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防御特化と過剰火力。

ギルドホームへとやってきたマイとユイを待っていたのはメッセージを受け取ったメイプルだった。サリーと二人で石像を繰り返し倒していたところに二人からの連絡が届き、切り上げて五層のギルドホームにやってきたのだ。


「あ、きたきた!どう、そっちは順調?」


「はい!五層なら見晴らしもいいので安全に戦えてます」


「さっきまではベルベットさんとヒナタさんと一緒にダンジョンに……」


「二人と?珍しい組み合わせだね」

不思議そうにするサリーにマイとユイはなりゆきを説明する。そして、そこでの効率的な討伐数稼ぎについても二人に詳しく話した。


「なるほど……私達でも再現できそうだね。落ちるのはメイプルがいればいけるし、モンスターハウスもそうだし。確かにフィールドを歩き回るより効率もいいね。ちょっと盲点だったな」


「じゃあ一緒にモンスター退治だね!」


「あ、えっと手伝って欲しいのはまた別のことで!」

メイプルは助けて欲しいことがあると二人に頼まれていたため、話の内容から【身捧ぐ慈愛】を使っての防御役になって欲しいのだろうと考えたのだ。


「助けて欲しいのは……」

マイがそう切り出して二人に助けて欲しいことの内容を話していく。二人がそれを最後まで聞いたところでメイプルは大きく頷いた。


「うん!いいよ!任せて!」


「……ごめん。私は手伝えないかな……メイプル、頑張って」

サリーは申し訳なさそうにそう返すと、ここで分かれてモンスター討伐に戻ることに決める。


「うん、サリーもモンスター討伐頑張って!」


「ありがとう。じゃあ三人とも、いい報告を期待してるね」

「「はいっ!」」

目的が決まったところで早速行動だと、三人はギルドホームを後にするのだった。




メイプル達三人は移動して目的地までやってくる。そこはイベントモンスターの湧きがあまり良くないように設定されているのか、プレイヤーも魚達もおらず、代わりに大量の幽霊が出現する場所だった。サリーが協力できなかったのもそのためである。


「ここですか?」


「うん!あってるはず!」

三人がやってきたのは六層である。そしてイベントモンスターが出にくい場所であるなら、目的は最早イベントとは何一つ関係のないものだということは明らかだった。


「こういうイベントの時はイベント以外のことをするのもいいしね!」

メイプルが人の姿を留めなくなったのも似たような討伐イベントの時である。イベントだけに注力しなくてはならない訳でもないのだ。


「あとは前の時と同じようにするだけだから、えーっと……」

メイプルは口元に手を当てて前の時とやらを思い出して頭の中でその時のことを再現していく。


「うん!とりあえずおんなじようにやってみよう!それで上手くいかなったら上手くいくまで!」


「「ありがとうございます!」」


「二人が強くなるために頑張っちゃうからね!全体『救いの手』手に入れよー!」

メイプルがそう言って手を突き上げると、二人も同じように意気込む。今回の目的はメイプルも手に入れていた『救いの手』を再入手することである。マイとユイはベルベット達との攻略を通して自分達の能力を活かす方法を考え、一つの結論に至った。

攻撃を当てるのに必要なのは互いに様々なスキルを取ることでも、低い機動力を多少なりとも高めることでもなく、単純に大槌をより増やせばいいのだと。一本から二本になった時、命中率は格段に上がった。であれば二本から四本になれば同じことが期待できるだろう。


「まずはえーっとこの辺りの幽霊をどんどん倒していって、そうしたら青い幽霊が出てくるから、それについていけばいいはず!」


「分かりました!」


「しっかり除霊で倒してね」


「えっと……?」

マイが特別な倒し方なのかと首をかしげる。それもそのはず、マイとユイの二人がアイテムを使って地道に一体一体倒すなどということはないからである。大槌を振るえばダメージ軽減されてもなおモンスターを撃破することもざらな二人は、アンデッド系特攻アイテムのお札など馴染みがないのだ。

