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防御特化と試練4。

こうして二人は次の戦闘に備えて、次の変化を待つ。何もないならそれでよし。しかし、二人が予想していた通り次のモンスターが正面の通路から現れる。


「うっ……!」


「予想通りといえば予想通りだね」

現れたのは四層の大ボスである鬼の主、メイプルに【百鬼夜行】のスキルを渡した張本人である。それに酷似した見た目をしたボスは今回はその体躯に合った大きな刀を携えている。


「最強格のボスラッシュなのか、メイプルが倒してきたモンスターが呼び出されてるのか分からないんだけど?」


「倒した時と武器は違うみたい!」


「気をつけとく」

そう言いつつサリーはダガーを構え、メイプルは触手化した腕を元に戻して盾を構える。それを見てか、鬼も刀を構える。

そして次の瞬間、超人的な加速によって一瞬にして二人の目の前まで到達すると、そのまま並んだ二人を真っ二つにせんと刀を横薙ぎに振るう。


「……!」


「くっ……うわっ!?」

サリーは体に染み付いた回避行動によって、咄嗟に屈んでその刀を回避する。

メイプルが左に盾を持っていたため、偶然ガードに成功し悪食が発動するも刀の破壊はできず、斬り裂かれはしないものの、そのまま人外の膂力によって体が浮き上がり壁に向かって一直線に吹き飛ばされる。


一方で、サリーは直感的に目の前の存在がかなりの強敵であることを把握すると、屈んだ体勢からバネを生かして突進しダガーを振るう。機械神の時のようにスキルによる威力重視の攻撃ではなく、動きが固定されない通常攻撃だが、鬼も素早い反応でそれを受け止める。


「これに勝った……すごいなあ。しかも、今回は一緒に戦えるなんて」

これ以上嬉しいことはない。目の前にいるものは強く、隣にはメイプルがいる。サリーはここで得られるとは予想しなかった高揚感に集中力が高まっていくのを感じていた。

ギィンギィンと二人の剣戟の音が響く、サリーの攻撃は全て受け止められているものの、逆もまたしかり。しかしこのまま永遠に続けていれば人間であるサリーの方が先に集中力を切らせて隙を見せることになるだろう。

サリーが何かきっかけが必要だと思ったその時、吹き飛ばされたメイプルのいた場所に立ち昇る砂煙を裂いてレーザーが放たれる。


「サリー!」

鬼はそれに反応し、刀を振るいレーザーを無効化しにかかるが、サリーは呼ばれた名前に込められた意味を理解し、即座に一歩踏み込み、体を捻って胴体を深く斬りつける。安全な間合いを逸脱してでも、メイプルの作ったチャンスは逃さない。

ダメージは与えたものの、構わずメイプルの方に向かって踏み出そうと足に力を込めたのを見て、サリーはすかさず回り込む。


「【超加速】!」

再び加速して突進する直前、サリーは正面に回り込み、最早視認すら難しい速度で振るわれる刀を二つのダガーで受け止める。


「どこ行くの?相手は私」

メイプルはこの速度に上手く対応できていないため、今回攻撃を捌く役を担うべきなのはサリーの方だ。【身捧ぐ慈愛】は発動したままのため不意の事故は避けられる。後は貫通攻撃を受けなければいいだけである。


「メイプル、隙を作ってくれれば崩せる!」


「分かった!」

今回はメイプル一人ではない。この頼もしい相棒がいればできることも広がるというものだ。


「【攻撃開始】!」

メイプルの射撃に反応した瞬間にサリーが踏み込んで斬りつける。一瞬でも体勢を整えるのが遅れればサリーも反撃をいなすことはできないが、今の集中状態でそんなミスは犯さない。


「順当に強い、けど。二人なら負ける気がしない」

一人で挑戦する必要がある四層とは違い、役割を分担することができるのは大きかった。鬼の動きが普通のプレイヤーの動きを超越したものなら、サリーもまたそうなのだ。ただの一度も奥で射撃を行うメイプルの元へ接近することを許さず、その場に縫い止めている。これもまた人間業ではない。


