防御特化と二つ目。
ボスの姿が光となって消滅するとともに、水流や魚群も消滅し、銃口も光弾を発射することはなくなった。サリーは体の力を抜いてリラックスし、高めていた集中力を通常の状態まで戻すと無事戦闘が終わったことに一安心する。
まだ水中での活動時間も問題ないため、サリーが落ち着いて辺りを見渡すと、最初に起動していたモニターが再び光を放つのが見えた。
またモンスターかと構えるサリーだったが、杞憂だったようで、その前に光が集まったかと思うと今回は宝箱が出現する。
「おー、何でも出せるんだね。もっと出してくれたりは……しないか」
近づいてコンコンと叩いてみるサリーだが、真っ暗になってしまったモニターは何も反応しないままである。今回この部屋にボスはいたものの、実のところ元凶と言えるのはこの機械だったと言えるのかもしれない。
「さて、と。いいもの入っててよね!」
サリーが宝箱の蓋を開けると、そこには願っていたものが入っていた。
今サリーが使っているものより大きい片刃の短剣が一本。そしてポケットやベルトがいくつもついたフード付きの灰色のコート。シンプルなチョーカーが一つに頑丈そうなショートパンツで全部のようだった。特徴的なのは装備の部分部分が光となって黄色いポリゴンを発生させていることである。これはボスがそうであったように出所が同じあのモニターだということを示すものなのだろう。
「さあどんな感じ?」
サリーは早速期待を持って装備の性能をチェックする。
『虚構のコート』
AGI+30 DEX+25
【破壊不能】
【偽装】
スキル、魔法及び装備の名称、見た目を変更できる。実際の効果、能力は元のまま変化しない。
『無形の刃』
STR+50 AGI+20
【破壊不能】
【変幻自在】
武器の種別を自由に変えられる。武器の扱いは短剣のままであり、使用可能なスキルもそれに準ずる。
【非実体現出装置】
DEX+20 INT+30 MP+50
【破壊不能】
【ホログラム】
一定時間以内に使用されたスキル、魔法と全く同じものを発動することができる。ただし、エフェクトが発生する以上の効果はない。
【現の衣】
AGI+40 STR+30 DEX+20
【破壊不能】
【虚実反転】
【ホログラム】等、ダメージを与えない、指定されたスキル一つを選択する。それによって生成されたものが、ダメージを与えるようになるが、かわりにそうでない攻撃でダメージを与えられなくなる。効果時間十五秒。三十分後再使用可能。
「おおー、ステータスの上昇値もいいね。スキルは……面白そうだね」
サリーはスキルを改めて確認し直す。ユニークシリーズらしく尖った性能をしているこれらの装備は、スキルが全てについているものの、そのほとんどは使用者を即座に強化するものとは言い難い。真っ当にダメージに影響するのは【虚実反転】だが、クールタイムからして一戦闘で使えるのは一回が限度だろう。さらに書き方からしてダメージを与えない補助スキルなどは対象外であることが察せられる。
それでも、そこには可能性がある。使えるスキルの幅が広がることがどういった意味を持つのかは、カナデを見ていれば分かるというものである。
うまく使えば、戦況をひっくり返すこともできるだろう。
「使い方次第って感じかな。ちょっと色々試してみないとね」
いくつかいい使い方を考えておかなければ、咄嗟に上手く使うことはできないだろう。メイプルのスキル群のようにただ発動させれば強いものとは少し訳が違うのだ。
ともあれ、新たな装備を手に入れたサリーは早速効果を少し試してみる。
「じゃあまずは……武器から」
サリーが【変幻自在】を発動させると手に持っていた短剣が光の集合体となり、一瞬の後実体化する。そうしてサリーの手に握られていたのは短剣ではなく身長ほどの長さがある槍だった。
「なるほどね……マイとユイのために他の武器を使ってたのが役に立つかも」
サリーはそのまま短剣を様々な武器に変更していく。大剣に斧、弓や盾、武器ごとにリーチが違い、当然勝手も違う。しかし、サリーはとても面白いものを見るようにコロコロとその手の中で武器を変えていく。戦闘中に好きに武器を入れ替えられるなら、そしてそれが十全に使えるとするなら、それは大きな脅威たり得るだろう。
また練習することが増えたわけだが、そういったことこそサリーは楽しく思うのである。
「他のはギルドに戻ってから見てみようかな。他の人からどんな風に見えるかとかも大事だしね」
サリーは一旦装備を元のユニークシリーズに戻すと、息が続くうちにダンジョンから出て水面へと戻っていくのだった。
ギルドホームに戻ってくると、ちょうどメイプルがイズに素材を受け渡しているところだった。
「あ、サリー!おかえりー。深いところまで行ってたんでしょ?どうだった?」
「ふふっ、ばっちり。まずはパーツだね」
そう言ってサリーは一段階深い場所で手に入れてきたパーツを受け渡す。
「うんうん、やっぱり量も増えてるわね。私もできるだけ頑張って皆をより深くまで行かせてあげないと」
一人で集めてきたにしては明らかに量が多いため、やはりいつも通りより良い場所へより早く向かうことが大切になってくることが分かる。
「あとはダンジョン内部に結構な量落ちていたので、入ってみるのがいいかもしれません」
「分かったわ。皆にも伝えておくわね」
「ダンジョン入ったの?どうだった?」
「ふふふ、言ったでしょ?上手くいったって。見ててね……」
サリーは手早く装備を変更するとその場でくるっとターンして二人に装備を見せる。
「おおー!全然違う感じだね!かっこいい!」
「いいわね。スキルも付いてるのかしら?」
