防御特化と変化探し。
七層で二人が攻略した中で簡単なダンジョンとなれば、ベルベット達と攻略したコロシアム風の中ボスラッシュが上がってくる。
人数に合わせて難易度が変動し、邪魔の入らない戦闘しかないため、道中は問題なく何度でも勝てるだろう。
「とりあえず一回入ってみよう」
「うん!」
メイプルとサリーがダンジョンへ足を踏み入れ、中ボスを撃破して攻略を進めていくと、前回との違いに気づく。前回は中ボスと中ボスの間の通路にはモンスターは出現しなかったが、今回は限定モンスターである熱帯魚がちらほら見て取れたのだ。
「なるほど。本当にどこにでも出てくるって感じか」
「前は何も出なかったもんね!」
「そうそう、ちょうどここなら分かりやすいね。って言っても……」
サリーはそう言うとすっと前に歩いていって、迫ってくる魚の群れの中をスルッとすり抜けつつ斬り刻む。
「うん、外と強さは変わらないみたい」
「おおー!さっすがサリー!」
「出てこないとしたら中ボスとかボスとか特別な場所くらいかな?」
メイプルとサリーは道中変わっているところは他にないかと注意深く観察しながら進み、限定モンスターを屠りつつボス部屋まで辿り着いた。二人が中へ入ると、そこには四人の時とは違い両手に一本ずつ斧を持った石像が立っている。
「前回よりは弱いはず……なんだよね?」
「ベルベットが言うにはね。でも、相性とかあるし要注意!」
調査に来た先で油断して負けるようなことがあってはならないのだ。二人はそれぞれ武器を構えると、戦闘体勢をとる。
「攻撃は大振りだろうし、適当に斬ってくる!」
「頑張って!」
サリーが駆け出すのと同時に、メイプルは兵器を展開して射撃を開始する。走って距離を詰めるサリーに対して、右手の大斧が振り下ろされる。
「それくらい!【超加速】」
サリーは一瞬減速すると横っ飛びで斧を躱すと砂煙が舞う中跳躍して、慣れた様子で斧の上に飛び乗り、石で出来た腕を斬り裂きながら凄まじい速度で肩まで駆け上がっていく。大型モンスターの攻撃を利用して反撃する。そうしてサリーの得意とする戦法で一気にダメージを与える中、石像は左手の巨大な斧を射撃を続けるメイプルに対して投げつける。
「わっ!?」
射撃に集中していたこともあって全く回避行動をとることもできずに斧が直撃し、メイプルを吹き飛ばしつつ、大きな音とともに空中に斧が跳ね上がる。同時に傷つけられた兵器が爆発しながら壊れてメイプルが地面に転がっていく。
「……びっくりしたあ」
特に問題がないことを確認すると、体についた砂埃を払い、メイプルは兵器を展開して射撃を再開しようとする。
「メイプルー!」
「……!」
メイプルはサリーの呼びかけの意図を察すると、射撃を中断して自爆による飛行に切り替える。石像は空いた左手でメイプルを叩き落とそうとするが、メイプルとの距離が少し縮まったところで、サリーはスキルを発動した。
「【変わり身】!」
石像の頭部にいたサリーと空中にいたメイプルの位置が入れ替わる。サリーは体勢を整えて地面に着地し、メイプルは片手を触手に変えて石像の頭を飲み込んでいた。
「よし!」
目の前で黒い靄の中蠢く触手に頭をホールドされて、大量の赤い光を散らせる石像を見て、作戦の成功を確信する。サリーが詰めた距離をメイプルに利用させる。位置を入れ替えれば、メイプルの最高火力技である【悪食】を一気に叩き込める。サリーの接近を許せば、妨害できない点と点での移動によってメイプルが真横にすっ飛んでくるというわけだ。
メイプルがそのまま頭を握り潰すように触手に飲み込ませると、最後のダメージエフェクトが散ると同時に石像の全身が光となって消えていった。
サリーは支えを失って落下してくるメイプルを受け止めると、そっと地面に降ろす。
「お疲れ様」
「うん!バッチリ決まったね!」
「……それに、ちょっと違うところも見つかった」
「……?」
メイプルは何かあったかと不思議そうにサリーの顔を見る。それに対してサリーは辺りの地面を示してみせた。そこにはいくつか水たまりが広がっており、サリーが作り出したものではないことは明白だった。
「素材のドロップがあったり、特殊なイベントが起こったりはしなかったけど……こうやって水が残ってるってことは今回のイベントにも関係あるかもね」
石像は水に関わる行動を一切取ってこなかったため、今回のイベントのモンスターの傾向から推測するなら、サリーの言う通りこれもまたイベントに関わる何かがあると考えられる。
「よーし、じゃあ何回か倒してみようよ!そうしたら、特別な素材とかくれるかも!」
「だね。そこまで強くないし、続けて攻略してみよう」
二人は現れた魔法陣に飛び乗ると早速二度目の攻略を開始するのだった。




