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防御特化とレイドボス2。

開始と同時、ボスは槍を天に突き上げると、それに連動してボスの周りに大量の水が発生し、津波のようになって一気に全方位へ押し寄せる。


「メイプル!」


「【ピアースガード】【ヘビーボディ】!」

阿吽の呼吸で求められていることを察すると、メイプルは完全な防御体勢で津波を受け止める。ノックバック、防御貫通を無効化したメイプルと【身捧ぐ慈愛】に守られた七人はその攻撃をやり過ごすが、周りにいたプレイヤーはそうはいかない。メイプルが【身捧ぐ慈愛】で守れるのはパーティーメンバーだけであり、水の壁を超えた時には上手く凌げなかったプレイヤーは押し流されて後方で倒れている。


「皆!大丈夫!?」


「お陰さまでな!しっかし、いきなり手荒だな!」

メイプルとクロムは盾役として二人でマイとユイをボスの元まで連れていかなければならない。ボスは巻き上げられた水で見えないものの、腰あたりから地面に繋がっている状態で、移動する様子はない。そのかわりとばかりに頭上の水球からは大量のモンスターが湧き出しており、それらが次々に向かってくる。

水球にもHPがあるようで、まずはそれを破壊しなくてはプレイヤーの強みである数の有利が生かせない。現に多くのプレイヤーは陣形の立て直しを図りつつ、向かってきたモンスターの対処に追われている。


「おいおい、まずあれを壊さないと始まらないぞ」


「ここからだと機械神でも届かないよ!」

津波をやり過ごしたメイプル達からもかなりの距離があるため、押し流されたプレイヤーからするとさらに距離があり、魔法攻撃も届かない。

そんな中、ただ一人水球に対してダメージを与えるプレイヤーがいた。


「ウィルバートさん!」


「届くの?流石……!」

津波をリリィの兵士の壁で防ぎきると、即座に装備を変更して、弓を引き絞ったのだ。メイプルの機械神よりも長い射程を持っているその弓から放たれた矢は、赤い光を放って一直線に飛んでいき、的確に水球を貫いたがそのHPは期待していたダメージを遥かに下回っていた。このままでは何十発と矢を射る必要がある。モンスターを一撃で吹き飛ばすような威力を持っているのだから、これは流石に何かがおかしいとサリーは感づく。


「遠距離攻撃のダメージを減衰する?かもしれない」


「あんなに高い位置にあるのにか!?」


「ウィルバート、だったか。聞いている攻撃力を考えるとありえない話ではないか……」


「話してるところ悪いけど、また何か来るみたいだよ!」

カナデの声に全員が顔を上げると、ボスは再度槍を天へ突き上げて、今度は空から大量の水の槍を降らせてくる。

今回もまたメイプル達は無事で済むが、あちこちのプレイヤーからは貫通攻撃だと声が上がる。回避できないほど敷き詰められてはいないが、避けられるとは言いづらいそれからマイとユイを守るには【身捧ぐ慈愛】は解除しづらい。


「とりあえず、一つずつ解決していくしかないか。メイプル、何があるか分からないし、クロムさんと一緒に防御に専念して!」

その場にとどまって防御に専念すれば、前に立った二人の大盾で水の槍を防ぐこともできるだろう。マイとユイさえ守り切れているのなら逆転のチャンスは常にある。しかし、現状の打開も急務である。ここは一方でリスクをとって動き、もう一方では安全を重視するのがベターだろう。


「うん、サリーは?」


「水球の破壊を狙ってみる。予想が外れてたら戻ってくるよ」

当然のようにそう言い放ったサリーにメイプルは期待していることを示す笑顔で頑張ってと返す。先程の水の槍や津波、大量に湧いているモンスターを見てなお、問題ないと言えるのはサリーだからこそだろう。


「なら、何かあった時に備えて私も行こう。援護くらいならできるはずだ」

カスミはそれについていくことに決める。攻撃力であればマイとユイがいれば問題ない。であれば、同じく【AGI】に振って機動力を確保してあるカスミは唯一サリーの隣をついていけるのだ。


