防御特化と試練5。
「よかった、勝てたー!」
「うん、上手くいったね」
「やっぱり二人だと違うね!四層で戦った時はもっともっと大変だったもん」
あの時は全てのスキルを使い切った上で【ブレイク・コア】による自爆で何とか倒しきったのだ。それに比べれば今回は【不屈の守護者】はもちろんのこと、【暴虐】や【悪食】もまだ残っている。もちろん別の場所なため、ボスも正確には同じというわけではないが、これは明らかに二人だったからこそである。
「そう言ってもらえるなら良かったよ。メイプルも、いつものことだけど【身捧ぐ慈愛】助かった」
「えへへ、どういたしまして」
「あれより強い敵もそうそういないはず……」
「何が出てくるかな?」
次の相手を待っていると、しばらくして正面の通路からは六枚の羽を持った大きな天使が、他の通路から二枚の羽の小さな天使がそれぞれ弓を持って現れる。
「メイプル知ってる?」
「玉座をくれたところに似てそうだけど……ちょっと違うみたい」
そんなことを言っていると、先制攻撃とばかりに天使達が矢をつがえ、正面のボスの周りの空間も光り、大量の光る矢が雨のように降り注いだ。普通なら開幕から相当な殺意での攻撃だが、サリーは矢に打たれつつメイプルを見る。
「おー……どうメイプル?」
「全然問題なしっ!」
「良かった。じゃあ一体ずつ倒して行こうか」
「うん!兵器は壊されちゃうから、サリーお願い!」
「はいはい。【氷柱】!」
サリーは一体の小さな天使の近くに氷の柱を立てると、糸によって隣まで一気に移動し、【氷柱】を蹴って空中の天使に斬りかかる。体をぐるっと回転させるようにして叩きつけたダガーは天使にクリーンヒットし、大ダメージを与えて一撃で消滅させる。
「おっ、これも思ったより脆いね」
この調子で行こうと、もう一本【氷柱】を立ててそこに飛び移ると同じように大ダメージを与えて天使を一撃で葬り去る。ここに入ってきてから途切れることなく連戦となっているため、【剣ノ舞】による攻撃力上昇は常に発生している。
本来最大まで効果を発揮するのが難しい分、持続している間はかなりのダメージが期待できる。天使達も一戦目なら耐えることができる未来もあったかもしれない。そうして一体ずつ倒していったサリーだが、少しすると最初に倒した天使が生き返っているのを見て、これでは倒しても仕方ないと諦める。
今のところ少し強化された矢を放つだけなため、何か悪さをする前に倒しておこうと考えたが、時間をかけるだけ無駄である。
「メイプル、小さい天使が撃ってる矢も大丈夫だよね?」
「うん!変なデバフもかかってないよ!」
そもそもこの矢の雨があれば十分普通のプレイヤーは苦戦するのである。天使達もメイプルの防御力と【身捧ぐ慈愛】のせいで何もしていないかのように扱われているだけなのだ。
「ならとりあえず放置かな。ボスを倒せば問題ないだろうし」
サリーは地面に着地すると【身捧ぐ慈愛】の範囲外に出ないようにメイプルと二人でボスである大きな天使の下まで歩いていく。二人が近づくとまるで天からの裁きとでも言うように上から光の柱が降ってきて二人を包み込むが、特にこれといって何かが起こる様子もない。
「今回は本当に相性良さそうだね」
「じゃあやっちゃおう!」
メイプルとサリーの戦闘は相性が色濃く出る。どんな敵も、二人の相手になりたいのなら、まず貫通攻撃は標準装備でなければならないのだ。
「【クインタプルスラッシュ】!」
これなら気兼ねなくスキルを使えると、サリーは連撃を叩き込んでいく。炎と水の舞う連撃を受けて見る見るうちにボスのHPは減少していくが、突然辺りに落ち着いた音色でハープの音が響くと、じわじわと減らしたHPが回復し始めた。
「うわっ!?」
「あ、サリー!他の天使が楽器持ってるよ!」
「それのせいだね。どうしようかな……」
このまま無理やりダメージを上回らせて倒しきるということも不可能ではなさそうだが、それは正攻法ではないと回復量が告げている。
「兵器が光の矢で壊されなければメイプルに撃ち落としてもらうんだけど……」
見上げると大量の矢の雨は変わらず降り続けており、残弾がなくなるというようなことも起こらないのは明白である。
「んー」
「あ!じゃあサリー、こういうのはどう?」
「聞かせて」
サリーはその案を聞くと、確かにそれなら展開できると頷く。サリーのお墨付きももらったことで、メイプルはさっそく準備に取り掛かる。
「シロップ【覚醒】【巨大化】!【念力】!」
メイプルは巨大化させたシロップを宙に浮かせると、自分の真上に持ってくる。そうすることでシロップがきっちりと光の矢を受け止め、メイプルの兵器の破壊には至らない。シロップの受ける攻撃は【身捧ぐ慈愛】で代わりに受けているが、それは兵器を壊すことなくメイプル本体にのみ影響があるだけなため、これで互いにかばい合うことができる。
「こっちは倒しておくから、サリーも頑張って!」
「分かった。任せて」
「よーし【攻撃開始】!」
「【セクスタプルスラッシュ】!」
メイプルが貫通攻撃に弱いように、回復による耐久戦略はその回復手段を奪われることに弱い。攻撃が無効化され、耐久手段を奪われたとなればこのボスの強みはなくなってしまったと言えるだろう。
本来ならHPを回復しながら、矢の雨によって広範囲を攻撃し複数人を同時に痛めつける厄介なボスだが、ただただメイプルとの相性が悪過ぎた。
「【クアドラプルスラッシュ】【トリプルスラッシュ】!」
サリーもできる限り火力を出すため、躊躇うことなくスキル攻撃を連打する。ここもメイプル一人なら回復役の天使撃破とボスへの火力の両立に難があったかもしれないが、優秀なアタッカーがいれば問題ない。
攻撃は本来の大盾らしく誰かに頼ればいい。そもそも遠距離攻撃役として天使を全て撃ち落とせているのもおかしいのである。
天使側の攻撃手段があれも駄目これも駄目と否定されていけば、残るのは一方的な蹂躙だけである。
そうしてパリンと音を立てて光に変わっていく姿を見て、サリーは一人ぽつりとこぼす。
「やっぱり、メイプルに勝ちたいなら貫通はないと駄目だなあ」
「ふふふ、今回はノーダメージで大勝利だね!」
優秀な防御貫通スキルがなければ挑戦権すらないだろう。そういう意味では天使達には元々勝ち筋のない勝負だったのである。




