防御特化と援軍。
町からそれなりに離れたところだったため、急に呼んだ増援が来るまでには時間がかかる。
「流石にソウのダメージカットがなければ少し苦しいね、ウィルも私も攻撃力重視のバッファーなのが裏目に出たみたいだ」
「僕もそこまで持ってるわけじゃないからね?あと何回もこうして受けてられないかな」
「十分過ぎるさ。っと、ウィルどうやら予期せぬ応援だ」
そうしているうちに少し遠くにいたプレイヤーは巨大なイカの出現に気づいて近づいてくる。これ幸いと、リリィは手を出していいものかと尻込みしている周りのプレイヤーに呼びかける。
「突然現れてね!どうにも数人で倒すような相手ではないらしい!手を貸してくれないか!」
通常のフィールドに現れたことのないような巨大モンスターに、どうしたものかと動けないでいたプレイヤーも一斉に攻撃を開始する。それによってリリィ達三人に向けられていた攻撃が分散し、ようやく一旦離脱することに成功した。
「ふぅ、いつ押しつぶされるかとひやひやしたものだが。ダメージ軽減感謝するよ」
「うん、高い防御能力も見られたしラッキーかな」
「これだけ兵を召喚しているんだ。これくらいはできるよ」
「改めて見てみるのは大事だからね。本当に高いって分かった訳だし」
「違いない」
「そろそろ、近くにいたメンバーは到着するようです」
「増援は有るだけ欲しいね。見ろ、今も来てくれたプレイヤーが見事に吹き飛んでいった」
トップレベルのリリィがカナデとウィルバートの支援を受けて、それでも防御に専念するのが精一杯だったのだから、人によっては受けきれないのも当然である。
現に気づいてやってきたプレイヤーのうちの三分の一ほどは既に触手の餌食となってしまっている。微妙に浮かんでいるのもあって、近接攻撃は難しく、プレイヤーによっては相性の悪さもあった。
「魔法使いは攻撃しやすいし、二人も射撃ができる。僕らで適度に攻撃していこう」
「また攻撃が集中しても困りますから。人が増えるまではじっくり行きましょう」
「ああ、そうしようか」
リリィは再び呼び出した兵の陣形を整えるとイカに向かって射撃を開始する。カナデもソウが持っている高威力の魔導書を使って攻撃を続ける。
「ソウ【紛れ込み】」
これでモンスターから狙われにくくなったはずだとカナデが伝えると、それは助かるとリリィは射撃を強化する。
「周りに人も増えてきたからね。三人しかいないなら気配を薄くしても狙われるのは僕達だ」
「これだけ人がいるなら文字通り紛れ込めそうですね」
「とはいえ、あくまでも狙われにくくなるだけでずっと攻撃したり【挑発】とかを使うとまた狙われるから気をつけて」
「覚えておくよ」
プレイヤー同士なら特に気にすることもなく攻撃できるため、PVPというよりはPVE用のスキルだと言える。
そうこうしているうちに【ラピッドファイア】のギルドメンバーが到着したようで、駆け寄ってきたバラバラのプレイヤーとは違う、統率のとれたパーティープレイにより後衛を守りつつダメージを出していく。
「到着したみたいだね。これでようやく楽になるよ」
「ですが本当にHPが多いですね」
「ああ、これは間違いなくボスよりもタフだね。調整ミスでないのなら超多人数攻略を意図しているだろう」
【ラピッドファイア】の面々が攻撃を引きつけるようになって、単独参加のプレイヤーも戦いやすくなり与えるダメージは加速していく。大規模ギルドがギルド単位で人を呼んだのもあって、大量の人の移動に何かあったかと付いてきたプレイヤー。リリィ達のように先んじて戦っていたプレイヤーに呼ばれたプレイヤー。こうして大量の人が集まってきたことによって、リリィ達が無尽蔵とも思ったHPは確かに減少していく。
しかし、ここまで強力なものとして作られているモンスターが触手での叩きつけだけで終わるはずもなく、行動パターンの変化が起こる。
イカはふわっと空中に伸び上がると、地面に向けて大量の墨を噴射する。それはまるで煙幕のように拡散すると、水中でもないというのに漂って視界を覆い尽くす。
「これは……リリィ!」
「分かっている!【傀儡の城壁】!」
リリィが旗を振るうと、召喚した兵士達が崩れ落ちて、巨大な壁として再構築される。これにより三人の前方を防御した直後、轟音とともに大量の水が襲いかかり、壁を抉っていく。水によって煙幕は押し流されるように吹き飛んだが、この攻撃の出だしを隠すという目的は既に達成されている。
「大人数には範囲攻撃、実に正しい動きだ」
「困りましたね……煙幕の範囲からすると、全員が狙われているでしょうし」
「いったん怯ませて立て直したいところだけどね……」
「……よかった、隙は作れそうだよ」
どういうことだとカナデの方を見る二人に、カナデはその理由を指差して示す。浮き上がったイカのさらに上、地面を照らしつつ空に浮かぶ亀の上から三人の人影が先行して落下してくる。
いち早くそれが何なのかを理解したのはウィルバートだった。
「あれはメイプルさんに、マイさんとユイさん?……えっ、あの武器は……?」
ウィルバートは高速落下する三人がその勢いのままにそれぞれの武器を叩きつけるのを認識した。メイプルは触手に変えた手でイカを引き裂くように飲み込み、両側のマイとユイはそれぞれ八本の大槌を叩きつける。
ウィルバートのそれをも上回り、通常プレイヤーの何十倍もの破壊力を秘めたその大槌は、異様な量のダメージエフェクトを発生させて、はっきりと目に見えるレベルでイカのHPを減少させ、浮き上がり始めたイカを地面へと強制的に叩き落としたのだった。




