防御特化と試練2。
転移と同時に落下による加速も消えて、二人は問題なく転移先の地面に立っていた。
二人が転移してきた場所は円形の広間の中心で、壁には先へ進めそうな通路が等間隔に開いている。メイプルが周りを見渡していると、転移してきた時から残っていた足元の光が、地面を照らしながらすっと移動していき、一つの通路を指し示した。
「あっちが正解ってこと?」
「いや、あそこに脱出用の魔法陣があるってこと」
「え?もう帰れるの?」
「そう。いつでも脱出できるようにっていう訳。……来るよ!」
サリーがそう言うと光が示したもの以外の通路から多種多様なモンスターが次々に這い出てくる。見たことがあるものからないもの、イベント限定モンスターまで、その種類に法則はない。
「とりあえずひたすら倒す!」
「分かった!」
サリーが知っているのはここまで。一対多に弱いサリーにとってこの地形と大量のモンスターは相性が悪く、即座に撤退の判断を下したのである。ここの攻略には、相性のいいメイプルの助けが必要だったのだ。
「貫通攻撃もってそうなのから優先で!」
「うん!【全武装展開】!」
唯一モンスターが出てこない通路があるため、そこを背にして出来る限り安全を確保し、正面への射撃を開始する。サリーはメイプルの射撃を受けてなお進んでくるモンスターの中で危険だと判断したものから順に斬り伏せていく。
「朧【火童子】【渡火】!【水纏】!【ダブルスラッシュ】」
サリーは朧のスキルによって炎を纏い、攻撃の度にモンスターに炎によるダメージを与えられるようにすると、さらに【水操術】によって手に入れたスキルで自身に水による自動追撃効果も付与する。【追刃】も含め、サリーの攻撃を受ければその度に追加のダメージが三回発生する。
一つ一つは小さくとも、二本のダガーで素早い連撃を叩き込まれてはひとたまりもない。本来単純な二連撃でしかない【ダブルスラッシュ】でも、双剣により倍の回数攻撃ができるため、十六回のダメージが発生する。ここまでいけば本来のスキルのダメージからかけ離れた数値を叩き出せる。
「どんどん倒すよ!【捕食者】【毒竜】【滲み出る混沌】!」
サリーが一体ずつとどめを刺していく中、メイプルはサリーの戦闘エリアを避けて遠距離ダメージスキルを使用し、モンスターをボロボロにしていく。本来なら逃げ場のない中央にいるプレイヤーがモンスターに全方位から攻められるというものだが、メイプルにたどり着くには、銃弾の雨を浴び、ダメージスキルに耐えながらサリーと二体の化物を突破しなければならない。
メイプルを倒すためにはサリーを突破し、重い一撃を加えなくてはならないが、サリーを倒し道を開くにはまずメイプルを倒さなければならない。
それは強みが物量だけの有象無象には高度すぎる要求と言えた。
スライム、オーク、ゴブリンなどよく見るモンスターの集まりだったモンスターの波は次第にその勢いを無くしていき、最後の一体の首がサリーに跳ねられたところで広間はついに静けさを取り戻した。
「すごい量だったね」
「イベントモンスターも混じってたし素材はちゃんと拾っておこう」
二人が部屋中の素材を回収したところで地響きがして、二人は通路に入っていくのをやめて一旦距離を取る。通路が先に進むためのものだとしても、モンスターが発生し続けている状況ではかなりの危険が伴うからだ。そうして少しすると通路から再び大量のモンスターが現れる。
「また!よーしおんなじようにして……」
「うん、もう少し倒して様子を見たい」
何度襲ってきても無駄だとばかりに、二人は再発生したモンスター達を次々に倒していく。実際、その勢いは落ちることなく、ガンガンとモンスターが減っていく。余裕のできたサリーはモンスターに何か特徴がないか考えてみるが、一回目とモンスターの内容は少し違えど、どこにでもいるようなものに変わりはない。
雑魚モンスターの群れが再挑戦したところで、メイプルの元まで辿り着くことができないのは自明だった。貫通攻撃も当てられるだけの距離に入れなければ無価値である。
まさに一回目のリプレイといった様子で、モンスターは全て吹き飛ばされていく。最後に通路から遅れて現れた大きめのゴブリンなどは、サリーが待ち構えて連撃を繰り出したため、手に持った剣を構えることすらできなかった。
「ふぅ、第二波も終わりかな」
「まだまだいけるよ!」
「うん、頼もしい。流石に【身捧ぐ慈愛】と弾幕での数減らしがないと安定はしないだろうし」
サリーが致命傷を与えられるのはあくまでダガーが届く範囲である。一度撤退したのは圧倒的物量で作られた前線を一人で突破し、奥から魔法を撃ってくるようなタイプを撃破するのは難しいと感じたからというのがある。