「そう、スキル。スキルのこともあって戻ってきたんです。ちょうどよかった。メイプル、少し頼みたいことがあるんだけど」
「なになに?」
サリーはスキルを使ってみたいことと他の人が必要なことを説明するとメイプルとイズを連れて訓練所へと歩いていく。
「メイプルのスキルなら特に分かりやすいかなって」
「……?」
「ふふ、気になるわね」
そうして訓練所へとやってくると、サリーは早速言っていた頼みごとをする。
「じゃあちょっと離れてもらって……メイプル、試しに【毒竜】撃ってみてくれない?」
「わ、分かった!えっと【毒竜】!」
メイプルが壁に向かってスキルを放つと、いつも通りの毒の奔流が辺り一帯を毒沼に変化させていく。
「これでいい?」
「うん、じゃあメイプルそのまま盾を構えてこっち向いて」
「……?うん、分かった」
何が起こるかとイズが見守る中、メイプルはサリーの言う通りに盾を構える。
「いくよ。【毒竜】!」
本来サリーから聞くはずのない声に合わせて大きな紫の魔法陣が展開される。
二人が目を丸くする中、メイプルに向かって先程と寸分違わぬ毒の奔流が迸る。それはメイプルが構えた盾に向かい、普通なら【悪食】に吸い込まれるはずだったが、それはそのまま盾をすり抜ける。
「うぇっ!?……え?」
驚いたメイプルだが、毒の塊はそのままメイプルの体も通り抜けて辺りの地面に散らばっていく。
どういうことかと首を傾げてサリーの方を見ると、サリーもこんな風になるのかと感心しているようだった。
「決まった時間内に使われたスキルの見た目だけ真似して撃てるスキル。完全に偽物だからダメージはないんだけどね」
命中して弾けるがダメージがないという訳でもなく、ダンジョン内の魚がそうであったように、【ホログラム】が生み出したものは触れることすらできないものなのだ。イズもサリーが生み出した毒沼に触れてみるものの、手応えなくすり抜けるばかりである。ただ、眺めている分にはメイプルが作った本物の毒沼となんら変わりはない。
「へぇー、本当に私のと同じ感じだったよ!」
「相手を混乱させたりできるかも。今回の装備は全体的にpvp用って感じかな。モンスターに使ってもそこまで効果は大きくないかも」
「モンスターは悩んだり迷ったりしないものね。でも……また難しそうね。サリーちゃんなら上手く使えそうだけれど」
「あとはこうやってできた幻影を実体化させることもできる。基本一戦闘一回きりだけど」
「コピースキルのように使うこともできるのね」
「それ凄そうだね!本当に【毒竜】が使えちゃうってことでしょ?」
「そそ、また今度連携に組み込んでみたいかな」
「うんうん!他には他には?」
実験が終わって近づいてきたメイプルは他にもスキルがあるかと、目を輝かせながらサリーに聞く。
「この武器も面白いよ。見ててね」
サリーの持っている武器が光に変わったかと思うと次々に種別を変えていく。
「あっ、これは幻じゃないんだね!」
「他の武器に変形できるって感じ。帰ってくる途中でちょっと試したけど戦闘中もいけるよ」
「適切な武器に変え続けられるのね。ああ、私もそんな武器が作れたらいいんだけれど……」
ユニークシリーズ特有の尖った性能であり、イズでさえも作れないのであれば、現状鍛治によって生み出すことはできないと考えられるだろう。
これによって、他のプレイヤーには真似できない、見たことのない戦闘スタイルを取ることができると裏付けも取れた。
「これはギルドの皆といる時以外は使わないでおくつもり。誰にも知られてなければ不意をつける可能性も上がるしね」
短剣だと思っていたものが急に大剣になれば回避もかなり困難になる。予想していないことに反応するのは難しいのだ。
「で、もう一つあるんだけど」
「まだあるの!?すごーい!どんなの?」
「いくよ?【偽装】」
サリーがそう言うとサリーの装備が光に包まれ、服装がいつもの青いコートとマフラーを纏ったものに変化する。
「【クイックチェンジ】みたいな感じ?」
「いや、変わってるのは見た目だけ。ほら」
サリーはそう言って【変幻自在】によってダガーを変形させる。するとダガーのみ効果が切れて灰色の太刀が出現した。
「あらあら、そんな装備もあるのね!作ってみたいわ……できるようにならないかしら」
「スキルとか魔法の名前とか見た目も変えられるから、たとえば……【ファイアーボール】!」
そう言うとサリーの手元に緑の魔法陣が展開され風の刃が訓練所の巻藁に向かって飛んでいく。しかし、それは巻藁を切り裂く事なく、着弾するとバシャンと水をまき散らした。
「?????」
何がどうなっているか掴めていない様子のメイプルにサリーが説明する。
「今のは【ウォーターボール】のスキル名を【ファイアーボール】にして、見た目を【ウィンドカッター】にしたってこと」
ごちゃごちゃと入れ替えているものの飛んでいるものは【ウォーターボール】なため、着弾した時に弾けたのは水だったというわけだ。
「な、なるほど」
「これも使いようによっては有利にできると思うけど、私ももうちょっと慣れないと。使い道は思いついてるんだけど、今までとは違う頭の使い方するしね」
「あはは……私だと使いこなせなさそうだけど、サリーならできると思う!」
「任せて。とりあえず次の対人戦までには色々慣れておくからさ」
「頼もしいわね。何か必要なものがあったら言ってくれれば用意するわ。探索も戦闘も、頑張ってね」
「「はい!」」
こうして手に入った新たな力を上手く使えるようになるため、サリーは他のプレイヤーに見つからないようにしつつ特訓をするのだった。