「分かった。行こう、他のプレイヤーに被害もかなり出てる」

メイプルのお陰で開始時と変わらない状態を保てている今こそ行くべき時だと、サリーとカスミは【身捧ぐ慈愛】の範囲から飛び出すと、レイドボスに向かって駆けていくのだった。



前に飛び出したサリーとカスミと同様に、このまま無限に召喚される雑魚モンスターに構っていられないと判断したのだろう面々が各ギルドの集団から前に出てくる。それぞれがそれぞれの得意な形で、ボスへの接近を試みるのだ。


「【武者の腕】【血刀】!」

走りながら刀を液体状にして、カスミは近づいてくるモンスターに先制攻撃を決める。カスミはサリーと比べ攻撃の射程や範囲が優れており、効果が強力なスキルも多い。その分を本人の能力でカバーしているのがサリーな訳だが、こういった場面においてはカスミの力が生きてくる。


「周りは任せてくれて構わない!」


「ありがとう、大技は私が見切る」

言っているうちにボスは再び槍を突き上げ今度は薄く水が広がった地面のあちこちから泡が浮き上がってくる。


「カスミこっち!ぴったりついてきて!」


「ああ!」

カスミもまたこれまでの経験からサリーの判断を信じている。タイムラグなくその後ろをついていくと、直後次々に間欠泉のように水が噴き上がる。サリーはその隙間をするすると抜けてさらにボスへの距離を詰めていく。

その距離は残り十メートル程度、しかし水球までとなると縦に数十メートル必要になる。とても跳躍では届かないだろう。

ただ、サリー達と同じように大量のモンスターと、ボスの苛烈な攻撃をうまく捌いてここにきたプレイヤーが他にもいる。であれば、協力するのも自然な流れだった。


「サリー!また会ったっすね!」


「ベルベット、ヒナタ!」

サリーにとってベルベットが飛び出してきているのは予想通り、ヒナタまでいるのは少し予想外だった。ヒナタはどういう仕組みなのか宙に浮かんでベルベットの隣にピタッと張り付いており、ベルベットの移動に合わせてついてきているのである。


「っと、見たことないことしてるね……」


「ヒナタにもついてきてもらったっす!」


「移動だけで目が回りそうです……っ、話してる場合じゃないですね」

ベルベット達の目的も水球を壊すことである。であれば、ここで時間を使っている暇はない。


「【氷の階】」

ヒナタがスキルを発動するとボスの周りを沿うように氷でできた階段が出現する。これなら誰でも問題なく遥か上まで行くことができる。


「助かった!カスミ!」


「ああ、ありがたく使わせてもらおう」


「私達も行くっすよ!」

ベルベットと重力を操って隣にふわふわ浮かびながら文字通りくっついてくるヒナタを加えて、サリーとカスミは氷の階段を駆け上がる。ベルベットはいつも通り周囲に大量の雷を落としており、雑魚モンスターは近寄ることができないため、遠距離から水のブレスを放つことによって攻撃してくる。サリー、カスミ、ベルベットはそれぞれ機動力に優れているため、この不安定な足場でもそのブレスを上手く躱していく。ヒナタは機動力はないものの、ベルベットの動きに完全に同期しているため、問題なくついていくことができる。


「【氷壁】!」

そのうえで、氷と重量によって攻撃を防御し、三人をアシストする。下からは他にもプレイヤーが登ってくる中、四人は水球のそばまで辿り着いた。水球に対してはベルベットの雷が落ちているものの、変わらずダメージはほとんど入っていない。


