂っていたところに出くわしたのだ。
「水の魔法使ってたしあれで加速して移動してるのかも。確かそんな生き物もいたはず……」
「私が機械神で飛ぶみたいな感じだね!」
「そう……かな?近いかも」
移動の際の絵面と周辺への被害に大きな違いがあるような気もしたものの、サリーはそこは気にしないことにしたのだった。