サリーの回避力もメイプルの防御力もそれを適切に発揮できる状況があってこそなのだ。
「このまま大量にモンスターが出続けるだけなら、イベントモンスターの討伐数稼ぎに最適なんだけど」
「結構混じってるもんね」
「もし、ずっと同じ感じだったらモンスターを倒しながら通路を進んでみる必要があるかな」
「分かった。その時はきっちりガードするね」
「うん、お願いする」
果たして次はあるかと少し待ってみていると、地響きがして二人にとって待っていた変化が起こる。ここで現れたモンスターは今までの二回と比べて、明らかに機械やゴーレムなど無機物的なものが多く、明確な変化があったのだ。サリーはすぐに法則に予想を立てる。
「各層に合わせてるのかな……」
「あ!そうかも!」
サリーはあまり当たって欲しくはないというような様子でそう口にする。一、二回目は一層二層のモンスターが現れており、三回目は三層のモンスターというわけだ。三層は確かにこういったモンスターが多く、二人の見覚えのあるものもいる。一層から二層と比べて大きくフィールドやモンスターなどに変化があったため、推測もしやすくなったのだ。
しかし、であれば当然そのまま進むのなら六層もあることになる。
「今はこのモンスター倒しちゃおう!向こうも撃ってくるよ!」
「うん。予想、当たりませんように……」
今後の予測が少し建てられたところで、二人は再びモンスターに向き合う。三層のモンスターと思われる機械兵やゴーレムがわらわらと通路から出てきてはゆっくり二人に近づいてくる。
「【攻撃開始】!」
メイプルが銃弾を発車すると、金属でできたゴーレムは機械兵に銃弾が当たらないように間に入ってブロックする。さらに面倒なのはゴーレムにはメイプルの射撃が効いていないようで、HPバーが減少していないのだ。
「うぅ、やっぱりゴーレム苦手だなあ」
「こっちも効いてないし一体ずつ倒す?」
機械兵はその手に持った銃を撃ってメイプル達を攻撃してくるが、ゴーレムにメイプルの銃弾が弾かれるように、メイプル達にも機械兵の銃弾は効いていない。ゴーレムや機械兵は生き残るが、混じっているただのモンスターやそもそも庇ってもらえない飛行機械タイプなどは流れ弾に当たってバタバタと倒れていく。
「じゃあいつも通り硬いのは私に任せて【ディフェンスブレイク】!」
メイプルには未だ防御貫通スキルがない。ここはその時に組んだアタッカーが補う必要がある。ある意味、本来防御役と攻撃役のあるべき姿である。
「それに……ほらこれならどう?」
サリーはモンスターの隙間をすり抜けて機械兵に直接攻撃を行う。ゴーレムがサリーを止めに来ればメイプルによって蜂の巣になるが、このまま放っておいても切り刻まれてしまう。
サリーをどうにかしようにも【身捧ぐ慈愛】の範囲内にいる限り、サリーをどうにかする方法がゴーレムには存在しない。
同じ防御担当でも流石にメイプルとゴーレムでは格が違うのだ。
「【激流】!」
スキル使用と同時に、モンスター達の間に飛び込んだサリーから凄まじい勢いの水が放たれる。それ自体にダメージはないものの、近くにいたモンスターから順に押し流して陣形を滅茶苦茶に破壊していく。ゴーレムの陰から押し出された機械兵はメイプルの弾幕に晒され、次々に光となって消滅する。
「【ディフェンスブレイク】!【トリプルスラッシュ】!」
今となってはこれくらいなら問題なく対処できると、メイプルとサリーは三度、数で勝る相手を蹂躙する。
そうしてモンスターを全て倒しきり二人がハイタッチをしたところで大きく地面が揺れる。
「も、もう次?」
「さっきよりかなり早いね」
通路の先をじっと見る二人の前に現れたのはメイプルにとって見覚えのある存在だった。
「あっ!えーっと、機械神!」
「えっ!?そ、そうなの?」
カラーリングも異なっており、あのボスの性質上これは似せて生み出されたものだというのは察せられたが、ここに来て初めてボスらしいボスの発生である。
他の通路にはメイプルがレーザーを放っているものと似た兵器が設置され、二人に照準を合わせている。
「なるほど、ここからは雑魚モンスターだけじゃなくてボスも出てきたい放題って感じか……」
想定よりもかなりハードなダンジョンに飛び込んでしまったと感じるサリーだが、それでも楽しそうにしているのは強力な敵にメイプルと二人に立ち向かえるからである。
「よし、クリアまでやりきろう」
「連携プレーの見せ所だね!」
雑魚モンスターとは訳が違う相手に二人は気を引き締めると改めて武器を構えるのだった。