「【重力制御】!」


「とりあえず【重双撃】っす!」

ヒナタのスキルによって僅かに浮き上がって、水球に近づいたベルベットはそのまま二連撃を叩き込む。浮かぶだけで移動速度が出なくとも、ここまで来れれば問題ない。

しかし、予想に反してダメージはそこまで入らず。レイドボスということもあって高く設定されたHPを削り切るにはまだ相当かかることが分かる。


「うっ、予想外っすね……」


「どうする?いつまでもここにいては流石に削り切ることも難しいんじゃないか?」

現状、ベルベットが水球近くにいるため、落雷の範囲内に水球とボスがおり、それぞれにダメージが入り、かつ召喚される雑魚モンスターも即処理ができている。それはいいことなのだが、ヒナタのスキルにも時間の制限がある。氷の階段も重力制御もいつまでも保つことはできない。


「試すことは試してみよう!ベルベット、モンスターに注意してて!」


「分かったっす!」

サリーはベルベットに呼びかけるとそのまま跳躍してボス同様水を生成し、空中を泳いでいく。回避が難しくなるその一瞬に飛んできたブレスは、ベルベットとヒナタにより撃ち落としてもらい、水球の真上までやってくると、サリーはスキルを発動する。


「【氷結領域】!」

サリーは周囲に冷気を放つと、真下の水球を凍結させる。氷を生み出すスキルとは少し違い、物を凍らせるスキル。それはボスの水球をも凍らせて巨大な氷の塊に変えてしまう。


「これならどう!【クインタプルスラッシュ】!」


「【振動拳】!」


「【終ワリノ太刀・朧月】!」

凍りついたことで性質が変わったのか一気にダメージが通るようになり、三人が放った技は確かなダメージを与える。このままあと何度か繰り返せば破壊に繋げることができるだろう。


「効いてるっすよ!」


「いや待て何か……【心眼】!」

凍りついた球体の中に青い光が見えたのを見逃さなかったカスミは、攻撃を予測するスキルを発動する。直後、その視界は攻撃予定位置を示す赤い光に覆われた。


「まずい!離れるんだ!」

それにいち早く反応したサリー、ついで飛び退いたベルベット。しかし、そもそも足場のないこの場所がプレイヤーに不利であり、遠くに離れるよりも早く、氷が中から弾け、元に戻った水球を中心に、空中で渦を巻くように刃状の水が拡散していく。当たれば致命傷、それを察した四人はそれぞれに防御行動を取る。


「朧【神隠し】!」


「【パリィ】!」


「【氷壁】……!」


「【三ノ太刀・孤月】!」

それぞれ、フィールドからの消失、弾くことでの物理的防御、跳躍によって飛び越えると、それぞれのスキルで対処を試みるものの、刃の数が多く直撃は免れないことを確信する。

策はないかと考えていたところで、両側から飛び込んできた炎と光が一瞬で水の刃を吹き飛ばし、四人をそのまま緊急離脱させる。


サリーとカスミが一体何にと顔を上げるとそこには【集う聖剣】の四人がいた。

「やっほー、またギリギリのプレイしてるねー。助かったー?」


「まさか空を飛んでくるより早いとは思わなかったぜ」


「結局、空中は召喚されたモンスターが多すぎて面倒だったな……」

二人が乗っているのは巨大化したレイの背中だった。もといた方向を見ると、そちらにはイグニスと【炎帝ノ国】の面々がおり、ベルベットとヒナタはそちらに助けられたようだった。


「前回のイベントに続く形になったか。走っていたのは見ていたが、想定より速くて驚いたよ」


「また助けられちゃいましたね。ありがとうございます」


「構わない。だが、今度はこちらを助けてもらいたい」


「凍結ですよね。大丈夫です。もう一度接近できれば」

ヒナタの足場がなくなってしまったものの、代わりにレイとイグニスがいるため、再接近は可能になった。


「じゃあ皆にも攻撃するよう言っておくねー。ノーツ【伝書鳩】」

フレデリカは頭に乗っていた黄色い小さな鳥を集う聖剣のギルドメンバー達の方へ飛ばすと、再接近を待つ。ミィ達も同じことを考えているようで、モンスターを討伐しつつ、辺りを周回し、機を窺っている。