メイプルは改めて説明すると、手持ちのお札を二人に渡す。大量に購入したうえ使い所も限られているためあまりにあまっているのだ。


「前はこの山中の幽霊を全部除霊したら青い幽霊に会えたんだよ」


「山中……大変です」

メイプルもかなりの時間をかけたと聞いているためマイとユイは長丁場になると気を引き締める。


「でも今回は三人だから大丈夫!」


「三人だから?」


「うん、ちょっと待ってね!」

メイプルは開けたところでシロップを呼び出すと巨大化させ、いつものように背中に乗るとスキルを発動させた。


「【天王の玉座】!」

真下にいるマイとユイの周りの地面は【天王の玉座】と【身捧ぐ慈愛】によって輝いており、この範囲内にいる限り安全と言えるだろう。


「【天王の玉座】があれば幽霊は何もできないんだけど、一人だと除霊と一緒にできなくて」


「だから三人ってことなんですね!」

森の中を巨大化したシロップで進むことはできないため、前回は玉座を出したり戻したりして再使用できるまで待たなければ場所を移動できなかった。しかし、除霊をマイとユイに任せてメイプルが真上から有利なフィールドを展開する役割に徹すればどんどんと除霊を進めることができる。


「木のちょっと上を飛んでいくから、動く時は声をかけて!」


「「分かりました!」」


「よーし!じゃあ早速やろう!」

役割分担も完璧、除霊役も一人でやっていた時の倍なだけあって三人の除霊はスイスイと進んでいく。メイプルが展開する『悪属性封印』のフィールドは広いものの、マイとユイもテイムモンスターによって機動力を確保しているため、フィールド内を素早く除霊してはさっと移動することが可能になっていた。

そうしてしばらく山の中を回っていると、ツキミとユキミに乗って地上を行く二人の前にメイプルが言っていた青い幽霊が姿を現した。


「お姉ちゃん、あれじゃない?」


「うん……メイプルさんに確認してもらおう」

上空にいたメイプルは二人から呼ばれると、周りに幽霊がいないことを確かめた上で、玉座から立ち上がってシロップから飛び降りる。


「よっと!えっとどこどこ?」


「あれです!」


「うん!合ってるはず!後はついていけば大丈夫!」

メイプルはこの後も戦闘があると知っているため、シロップは上空に飛ばしたまま、ユキミに乗せてもらって三人で青い幽霊についていく。

こうして以前と同じ山頂の十字架の前までやってくると、準備を整えて続くイベントを待つ。


「「わっ!?」」


「きたっ!」

十字架の目の前で立っていた三人の足元から手が伸びてきて、三人を真っ暗な空間へと引きずり込む。

そうして、強制的に戦闘フィールドに放り込まれた三人の前に大きな赤い幽霊が現れる。メイプルが六層攻略時に出会ったものと同じく、暗い空間の中に浮かぶ裂け目から上半身が飛び出しており、長い腕がだらりと伸びている。


「一人だと苦戦したけど……二人がいれば大丈夫!【鼓舞】!シロップ【赤の花園】!」

メイプルは隣のシロップに乗ると、そのまま急いで玉座に座り相手のスキルを封じ込め、さらにマイとユイが与えるダメージを引き上げて万全の体勢で待ち構える。


「「【決戦仕様】!」」

戦闘が待っていると知らされていた二人は、この空間に入る前に、【ドーピングシード】を含む大量のアイテムを使い【STR】を限界まで上げてある。最後の仕上げとばかりにスキルを使い、幽霊を攻撃する時用の炎属性付与アイテムで大槌を燃やすとゆっくりと迫ってくるボスを待って大槌を振りかぶる。


「やっちゃってー!」


「「【ダブルインパクト】!」」

伸びてきた両腕に二人がそれぞれ二本の燃える大槌を叩きつける。それはまるで幽霊の赤い体がそのまま爆発したかのような、凄まじい量のダメージエフェクトを発生させる。

メイプルがお札や塩でダメージを稼いで倒せたことから察せられるように、このモンスターのHPは低めに設定されている。そんなモンスターにフルパワーのこの二人が殴りかかればどうなるか。

ダメージエフェクトを上書きするように全身が光に変わり、メイプルを苦しめたボスは一瞬のうちに消し飛ばされることとなった。


「おおおっ!流石マイ、ユイ!」


「上手くいきました!」


「はい……よかったです!」

三人が喜んでいると真っ暗な空間に魔法陣が一つ現れる。


「あれ?」


「どうかしましたか?」


「うーん、前はこの後真っ白い場所になって……そこでペンダントを貰ったんだけど……」

これでは目的の装備品を手に入れることができない。メイプルは前との違いで思いつくようなものがないかうんうんと唸りながら考える。


「えーっと、前は私一人だったから戦闘も長くて、最後にいっぱいスキルを使って……お札を貼って……」


「それじゃないですか?ボスの倒し方にも条件があるのかもしれないです!」

ここに来る時も大量にお札を使って除霊をしたのだから、ボスの倒し方にもそれを求められている可能性はあった。


「そっか!それもそうだよね!」


「ということはお札で倒すためのHPを残さないと駄目……ですよね」


「うぅ、一回でできるといいんですけど」

二人は今回は全力中の全力で攻撃してボスを木っ端微塵にしてしまった訳で、ここからは調整してボスのHPを残すことが目的となる。二人にしか発生しないであろう問題点だが、なかなか深刻でもある。

