防御特化と試練。
マイとユイは再び五層でイベントモンスターを倒しつつ、八本になった大槌を振り回す練習もすることとなり、メイプルはサリーに事の顛末を話していた。
「なるほど……確かにあの二人なら上手く使えそうだね。何を倒すつもりなんだって聞かれたら困るくらいだけど……」
マイとユイのステータスの都合上、サリーやカスミが武器を増やすのとは訳が違う。二人には細かい操作が必要ないため、扱いの難しさというデメリットを無視して、武器が六本増えたことをただメリットとして受け取れるのだ。
「そうなるともうパーティーとしての攻撃力は気にしなくて良さそうだね。武器が増えて【STR】もまた跳ね上がるだろうし……」
今までも対ボス最終兵器として凄まじい貢献をしてきたマイとユイだが、それもついにここに極まったと言えるだろう。
「パーティーとしての動きを考えるなら、二人が倒しにくい相手のことを考えた強化もしていきたいね」
「ふんふん」
「例えば動きが速すぎるとか、射程内に入れないとかね」
そうしてサリーはいくつか例をあげるが、それはどれも攻撃に関わるものばかりである。それは当然二人を守ることに関してはメイプルがいるからだ。【身捧ぐ慈愛】や【天王の玉座】はマイとユイの防御能力の低さを容易にカバーできる。これ以上を求める必要がないほどに完成されているのである。
「元々噛み合ってたけど三人全員が強くなって相乗効果って感じ」
サリーは次の対人戦でいくつかに分かれて行動するならやはりこの三人組がベストだと頷く。
「連携プレーもあった方がいいかな?」
「うん。咄嗟の時の動きって積み重ねで良くなるし」
「サリーは凄い動きできるもんね」
「VR自体結構やったし。積み重ねってやつだね」
もちろん【AGI】の違いもあるが、サリーの動きのキレはメイプル達のそれとは別物である。根本的な部分、スキルによるものでない能力の差が確かにあるのだ。
「ふふっ、私との連携も練習する?」
「うん!でも上手くついていけるかな……」
「難しく考えなくていいよ。ほら、私が受けられない攻撃はメイプルが庇って、メイプルが受けられない攻撃は私が引きつける」
「それでノーダメージを目指すんだよね!」
「そうそう。メイプルも強い攻撃ができるし、適宜攻撃役を切り替える感じ。防御は相手を信じればいい」
「うんっ!」
サリーはメイプルの防御力を、メイプルはサリーの回避力を信頼し、それを前提として動いている。それはギリギリの勝負において勝ちを手繰り寄せる強みになるだろう。
「ということで。この後さ、ちょっとダンジョンに行かない?」
「早速連携プレーだね!いいよー!」
「そう言ってくれると思ってた!」
こうして二人が向かったのは現状最もモンスターの強い七層だった。二人もかなり歩き回りはしたものの、それでもまだ未踏の場所は多い。
いつも通りメイプルを後ろに乗せてサリーは馬を走らせる。
「今回はどこに行くの?」
「メイプルが三人で六層に行ってる間に偶然見つけた場所があってね。ちょっと探索に入ったんだけど、一人では厳しそうだと思って引き返したんだ」
サリーが危険だと感じて引き返したと聞いて、相当難しいダンジョンなのだろうとメイプルは気を引き締める。
「情報とかはあるの?」
「調べた限りだとなかったから、まだ見つかってないか秘密にしてるかのどっちかだね。今知られてたらもっと話題になるだろうし」
「?」
「行けば分かるよ」
森を抜け、荒地を越えて、山を登り、二人はある渓谷の上までやってきた。下を覗き込んでみると両側は切り立った岩壁となっており、所々壁に開いた穴と穴を岩の橋が繋いでいる。さらに凶暴そうな鳥のモンスターがあちこちで奇怪な声を上げて鳴いており、渓谷での行動を妨害してくるだろう。メイプルにも渓谷の両側を行き来しながら攻略していくのが正攻法であることは見てとれた。
「一番下まで降りたらいいのかな?」
「うん。で、そうなると……」
「ジャンプだね!」
「そう、それが最速」
シロップに乗ってゆっくり降りる必要すらない。一番下にたどり着きたいなら、メイプルがサリーを【身捧ぐ慈愛】の範囲に入れつつ、二人で飛び降りればいいのだ。モンスターも流石に真っ逆さまに落下していくプレイヤーには追いつけない。
「まあ、でも真っ直ぐ底まで行く降り方は私も試したんだ」
「そっか、サリーも糸とか足場作ったりとかできるもんね!」
サリーの空中での機動力はかなり高く、一気に底までとはいかないものの、これだけ壁や足場に恵まれた場所であれば問題なくモンスターに対処しつつ降りきることができる。
「で……上手くいくといいんだけど……メイプル、ちょっとこっち来て」
「ん?なになに?」
サリーはある場所を指差す。そこは鳥のモンスターが少し多く、代わりに足場となる岩の橋もいくつもかかっている場所だった。高度に違いはあるが、それは上手くやれば飛行手段を持たないプレイヤーでもショートカットができそうだとも言える。
「あそこ、特殊条件を満たすとゲートが開く」
「えっ!?」
「改めて真上から見ると高さが違う橋が輪っかになって見えるんだよね」
「本当だ」
サリー曰く、その輪に見える部分の内部で基本の魔法を全属性分発動させることで転移するとのことだった。
「すごーい!そんなのどうやって気づいたの?」
「モンスターが多いし、足場も不安定だから回避と迎撃の練習にちょうどいいかなって、そしたら偶然ね」
自分にはどうやっても真似できないことなため、メイプルは流石サリーだと頷く。
「本題はその先だからね」
「分かった!」
メイプルは【身捧ぐ慈愛】を発動させるとサリーと体を密着させ、飛び降りる準備を整える。
「いい?」
「おっけー!」
「「せーのっ!」」
二人が地面を蹴って身を投げると、そのまま底に向かって真っ直ぐに落ちていく。
「よし、行くよ!」
「うん!」
サリーは手際よく全属性の魔法を発動させる。それと同時に輪の内部に白い光が迸り、二人を包み込んで別の場所へと転移させるのだった。