「よし、行くぞ!」

ペインはミィ達にも手で合図を送ると、レイを一気に突っ込ませる。サリーが接近したことで再び凍結した水球に十二人が総攻撃を加える。それに合わせて次の凍結を伝えられていたギルドメンバーや、それを待っていたプレイヤー達から大量の魔法やスキルが放たれ一気にHPが減少し、ボス撃破の前段階である水球のHPはほんの一ドットになった。それと同時に氷は水に戻り、再び大量の水が発生し、拡散する。

元々水の塊があった場所の中心には、先程同様渦巻く水の刃と、僅かに残った穏やかに漂う水に守られた青いコアと呼べるようなものがあり、それを壊せばいいことは分かる。


HPを削ったことにより発生した大技だろう大量の水は、一気にその場にいた全員を通り抜けて空へ登り、それに合わせてボスが槍を振り上げるのと同時に、今までのそれを上回る量の水の槍が空に顕現する。同時に、攻撃しようと近くにいたプレイヤーを咎めるように地面にも変化が起こる。

どこにも逃げ場がない攻撃。威力は不明、範囲はほぼ全域、それを見てサリーは表情を固くする。レイとイグニスよって範囲外に逃げることが難しいと判断したミィとペインはそれぞれダメージを無効化するスキルによって凌ごうとする。ただ、二人のスキルが守る対象はパーティーメンバーとその召喚物だけだ。


「私達は対象になれない……!」


「これを避け切るのは中々骨が折れるっすね!」


「出来る限り支援はする!」


「こちらもだ。頼む」

マルクスら即座に足場や壁を生成し、ミザリーは無差別なダメージ軽減フィールドを展開する。シンとミィは撃ち落とせるだけ撃ち落とす構えである。集う聖剣はドラグが岩によって、ドレッドはサリーと似たスキルでそれぞれ足場を作り、フレデリカとペインが障壁を作る動きをする。

瞬時にパーティー外の人間にこれだけのサポートが可能なことに、サリーは想像以上だと驚きつつ、多少分が悪くとも生き残ろうと三人にアイコンタクトを取る。

作られた大量の足場とレイ、イグニスを飛び移って降り注ぐ水の槍を避け切るのである。


コアさえどうにかできればと思いつつ、ここを凌ぐことを前提にされているのだろうと、上手くやられたと少し憎そうにコアの方を再確認する。

その瞬間、赤い光が渦巻く水の刃のごく僅かな隙間を抜けてコアを貫くのが目に見えた。

サリーが目を丸くする中、空に浮かんだ水の槍はその半数ほどが消失し、一気に回避の目が広がる。サリーはこんなことができるのは一人しかいないと思いつつ、ここまで状況が良くなって当たるわけにはいかないと集中する。



「射抜いたな。流石ウィルだ」


「ふぅ……ええ、弓使いとしての面目も保たれましたね」

ウィルバートは一つ大きく息を吐くとリリィとともに装備を入れ替える。


「ウィルがこれだけやったんだ。きっと避け切るさ」


「期待しましょう。こちらはお願いします」


「ああ、任せるといい」

リリィは装備を変更し大量の命なき兵を生み出すと、それを身代わりにすることで、多くのプレイヤーを守る準備をする。ウィルバートは役割を果たした。ここからはより多くの戦力をリリィが守り抜く番である。


「やはり数さ。これだけのプレイヤーがいるんだ。それを守った方が合理的だろう?」


「ええ、勿論」

そう言うと、リリィは降り注ぐ水の槍と噴き上がる水の奔流を、無限に湧き出す使い捨てできる兵士によって肩代わりさせ、周り全てのプレイヤーを守り抜くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しみにしてます。 ひとつだけ誤字見つけたのでご報告です。 流石に酒切ることも
[気になる点] やはりウィルバートは、まだ公開していない何かのスキルを持ってますね。
[一言] 更新お疲れ様です(*`・ω・*)ゞ ほんとに胸熱展開で、楽しんでいます( *´︶`*) 今までのハイランカー勢揃い! 豪華キャストでお送り状態ですね✨ これからも応援しています!!!!!!…
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