パターン変化が起こると互いの位置を把握できなくなり、さらにこのボスはメイプルに対する有効打を持っているため、不意打ちから各個撃破されることもあり得るのだ。決めるなら一瞬のうちである。


「うん!何回も試せば大丈夫!倒しちゃったとしても、それなら私達は安全なんだし」


「「はい!」」

こうして三人は、手心を加えてボスのHPをほんの少しだけ残すことができるように、試行錯誤を重ねるのだった。




そうして何度も挑戦し、ちょうどいい攻撃力になるまでじりじりとバフを減らしていき、三人はほんの僅かにボスのHPを残す手加減に成功した。


「そのままやっちゃって!」


「「はい!」」

マイとユイの二人がボスが次の行動に移る前にお札を素早く貼り付けると、ボスはそれによってHPがゼロになり消滅する。初めて想定通り上手くいった三人がその後の展開をハラハラしつつ待っていると、真っ暗な空間は崩壊していき、メイプルが言っていた通りの真っ白い空間が広がっていく。


「やった!成功だよ!」

上手く初回を再現することができたと喜ぶメイプルは、ぱたぱたと走って十字架の前まで近づいていく。

するとメイプルが『救いの手』を手に入れた時と同じ演出が発生して、気づいた時にはメイプルの首にペンダントがかけられていた。


「えっと……うん!ちゃんと同じ装備みたい!」

メイプルは首からそれを外して名称を確認すると、それを二人に向けて差し出す。


「まずはユイからお願いします」


「いいのお姉ちゃん?」


「うん。ふふっ、それにちょっとでも早く欲しそうだし」

ユイはそう言われると素直に『救いの手』を受け取って早速装備してみる。


「えっと、よしっ!これに武器を……」

ユイが両側に浮かんだ腕に大槌を装備させると、無事片手ごとに一本の大槌を持つことができた。

両脇にはゴツゴツとした水晶でできたハンマーが浮かんでおり、ユイはそれを操作してみる。


「わっ!難しいですね!」


「うん、細かい動きとか、何かをしながら動かすのとかは私も上手くできないんだ」

だが、二人には細かい動きなどは関係ない。適当に振り回して当たればそれで全ては終わるのだ。


「じゃあ次はマイの分だね!……?」


「はい!……どうかましたか?」

何か当たり前のことを見逃していたというような表情をしているメイプルを見てマイは首を傾げる。


「うん、一人で来た時はすっごい苦戦したしもう来ないと思ってたから考えてなかったんだけど……こういうのはどう?」

メイプルが二人にある提案をすると、二人も言われてみればそれもそうだと頷く。


「よーし!そうと決まれば早速やろう!まだまだ頑張らないとだよ!」


「「はいっ!」」

こうして三人は一旦このボス部屋から出ていくのだった。




それから数日。

イベント限定モンスターを倒したことによって、手に入れた素材を使って作ることができるアイテムを一つずつ作りながら、イズはのんびりと工房で時間を過ごしていた。


「ふぅ、こんなものかしら。水中探索が楽になるアイテムが多いわね。当然といえば当然だけれど何かあるのかしら?」

わざわざ新規追加したのだから何か使い道を用意しているのだろうとイズは考える。といっても現状特にこれといった答えは出ないが、それでも順当にフィールド上の海や湖の探索に役立てればいいだろう。