そうして、単純だが難易度の高い連撃プレーを繰り返すうちに鬼のHPは減少していき、バックステップで距離を取ると、紫の炎が辺りから噴出する。また、それと同時に奥の通路から体が紫の炎でできた大犬が現れ、鬼の隣に立つ。

サリーも一旦距離をとってメイプルの隣までいくと確認を取る。


「前にやった時これはあった?」

「なかったよ。炎は使ってたけどちょっと違う感じ。炎は大丈夫だけど、武器での攻撃は貫通攻撃だった」

開戦してすぐにメイプルが吹き飛ばされたうえ、言葉を交わしている余裕があるほどではなかったため、攻撃の手がやんだ今ようやくこうして話すことができる。


「基本は私が食い止めるよ。メイプルは炎の攻撃を【身捧ぐ慈愛】で受け持って。多分範囲攻撃だろうし」


「分かった!」


「【剣ノ舞】も最大スタックだし、ダメージは出せるから」


「何かあった時の防御は任せて!」

よしと二人揃って小さく頷くと、改めて鬼と向き合う。

鬼の方も隣に炎の犬を従えており、ここからはメイプルの四層での戦闘とも異なる二対二が始まる。数のアドバンテージもなくなった今、より慎重に攻める必要がある。

互いに相手の出方を窺うように睨み合う中、先に鬼側が炎の犬を走らせる。


「【攻撃開始】!」

真っ直ぐ突進してくるため、メイプルも逃げ場のないように全力で銃弾を放つ。しかし、体が炎でできているだけあって、メイプルの攻撃は全てすり抜けていってしまいダメージを与えられない。


「【鉄砲水】!」

それならばとサリーが地面から大量の水を発生させるが、獣らしい俊敏な動きでそれを躱すと、そのまま大きく咆哮し、二人の真下の地面が赤く輝く。


「大丈夫!【不壊の盾】!」

メイプルがそう言った直後、二人を包み込むようにして火柱が上がる。メイプルも経験上、炎は防御貫通攻撃というよりは、別種の継続ダメージであることが多いと分かっていたため、念のためダメージ軽減スキルを発動させるが、ダメージを受けることはなく無事にやり過ごせていた。悪食も発動対象となっていないようで、二人にとっては特に気にするものではない。


「よかったー!」


「うん、これならある程度無視できると思う」

火柱の中で会話する二人は今度はこちらからだと一歩前に踏み出す。それと同時、視界を覆っていた炎の壁を破って刀が突き出される。

突然の攻撃に、サリーは反射的に刀を横から叩きつけてほんの僅かにその軌道を逸らすが、メイプルの肩口を斬り裂いてそこからダメージエフェクトが散る。【不壊の盾】の強力なダメージ軽減効果が発動している中、それでもメイプルのHPが六割近く減少したのを見て、サリーは即座に退避の判断をする。


「【激流】!」

サリーはメイプルを抱えると、同じく炎の壁を突き破りながら、水の勢いに乗って流れるように移動し距離を取ろうとする。しかし、それでも逃すまいと炎の犬を引き連れて急接近してくる。


「メイプル一回潜って!」


「【大地の揺籠】!」

一旦体勢を立て直すため、メイプルはスキルを使ってサリーと共に地面に潜る。


「ふぅー……【ヒール】」


「ありがとー。うぅ……やっぱり強いなあ」


「んー、炎攻撃は避け切ろうとするとちょっと無理しないといけないから【身捧ぐ慈愛】で守っていてほしい」


「うんうん」


「代わりに貫通攻撃は私が全部前でガードするよ。メイプルの盾になる」

互いに対処の難しい攻撃を受け持って無効化することで有利に立ち回ろうというわけだ。サリーが防御に全力を尽くす分、攻撃はよりメイプル頼りになる。


「銃は剣でガードされちゃうし……」


「大丈夫、隙を狙って。それに、ゼロ距離ならガードも何もないでしょ?」

遠くから撃つことで間に刀を挟み込まれるなら、体に砲口を密着させてしまえばいいというわけだ。サリーがそうであるように、そもそも物理的に避けられない攻撃は存在する。


「メイプルは安心して攻撃して。大丈夫、通さないから」


「分かった!任せるね?」


「任された!」

二人はどちらも剣であり盾でもある。改めて方針を確定させると、効果時間切れによって地上に戻っていく。地上に戻ると、それを待っていたとばかりに刀が振るわれる。サリーがそれをガードすると、繰り返し縦から横から斬りつけるが、そのどれもが的確に弾かれていく。