「討伐はある程度皆に任せようかしら」

そうして一休みと工房の椅子に座ったところで外から声がかかった。


「「「イズさーん!」」」

工房にやってきたのはメイプル、マイ、ユイの三人だった。三人が急げるだけ急いで来たことと、何か頼みごとがあるだろうということをイズは察する。


「ど、どうしたのそんなに急いで?」


「マイとユイの武器を作って欲しくて!」


「武器?もしかして壊れたのかしら。少し前に整備したばかりだからまだ大丈夫かと思ってたのだけれど……もちろんそれ自体は大丈夫よ」


「ありがとうございます!」


「えっと……私とユイの分の大槌を六本ずつお願いしたいです」


「ろ、六本ずつ!?」

耐久値を減少させるようなモンスターと戦ったのかと一人推測する中、予想していなかった言葉が飛び込んで来てイズは目を丸くする。


「ち、ちょっと待って?話が見えないわ」

イズがそう言うとメイプル達も言葉が足りなかったと理由を説明する。


「うーん、見たほうが分かりやすいし……」

メイプルがそう言ってマイとユイに目配せをすると、マイとユイは装備を変更していく。そうして二人の周りに浮き出てきたのはそれぞれ六つずつの白い手だった。

イズもそれを見て何があったかを察する。

そう、装飾品は一人三つまで装備できる。であれば【STR】を伸ばす装備品をつけている枠を全て『救いの手』に変えて武器を二本装備することに何の問題もないだろう。テイムモンスターと切り替えながら戦う必要はあるが、二人はこれで夢の即死級大槌八本持ちが可能になったのだ。


「理解は追いついたわ……少しくらくらするけれど。ええ!もちろん合わせて十二本、性能も一級品なのを作ってみせるわ」


「「ありがとうございます!」」


「じゃあ完成したら試しに行こう!」


「「はいっ!」」

それを見たら他のプレイヤーはいったいどう思うだろうと、イズは一人その光景を想像するのだった。




335名前:名無しの大剣使い

イベントをそれなりにこなしてるがそこまで張り詰める必要もなくて気楽だな


336名前:名無しの弓使い

どこの層が効率いいとかある?


337名前:名無しの槍使い

層って言うよりは場所ごとだろ

湧きがいい場所とか倒しやすいところとかどの層にもあるしな


338名前:名無しの弓使い

遠距離主体だから囲まれない程度のところでやってるしいまいち効率がなー


339名前:名無しの大剣使い

まあでも全員で目標達成目指すタイプだし多少は大丈夫だろ


340名前:名無しの魔法使い

やあ


341名前:名無しの槍使い

……不穏なやあだな


342名前:名無しの大剣使い

分かる


343名前:名無しの弓使い

これは何かあった時のやあ


344名前:名無しの魔法使い

すげぇもん見た


345名前:名無しの槍使い

イベントモンスターですか?

それともモンスターみたいなプレイヤーですか?


346名前:名無しの魔法使い

モンスターみたいなプレイヤー


347名前:名無しの弓使い

名前がメから始まる?


348名前:名無しの魔法使い

部分的にそう?


349名前:名無しの大剣使い

?????


350名前:名無しの魔法使い

端的に言うと

マイちゃんとユイちゃんが大槌八本持ちになってた


351名前:名無しの大剣使い

??????????????????????


352名前:名無しの弓使い

意味不明の言葉


353名前:名無しの大盾使い

聞いてねー俺は全く聞いてねー

ここ何日か黙々と狩りしてたからな!

ちょっと様子見てこないと……メイプルちゃんと何かしてたっぽいし


354名前:名無しの槍使い

魚の栄養が豊富だったのかな?経験値いっぱい手に入れて……


355名前:名無しの大剣使い

レベルアップで武器は増えないが?増えないが?


356名前:名無しの魔法使い

遠目にちらっと見て黒と白の塊がぐるぐるしてるなあと思ったら人間だった


357名前:名無しの槍使い

そもそも過剰火力だろ

仮想敵何?あの二人がそんなことしたら何もかも一瞬で塵でしょ


358名前:名無しの大盾使い

すくすく育って……みんなすごいなあ


359名前:名無しの大剣使い

ボスがかわいそう


360名前:名無しの弓使い

躱せば何とか……


361名前:名無しの大盾使い

表面積の暴力だろ

見てないしよく仕組みは知らんがあのデカさの塊のどれかに当たったら致命傷だぞ

それが八つ?おいおいおい


362名前:名無しの魔法使い

大槌八つ並べてぐるぐる〜

モンスターぱりんぱり〜ん


363名前:名無しの槍使い

異常事態に脳がとろける


364名前:名無しの弓使い

ぐるぐる〜じゃないんだよな

死を撒き散らしてるんだよな


365名前:名無しの大盾使い

いやあメインアタッカーは頼もしいなあ!


366名前:名無しの大剣使い

今までで十分頼もしかったでしょうに

おお……もう……


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― 新着の感想 ―
[良い点] 双子のヤベー阿修羅 誕生の瞬間であった(白目&震え
[良い点] 掲示板のノリ凄い好き。いつも笑ってしまう。
[一言] 数こそ力!力こそパゥワー!
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