「もう一発も通さないよ」


「反撃だね!」

サリーが鍔迫り合いをする中、メイプルは砲に変えた片腕を鬼の腹部にぴたりとつけると、ゼロ距離射撃を行う。確かな手応えと共に派手にダメージエフェクトが散り、手痛い一撃を加えることに成功する。それを受けて飛びのく鬼を追撃することはせず、再び犬によって火柱が上がり二人を内部に包み込む。


「もう一度はないよ」

たとえ攻撃の瞬間を隠されようと問題ない。確固たる自信を持ってサリーがダガーを構えると、先程と同じように炎を裂いて刀が突き出される。サリーは二本のダガーを振り上げると、刀を真下から叩き上げ、その軌道を逸らす。直後、サリーの目に移ったのは、そのまま飛び込んでくる鬼の姿と、もう片手に握られた二本目の刀だった。


「それでも……っ!」

サリーは重い一撃を弾いて崩れた体勢を無理矢理整えると、振り下ろされる刀を頭上でクロスさせたダガーで受け止める。しかし、一本の刀を二本のダガーで止めていては分が悪い。


「【滲み出る混沌】!」

片方が苦戦している時はもう片方が打開する。メイプルがあえて遠距離攻撃を放ち、鬼のガードを誘発させると、その一瞬のうちにサリーは体勢を整え、一気に踏み込み鬼の脇をすり抜けて、一撃を加えつつ背後へ抜けていく。連戦というだけあって鬼のHPもそう高くはないのか、あと数回重い一撃を加えられれば撃破できる。


「メイプル!」

サリーすり抜けながら振り返って、メイプルとアイコンタクトを取る。サリーが何を求めているのか、メイプルは正確に読み取って即座に行動に移す。


「【カバームーブ】!」

メイプルはサリーの元へと高速で移動する。【変わり身】と違うのは、点と点での瞬間移動ではなく、あくまでも高速移動だということだ。

つまり、その途中での行動がほんの僅か許されるということでもある。


「やあっ!」

メイプルは脇を抜けていったサリーを追って鬼のすぐ真横を通る際、その大盾を真横に構え胴体に叩きつけた。当然これは【悪食】を発動させ、凄まじい量のダメージエフェクトを散らせる。雑魚モンスターなら一撃、ボスモンスターでも致命傷となりかねないが、それでも鬼はまだ立っており、まさにたった今ダメージを与え、盾を振った状態で体勢を崩したメイプルを斬り伏せんと、刀を持った両腕に力を込めて振り返る。


「そっちが力ならこっちは速度で勝負するね」

振り返る瞬間、鬼がそれ以上の行動をとれなかった一瞬。サリーは翻弄するように再び脇をすり抜けて背後に回る。


「【変わり身】!」

メイプルとサリーの位置が瞬時に入れ替わり、メイプルの前には無防備な背中が、サリーには振り下ろされる二刀が迫る。


「もう一回っ!」

メイプルが今度こそ鬼の胴体を飲み込み両断するのと、サリーが重い刀を受け止め、その重さが消えていくのを感じるのはほとんど同時のことだった。


「私達の方が連携力では上だったみたいだね」

周りの炎が消えていく中、サリーはどこか嬉しそうに、満足気にそう呟くのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そいやこれの本物、結局メイプル以外に撃破した人いるんです?
[一言] 更新お疲れ様です(*`・ω・*)ゞ 二人の戦闘が、見ていて一番楽しいですね✨ 緊張感と高揚感が、こちらにも伝わります。 次の投稿も楽しみにしています!!!!!!
[良い点] なんでこの娘たち、こんなに強いの?(笑)   次は…光の王かなぁ。 普通なら難敵なんだろけど、この二人なら簡単に終わりそう。   だけどその次に多分…アレですよねー(苦笑)
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